第860話 6層以降の“ハワイ”テイストが様変わりを見せた件



 さて、お昼休憩を終えた来栖家チームは、簡易キャンプ地を畳んで探索を再開する。護人としては、宿泊先からの探索なのでなるべく短めに切り上げたい所。

 何しろこの後、周防すおう大島からキャンピングカーを運転して戻らないといけないのだ。今日は日曜日なので、明日は平日で学校がある。


 もうすぐ小学校を卒業する末妹を、あまり休ませるのは得策ではない。そんな理由もあって、今日中に戻るのは護人の中では確定である。

 子供たちは、そんな保護者の気持ちに気付かず呑気にハスキー達に続いて階段の方向へ。そうして覗いてみた6層目だが、おもむきは全く違っていてビックリ。


 そこも同じく島の中みたいだが、高い樹木に覆われてまるで樹海である。それを見た紗良が、ハワイ諸島には無人島が2つあったねぇと口にする。

 そこはまさにこんな感じで、恐竜映画の撮影にも使われた事があるのだとか。それじゃあ出て来るのは恐竜かなと、末妹の言葉に慌てて口を塞ぐ護人だが時既に遅し。


 密林の奥からは、甲高い大型獣の発する鳴き声が聞こえて来て物騒な事この上ない。ハスキー達も、これは大型のモンスターがたくさんいそうと気を引き締め直している。

 それでも前進するのは、こんな状況も何度かこなして既に経験済みだから。中衛の姫香と茶々萌コンビもそれに続いて、仕方なく後衛陣も前進を開始する。


 ハスキー達は獣道と言うか、島の中央へと続く土がむき出しのルートを伝って移動中。他に進もうと思うと、海側の沿岸沿いとかそっちしか無い。

 つまりは、ダンジョンの示すルート的には、島の中央へ向かうのが正しいと思われる。それを歓迎するように、まずはアザラシ獣人が道の端の沿岸沿いから躍り出て来た。


 さっきも見掛けた気がするが、このアザラシ押しは気になる子供たち。紗良がそう言えば、ハワイの固有種にモンクシールと言うアザラシがいるねとウンチクを披露する。

 それで一気に、なるほどって空気が家族内に流れ渡る。


「なるほどっ、そんな理屈でアザラシがたくさん出て来るんだ。ってか、奥から恐竜も追加で参加して来たよ、姫香お姉ちゃんっ!

 あれはラプトルかな、素早い肉食恐竜が来てるっ!」

「おっと、追加にしては数が多いな……ルルンバちゃん、応援に前に出てくれるかい? あと5層だから、塩梅あんばいを見ながら弾を使うんだよ」

「そうだね、弾の補充も考えながらねっ? ルルンバちゃんは、盾役も普通に出来るから凄いよね、頑張って来てっ!」


 長女の紗良にそう褒められて、張り切って前衛へと手駆けて行くAIロボである。最近の無双振りは目覚ましい彼だが、コスト的には魔銃やレーザー砲は結構掛かってしまう。

 魔銃のコストは、魔玉だったり属性石から製造した弾丸で、1発が約千円前後だろうか。レーザー砲ともなると、魔石(大)を設置して約10発くらいの発射が可能となっている。

 つまりは、1発が約3万円前後と結構なコストが掛かるのだ。


 それでも、ルルンバちゃんの魔導ボディが強力なユニットなのは間違いない。安全を優先するなら、積極的に使うのが来栖家の基本方針である。

 今も勇ましく前衛に参加したAIロボは、迫り来るラプトルの群れに臆した様子もなし。護人も『射撃』スキルで、弓矢の援護で敵の数減らしに貢献中。


 ルルンバちゃんも同じく、ハスキー達と肩を並べて後衛へは敵を1歩も通さない構え。半ダースほどの敵の群れは、そんな訳で前衛陣の頑張りで包囲網を突破出来ずに全員が没っして行った。

 先に仕掛けて来たアザラシ獣人も、茶々萌コンビの主な活躍で全て倒す事が出来た。フォローしていた姫香は、よくやったねと仔竜と仔ヤギのペアを褒めそやす。


 それから安全確保と怪我チェックを済ませて、落ちている魔石を拾い始める。お手伝いする末妹は、ドロップ品の中に貝や真珠を見付けてビックリ顔に。

 相変わらず、宝箱は見掛けないがドロップ品は贅沢なダンジョンである。ラプトルの方も、皮素材や牙などの骨素材が結構な確率で拾えてしまった。


「相変わらず、ここのドロップは凄いねぇ……これは今後、宝箱は探しても無いよって意思表示なのかな?

