第957話 “天空ダンジョン”の仕掛けが少しずつ複雑になる件



 3層での二面作戦は、その終焉まで割と時間が掛かってしまった。それは仕方が無いが、幸いにも大怪我をした者もおらず無事に戦闘終了の運びに。

 それでも、小さい怪我をした者はコロ助や茶々丸やヒバリと何名かいた。まぁ、ヒバリに限っては、護人の制止を振り切っての深追いが原因だけど。


 自業自得だよと叱られるヒバリは、あまり懲りていないようでこう言う所も茶々丸そっくり。そんな茶々丸は、名誉の負傷だと自分では信じて疑っていない模様。

 ドロップ品を拾い集める子供たちだが、その数を口にしてやや引いていた。魔石に関しては30個以上で、その半分が小サイズである。


 それから金貨や銀貨に混じって、用途不明の歯車が1つ程。トンボ獣人は色付きの槍をドロップして、今までそれは5本以上貯まっている。

 それから、ホムンクルスの司令官だか術士は、スキル書を1枚落としてくれていた。しかし残念ながら、このダンジョンでは未だに宝箱に巡り合えていない。


 迷子の子供探しが目的なので、その点は致し方のない部分もあるとは言え。意外とシケてるねと、末妹の文句は止む事をを知らずな勢い。

 それはともかく、戦闘後の治療と回復を終えた一行は、定期の巻貝の通信機での情報交換も終えた所。別働チームも無事ではあるが、やはり敵の多さに足取りはゆっくりらしい。


 伊達に“西海の魔女”が、邪魔者の廃棄所に長年使用していた訳では無いねとの向こうの言葉に。間引きって大切だねと、良く分からない末妹の返しであった。

 そんな異世界+土屋チームは、どうやら見つけたゲートを適当に潜っているらしい。そのために、階層を深く潜っているのか浅く降りて行ってるのか本人たちも分かっていないとの事。


 その言葉に、ダンジョンも不親切だねと再び香多奈の文句の呟きが。まぁ、ダンジョンを途中から攻略する者など、まずいないのでその点は仕方がない。

 そんな事を報告し合いながら、何度目かの通信は終了した。


「それにしても、もう2時間が経過しちゃったね。お昼過ぎに探索開始したから、下手したら夜中までダンジョンの中をうろつき回る破目になっちゃうかも。

 人助けだから仕方ないけど、迷子の捜索って大変だねぇ」

「ああ、日馬桜町でも昔はたまにあったって話だね……子供が行方不明になったりしたら、大勢の大人たちで山狩りをするんだってさ。

 何しろ、田舎の子供たちの遊び場は山の中だって相場は決まってるから」

「こっちも大勢で、パッと出来ればいいのにね……でもこんなに敵が多かったら、やっぱり戦闘ばっかりで全然前へ進めないかな?

