第859話 5層を突破して“ハワイダンジョン”を更に突き進む件



 ここまで約2時間が経過して、時刻はもうすぐお昼である。予定としては順調で、5層をクリアしたらお昼かなと子供たちは呑気に話し合っている。

 南国のエリアで食べるお昼は、何と言うかバカンスって感じで楽しいかも。もっとも、外は冬なのにこのトロピカル感は、やや違和感を感じる面々である。


 そんな5層目だけど、先ほどと全く同じパターンのサンドマン一味の襲撃をたった今退けた所。次は海からの魚人と、パーム並木からの大ヤシガニの襲撃がある筈。

 それが本当にやって来て、対応の仕方も前の層と同じで時短に問題は無し。紗良の氷魔法で海側は一網打尽、護人とルルンバちゃんで大ヤシガニの群れもサクッと討伐に至った。


 ビーチの戦いもすっかり慣れた一行は、次は中ボス戦だねと気合も充分。とは言え一部からは、次はどんな見世物かなと不謹慎な発言もポロリ。

 姫香がじろっとにらむが、末妹は特にりた様子もなし。撮影道具を片手に、ご機嫌にチームの後ろを同行している。


「あっ、そろそろ見えて来たかな……ビーチは障害物がないから、遠くまで良く見えるよね。今度も野外舞台なのかな、それとも別の建物とか?」

「う~ん、どうやらさっきと同じ建物に見えるな……今度はパペットがフラダンスを踊っていても、召喚が行われる前に阻止するからね、みんな。

 不要な敵は増やさず、安全第一に敵を処理して行こう」

「了解っ、護人さん……確かに、さっきのボーっと見学は完全に不味かったよね、今回は、どんな演目が行われてても、割り込み掛けて敵を倒すよっ。

 分かったわね、ハスキー達っ!」


 もちろんそのつもりと、ハスキー達も尻尾をってヤル気モードである。そもそも中ボス戦は、誰かが名乗り出てハスキー達は見学の場合が圧倒的に多いのだ。

 参加させて貰えるのなら、それは張り切って敵を倒すに決まっている。そんな思いで、一行は例の野外舞台の前へと揃って辿り着いた。


 そして目にしたのは、8体のフラダンスを優雅に踊るパペット兵。コイツ等が力を合わせて召喚したら、さっきより酷いモンスターがやって来ちゃうかも。

 それは絶対阻止するよと、舞台に上がってパペットの討伐を始める姫香である。ハスキー達も、もちろんそれをお手伝いして遠慮のない暴れっ振り。


 その時だった、舞台の両端に設置されていたトーテムポールが勢いよく動き出したのだ。それは木製で、電柱より随分太くて重量も結構ありそうなポールであった。

 顔が上下に幾つも連なっているが、それぞれが分離して宙に浮いて襲い掛かって来ている。それぞれ酸のブレスを吐いたり、宙からの押し潰しを敢行したり大暴れだ。


 驚く舞台上の面々だが、何とか事前に察知して被害は最小限に留めている。とは言えパペット退治どころではなくなって、右往左往しつつも新たな敵に対応している感じ。

 そこに後衛陣から『射撃』とレーザー砲の援護が来て、奇襲をかけて来たトーテムポールも数が減ってくれた。その勢いのまま全滅させたいが、敵も合体して体当たりやブレスを多用して来て大暴れを続けている。

 そんなこんなで、生き残ったパペットダンサーが光の魔人を召喚成功!


「うわっ、眩しいっ……何あの魔人、腰ミノつけて光り輝いてるよっ。ハスキー達、しっかり頑張らなきゃダメでしょっ!