 まぁ、こっちとしてもその方がやりやすいかもね」

「まぁ、確かにそうかもねぇ……こんな密林で、道を外れて歩き回りたくも無いし。こっちもさっさと階層渡りして、10層の中ボスを目指そう」

「それにしても、ここもやっぱり南国の雰囲気は凄いかもっ。途中に咲いてる花とか、凄く色鮮やかでいかにも南国風だよねっ!」


 長女の言う通り、確かに樹海を縫うように進むルートの周辺は南国の色鮮やかな花が咲き誇っていた。凄いよねと撮影する末妹だが、花より団子が透けて見えてる気も。

 これで宝箱の発見があったら、真っ先にそっちに飛んで行くのは間違いない。今回はそんな事もなく、普通に一行は探索を再開するのだった。



 そして一行は、しばらく進んだ末に湿地帯へと出る破目に。相変わらず樹々は周囲を賑わせているが、巨大なシダ植物も目立つようになって来た。

 それと同時に地面もぬかるんで来て、歩きにくいったらない。それを汲み取ったのか、湿地帯には丸太を使った簡易ルートが出来上がっていた。


 人が並んで歩くのに不便の無い、至れり尽くせりな湿地帯の簡易ルートは半円を描いて沼地の反対側へと続いている。遠目に見えるその終焉地点には、次の層への階段らしき物体が。

 目的地を見付けて意気揚々とする面々だが、モンスターの襲撃も激しくなって来た。古代ワニのような3メートル級の奴とか、アンモナイトのような甲殻類とか。


 倒せば大抵、そいつ等は魔石(小)を落として雰囲気はA級難易度のダンジョンである。そんなルートの端っこに、ハスキー達が鳥の巣っぽい恐らくは恐竜の巣を発見。

 中には魔玉(風)が10個に魔結晶(中)が8個、それから琥珀の欠片や小型の化石などが卵と一緒に置かれてあった。卵も持って帰ろうと言う末妹の意見をスルーして、アイテムを回収する姫香である。


 ひょうたん型の沼地の上には青空がポッカリ広がっていて、少し離れた場所には火山らしきものが煙をあげていた。あの火山は噴火しないよねと、思わず口にした末妹に周囲からの鋭い視線が飛ぶ。

