第705話 そろそろ月末の県北レイドに備え始める件
異世界から無事に戻って来れた来栖家チームは、次の日曜日をまったりと過ごす事に。とは言え、最近の山の上は諸々の事情が重なってそうも言ってられないのだが。
例えば、鶏舎でゲットした大きな卵は何だか更に大きくなって来た気が。それから、新人ズの3人は、先週より確実に山の上の生活に馴染んで来た。
今では朝早い家畜の世話も、その後のご褒美に釣られて楽しんでこなしてくれている。特に最年少の
他の子達も、牛乳や卵を貰う目的で厩舎の掃除や卵の確保を毎朝頑張ってくれている。週3日の塾通いをこなす、熊爺家の子供達とも既に対面は済んでおり。
まだ友達関係は築けていないにしろ、近しい年代の子達の集団に安心感は得られてそう。いきなりの勉強会に関しても、3人ともそこまで拒絶反応は無さそうで何よりである。
それは早朝のお手伝いや、午後からの田んぼや畑仕事も同じく。むしろそちらの方が、新入りの子供達にしてみれば楽しい作業のようだ。
それは熊爺家の子供達も同じで、結局は双子の2学期からの転入の話はお流れに。残念ではあるが、さすがのゼミ生教師も小学5年生までの学力の詰め込みを半年では無理だったよう。
子供の知識と言うのは、無理やり机に座らせて頭に詰め込もうとしてもさすがに無理がある。興味のある事を中心に、楽しさをちらつかせないと集中力は続かないのだ。
その点に関しては、何となく新入りの3名の生徒達も同じルートを辿りそうな気配が。まぁ、生きていく上では学力は2の次でも全然構わないのだ。
それより新人の子達に関しては、覚えたスキルの方がよっぽど重要。
今回来栖家が持ち帰った、スキル書とオーブ珠の相性チェックは昨日の夜に無事に終わっていた。それに関しては、誰も新スキルは覚えられなくて残念な限り。
それなのに、何故かホッとした雰囲気が山の上の面々に漂うのは、《勇者》とか《闇の君主》と言う厄介なスキル所有者が突然に出現したせい。姫香はこれは末妹のせいだと、完全に決めつけて制裁を加えていたり。
ちょっと可哀想な結果ではあるけど、何となく賛同の空気が他の面々に感じられるのは仕方のない事か。取得に関してはもうどうし様も無いけど、強力なスキルは諸刃の剣でもある。
それを持つ者の心構えや、探索者としての活動は早々に教え込んで行かないと。護人としては、乗り掛かった舟は当然最後まで面倒を見るつもり。
「えっと、それじゃあ香多奈は協会には一緒に来ないんだね? それじゃあ俺と姫香で行って来ようか、留守は頼んだよ、紗良」
「了解しました、護人さん……ちなみに、魔法アイテムの鑑定も全部終わらせてます。こちらが鑑定結果で、ドワーフの親方に既に渡したアイテムも混じってますね。
でもまぁ、炎耐性のアイテムもぼちぼち集まって来ていい調子ですね!」
「ルルンバちゃんの交換ボディも、無事にゲット出来たしねっ♪ 私は新しい子たちと遊びながら、ルルンバちゃんの性能チェックもやっておくね!