 お陰で、余計な敵が増えちゃったじゃないっ!」

「それは仕方がないよ、香多奈ちゃん……不意を突いてトーテムポールが乱入して来たからね。あれもパペットかゴーレム的な仕組みかな、核を潰さないと活動停止しないかもっ。

 ルルンバちゃん、遠慮しないでじゃんじゃん弾を撃っていいからね!」


 節約精神の行き渡っている長女も、さすがに難易度の高いこのダンジョンではそうも言っていられない様子。しかも現在は、中ボス戦で厄介な敵も追加で降臨している状況なのだ。

 護人も不味いなと悟ったようで、遅ればせながら舞台へと上がって行った。そんな訳で後衛組は、敵にタゲられないよう姿を潜めつつの観戦モードに。


 何しろ既に乱戦で、紗良の範囲攻撃などもっての外である。香多奈の『応援』や『叱責』が、何とかチームに役立つかなあって感じ。

 とは言えさすがチームのリーダー、護人が参戦した事によってハスキー達もネジを巻き直された動きを示し始めた。次々と撃破されて行くパペット&飛翔トーテム、戦いの趨勢すうせいはあっという間に来栖家が有利に。


 護人もトーテムを『掘削』シャベルで片付けながら、巨大化コロ助が抑え込んでいる光の巨人に辿り着く。その見た目だが、ハワイの原住民の祖霊とかそんな感じなのかも。

 例えば有名なのが、カメハメハ大王あたり……そんな設定をダンジョンが好んで使うかはともかく、動きに際しては武術者のそれである。


 コロ助もハンマーを咥えて、『牙突』との同時攻撃で何とか敵にダメージを与えようと必死。光の巨人は、それにひるまず熱線ビームや光の剣と盾で応じている。

 白熱した戦いだが、これも護人の乱入で勢いがこちらに傾いた。“四腕”の巣殴りモードは、例え相手が精霊だろうが祖霊だろうが関係なくガンガン削って行く凶悪さ。


 それにコロ助も勢いを得て、最後は巨人の首元に《咬竜》を叩き込んでジ・エンド。喜ぶコロ助を、一緒に戦った護人が存分に撫で回して褒めてやる。

 その頃には、フラダンス舞台も飛翔トーテムポールも、すべて姿を消して戦いは決着がついていた。やったねと喜ぶ末妹は、宝箱へと一直線である。


「あっ、やっぱりさっきの光の魔人も魔石(大)を落としてくれたね。それからスキル書と、この袋は……ああっ、魔玉(光)の詰め合わせだ。

 10個以上入ってるね、妖精ちゃんが持っておく?」

「いやしかし、乱戦になって焦ったけど怪我人はいなさそうかな? コロ助は平気そうだな、茶々萌コンビはどうだい、紗良?」

「こっちも平気そうですね……浮遊してたトーテムに『突進』を何度も避けられて、ストレスは溜まっているみたいだけど。

 舞台から飛び出ちゃったときは、さすがに焦ったけど怪我は無いみたいです」


 それは良かったねと、呆れた視線を茶々丸に投げ掛けた姫香は、そのまま末妹の宝箱チェックへと合流して行った。むくれてる仔ヤギをなだめる作業は、そんな訳で長女がそのままになう流れに。

 5層の宝箱だが、まずは鑑定の書や薬品類や魔玉(炎)と割と普通な品が出て来た。魔結晶(小)が7個に虹色の果実は、まずは当たりの部類だろうか。


 それから後は、雑貨やお土産品のオンパレード……マカダミアナッツにクッキーにチョコレート、ビーチサンダルにアロハシャツが割と大量。

 食べ物も紅茶やコーヒー豆がたくさん出て来て、後は蜂蜜やピーナツバターなどなど。そんな宝箱いっぱいのお土産品に、末妹は狂喜乱舞して喜んでいる。


 当初の目論見もくろみが見事にかなって、このダンジョンに潜って良かったと喜ぶ少女であった。付き添いの護人としては、苦労した甲斐があったと言うモノ。

 末妹の誕生日のイベント的にも、まずは良かったと思いたい。一緒に宝箱をチェックしていた姫香も、良かったわねとその報酬を喜んでいる。




 さて、問題はこの後の予定をどうするかって事である。子供達は宝物の回収を終えて、当然のようにビーチを眺めながら昼食の準備を始めている。

 護人としては、このままダンジョンを出て島内のお洒落な喫茶店かレストランに出掛けるのも悪くないって思い。つまりは探索はここでお終い、あとは観光を楽しもうとの提案である。