 まぁ、意外と簡単に次の層へのゲートが見付かるのが良いよね」


 香多奈の言う通り、この“天空ダンジョン”は広いようで進めるエリアは少ない事が判明していた。何しろフィールド型に見えて、実際ここは遺跡タイプなのだ。

 行ける範囲は、天空に浮遊する敷地内に限られて来ると言う。この程度の広さなら、ハスキー達の嗅覚や聴覚で何とかカバーは出来そう。


 姫香も同じ意見で、ただしウチは探索チームとして人数多い方だよと異論を述べる。確かにペット達を加えれば、10人超のチームってまずいない気が。

 それはともかく、今後もチームの作戦は変わらずに、護人の声掛け&移動の繰り返しになりそう。もちろんハスキー達の感覚も頼りにしているが、一石を投じての反応も大事。


 お陰で敵は寄って来てしまうが、今の所はまぁ何とか撃破出来ているので問題ない。そんな事を話しながら、再出発して次の部屋で最後の呼びかけ。

 何しろ、すぐそこに次の層へのゲートがあったのだ。この部屋に入るには仕掛けを解く必要があって、それがさっき拾った歯車だった。


 壁一面が大小の歯車だったので、この謎を解くのは足りてない場所を探すだけで良かった。とは言え候補場所が4つ位あって、関係ない稼働場所の方が多いと言う。

 そんな仕掛けも、来栖家チームの知性担当の紗良に掛かればモノの1分で解き終わってしまった。もっとも姫香や香多奈も、熱くなりながら謎解きには参加していた。


 一歩間違えば姉妹喧嘩になりそうなところ、無事に謎解きを終わって扉を開ける事が出来た。そしてゲートのある室内にいた、守護者のゴーレムとガーゴイルを倒して次の層へ。

 そして4層の出発地点も、やはり天空宮殿の前の浮き島だった。



「わっ、ここも天空の架け橋を渡って、向こうに行かなきゃなんだ。凝ってるねぇ、さっきの層の終盤も微妙にそうだったけどさ。

 あれって、ひょっとして逆走禁止の仕掛けなんじゃないのかな?」

「ああっ、確かにそうなのかもねぇ……歯車の仕掛けでしか扉が開かないとしたら、姫香ちゃんの言ってる可能性が高いかも?

 それより、ゲート前にいた敵も微妙に強かったよね」

「コロ助が手古摺てこずって、叔父さんが慌てて前に出たもんねぇ。つまり、紗良お姉ちゃんはゲートの守護者的なモンスター配置じゃないかって言いたいのかな?

 だとしたら、一気にダンジョンの難易度が上がって来た感じ?」


 それは嬉しくない考察だが、実際に戦った護人もそれには同意せざるを得ず。1~2層はおためしで、3層から急に罠や仕掛けやゲート守護者が出て来るとはひどい。

 こんなダンジョンの難易度の急上昇は、近頃の探索では経験にない来栖家チームである。果たして、階層を上がるにつれてそれがどこまで伸びるのか正直不安。


 なるべく早く行方不明の子供たちを確保したいが、それにはとにかく進むしかないと言う。今は迷子の子供たちの無事を祈って、天空の架け橋を渡って最初の広場で護人の呼びかけからスタート。

 そしてすっかり定番となった、まずはバッタ獣人がその声に応じての戦闘が開始される。今回も数が多く、騎乗バッタ兵も数体混じっていた。


 それに乗ってるのはホムンクルス兵で、この混成軍は初お目見えかも。何にしろ厄介には違いなく、自然と討伐まで時間が掛かるのも致し方なし。

 それでも、怪我人も出ずに4層最初の戦闘を乗り切ってまずは一安心。そしてハスキー達の反応を見て、護人の呼びかけに応じた者がいないのを知ってガッカリする流れ。


「う~ん、今度から香多奈が半分呼び掛けてみたら? 知らない大人より、同世代の子供に呼び掛けられた方が向こうも安心するんじゃないかな?

 まぁ、それも相手に届いてたらの話だけど」

「そうだよね、相手の耳に届いて無かったら反応しようも無いもんねっ。でもまぁ、今度から交替で呼び掛けしてみようよ、叔父さんっ。

 えっと、呼び掛ける相手の名前を覚えなきゃ!」


 意外と積極的な末妹だが、やる仕事が自分に増えてちょっと嬉しそう。そんな訳で、作戦を微調整しつつ4層での探索は続いて行く。

 宮殿内は相変わらず荘厳で広い造りになっていて、一体誰が何の目的で建てたのか不思議でたまらない。そんな感情とは無縁に、ハスキー達はチームを先導してくれる。


 そして宮殿の建物ルートは、この層も微妙に分岐が存在した。その度に声掛けをしないと駄目なので、来栖家チームとしては余り嬉しくない展開だ。

 ただし、迷子の子供たちからすれば、隠れられる場所がたくさんあると言い換えれるとも。そんなポジティブ思考の姫香に、後押しされるように香多奈の声掛けが鳴り響く。


 それに対する反応は無かったようで、ハスキー達も耳をビクッとしただけでこちらを振り返って無駄だったよとの素振り。それじゃあゲートに向かおうかと、姫香の言葉に末妹の指示出しが続く。

 珍しく敵が寄って来なかったねと、こちらもポジティブ思考の長女の言葉。ただしその先の空中庭園には、言葉を失って決して下を見ようとはせず。


 つまりはここも、見事な庭園の通路の下は吹きっさらしの空中空間の仕様だった。庭園に咲き誇る花々は、天も地も空の状態に何を思うのか。

 ただし、それを見た一行は綺麗だねぇとの好反応。


「紗良お姉ちゃん、明後日の方向ばっか見てないでお花が綺麗に咲いてるよっ。バラが多い印象だけど、可愛いお花もいっぱい咲いてるねっ!