ああっ、忙しいなぁ……紗良お姉ちゃん、おやつの時間には戻って来るね」
ちゃっかりとそんな事を口にしながら、末妹は中庭からショートカットで遊びに出て行ってしまった。それに追従するコロ助と茶々丸は、仕事だとちょっと楽しそう。
紗良から手渡された用紙を眺めながら、護人は気を付けてねと香多奈に声を掛ける。思ったより遠くから、は~いとの元気な大声での返事が。
【赤珠のネックレス】装備効果:炎耐性&魔力up・小
【炎蛸の指輪】装備効果:炎耐性&筋力up・中
【魔導パーツ(腕)】使用効果:魔導ゴーレムの腕・永続
【炎鉱石のインゴット】使用効果:炎耐性&硬化付与・鉱石素材×3
【魔導ゴーレム】使用効果:魔導ゴーレムの本体・永続
【炎魔の魔剣】装備効果:炎属性&不折&鋭刃&能力値up・特大
【炎魔の大斧】装備効果:炎属性&物理破壊・中
【炎魔の革鎧】装備効果:炎耐性&筋力&理力up・中
その他:『強化の巻物』(炎耐性)×2、『温保石』×54、『涼保石』×50、『錬金レシピ書』(魔導)×1
炎耐性の装備品は、紗良の言うように集まりはまずまずの結果に。その内の『炎鉱石のインゴット』やら各種素材系は、ドワーフ親方の工房行きへ。
他にも『魔導パーツ(腕)』も、やっぱり腕が無いと近接戦闘は不利だと言う事で。修理中のルルンバちゃんに、何とかつけて貰う事に決定した。
後はお金と言うか、燃料代わりに魔結晶(中)は全部渡して前金はこれにて払い済み。炎属性の素材も結構ゲット出来たので、こちらもついでに渡しておいた。
これで追加で、何か作って貰えるかも……そんな目論見はもちろんあるけど、一番に重要なのは当然ながらルルンバちゃんの魔導ボディの修繕である。
今週末に終わらせるのは、親方に言わせるとかなり微妙らしい。あれだけ壊されていたのだから、簡単には修理出来ないのも当然だとは思うけれど。
一応はカニ型魔導ボディも確保出来たので、最悪こちらで県北レイドには向かうつもり。ルルンバちゃんの《合体》スキルがあれば、予備座席を後ろにくっ付けて貰えば、いざと言う時の後衛運送も可能だと思われる。
遠征に出掛けるまでに、その辺の装備品の手配もしておかなければ。動作チェックは末妹の香多奈がしてくれるそうだが、ただ単に遊びに連れ回しているだけの可能性も。
それでも新人の3人の子供達と仲良くなってくれるなら、全然悪い事ではないと護人は思う。子供は子供のやりかたで、そうやって世界を広げていくのだ。
それが例え、自分達が楽しむ目的がメインだとしても。
午後になって護人は、年季の入った白バンを運転して麓へと降りて行く。助手席には姫香とムームーちゃん、後部座席にはレイジーとツグミが乗っている。
残りの来栖家の面々は、山の上で遊んでいたり家事をこなしていたり。護人の運転する白バンは、協会へと寄る前に植松の爺婆の家へと停車する。
そこで軽く来週の遠征の報告やら、その後の稲刈りの打ち合わせやら。山の上に新しく子供が入居した話は、既に報告は済んでいるとは言え。
一気に3人も増えて、アンタ大丈夫なのかいと心配は思い切りかけている模様。と言うより、子供を増やすより嫁を貰えとの毎度の催促のフレーズが。
それをなんとかいなして、用件を済ましてその場を去る構えの護人であった。姫香の方は、呑気に台所の漬け物をつまみ食いして、ポリポリと軽快な音をさせている。
護人の肩の上のムームーちゃんは、家族のコミュニティに興味津々なよう。大きな家族の一員になれて幸せだなぁと、肩の上でフニフニしている。
そしてようやく爺婆から抜け出して、協会の駐車場へと白バンは移動を果たす。今回はちゃんと動画の依頼は出来るので、その点は前回よりマシではある。
魔石の換金にしても、たった8層なのでそれ程の稼ぎは無かったけれど。前回の“魔獄ダンジョン”よりはしっかり稼げており、護人は出て来た江川にそれを手渡して換金のお願い。
姫香はすぐに、能見さんを掴まえていつものテンションで動画チェックに誘って行く。今回は異世界に行って来たよと、その発言は間違っても普通の探索者のそれでは無いけど。
相手をする能見さんも、すっかり慣れたモノでそうなんですねと涼しい顔。それから動画を観始めて、来栖家の活動に魅入っている素振り。
ルルンバちゃんのドローン形態には、すぐに気づいて直ってないんですねと心配そうなコメント。それに対して、姫香は異世界のダンジョンで予備のボディを回収して来たよと、明るく報告して来る。