 もっとも企画部長の香多奈は、そんな気は毛頭ないみたいでお昼ならここにあるでしょって主張。これは施設の料理人が、朝早くに作ってくれた人数分のお弁当である。

 ウチには食いしん坊(ハスキー達)が多いから、多めにとの要望もバッチリ通って二段重ねだ。これを破棄するなんて、罰が当たるよとの物言いは確かにごもっとも。


 ハスキー達も物言わぬ圧で、ご飯頂戴ともっと探索しようを器用に訴えかけて来ている。この時点で、護人も根負けして追加でもう5層だけだよと降参の構え。

 やったと喜ぶ少女は、さっそくハスキー達にお裾分けを配ってご満悦な表情。このダンジョンはボス部屋に退去用の魔方陣があるので、10層までに潜っても帰りは楽は出来そうだ。


 そんなランチタイムは、持ち込んだタープを何とか日よけにして、割と快適に過ごす事が出来た。ビーチはポールの固定が難しかったが、ルルンバちゃんがタープの固定に貢献してくれてバッチリ。

 そんなAIロボは、自分はお掃除ロボット本体を分離して気儘なモノ。家族が食事を終わるのを、呑気に砂地で日向ぼっこしながら待っている。


 茶々丸とヒバリは、そんなビーチを駆け回って楽しそう。たまに波打ち際まで遊びにおもむいて、押しては返す波を相手にたわむれている。

 ホッコリするシーンだが、家族としてはやや複雑な表情なのは否めない。特にヒバリが、茶々丸に似てヤンチャ化が進んだらどうしようって心配も湧きおこって来る。


 ミケは相変わらず潮の臭いが嫌いなようで、姫香の膝の上で周囲を否定的な目付きで眺めている。それから子供たちの浮かれようを見て、この苦行はもう少し続きそうと悟った表情。

 その点は、この老猫は護人と似た感情なのかも……そんな中で、末妹の香多奈が巻貝の通信機でダンジョン外のザジと何やら話していた。


「そんでねっ、凄いたくさんお土産をゲットしたから、楽しみに待っててね♪ もうちょっと探索を楽しみたいから、帰りは夕方過ぎになっちゃうかもっ?」

「ザジ、そっちの待機組の具合はどうなの……あんまり新人さん達を、訓練と称していじめ過ぎちゃ駄目だよ?

 今後はその人たち、岩国チームに編入されるそうだから」

『分かってるニャ……ってか、1日や2日じゃチームを鍛えるのは不可能だニャ。そんな訳で岩国チームと話し合って、1週間くらい山の上に連れて行く事に決まりそうだニャ。

 モリトがオッケーすれば、そのまま週末に“アビス”に一緒に行くニャ♪』


 何ともアグレッシブな提案だが、確かにそれは悪くない気はする。前回の青空市で、一緒に『ワープ装置』で“アビス”探索を約束したって事情もあるし。

 それから教え魔のムッターシャとザジが、鍛え甲斐のある若者を見付けてテンションが上がっていると言う事実。それなら、岩国チーム全体を暇桜町にお招きもまぁ自然な流れか。


 通信していた姫香と香多奈の視線が、どうすんのって感じで家長に注がれている。護人はそれを受け、両者にオッケーと返事してくれとサインを出す。

 これで来週以降も、山の上は騒がしくなるのが確定してしまった。それから来週末の“アビス”探索も、これまた決定事項となりそうな気配。


 それならずっと保存してあった、“アビス”の宝の地図がようやく役に立つねと末妹は一気にハイテンションに。“浮遊大陸”のも回収出来て、続けざまにツキが来てるねと嬉しそう。

 姫香も同じく、久々の“アビス”探索かぁとムームーちゃんをムニムニしながら楽しみな様子が窺える。コインとメダルを集めておくのは、今後の為にも悪くないねと姉と話し合ってやっぱり楽しそう。


 そんな訳で、来栖家チームの来週の予定も呆気なく決定の運びに。それからこのダンジョンの夕方までの探索も、口に出した手前遂行が決まってしまった。

 既に諦め模様の護人とミケは、午後の探索が無事に終了するよう祈るのみ。いや、実際にサポートは頑張るし、精一杯に探索に勤しむつもりではいる。

 とは言え、このダンジョンのサービス精神には敏感にならざるを得ず。





 ――その過剰なサービスに、とにかく翻弄されぬよう気をつけないと。







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