第958話 いよいよ5層の中ボスの部屋に差し掛かる件



 現在の来栖家チームは、“天空ダンジョン”の4層エリアを捜索中。いつもの探索ともちょっと違う、迷子の子供たちを捜し歩いてのダンジョン移動である。

 その為の制約が色々あって、例えばなるべく隅々までエリア内を見て回るとか。定期的に呼び掛けて、ハスキー達にその反応を窺って貰うとか。


 午後からの捜索開始なので、現在すでに夕方過ぎと言うのも大きなハンデの1つ。このまま迷子の子供たちが見付からないと、捜索は夜半過ぎにずれ込む恐れも。

 人命が掛かっているので仕方は無いが、大変な任務を押し付けられてしまった。それも事の起こりは、ならず者の隠れ里襲撃に端を発していた訳だ。


 それに怒った“西海の魔女” マダム・マリィが、悪漢共をダンジョン送りにしてしまった所。うっかり人質の子供たちも、一緒に飛ばされて現在迷子の認定をされてるって流れである。

 ハッキリ言うと、既に亡くなっている可能性も高いなって気がしないでもない。それでも生存の可能性が少しでもあるなら、救い出してあげたいってのが人情。

 そんな訳で、今回の護人の呼びかけだがやはり反応はナシ。


「あっ、ほらっ……叔父さんの声にはモンスターも寄って来るんだよっ! これはひょっとして、本当に何か法則があるのかも知れないねっ。

 子供に反応が薄いなら、迷子の子達も生きてる可能性は高いかもっ!?」

「ああっ、そうだと良いねぇ……香多奈ちゃんは本当に、見る視点がユニークで学者さん向きかも知れないねぇ? それはともかく、今度のトンボ獣人は黄色の槍を持ってるね。うわあっ、黄色い体のトンボってのもいるんだねぇ」

「ウチの近くじゃ見ないけど、いるのかもなぁ……それより、探索も長丁場になるかも知れないなら、前衛のローテとか夕食休憩も考えないといけないな」


 5層の中ボスの退治終わりに夕食と、子供たちは決めつけていたけれど。そこまでスンナリと事が運ぶとは限らないし、リーダーとして考える事は意外と多い。

 前衛にしても、ハスキー達は譲るつもりは無いかもだが、今回は子供の捜索がメインである。彼女達の嗅覚や聴覚が頼りなので、無駄に疲れさせたくはないって考えも。


 そんな護人の説明に、確かにそうだねと姫香も追随する。とは言え、ノリノリのハスキー軍団から前衛ポジションを奪い取るのも至難のわざかも?

 取り敢えず、夕食まではこの陣形で行こうと話は決着を見せ。ついでに、寄って来た黄色い槍持ちのトンボ獣人とバッタ獣人の混成軍も討伐終了。


 本当に、護人の掛け声で寄って来るモンスターの数は、無駄に多い気がして参ってしまう。末妹の言うような傾向は、確かにダンジョンに存在するのかも。

 声の質が遠くに届きやすいとか、敵を呼び寄せやすいとか。確かに論文にしたら面白いかもだが、護人にはそんな崇高な趣味も時間もない。


 そう紗良に話を振ると、検証も大変だから小島博士やゼミ生がデータ取るのは難しいとの話に。そもそも、魔石から生まれたモンスターに、どの程度の感情があるのかも不明と来ている。