その知らせに驚く能見さんは、恐らく真っ当な神経の持ち主なのだろう。異界の魔術師のダンジョンの仕掛けに関しても、興味津々で姫香に質問を飛ばしている。
一方の護人は、仁志支部長と離れた場所での相変わらずの密談形式での会話である。もっとも、今は月末の県北レイドも決まっており、仕事に関する遣り取りは少ない。
それでも山の上の新人ズに対しては、この協会も他人事では無いようで。既に本部から、桃井姉弟のデータを取り寄せて対応もバッチリだと報告して来る。
とは言え、E級ランクの駆け出しも同然の探索者に対して、仁志からは特に何も発する事は無さそう。小島博士の連れて来た、大野町出身の
どうチーム編成するのかとか、成長には期待しているとは言ってくれるモノの。即戦力としての期待は、当然無さそうで山の上がまた賑やかになりましたねとの感想のみの支部長である。
そうこうしている内に、江川が換金結果をトレイに乗せてやって来た。今回は75万円との事で、異世界のダンジョンにしてはこんなモノかって感じ。
儲けの半分は隠れ里の工房に融通してしまったし、たった半日の探索にしてみたらむしろ良かったかも。メインの目的の魔導ゴーレムの予備ボディ&パーツもゲットして、それで文句を言ったら罰が当たる気も。
「そう言えば、少し前に頻繁に日馬桜町に訪れていた、市内の本部所属の職員がいたじゃないですか。確か宮藤さんだったかな、近い内に報告があるからこちらに来るそうですよ。
護人さんも忙しいみたいですから、都合のいい日時を知らせて貰えれば」
「いや、別に大丈夫ですよ……報告だけだったら、そんなに時間を取られる訳でも無さそうだし。時間があれば、こちらから麓に降りて来ますよ」
そんなやり取りがあった数日後、平日のその日は朝から秋晴れですっかり天候は秋に近付いていた。護人はいつもの日課で、子供達を白バンで小学校へと送り出して麓の道を走行中。
協会支部から、宮藤と荒里が面会希望でやって来たとの報告があったのは昨日の夜の事だった。それを受けて、朝からこうやって面会場所の協会支部へと向かっているのだ。
車内にはレイジーと、すっかり護人に懐いてしまったムームーちゃんの姿が。まぁ、このメンバーなら密約の内容を、下手に外に流さないし大丈夫だろう。
向こうは報告だと主張しているが、恐らくその内容は十中八九が闇企業のその後の顛末の筈。その工業地帯が、火災に遭ったとのニュースはこんな田舎でもキャッチ出来ている。
と言うか、岩国の『シャドウ』のリーダーの三笠が、それとなく週明けにラインで知らせてくれたのだ。その内容はかなり
それを秘密裏に行ったのが、市内で新たに発足した隠密部隊の彼らでも、護人はちっとも驚かない。辿り着いた協会の駐車場には、既に見慣れた宮藤のビートル車が駐車してあった。
久し振りに顔を見た隠密部隊の
荒里も同じく、チビちゃん達は元気ですかと仲良くなった小学生グループを気にする素振り。さっき元気に登校して行きましたと告げると、明らかにホッとした表情に。
「さて、例の“魔獄ダンジョン”の引き継ぎに関しては、尾道の協会支部に任せてあります。もっとも、入り口は異世界チームの魔法アイテムで封印してしまいましたけど。
どうやらあのダンジョン、奥の方で異界と繋がっているとのムッターシャの見解でして。それなら大事にならないようにと、異世界チームが策を講じてくれたみたいですね」
「それは良かった、向こうの地元の探索者たちも肩の荷が1つおりた事でしょう。さて、こちらの報告としては例の工業地帯の火災とその後なんですが。
例の子供やペットを狙った
ただ、我々もその場に居合わせたんですが……」
それは暗に、実行者は自分達だと言ってるのと同じだが、護人は敢えてスルーする。深堀して質問しても良い事など無いし、連中には気の毒だが天罰が下ったと思って貰うしか。
ただし、そんな隠密部隊の彼らが言い
どうやら彼らが暗殺に勤しんでいる最中に、企業の建物内に別の気配を感じたのだそう。そいつは火や風を起こして騒ぎを大きくして、2人は事後に逃げ出すのが大変だったと文句を言いたそうな素振り。
人間離れしたその所業は、宮藤が言うにはモンスターに近かったの事。一瞬だけそのシルエットを見る事が出来た荒里は、天狗に似ていたと興奮して告げて来る。
つまりは、来栖家にそっち系の知り合いはいないかと彼らは問いたいらしい。
――護人はただ絶句、鬼や妖精やAIロボの次は天狗がお出まし?
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