第840話 中ボスと大ボスの間を駆け足で進めて行く件



 さあ遊ぶぞと意気の高い香多奈チームは、今回もメダル40枚を手にしてご機嫌にゲームを見て回っている。そのメンツだが、妖精ちゃんと茶々萌コンビとチビッ子ばかり。

 しかも茶々丸はりょうの姿に変身しており、これでゲームの操作もバッチリである。何をして遊ぼうかと話し合う一行だが、妖精ちゃんが変わった箱型のゲーム筐体を発見した。


「うわっ、これは何だろう……メダルがあちこちに置かれてて、儲かりそうではあるね。面白そうだけど、どうやって遊べばいいのかなっ?」


 そう呟く香多奈に、チビッ子たちも群がってゲームの解析を始める。メダルが一番置かれている中央の台だが、プレートが前後していて台のメダルを押し出す動き。

 押し出されたメダルは、下のトレイに落ちてこちらの儲けになるみたい。他にも小島があちこちに造られていて、そこにもメダルが置かれている。


 これも衝撃を伝えて落とせば、良い感じに回収は出来そうだ。肝心の衝撃の与え方だが、どうやらあちこちのメダル投入口から自分のメダルを弾けば良いらしい。

 それが上手く小島に当たったり、台に乗っかれば押し出し機が上手く作用してメダルの大量獲得が可能っぽい。なるほどとゲームのルールを共有した面々は、さぁやるぞと気合充分。


 それから順番を決めて、賑やかにゲーム攻略の開始である。トップバッターの小さな淑女は、香多奈に手伝われつつも左端の浮き島へとメダルアタック!

 それは見事に命中して、こぼれたメダルが下の一番大きな台へと落下する。その余剰分で、押し出しプレートが5枚ほどのメダルをトレイへと運んでくれた。


 それを見て、大威張りの妖精ちゃんはちょっと可愛いかも。ゲームは楽しんだもの勝ち、茶々萌コンビも拍手してその手腕をたたえて場は最初から結構な盛り上がりを示している。

 ただし、このゲームはある程度まで投資をしないと、見返りも発生しないかも。落ちやすいメダルの島を徹底的に狙って、回収が落ち着いたら見切るのが賢い選択だろう。


 取り敢えずここで10枚使って、40枚くらいは回収したい所。そう茶々萌コンビに発破をかけて、自らも儲ける気満々で香多奈は2番手での挑戦を行う。

 その右手の浮き島を狙った一撃は、見事に狙いを外して虚空へと飛んで行った。そして下の大台の上でねて、次の挑戦者の景品メダルの一部へと吸収されて行った。

 ガッカリ顔の香多奈、このゲームも一筋縄では行かなそう。



 その頃の紗良だが、やっぱりルルンバちゃんと一緒にクレーンゲームをプレーしていた。今回の台は先ほどよりもっと大きくて、景品も凄いモノが多い。

 カプセルの中に入っているのは、アレは魔結晶(大)ではなかろうか。他にも虹色の果実やオーブ珠もあるし、魔法の鞄らしき品も普通に景品に混じっている。


 アレは絶対に取ろうねと、AIロボと話し合う長女は珍しく燃えたぎっていた。メダルの入ったカプセルも、20枚入りの奴がゴロゴロしている。

 上手くやれば、今回は百枚を余裕でクリア出来そう……他の景品への物欲を、上手く抑制出来ればの話ではあるが。とは言え、魔法の鞄やオーブ珠は是非せびとも回収しておきたい所。


「いいよっ、ルルンバちゃんその調子……ああっ、落ちちゃった! 今回はアームがかなり甘いねぇ、これはなかなか回収が難しいよ。

 でも参加費がメダル1枚なのは有り難いよね、目ぼしい景品は全部取っちゃおう!」


 寸前で獲物を逃したAIロボは、とってもくやしそうに出来損ないめって瞳で筐体のアームを眺めている。それを見た紗良は、不正は駄目だよと念の為の忠告。

 ドキッとしたリアクションのルルンバちゃんは、果たしてその気が合ったのかは定かではないけれど。交替でプレーするクレーンの取得率は、だいたい4割程度で悪くは無い。


 そして10分後には、念願の魔法の鞄も獲得に成功して盛り上がる1人と1機であった。実にメダル5枚を投入したが、その甲斐はあったと言うモノだ。

 その成功を喜んでいると、突然にフロアの端っこで姫香の叫び声が。しかもその音色は歓喜に満ちていて、どうやらスッた方の怒声では無さげである。

 ……と言う事は、ひょっとしてメダル20枚で大当たり!?




