第815話 ムームーちゃんの前衛デビューが散々だった件
この完全水耐性の全身鎧だが、体長は1メートル半でそんなに強そうではない。ところが性能に関しては、異世界の最新鋭のギミックが盛りだくさんと言う。
外見は魚人型オートマタで自律もある程度可能、特に性能を発揮するのが水エリアみたい。温泉エリアでも、恐らく対応は可能だと思われる。
そんな推測でオーケーを出した護人だが、気分は保護者参観である。ムームーちゃんの我が
紗良と香多奈も、面白そうと後ろから観戦を決め込む構え。末妹の香多奈は、頑張れと呑気に近接戦デビュー戦の軟体幼児にエールを送っている。
「いいねっ、今回は新スキルとかの訓練期間が短すぎて、みんな披露出来そうもないもんねっ。ムームーちゃんだけでも、お試しするなら応援しなきゃねっ!」
「危なくなければいいんだけど、護人さんがついてるなら平気かなぁ? 無茶はしないでね、ムームーちゃん……危ないと思ったら、すぐに下がっておいで」
平気デシと鼻息も荒い軟体幼児、オートマタに潜り込んでの操作もいっぱしである。とは言え、まだ1週間足らずしか訓練は行っていないので、不安は大きい。
本人的には、人と同じ歩行や腕での作業が楽しくてたまらない様子。そんな
そんな訳で、家族チームの方針で甘やかしが発動してしまった結果。ムームーちゃんは、こうして意気揚々と温泉エリアでの前衛デビューを果たす流れに。
そうして、まずは湯煙に紛れて寄って来た蒸気ガストを、腕に仕込まれていたレーザー刀で一刀両断にして行く。声にならない悲鳴を上げて、魔石に変わって行く不意打ちモンスター。
その勝利に気を良くしたのか、ムームーちゃんは得意満面の表情(?)。もっと倒すデシと、どんどん温泉エリアの奥へと進み入ってしまう。
そこに待ち構えていたのは、ここにもいましたカエル男。そいつは前の層の奴と違って、何だかやり手の雰囲気を
まるで拳法の達人のような
そして見事にカウンターで突きを喰らって、温泉の中へと頭から引っくり返る。そこで待ち受けていた灰色ウナギに、電流まで喰らって可哀想に半泣きのムームーちゃん。
慌てて回収に向かう護人と、格好つけているカエル男を魔銃で始末するルルンバちゃん。あ~あと言う表情の後衛陣は、取り敢えず大丈夫と軟体幼児に声を掛ける。
ちなみに、温泉内の灰色ウナギは護人が刀で始末し終えている。安全確保をしておかないと、後衛陣にも被害が及ぶ可能性があるのだ。
まぁ、さすがの香多奈もムームーちゃん程の無茶はしないだろうけれど。それでも子供と言うのは、何に興味を
そして回収された軟体幼児は、既に半泣きで完全水耐性の全身鎧を脱ぎ捨てていた。どうやら雷の攻撃までは防げなかったようで、HPにダメージを受けている模様。
紗良が怖かったねぇと、優しく声を掛けながら『回復』作業を始める中。ようやく追いついた前衛陣が、ナニやってんのと冷めた表情で合流して来た。
そして素人は引っ込んでな的な態度で、エリア内の間引きを始める。それは確かに的を射ており、護人や紗良も全く反論の出来ない始末。
つまりは、調子に乗ったムームーちゃんが悪いとの結論である。
「本当に、調子に乗ったら痛い目に遭うって言ったでしょ、ムームーちゃん! 叔父さんや紗良お姉ちゃんが幾ら優しくったって、その内に大目玉喰らっちゃうよっ。
そしたら、敵に八つ裂きにされちゃうんだからねっ!」
「そうだねぇ……そうならないように、もう少しお
「確かにそうだな……おっと、ハスキー達はもう次のフロアに移動するみたいだな」
何ともソツなく間引き作業を行うハスキー達、お仕事終わったよと護人に呼び掛けてお隣りへと向かう素振り。それを追い掛ける後衛陣は、何とも微妙な顔付きだ。
紗良は軟体幼児の治療を終えて、転がっている魚人型オートマタをそっと魔法の鞄に仕舞い込む。それから、この一連の出来事がスライム幼児のトラウマにならなければ良いなと脳内思考。
そんな思いとは関係なく、前衛陣の快進撃は続く。それは良い事なので、後衛の紗良としても特に言う事は何も無い。そして同じ場所に、次の層への階段を発見したとの報告が。
かなりワンパターンのダンジョンの造りは、ある意味洞窟タイプに通じるモノがあるかも。不器用な性格の子が、無理やり凝った模型を作ろうとした感じ。
結局はパターンを幾つも用意出来ず、同じ型の繰り返しになってしまったみたいな。そう評する末妹は、ダンジョンを幾つも巡っただけに評価基準も
その上に、この間はダンジョン査定なんて仕事もこなした身分である。それに照らし合わせてみるに、今回のダンジョン仕様は平均点以下の赤点らしい。
と言うより、そもそもB級かどうかも怪しいレベル。
そんな事を話し合いながら、一行はいつの間にやら5層へと辿り着いていた。ここまでの道のりは至って順調で、ムームーちゃんが泣いた以外は特筆すべき点も無し。
時間も1時間半程度で、まだお昼にも少し間があるかなって感じ。この調子だと、5層の中ボス撃破の後のお昼はやや早い気がする。
そして出た先も案の定の宿泊エリアで、敵を捜しに駆け出すハスキー達である。それを追いかける中衛陣と、更にその後を進む後衛陣と言う構図。
後衛陣はもっぱら回収品を捜す役割で、ムームーちゃんも既に戦いにロマンを求めなくなっていた。ミケと同じく、護人の肩の上でひたすら大人しい有り様。