 オーバーフロー騒動にしても、ダンジョン外に放出されたモンスターの反応はそれぞれだ。例えば獣人型は、積極的に人を襲う傾向にあるのは広く知られている。


 それ以外の、例えば動物系は山間に入って隠れたりする奴もいて逆に厄介だ。昆虫型は割と密集して移動したり、タイプ別に性格があるのは事実。

 そう言う意味では、元のモデルの影響が強いのかも知れない。



 そんな事を話し合っている内に、前衛陣は空中庭園を抜けて宮殿エリアへ。だだっ広いフロアには、さっき退治したせいか敵の影はナシ。

 その代わり分岐は意外と多くて、小部屋も左右に窺える。それを見た姫香は、前衛と中衛で左右の分岐を調べて来るねと護人に告げてチェックにおもむいて行った。


 後衛陣は、どちらが戦闘になってもフォローに行けるようその場に待機。ヒバリなど、何で動かないのと忙しなくリードを持つ末妹をせっついて騒がしい限り。

 それを軽くいなしながら、じっと報告を待つ後衛陣である。しばらくすると、ハスキー達のチェック方向から戦闘音らしき騒音が響いて来た。


「おっと、ハスキー達は敵と遭遇したっぽいな。俺とムームーちゃんでフォローに行くから、他のみんなは待機して姫香の帰りを待っててくれ。

 ヒバリ、今回は連れて行けないから大人しくしてなさい」

「本当にヤンチャで困っちゃうよね、2人とも気を付けてねっ!」


 そんな軽い末妹の送り出しをうけて、護人と軟体幼児はハスキー達のかなでる戦闘音のする方向へ。そこは8畳程度の小部屋となっていて、たった今コロ助がミミックを始末した所だった。

 見せ場が無かったデシと悲しむスライム幼児だが、その場には大量のミミックのドロップ品が。それを誇らしく見せびらかすハスキー達は、主に褒められてとっても嬉しそう。


 その回収を手伝って、連なる他の小部屋もついでにチェックしておく。結果、入り口に罠が2つあっただけで、中身は特に何も無し。ツグミが影を操って、それらを解除してくれて確認作業も無事に終了。