 沼地を半周する、丸太で出来た通路を進む一行に、後半は巨大トンボや翼竜の襲撃が見舞われた。それをスキルで迎撃するハスキー達&茶々萌コンビ、後衛陣もそれをお手伝い。


「うんっ、6層目もそれなりに強敵が多い感じだよね。魔石も小サイズが半分くらいじゃない、翼竜もかなり手強かったしねぇ。

 こっちの沼地側には、ラプトルやアザラシ獣人は出ないみたいだね」

「そうだね、湿地帯は巨大ワニや飛行タイプが配置されてる感じかな? 割と区分けがしっかりしているのは、このダンジョンの特徴かもね。

 前の層も、敵の出て来る順番とかパターンは一緒だったし」

「そう言えばそうだったねぇ……それにしても、ハワイなのに無人島が出て来たってのは意表を突かれたねっ。

 難易度も上がってるのかな、今の所は分かんないけど」


 そう言う香多奈に、余計な事は口にするなと前を行く姫香が振り返って視線で釘を刺す。そうこうしている内に、ようやく沼地を半周する事が出来た。

 最後に何かあるかなと思っていた一行だが、次の層への階段までに特に障害となりそうなモノは無し。ここまで30分程度で、敵の強さは上がったけどまずは順調だった。


 良かったねと口にしながら、階段を順次下って行く来栖家チームの面々である。まずは新エリアの1層目を、無事にクリア出来て良かった。

 この調子で、7層以降の恐竜エリアも何事もなくクリアして行きたい所存。そんな思いで出た先だが、今度は思いっ切りさっきの沼地だった。


 周囲を見回す一行だが、道は丸太の簡易整備された奴が一応続いている。それはどうやら、川下と言うか海側へとうねりながら続いているようだ。

 子供たちも、そっちへ進めばいいのかなと呑気に推測をしている。それに従って、ハスキー達は先頭に立ってご機嫌に探索を始める。


 そして、数分も経たずに沼と空からの襲撃が……沼からはワニ型の恐竜と、それからアンモナイトっぽい甲殻&触手を有するモンスターである。

 コイツ等は前の層でも相手をしたので、問題無く討伐して数分後には片付け完了。空からの刺客しかくも、主に護人とルルンバちゃんの遠隔攻撃で始末に至った。


 その中で一番迫力があったのは、4メートル級のワニの襲撃だっただろうか。ハスキー達を丸呑みしようと、突進する素早さと噛み付く迫力は秀逸だった。

 それを上回る素早さで、スキルで返り討ちにするハスキー達は既に生物としておかしな方向に進化している気も。それから両翼の幅が5メートル級の、翼竜も凄い迫力ではあった。


 そちらも護人とルルンバちゃんが、近付く前に撃ち落としてしまったので本当の能力は分からず仕舞い。とにかくバタバタしたけど、何とか沼地エリアは抜ける事が出来て何より。

 それから川沿いに進む事10分余り、一行は程無く海へと出る事に。そして樹海から飛び出したラプトルの群れと、海の中から出没したアザラシ獣人の群れ。


 アザラシ獣人の顔は、よく見ると犬みたいで可愛いと言えなくもない。ところがその肉体は、マッチョで無手の者も多い。つまりは、拳法使い系の職持ちが大半みたい。

 それはそれで面白いけど、ハスキー達は意に介さず二手に分かれて抑えに向かっている。レイジーはラプトル軍相手に、炎の狼を3体召喚して対処するようだ。


 そこに茶々萌コンビも参戦して、賑やかな戦線は出来上がり。ここのラプトルは3メートル級で、派手な色合いも混じった火山地帯風味を感じさせる。

 それでも炎が得意って訳でも無いようで、レイジーの先制の炎のブレスにはひるみまくっている。そこに茶々丸の『突進』が決まって、早くも吹き飛んで行く1匹目。


 その反対の海側では、ツグミとコロ助がアザラシ獣人と殴り合っていた。敵の数としたらこちらの方が多いが、アザラシ獣人の体型は人と較べてそれ程大きくはない。

 一番大きい奴で人と同じサイズで、そいつ等は特にマッチョだった。姫香も討伐に参加するが、ポージングを決める相手を見て軽く引いている。


「ツグミにコロ助っ、さっさと片付けて安全を確保するよっ! マッチョな奴は、コロ助が責任をもって処理しなさいっ!」

「何だかこのダンジョン、固有種のアザラシを押したりとか色々クセが強いねぇ? マッチョに関しては、ハワイと何か関連があるのかなぁ?」

「どうなのかなっ、あっ……一番のマッチョは、案外簡単にコロ助が倒しちゃった」


 何故か残念そうな香多奈の呟きの間にも、前衛の戦いは続いていた。護人とルルンバちゃんも遠隔で支援して、この立ち位置もすっかり慣れた模様。

 そんな感じで海辺の戦いも5分程度で終了して、残るはドロップ品の回収のみ。そして衝撃の事実、どうやらあのマッチョ獣人はスキル書を落としてくれていた模様。


 ラプトル恐竜も色鮮やかな皮素材を落としてくれており、相変わらずドロップ率は好調である。アザラシ獣人の方からは、追加でミスリル装備も2つ程ゲット。

 下手な宝箱より儲けは大きくて、この待遇は確かに嬉しいのだが。どっかでぶり返しが来るのではと、やはり戦々恐々としてしまう護人である。

 そんな“ハワイダンジョン”も次の8層の階段が海岸沿いに見えて来た。





 ――そしてその道中を遮る、大物の敵が海中から!






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