そんな後衛陣は、2つ目の宿泊部屋でどうやら当たりを引いた模様。誰の忘れ物かは知らないが、そこにはスキー道具一式が壁に立てかけてあったのだ。
それからテーブルの上には、鑑定の書や魔玉(風)が幾つか置かれてあった。それと一緒に、袋入りのお煎餅やお饅頭も幾つか。
「やった、何か色々と置かれてるよ、紗良お姉ちゃんっ。スキー道具とかかな、青空市で売れると良いけどっ」
「あっ、本当だ……机の上にも、定番のアイテムがあるねっ。全部回収して、さっさと姫ちゃん達と合流しようか」
その作業を眺めるムームーちゃんやヒバリは、チーム員の行動を興味深そうに眺めている。特に軟体幼児など、さっき痛い目を見た癖に探索を嫌になってはいないみたい。
それはまぁ良い事なのだが、保護者としては気苦労が絶えないかも。仔グリフォンのヒバリの方も、既にヤンチャな性格を垣間見せ始めている。
『飛翔』スキルを得て、更には《巨大化》や《変化》の魔法アイテムも融通されたヒバリは大忙し。朝から晩まで、そのスキルを使用出来るようにと頑張っているのだ。
とは言え、そんな上手くは事は運ばず、今の所はただ元気に駆け回るだけ。やはりスキルの取得は、一筋縄では行かない様子である。
つまりは、チビッ子新入り組に関しては、ルルンバちゃんと同じくこの探索でのスキル披露はお流れの結果に。期待していなかった紗良や香多奈は、ドンマイってな表情でしかない。
それより来週に迫った、11月の青空市に気持ちは向いている様子。売れそうな回収品を、“浮遊大陸”のダンジョンではゲット出来なかったのでここでの期待は大きい。
そんな訳で、張り切って室内を物色して取りこぼしが無いかを確認する後衛陣。それを何部屋か繰り返して、1階にある宴会場や台所のチェックもこなす。
ただしこの層では、目ぼしい物はゲット出来ず残念な限り。
間引き自体は順調なのだが、いまいちパッとしない探索に香多奈は不満ブーブー。それでも建物を玄関先まで進んで、中庭エリアを掃討中のハスキー達を見守る。
姫香と茶々萌コンビもそれなりに戦いに参加しており、中庭は騒がしい限り。空の見える空間には、ゴーレムの他にも大蜘蛛が数匹たむろしていたようだ。
それらを片付け終わった前衛~中衛陣は、終わったよと後衛陣に合流しながら報告して来た。それから次に行こうと、温泉エリアの扉を潜る構え。
そんな一行を、ちょっと待ったと引き留める末妹である。
「ちょっと、ここ5層だよっ……この奥、中ボスの間じゃないのっ? ほいほいと作戦もなく入ったら、さっきのムームーちゃんみたいな目に遭っちゃうよ!」
「あっ、そう言われてみればそうだった……ここまで順調過ぎて、階層の数字をすっかり失念しちゃってたよ。
ハスキー達おいでっ、次が中ボス戦だよ!」
「おやっ、温泉エリアでの中ボス戦は決定なのかな? 他のエリアにいなかったから、消去法でそうなっちゃうって事か。
何なら働いてない分、俺とルルンバちゃんで行こうか」
そんな護人の申し出も、姫香にすげなく断られる結果に。ちなみにハスキー達も今回は見学で、やっぱり出番が少なかった姫香と茶々萌コンビが名乗り出た。
この辺は、探索の指示出しはほぼ姫香に任せている護人なので
別に構わないけど、動画アップのコメントで文句を言われるんだよねと香多奈の呟きに。全くその通りだと、護人は大人としての責務が肩に乗っかって大変そう。
それでも姫香は茶々萌コンビを伴って、前の層と変わりのない温泉施設の扉を先頭で潜って行く。その先は脱衣場の筈だが、既にそこから変化は始まっていた。
その広いスペースは、まさに中ボスの間に
脱衣籠を置く棚が等間隔に並んだ向こうは、壁もなく巨大な浴槽がデンと置かれてあった。まさに絶景で、その巨大さはお湯を張るのがとっても大変そう。
ここって混浴なのかなと、それを見た末妹のコメント。確かにパッと見、脱衣場と浴室の壁は無い上に男女の浴室も繋がっているように見える。
大胆だねぇと、末妹の混浴発言に長女の紗良の追随が。そんな事には構っていられない姫香は、茶々萌を伴って巨大浴槽の中へと進み入る。
それから、アチッとお茶目な叫び声……水耐性の装備を用意していたが、姫香は温度までには頭が回らなかった様子。茶々丸もコリャ
同時に灰色ウナギも、数匹襲い掛かって来てピンチに見舞われる選抜チーム。それらを茶々丸に騎乗していた萌が、振り返りざまに串刺しにして行った。
思わぬ反撃に、茶々萌側にいた伏兵たちは呆気なく魔石へと変わって行った。その中には中ボスの大カッパもいて、何と萌の一撃でダウンの運びに。
電撃を喰らう前に浴槽を飛び出た姫香は、寄って来た灰色ウナギを倒しながら絶句モード。とは言え幼い萌に当たる訳にも行かず、弱い中ボスに胸中で八つ当たり。
その大カッパは、スキル書と魔石(小)を落として既にこの世にはいない有り様。ここって本当にB級ランクなのと、姫香は思わず誰かに
そんな小言をリーダーの護人に言う訳にも行かず、何とも締まらない5層の攻略であった。何だかこの先も、盛り上がらないまま進んで行きそうな雰囲気がモリモリ。
本当に締まらない、間引きが順調なのが唯一の救いだろうか。
――そんな中、後衛陣は嬉々として宝物の回収に向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます