第682話 いよいよ敵の罠?へと飛び込んで行く件



「あっ、あれがお迎えの車かなっ? 茶々丸は人型に変身したら乗れるけど、ルルンバちゃんはちょっと無理だねぇ。

 車の後ろを走ってついて来れる、ルルンバちゃん?」

「港までは、そんなに距離は無かった筈だけどな……しかし改めて便利だな、ワープ装置って。こんな簡単に、あっという間に遠距離を移動出来るんだもんな。

 キャンピングカーも持って来れたら、もっと良かったんだが」

「そうだね、そこは不便だけどお泊りはしないんでしょ? さっさと敵を全部ブッ倒して、今日中に家に戻ろうよ、護人さん。

 それより、罠にはまった振り作戦は上手く行くかなぁ?」


 姫香の呟きに、そこは心配だけど上手く行くさと楽観的な護人である。この作戦の最初の肝は、例の“魔獄まごくダンジョン”の入り口でワープ装置の認定を得る事だ。

 それさえ出来れば、地元で待っている援軍を直にダンジョン内へと招き入れる事が可能である。相手は待ち伏せしているもだが、まさか敵が倍以上に増えてるとは思っていまい。


 それがこちらの強みで、油断をついて早期に敵を殲滅せんめつに追い込む予定ではいるのだが。向こうも異世界の名のある傭兵が所属しており、一筋縄ではいかないだろう。

 こちらで一番強い、ムッターシャとズブガジに相手を丸投げしたい所だけれど。護人や姫香も、なるべく頑張って負担を減らすつもりではいる。


 その辺は、不明な点も多くて流動的になってしまうのは仕方が無い。取り敢えずは尾道協会の用意してくれた、装甲大型ワゴン車に家族で乗り込む一行である。

 その車は、随分と改造されていてどちらかと言えばキャンピングカー仕様の中身みたい。居住性はまずまず、何より収容力が思ったよりあるのがグッド。


 家族でワイワイ言いながら、それに乗り込む来栖家はまるで遊びに出掛ける前のような雰囲気だ。茶々丸が、何故か末妹の香多奈の姿に変身したのが主な騒ぎの原因だけど。

 こっちの末妹の方が可愛いねと、姫香の一言でいつもの姉妹喧嘩に発展して。助手席にミケとムームーちゃん同伴で座る護人は、それをいさめながら1つため息。

 運転手に謝りながら、ミケの毛並みの感触で心を落ち着かせてみたり。


 運転手は若い協会のスタッフのようで、来栖家チームの事も良く知ってる感じだった。相手がA級チームと言う事もあって、慇懃いんぎんな対応振りは仕方がない。

 護人としては、もう少し砕けた対応でも良かったのだが文句を言う程でもないし。程無く港について、後は船の手配をして貰ってお別れの予定である。


 向こうは船長の手配もと気を遣ってくれていたのだが、島に着いてからは本当に戦争の可能性もあるのだ。そんな中で、一般人を巻き込みたくない護人はそれを辞退。

 船の操縦は、車に遅れる事無くついて来てくれたルルンバちゃんに一任する流れに。張り切っている彼は、この先を思うといつも以上に頼もしい存在かも。


「尾道に来たけど、陽菜ちゃんやみっちゃんに連絡したらダメなんだっけ? まぁ、つい先週まで一緒にいたし、会いたいって程でもないけどさ。

 内緒でこんな所に私たちがいるのは、ちょっと申し訳ない気持ちになっちゃうね、姫香お姉ちゃん。嘘ついてるみたいで、何だか嫌な気分だよ」

「仕方ないよ、異界から来た敵の強さは半端ないんだから……しかも今から向かうダンジョンって、香多奈の予想では随分な深さなんでしょ?

 アンタの『天啓』が、強い敵がわんさかいるって教えてくれたんでしょ?」


 今回は珍しく、末妹の『天啓』スキルが事前にダンジョン情報を読み取ってくれたらしい。その報告をする香多奈は得意そうだったけど、家族は何故か半信半疑と言う。

 ちょっと可哀想だけど、末妹の扱いとしては通常通りなのが悲しい所だ。そんな訳で、今回はC級の陽菜やみっちゃんには声を掛けない方針が決まった次第。


 後から文句は言われるだろうけど、これはギルマスの正式な決定である。信頼と心配は別なのだ、子供達を連れて来たのも早くも後悔している護人である。

 とは言え、ここまで来たからには家族で一蓮托生のノリには違いない。香多奈なども、生きるも死ぬも一緒だよと小学生らしからぬ言葉を口走っているし。


 それも案外と本心なのだろう、つまりは置いてったら一生恨むからねの裏返しの言葉とも取れる。ハスキー達も、群れなのだから当然だよねって態度で一貫している感じ。

 その群れが、段々と大きくなって来たのはリーダーの包容力の賜物たまものと、或いは誇らしく感じているのかも。そんな訳で、新入りの軟体生物にも狩りの同行を許しているレイジーは、群れの管理が行き届いているとも。