 護人は悩んでいたが、それは主にムームーちゃんのねた心話内容に起因していた。要するに、自分も敵と戦ってみたいデシとの我がままである。

 軟体幼児は、どうやら冒険したいお年頃らしい……と言うか、活躍して父ちゃんに褒められたいって理由が大きい気も。さっきもコロ助やレイジーを、思い切り目の前で褒めたのを見られていたし。


 それは仕方がない、活躍したら褒めてあげないとペットとの信頼関係が崩れてしまう。悩んだ護人は、コロ助の頭にムームーちゃんを乗せてエントリーを試してみた。

 そして何故か、それが見事に通って後は敵のランクを選ぶ画面に。おおっと驚きつつ、さてこの4種からどいつを選ぼう? 心情的には、中ボスはレイジーに残しておきたい。


 先ほどは9倍の倍率でも、割と圧勝だったコロ助の単体戦闘である。今回はムームーちゃんもセットだし、8倍の2番目に高い倍率の敵を選ぶ事に。

 まぁ、コロ助がいればスライム幼児もある程度安心だろう。そう思って賭け金を投入した途端、やっぱり始まる架空コロッセオでの対戦バトルである。


 コロ助&ムームーちゃんの対戦相手は、今回はバルーン狐だった。つまりは風船で出来たモンスターで、その数本の尻尾が次々に勝手にふくらんで別の生物を形作って行く。

 それを呑気に見守る両者は、明らかに観戦モードで何だか楽しそう。敵のそんなバルーンアートは、しかし次の瞬間には風船の犬や兎に一斉に襲い掛かられる顛末に。


「これっ、呑気に見守ってるからそんな事になるっ! さっさと撃ち落として……近付かれて破裂されたら、酷い目に遭うかも知れないぞっ!」


 護人のそんな忠告は、残念ながら一歩遅かった模様。隙を突かれて接近を許したバルーンモンスターは、コロ助たちのすぐ間近まで迫っていた。

 肉体は風船だが、牙や爪はしっかり本物の敵は殺意満々で襲い掛かって来る。それをムームーちゃんが、《炎心》の炎のブレスで迎え撃った途端に。

 護人の懸念けねん通り、派手な爆破が巻き起こってしまった。


 不味いぞと思わず目をおおう護人だが、その時既にコロ助たちはその場にいなかった。《韋駄天》で瞬間移動を果たしていたコロ助は、さて次は本体だと狙いを定める。

 ちなみにこの本体の風船モンスター、空気の塊だと思っていたら弾力が凄くてなかなか倒すのが大変だった。コロ助と軟体幼児の2匹掛かりでも、討伐まで実に5分以上掛かると言う。


 応援するだけの護人もへとへとだが、何とか最後は『牙突』と《氷砕》でジ・エンド。風船モンスターは派手に破裂して、払い戻しは30枚の8倍で240枚と過去一である。

 凄いなと興奮する護人は、戻って来たコロ助とムームーちゃんを存分に褒めそやす。それに嫉妬したレイジーが、次は自分の番と両者の間に割って入る。


「分かったわかった、それじゃあレイジーには中ボスの討伐を頼むよ。倍率はそれでも4.8倍か……ここのエリアのクリア条件が、確か5百枚だったかな?

