第845話 新人ズと双子が探索チームを組んでみる件
そのダンジョンは町の外れの峠道の途中にあって、厳密には日馬桜町の管轄では無かった。ところがいつの間にか、こちらに組み込まれて今に至ると言う経緯が。
確かにその峠道を使うのは、田舎住まいの日馬桜町の住人が圧倒的に多い。この峠道は、険しいけど隣町へのショートカットによく使われるのだ。
つまりは隣町の住人は、日馬桜町へと来る理由がない限りは使う事は無い。お店などに買い物に出掛けるのに、こちらの住人がたまに使うだけ。
そんな理由で、いつの間にかなすり付けられていた
そんな感じで、姫香はここの探索を山の上の新人ズに勧めた次第である。それに今回ついて行くのは、陽菜とみっちゃんと怜央奈のお泊まり組。
姫香とツグミも当然付いて行くし、心配性の土屋女史も同行に手を挙げたので。結構な大所帯になったけど、実際に戦うのは平均年齢の随分低いキッズチームである。
この場所は、峠道の途中だけあって探索に出向くのも少しだけ厄介である。つまりは峠の山の中で、沢が沼地化した場所にダンジョン入り口が存在するのだ。
とは言え、こんな場所でもオーバーフロー騒動を起こしたら厄介ではある。協会から魔素濃度が高くなったと報告を受けた姫香は、それじゃあ私達で行って来るよとお気楽に依頼を受ける事に。
そして熊爺家の双子に連絡を入れると、行ってもいいよとの返事を貰った次第。ウチの新人と組んで欲しいんだけどとのお願いも、二つ返事で受ける良い子達である。
軽いノリだが、新人ズと双子の間での面識は実はそれなりにある。週の月水金には、熊爺家の子達は山の上のゼミ生塾へと勉強に通って来ているからだ。
つまりは9月の中旬から、両者は顔見知りで既にある程度は打ち解けていたりして。特に人見知りしない
桃井姉弟にしても、親のいない境遇は聞き及んでシンパシーを感じ合っている間柄。探索者として頑張るための、夕方の特訓でも互いに切磋琢磨すれば仲も良くなると言うモノ。
「そんな訳で、今回はルルンバちゃんはお留守番でいないからね。双子の
リーダは茜がするで良いよね、
「いいけど、こんなにたくさん保護者が同伴するって……ちょっと過保護が過ぎるんじゃないかな、姫香お姉ちゃん?
入るのはC級ダンジョンなんでしょ、物凄く大袈裟だよ」
「確かにそうだな……ただまぁ、私達もギルドの役に立ちたいんだ。ついでに後輩の探索を後ろから眺めて、あれこれアドバイスしたいんだ。
そんな訳で、目障りだと思うが我慢してくれ」
そんな率直な陽菜の言葉に、揃って首を
確かに見た目は良くないけど、姫香はその辺はあまり気にしない事に。何より、友達がギルド活動の手助けを買って出てくれたのだ。
その心意気だけでも、嬉しくて涙が出てしまう。
そんな訳で、ヤル気も準備も万端に整った“峠の沼地ダンジョン”の開始である。今回も紗良にお弁当を作って貰って、お昼休憩は楽しみの1つ。
新人ズからすれば、頼りのルルンバちゃんがいないのは不安の種ではある。ただし、既に探索者デビューしている双子の動きは、とっても有り難いし参考になる筈。
久遠も前衛の端くれとして、年下の龍星には負けていられないとヤル気は充分だ。この2トップだが、最近3つ目の『探知』スキルを取得した龍星の方が、敵の察知は得意なよう。
あそこにいるから倒すねと、草むらに隠れていた大ネズミを『伸縮棒』の突きで瞬殺する。そして周囲を見渡して、あっちに敵が多いかもと沼地の淵を指差して来た。
「あっ、大きな蚊柱が立ってる……ってか、あれもモンスターみたいだね。そんな訳で襲われない様に気を付けて、みんなっ!」
「えっ、あんな集団の敵をどうやってやっつければいいの? 魔法……はルルンバちゃんいないし、困ったわねぇ」
「大丈夫、
元気にそう言う
その結果、炎の玉くらいなら何とか常時発動が可能にはなって来た。ただし、実践では全く試した事はないので、いざ本番になって
スパルタの姫香は、やってご覧と当然の如くに遼の案を後押しする構え。ただし、残りの面々もフォロー用に、魔玉を準備するようにと言い含めるのを忘れない。
そんな訳で、いざ始まる子供たちによる蚊柱退治……
そんなのが顔面目掛けて飛んで来たら、子供でなくてもパニック間違い無し。保護者の面々も、割とハラハラしながら見守っていて何だか保護者参観日みたい。
そんな中、気合を入れつつの茜の炎の玉は、見事に蚊柱の中央へと激突した。ちなみにコイツ等は、よほど近付かなければ人間に反応しないみたい。
それでも攻撃されれば別で、炎の玉に燃やされて落ちて行く奴らは群れの半分程度。ヤンチャな遼が続いて放った魔玉(炎)で、更に半分が燃えて行く気配が。
そして不思議な事に、その攻撃で残りの元気な奴も消滅して魔石(微小)へと姿を変えて行った。あれだけの群れを倒して、魔石(微小)がたった1個である。
何と言うか、肩透かしの結果にあれぇ? って顔の子供たち。
「まぁ、攻撃力もほとんど無さそうな敵だったし、そう言う事もあるよねぇ。元気出して次に進もうか、みんなっ!」
「そうだな、下手したら素手でも叩き落せそうな敵だったし。魔玉を1個使ったから、今の戦闘は赤字になっちゃったな。
探索者は、そう言う事を考えながら戦うんだぞ?」