 こんな感じで役割分担は完璧な来栖家チームだが、今は仲良く用意されていた漁船に乗り込んでいる所。今回はさすがに、フェリー船の手配までには至らなかったようである。

 それでも、目的地の百島ももしまは割と近いので問題はない筈である。護人は地図を広げながら、漁船をジャックしたルルンバちゃんにここが目的地だよと告げている。

 それをお気楽に、了解とゼスチャーで返す優秀なAIロボ。



 実際、漁船での瀬戸内海クルーズは30分も掛からず終了した。相変わらず穏やかな波の瀬戸内海だが、夏の残暑は午前中と言えど残酷で。

 ハスキー達は、何とか吹き付ける潮風で涼をとってしのいでいる感じ。ミケはやっぱり、そんな海の匂いは好きではないみたい。


 護人のマントの中に隠れて、日光と潮の匂いを拒絶しているミケはまた海かと憂鬱そうな表情。その反面、子供達はルルンバちゃんの操る船の上ではしゃいでいる。

 そして段々と近付いて来る島影に、あれが目的地かなと少し警戒した言葉を呟く。紗良が地図を広げながら、あれが百島ももしまで一番高い山が十文字山かなと皆に解説する。


「島の南側には、厳島神社もあるねぇ……この辺りの島にも、宮島と同じ名前の厳島神社って割と多いみたい。目的地のダンジョンは島の西側で、“大変動”後の地滑りの跡地に出来たって話だよっ。

 あっ、あれかな……一部、地肌の剥き出しの場所」

「ああ、そうみたいだな……ルルンバちゃん、そこに向かってくれるかい? ゲートの入り口も見えるね、割と大きいから大型モンスターも出入りし放題じゃないか。

 よくあんなのが、長年放置されてたな」


 その辺の尾道協会の話も微妙で、オーバーフロー騒動は厳密にはこの数年起きていないって話である。そもそも土砂崩れのお陰で、島から歩いて行くのはとっても危険。

 船を使って海側から回り込むしかないのだが、その権利をある企業が数年前に買い取ったらしいのだ。土砂崩れした海側に簡素な船着き場を作って、確かに管理はされている模様。


 それ以降のオーバーフロー騒動は確かに聞いてないし、だったら来栖家チームに話が及ぶ筈もないのだが。そう不思議がる尾道の支部長に、護人も掛ける言葉は無い。

 福山市の闇企業の差し金じゃないかってのは、飽くまでこちらの推測で外れている場合もあるのだ。間引き案件として処理して貰いながら、派手な戦闘の予感は確かに感じている護人である。


 その予感が外れれば、素直に数チームで間引きを頑張れば良い話だし。難易度も高いそうなので、ムッターシャ達も退屈はしないだろう。

 そんな事を考えている内に、乗っていた船は物凄くスムーズに簡易船着き場へと着岸を果たした。ルルンバちゃんの操船は、相変わらずお見事と言う他は無いレベル。


 子供達に褒められたAIロボは、船の上で得意満面でポーズを取っている。それでも全員が船を降りるまで、その場で待機してくれていたのはさすがの気遣いだ。

 一番体重のある彼は、動くだけで船のバランスが大崩れするのだ。


 そして全員が簡易船着き場へと降り立って、改めて島の中腹あたりに存在するゲートを見上げる。海上から見るよりも意外と大きく、直径は軽く15メートル以上はありそう。

 ワイバーンとかなら、楽々お出掛け出来るねと物騒な事を口走る末妹に。みっちゃんの地元の因島も近いから、放置は危ないねと姫香も表情を引き締めている。


 それ以上に、例の企業チーム『哭翼こくよく』の待ち伏せも警戒しないといけないのだ。ここからの行動は慎重に行くよと、護人の言葉に頷きを返す子供たち。

 山の中腹のゲートまでの道のりだが、一応は道を作った形跡は窺える。とは言えロープが垂らされただけの場所や、危なっかしいポイントもそこかしこに存在するようだ。


 こんな所で時間を掛けていられない護人は、全員で一気にゲートまで駆け上がる作戦に。ハスキー達&茶々萌コンビは、そのオーダーを軽々とクリアする。

 紗良と香多奈を騎乗させたルルンバちゃんも、軽々と斜面を駆け上がる。護人と姫香も、それに並走して一応は何かあった時の護衛役をこなして行く。


 結局は10分も掛からず、全員が無事に山の中腹地点へと辿り着けた。それから見張りの影が無いかをチェックしつつ、紗良が素早くワープ装置を作動させてのポイント記憶作業。