 さすがに全部は賭けないけど、ここはドンと百枚と行こうか」


 任せてと、挑戦者登録を済ませたレイジーは、華麗に巨大な兎の縫いぐるみを一蹴。中ボス補正の掛かっていた兎の縫いぐるみだが、レイジーは簡単に燃やし尽くしてしまった。

 これで護人の所持メダルは、軽く6百枚を超える事に。ペット達の恩恵が大きいとは言え、3エリア連続でガッツリ儲けて家長としての面目躍如である。


 その時、姫香の興奮した叫び声がフロア内に響き渡った。そしてミケを担ぎ上げてスキップする姿が、護人の所からも確認する事が出来た。

 どうやら大当たりを引いた模様、残り時間も10分だし合流して確かめる事に。そもそも、護人の所持メダルだけでもこのエリアのクリア条件は達成している。


 そこからの顛末は、ジャックポットを引いたよと興奮する姫香の独壇場だった。つまりは1千枚のボーナスである、これは宝箱の中身も期待出来そう。

 そこからは、香多奈も寄って来て凄いねミケさんを連発。功績を微妙に認めて貰えない姫香だが、これで借りは返したわよと鼻高々の大威張りである。


 そこからは、早めにカウンター席のパペット店員にメダルを数えて貰ってのこのエリアの退出作業。もっと遊びたいとの意見もあったが、宝箱を早く見たい思いも同時にあった模様。

 そんな末妹は、このエリアの宝箱の中身にさっきから奇声を上げて興奮模様。それを見て、姉妹の驚き方がよく似てるなぁとさっきの姫香を思い出す紗良である。


 ちなみに宝箱からは、最新のプレステに最新の任天堂のゲーム本体、セガのドリームキャストなどなど。それぞれソフトも10本以上ついていてこれは遊び甲斐がありそう。

 他にもクレーンゲームでよくあるような縫いぐるみや、その他景品が盛りだくさん。それに混じって、鑑定の書(上級)や薬品類、それから魔結晶(中)などがちらほら。


 それからオーブ珠が1個に、あとは素材系が幾つか。ちゃんと大振りの鍵も出て来たので、これで晴れて大ボスへと挑む権利を得た格好だ。

 レイジーやコロ助と違って、この“遊”エリアで戦闘の無かった面々は暴れ足りないねとこぼしている。そんな訳で、次の戦いは姫香やツグミやルルンバちゃんに出番を譲る形となりそう。




 そんな移動中のザジチームへの通信は、今回は話す余裕があって情報交換もスムーズに。向こうはまだ、完全攻略にはもう少し時間が掛かるそう。

 それも当然、向こうはこっちより3つほど階層が多いのだ。こっちは次が大ボス戦だよと、末妹は相変わらずテンションが高くて通信も長くなりそうな気配。


 それを姉の拳骨で制されて、それじゃあねとようやく話を終える香多奈であった。そんな一行は、既に3つの鍵を使って大ボスの間への扉を出現させ終わっている所。

 ハスキー達が勇んで、さあ入るぞと先頭に立って扉を潜って行く。それに続く家族たちは、最後の敵はどんな奴かなと期待半分&不安も半分。


 それはすぐに判明して、洋風の館内エリアに待ち構えていたのはバンパイアだった。漆黒の衣装を着た青白い顔のソイツは、細マッチョ体型で強そうではある。

 姫香がすかさず、その敵を見て自分が行くねと立候補を表明する。家族からは特に異論も出ず、ツグミも普通にサポートへと一緒に進み出た。


 大ボスのバンパイアは、闇のレイピアの使い手でその技は強烈。もちろん闇系の魔法や大コウモリの召喚もお手の物で、さすが大ボスと言った多才ぶりを発揮する。

 姫香も負けず劣らず、愛用の武器で敵の攻撃を寄せ付けぬ奮闘を示している。相手の魔法に関しては、ツグミが相殺して完璧に抑え込む優秀振り。


 召喚された大コウモリの群れも同じく、姫香とツグミで次々と撃ち落として数の優位を作らせない構え。戦いは5分以上に及び、香多奈の応援にも熱が入って行く。

 10分に到達しようかって頃には、とうとう向こうの方に先に疲れが見え始める始末。それを逃さず、ツグミのフェイントから姫香が討伐へと移行する。


 そして最後は、『天使の執行杖』を杭の形にしての胸元への一撃が決まってしまった。これにて長かった戦いにも終止符が、大ボスは奮闘むなしく魔石(特大)へと変わって行った。

 他にもオーブ珠やらマントをドロップして、宝箱からも魔法アイテムの回収は多そうだとの事。さっきのエリアが遊具ばかりだったので、その点は嬉しい辻褄つじつま合わせである。

 とにかくこれで、長かった“鬼の報酬ダンジョン”探索はいったん終了。





 ――後は家に戻って、今回の回収品をゆっくりと楽しむべし。





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