 うわあっ、匂いも凄いっ……あっち側の、屋根付きのエリアは何だろうね?」

「う~ん、蔦植物を誘引して木陰を作っている感じかな? 日陰を好む草木もあるからね、ひょっとして薬草系の栽培とかもしているのかも知れないね」

「なるほどっ、確かに綺麗なのと実用的なのが混ざってれば最強かもっ!? 空中庭園って言葉では聞いた事あるけど、こんな感じなんだねぇ。

 凄いや、でもやっぱモンスターはいるんだねっ」


 姫香の言葉通り、このエリアも容赦なく敵は出現して現在もせっせと接近中。今回は大トンボと飛翔ムカデの混成軍で、その数は10匹以上と多い。

 それらを迎え撃つ前衛陣は、敵の多さに省エネ戦闘を心掛けている感じ。派手さは無いが、その辺は堅実で何とも頼もしい限りである。


 反対に茶々丸は、《飛天槍角》なんて派手な技で、空中の敵を撃破して行く。それを護人も弓矢でお手伝いして、なるべく綺麗な庭園を荒さないように心掛けてみたり。

 何にしろ、茶々丸も花壇を荒す事なく庭園での最初のバトルは終了。それから紗良が、薬草かなと怪しんでいたエリアを調べてみる。


 その間の護衛は2号ちゃんがになってくれて、香多奈は迷子の子供への声掛け作業。しかしこんな明るく名前を呼ばれたら、呼ばれた方も何事って思うかも?

 それが良い事なのか、ただ混乱をもたらすのかは今の所は定かではない。来栖家チームとしては、一刻も早い子供たちの確保が一番の願いである。


 そうすれば、すぐにでも『帰還の巻物』でダンジョンを脱出して隠れ里へと戻れる。時間もそろそろ夕食時で、このままだと深夜残業が確定である。

 香多奈はまだ冬休みの最中なので、その点は安心と言えるけど夜更かしは子供には辛い筈。かく言う護人や紗良も、毎度朝が早いので夜更かしが得意って程ではない。

 出来れば、8時までには全てを済ませたいけど如何いかがなモノか。


「う~ん、どうだろうねぇ……取り敢えず、中ボスの間をクリアしたら夕食休憩にしようよ、護人さん。それから後は、流れに任す感じかなぁ?

 早い所、見付かればそれが一番なんだけどねぇ」

「そうだね、それより私が叫んでも敵が寄って来ないのは何でかな? モンスターの反応する、声の質ってのがあったら面白いよね。

 それで論文書いたら、小島先生が買い取ってくれないかなぁ?」


 それは駄目だろうと、護人や姫香から一応のツッコミが。紗良からは、そう言うのは自分の名前で発表しなきゃねと、少女の学習欲を巧みに刺激しようとしている。

 まぁ、香多奈も来年ようやく中学生で、その将来がどう転ぶかは誰にも分からない。ひょっとして、学術の分野で名を遺す偉大な先生になる可能性だってあるのだ。


 紗良はそんな事を言って持ち上げて来るが、姫香などは明らかに胡乱うろんな目付きで末妹を眺めている。その目付きは、この少女は愛すべきヘッポコだねと確信しているよう。

 空中庭園でそんな事を話している一行は、ドロップ品を拾い終わって再出発に備えている。ただし紗良の薬草摘みは、興が乗ったのかもう少しだけ掛かりそう。

 時刻は既に6時過ぎ、ハスキー達もお腹が空いて来た頃。





 ――“天空ダンジョン”探索は、夕食が先か迷子の救出が先か?







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