 オッケーですとの言葉と共に、今度はツグミが周囲に闇のカーテンを張り巡らせた。これで遠くから万一見張られていても、チームはゲートに潜って行ったと見做みなされるだろう。

 かくして、作戦の第一段階は一応は成功って流れに。




「おっと、無事にルートは開通したみたいだねっ。心配しながら待ってたよっ、後は全員で、例の“魔獄まごくダンジョン”に向かえばいいんだよねっ?」

「ええっと、異世界チームと星羅チームは、入り口の1層で一緒に待ち伏せに備えるんでしたよね? 我々『シャドウ』と協会のお2人は、出来れば外での見張り役と。

 だったら、ワープ後すぐに『隠密』で隠れた方が良いかな?」

「厄介なのは、闇企業の『哭翼』チームの異界の傭兵団だけだと思いますけどね。それでもチーム員は、恐らく15名以上残っている筈です。

 まぁ、こっちも何だかんだでそれ以上の人数が揃いましたけど」


 その事実を頼もしそうに語る宮藤は、隣の荒里と共にシックな探索着を着込んでの戦闘モード。その点は、岩国の『シャドウ』と雰囲気はよく似ている。

 その『シャドウ』のリーダー三笠は、やや神経質にワープ後の動きを皆に確認している。強敵がこの向こうに控えているのと、寄せ集め感の漂うチームに心配が先立つのかも。


 その逆に、ムッターシャは鬼気をはらませたオーラでヤル気満々。一緒のチームで行動予定の星羅などは、最初での発言で心配していたと口にはしていたけれど。

 表情はその逆で、探索が楽しみだなって思っているのがアリアリだったり。基本的にアクティブな性格なのに、事情があって山の上での隠居生活を強いられていたのだ。


 その反動で、探索に出掛けるのが大好きになった感は否めない。最近は異世界チームとよく組んで、高難度のダンジョンにも出掛けているのだ。

 なので、この程度のミッションなど物の数では無いってな表情である。


 そんな頼もしいメンツと最終確認をして、ワープ装置で再びゲートを開いての作戦開始に。頑張るぞーと、呑気な香多奈と星羅と土屋女史の雄叫びがこだまする。

 土屋女史も、こんな時は何故か子供っぽくなる癖があるようだ。そしてそのノリに後で後悔して、顔を真っ赤にさせるのも相棒の柊木は良く見掛ける。


 ただまぁ今回はそんな暇もなく、数チームからなる集団は見慣れぬゲート前へ。そしてすぐさま、その中に突入して行く来栖家チームと異世界&星羅チームの面々。

 それを見届けた『シャドウ』チームと宮藤&荒里は、斜面を隠密モードで移動して行く。左右に山の樹々が茂っており、自然に両チームはその茂みに身を隠す事を選択する。


 それぞれ事前に巻貝の通信機を渡されているので、通信手段はバッチリだ。『シャドウ』と宮藤たちは、ダンジョンの外にいるので携帯電話での通信手段も使えるし。

 後は、外から怪しい連中がやって来たら、中にいるチームに知らせれば良い。



「わおっ、すごいね……これって本当にC級ダンジョンなのかな、護人さん? 随分と広いし、向こうにあるのは遺跡エリアなんじゃない?」

「地下洞窟……って言うより、地下大空洞エリアかな? 巨大モンスターもいそうだし、確かにC級ランクって感じじゃなさそうだね。

 詐欺依頼人の言ってた事だから、真に受けた訳じゃ無かったけど」

「うむっ、ここは人が手を加えた複合タイプのダンジョンじゃナイか? 楽しくなってキタなっ、オイッ!」


 姫香と護人の会話に、嬉々として割り込んで来た妖精ちゃんの言葉に。ここって複合ダンジョンなのと、驚きを隠せない子供達である。

 それにしても、舞台セットの何と念の入り様だろうか。





 ――その舞台に立つ役者に指定された面々は、揃って顔をしかめるのだった。






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