陽菜の言葉に、なるほどと納得したような子供達の反応である。確かに儲けるために探索しているのに、赤字は不味いよねと遼も反省している模様。
まぁ、それを覚えるのも今回の探索の課題の1つではあるかも。新人ズの面々は、日々の練習や勉強の合間に魔石や魔法アイテムの値段も覚えている所。
みんな勉強熱心で、これには教師役の紗良や土屋女史も教え甲斐があると言うモノ。ランクもD級に上がった手前、いつまでも新人気分ではいられないと子供達も必死。
そんな感じで1層からも厄介な特性の敵が出て来て、この“峠の沼地ダンジョン”も
そんな声が保護者達から上がる中、キッズチームも双子の声掛けで隊列の微調整など。入ってみると意外と沼地が多いので、龍星がやや先行して安全を確認するらしい。
斥候役は、龍星が『探知』スキルを取得してから、何度も実戦で
久遠は少し後ろに控えて、いざという時はパッとブロックに前に出る感じ。後衛に関しては、引き続きリーダーの勉強って感じで茜が統率すると言う格好に。
そして再開したキッズチームの探索は、次に大ネズミの集団と遭遇してプチパニックに。足元をすり抜けて行く集団を、前衛陣が完全にブロック出来なかったのだ。
そのために半分は後衛に取り付いてしまい、茜や遼が騒ぎ始める始末。冷静なのは天馬1人で、少女は『自在針』で次々と大ネズミを引っ掛けて行動不能にして行く。
その間に、反転して来た龍星が『伸縮棒』の鋭い突きで後衛に纏わり付く大ネズミの1匹を始末完了。それから姉が自由を奪った敵を、愛用の短刀で始末して行く。
「遼もそんな慌ててないで、闇スキルで敵を倒してみてご覧っ。茜も、大ネズミ程度でそんなに逃げ回らないでっ。
自分を守る事に集中してたら、味方が始末してくれるからっ!」
「久遠っ、こんな弱い敵に強い火力の武器は必要ないよっ! 手数で相手を弱らせて、前線を抜かれない様に工夫しなきゃ。
今は挽回だけ頑張って、形とか考えず大ネズミ程度なら踏み殺せるよっ!」
物騒な姫香の助言に、仲間の筈の怜央奈などはやや引いた表情を浮かべている。ただまぁ、田舎生活では小動物の死骸は割とよく見かけるのも確か。
ミケなど狩りの達人で、わざわざ家内に持ち込んで見せびらかしたりするのだ。それに慣れっこになっている姫香は、過激な発言も出ようと言うモノ。
久遠は割と素直に、アドバイスに従って武器を交換……破壊力抜群の『魔人のフレイル』から、サブ武器のショートソードに持ち替えて足元の大ネズミを切り刻み始める。
それにより、あっという間に前線の敵の数も減って行く。
後衛陣も、保護者が飛ばす助言によって何とかパニック状態から脱する事が出来ていた。その結果、遼も闇の触手で討伐を手伝って、意外と早く敵の集団を片付けられた。
そして思わずホッと息を漏らす、戦うキッズチームとそれを見守る保護者達と言う構図。やっぱり危なっかしい感じがあるのは、それはまぁ仕方がない。
何しろ、現在のこのチームも即席の結成だし、最初から息が合う訳もないのだ。その点を言い含めながら、自分達で頑張りなさいと課題を出す保護者の姫香である。
キッズ達はそれに対して、真面目にハイッと返事をしてもう一度短いミーティングを行う。そして久遠は、引き続きショートソードをメイン武器に使う事に。
それから斥候役の龍星も、敵を発見次第にその種類と数を後衛に知らせると約束してくれた。この報告で、数が多ければ天馬が『自在針』で敵の足止めをする流れに。
遼も影縛りの能力で、何とかお手伝いを頑張れと後衛の姫香から助言が。ちょっと心配そうな顔をしている師匠のツグミを見て、遼は頑張ると笑顔で返答してくれた。
「でもまぁ、遼は茶々丸属性があるからねぇ……変に張り切って、チームに迷惑を掛けなきゃいいんだけど。
実はそれが、一番心配なんだよねぇ」
「茶々丸ちゃんって……ああっ、ヤンチャ属性っスか。姫ちゃんの心配はもっともっスけど、まだ小っちゃいからそこは仕方ないっスよ」
「まぁ、確かにみっちゃんの言う通りではあるが……フォローする者がいないと、破綻した時に致命的な事態を招く恐れもあるからな。
その辺を、しっかりリーダーの茜が担えるかが課題だな」
いつもの真顔でそう告げる陽菜は、姫香に合わせてちゃんと小声で喋ってくれている。キッズチームは元気に再出発をしていて、2層への階段を捜して沼地の側を歩いている所。
今の所はいきなりのトラブル続きで、先行きがかなり不安な探索状況だ。とは言え、個々の能力は皆が総じて高いので、咬み合えばC級ランクのダンジョン程度はスイスイ進める筈。
そう思う保護者の面々だけど、やっぱりそこは心配が先に立ってしまう。特に桃井姉弟の保護者役の土屋女史は、探索開始時から祈るような表情である。
子供同士でチームを組ませたのは、やっぱり時期尚早だったかも知れない。1人でも安定した前衛役とか、ベテランが混じればここまで心配はしないのだが。
とは言え、今回の探索も大事な経験を積む作業ではある。保護者がこれだけ付いているのだし、失敗してもフォローは全然届く範囲ではある。
そう言って土屋を安心させる姫香だが、あまり上手く行っていないよう。
――とは言え、元気を取り戻したキッズ達は勇んで沼地を進むのだった。
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