 追加の宝箱も迷子の子供の姿も見付からず、右手の部屋の捜索は終了。戻ってみると、姫香が宝箱からポーションや魔結晶を回収したよと報告して来てくれた。


「あっ、そっちはミミックだったんだ? こっちは普通の宝箱が1つに、それから罠が2つだったかな? ルルンバちゃんは優秀だね、簡単に解除してくれてたよ。

 そんで、迷子の子供の姿は影すら見付からずかな」

「それは残念だけど、宝箱の中身はハスキー達の勝ちかなっ? オーブ珠がミミックから出たらしいし、金貨や銀貨や宝石も割と多いもんね。

 姫香お姉ちゃんの方は、魔結晶の小サイズが一番価値が高い感じだもんね」


 それは残念と、大して悔しがってない口調の姫香の返答である。確かにまぁ、入る財布は一緒なので勝ち負けなど関係無いのは当然かも。

 それから一行は、再び陣形を整え直して宮殿を真っ直ぐ進んで行く。そして今回も吊るしてある振り子の仕掛けに、ガーディアンらしき獅子顔のガーゴイルの配置。


 それらを前と同じ手順で、一応慎重にクリアして行く一行である。何しろ、床のスリットに落っこちたら、恐らく救済措置など無く人生ジ・エンドなのだ。

 とは言え、振り子の仕掛けは紗良もビビらなければ何とでもなるレベル。そして退治した2体のガーゴイルからは、それぞれ2つの歯車がドロップ。


 同じパターンだと口にする子供たちは、それじゃあ次は閉じたぜんまい仕掛けの扉だねと先読みが大好き。案の定、その推測は5分も進まない内に当たりだと判明した。

 それから、大きさの違う歯車をどこに差し込むかの謎解きタイム。護人は前衛陣に、この奥にゲートの守護者がいるかもと警戒を呼び掛けている。


 望むところと構えるハスキー達&茶々萌コンビは、まだまだ元気で頼もしい限り。そうこうするうちに、ようやく正解の歯車の位置が判明して機械仕掛けで動き出す大扉。

 その隙間から、真っ先に飛び込む張り切り前衛陣ズ。


「もうっ、せっかちだねハスキー達ってば……みんな頑張ってねくらい言わしてよっ。取り敢えずみんな、怪我しないように頑張るんだよっ!」

「おっと、先を越されちゃったね……私達も続くよっ、ルルンバちゃん。それにしても意外と宮殿内が広いから、探索に時間が掛かって大変だよね。

 そろそろ迷子の子供たち、見付かってくれないかなっ?」


 姫香の懸念はもっともだが、次の部屋にも残念ながら子供たちの気配は無し。その代わりにいた、4メートル級の動物キメラと機神キメラは割と強そう。

 機械仕掛けの方を相手するよと、姫香の言葉にAIロボは素直に応じて前線へ。ハスキー達は、倍以上の大きさの獅子とサル顔のキメラと勇ましく接近戦の最中だ。


 機神キメラの方は、丸いボディに多足の変てこ形態でまるでクラゲみたい。ただし、回転する刃が胴体や足についていて物騒極まりない。

 こんな奴をチーム員に近付けさせちゃダメだと、ルルンバちゃんは前進して敵を封じ込める動き。敵の回転する刃も、魔導ボディに少々傷が入るだけ。


 逆に細い触手のような多脚をフン捕まえて、振り回してやっただけで相手はグロッキー状態に。そのまま床に叩きつけたら、胴体の回転刃も止まってしまった。

 後は応援に駆け付けた姫香と、柔らかそうな胴体を殴ってしまえば戦いは終了。慣れない前線の戦いだったけど、まずまず理想通りに動く事が出来た。

 満足気なルルンバちゃんに、姫香や後衛陣からもお褒めの言葉が飛んで来る。


 そして獅子とサル顔で胴体がトラのキメらも、レイジーとツグミの剣と鞭に既にボロボロの有り様。そしてフィニッシャーのコロ助が、ハンマーでの止め刺し。

 こちらも見事なフォーメーションで危なげなく勝利を勝ち取っていた。遅れて部屋に入って来た後衛陣は、お疲れ様と前衛陣をねぎらうしかやる事が無い。


 とにかく次の層のゲートは確保出来て、他に進めるルートも無さげである。お決まりとなった通信を異世界+土屋チームに入れて、階層渡りして捜索を続けるのみ。

 ハスキー達を先頭に、ようやく5層へと辿り着いた来栖家チーム。ここまでの成果は全く無いので、護人としては焦りの感情は大きくなるばかり。


 ところがハスキー達は、やっちゃるぜと探索の勢いは増して行く有り様。初見のダンジョンを前にして、攻略の気概はいつも通りに盛り上がっている。

 それは子供達も同様で、どうやら10層程度は当然攻略するよねって思いらしい。若さゆえの前向き思考だが、チームを束ねる立場の護人としては大変である。


 何しろ、今回の探索は間引きや財宝目的でなく、迷子の子供たちの確保なのだ。安全マージンを充分に取って、チームに無茶をさせずに任務の遂行に力を注ぐべし。

 そんな感じの5層の探索も、慣れもあってか順調に宮殿エリアまで辿り着けた。そして何度かの呼びかけと、敵の集団との戦闘を繰り返して奥の間へと辿り着く。


 ここにも罠エリアの通路は存在しており、外と言うか空の景色が良く見える穴は随分大きくなっている気が。殺意満々の仕掛けだが、来栖家チームは今回の仕掛けも無事に突破。

 そうして待ち構えていた石像キメラから、幾つか歯車パーツを回収に至った。この頃には、敵のドロップも魔石(小)が定番となっていて、難易度の高さが窺える。


「拾った歯車だけど、今回は4つでいいのかな? ひょっとして、この仕掛け扉の向こうは、中ボスの間になってたりするのかなぁ?

 途中の支道も、確認は全部出来たし後はこの扉を開けるだけだねっ!」

「そのお陰で、時間は割と掛かっちゃってるけどね……もう7時だし、この中ボス部屋を攻略し終わったら夕食にしようよ、護人さん。

 まぁ、まだここが中ボスの間かどうかは分かんないけどさ」

「そうだな、今更焦っても仕方が無いし……紗良、何か食べる物は持って来てるかな?」

「準備の時間が無かったので、簡単なレトルト物しか用意出来ないんですけど。お腹を満たす量はあるし、3日以上の長丁場でも一応平気ですよ。

 そうなる前に、迷子の子供たちを確保したいですよね」


 本当に紗良の言う通り、出来れば短期決着が望ましいこの迷子捜査の任務には違いない。そんな話を尻目に、姫香と香多奈は歯車の正解を見付けるのに熱中している。

 萌やムームーちゃんもそれに加わり、扉前は本当に騒がしい限り。この扉の向こうの敵も、一体何の騒ぎだと呆れ返っているかも?

 とにかく、迷子の捜索は意外と長丁場になりそう。





 ――来栖家チームとしては、巻き込まれた子供たちの無事を祈るのみ。







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