第624話 精霊樹の苗が一夜にして成長を遂げる件



 異世界でのキャンプだけど、人数が多過ぎるのでお昼はバラバラに時間を分けてとる事に。子供達&ザジは、今も大燥おおはしゃぎで水遊びに興じている。

 凛香と隼人に関しても、今日くらいはゆっくり楽しみなさいと各所からのプレッシャーが。そんな訳で、両者も昼食後に水着に着替えて水遊び仲間に合流して行った。


 それから周囲の探索をして、危険が潜んでいないかチェックを終えたハスキー達も同様に水遊びへ。茶々丸と萌も同じく、来栖家のペット達は遊ぶ時も全力である。

 大人連中は、お昼を終えた後もまったりとベース基地で寛いでいる。姫香は遊んでいる連中を動画撮影したり、寛いでいる大人をフレームに収めたり忙しい。


 その頃に、ようやく遊び疲れた子供達が戻って来て昼食に。大人からしたら、あれだけ動いた後に飯を食べるなんて信じられない思いだけれど。

 ご飯は動くための原動力だと、キッズ達は旺盛な食欲で残り物をどんどん平らげて行く。それに釣られて、食いしん坊のハスキー達も例によってお裾分けを強請ねだりに少女の元へ。


 いつもの風景なので、既に誰も何とも思わないのはある意味凄いかも。傍から見たら、大型犬が3匹も集まって、少女を襲っているように見えなくもない。

 知っている者が見たら、家族でじゃれ合ってるなぁとまるで別の見え方なのだけど。実際来栖家の周囲からの評価は、ペットを含めて物凄く絆の深い家族って感じかも。


 今も長女の紗良が、ちゃんと身体を拭かないと風邪ひいちゃうよと、末妹にタオルを掛けてあげている。異世界ペットのムームーちゃんも、自然と家族の近くに寄って来ているし。

 甘えん坊って見方もあるけど、これもまた絆なのだろう。


「それにしても、自然豊かないい場所だねっ。それを独占出来てるし、何の気兼ねも無く騒げるのはストレスなくていいよねっ、護人さんっ」

「ゴブリン達が、ウチの縄張りで騒がしいぞって文句を言いに来るかもよ、姫香お姉ちゃん。わっ、もうただの冗談なのにっ……叔父さんっ、お姉ちゃんがいじめるっ!」

「これこれ、キャンプにまで来て姉妹喧嘩はよしなさい……それより紗良と姫香も、料理の支度や撮影ばかりしてないで、泳いだり散歩したりしておいで。

 ただし、散歩はペット達に護衛して貰ってくれよ」


 は~いといつも通りの元気な返事も、みんなで遊びに出ている効果でテンション高く感じてしまう。そこからは各々が、好きに時間を過ごしてキャンプの雰囲気を楽しみ始める流れに。

 子供達も、お腹が膨れたら焚き火を大きくして遊び始めた。普段は勝手に火遊びなどしたら、大人たちに大目玉を喰らうのでこんな時しかやる機会が無いので。


 それを含めての背徳感的な楽しみに、夢中になって焚き火に薪をくべて大きくしていく子供たちである。まぁ楽しめてるならいいかと、大人たちもその辺は寛容に見守っている。

 その頃には、大人たちも泳いだり飛び込みに挑戦したりと水遊びに参加する者も。小島博士まで混じって、こちらも子供以上騒がしいのはある意味立派。


 1泊予定なので、最初からそこまで全力で遊ばなくてもと護人などは思ってしまうのだが。そう言う意味では、大き目の宿泊用テントやら女性用のやら、周囲の景色は賑やかだ。

 来栖家にしても、遊び目的のお泊りキャンプは随分と久し振りかも。日にちをどうしてもまたぐ、遠征レイド依頼の際には強制的にそうなっていたけど。


 翌日に探索を控えてのキャンプ泊など、体を休めようの思いが強過ぎて楽しめる訳も無く。それを思うと、贅沢に時間を使えるって本当に幸せだ。

 そうこうしていると、子供達が何かいいモノ拾いに探検に行くと言い出した。これはさすがに危ないので、コロ助と萌だけでなく大人も数名ついて行く事に。


 護人も名乗りを上げたのだが、ムッターシャとリリアラが付き添いを買って出てくれて。これ以上の戦力は必要無いのだが、他にも土屋女史や数名が散策に同行するそうな。

 そんな訳で、場は水遊び続行組と森の方へ散策組、それから待機組の3つに別れる事に。ベースキャンプに待機となった護人は、時たま定期連絡をして来る香多奈のお相手など。


 向こうは通信ごっこに夢中なようで、現地の模様をのべつ幕無まくなしに喋り倒して来る。和香や穂積も一緒になって喋るので、もはや騒音でしか無いと言う。

 まぁ、散策をそれなりに楽しんでいるようで何よりではある。そう思う護人は、ベース基地でのまったり時間をコーヒーをすすりながら満喫中。


 すぐ側には水遊びを満喫したレイジーが寝そべって、日向ぼっこを楽しんでいる。ここは向こうの世界のような、強烈な日差しではない事に勝ち誇っているようなその仕草。

 ミケもムームーちゃんも、すぐ近くで蕩けた様にお昼寝中のようだ。


 元々アウトドアが大好きな護人は、この雰囲気に気分も上々。そうやって滝の奏でる音や川の匂いを楽しんでいたら、しばらくしてそれを遮る影が2つ出現した。

 護人の目の前には、つい先ほどまで川で水遊びをしていたらしい柊木と三杉がモジモジしながら立っており。柊木の派手な水着と、太った体型の三杉のアンバランスさと来たら。


 或いは、それが世間でははまっていると言うのかも知れないけど。周囲の報告から、この2人が付き合っていると言う話は護人の耳にもしっかり届いている。

 その報告なのかもと推測するも、果たして護人に報告する義務があるのかも不明である。2人とも大人なのだから、恋愛に関しては自由にして貰えば良いのだし。


 ただし、結婚して一緒に住みたいとの話になると確かに相談は必要かも。今の家を出るにしても、新しく近くに家を建てるにしても護人の力添えは必要だろう。

 その辺の相談は、実は柊木と一緒に棲んでいる星羅からもさり気なくされていたのだが。本人たちの要望もあるだろうし、心に留めておく程度しかその時は出来なかった訳だ。


 ひょっとして、今がその時なのかと改めて身構える護人に対して。突然に三杉が土下座して、お嬢さんを僕に下さいとの定番のセリフを叫んだのだった。

 その後ろでは、何故か照れた表情の柊木の姿が。


「え、ええっと……俺と柊木さんは、血縁関係も親子関係も全く無いんだが? これはどういう類いの冗談なのか、説明はして貰えるのかな?」

「いえっ、まぁ冗談と言うか……この定番のセリフを、私が聞いて見たかっただけっスね。つまりはお付き合いと言うか、結婚の報告を取り敢えず護人さんにしておきましょうと。

 そんなイベントなので、あまり深く気になさらずに」




 その夜のバーベキューは、とっても盛り上がってあちこちで酒盛りをする大人たちの姿が。何しろお祝いの名目が出来たのだ、これが騒がずにいられようか。

 そんな訳で、主役に指名された柊木と三杉の両名は何とも照れた表情で主役席に。その隣に座らされた護人は、いい迷惑だがその流れに逆らえず。


 そんな酔っ払い集団とは関係なく、紗良や星羅や土屋女史は両者の幸せに感激している模様。何とか式を挙げたいよねと、こちらはこちらで盛り上がっている。

 子供達もその会議に混じって、戻ってからの作戦の立案に熱中する始末。バーベキューを楽しみながら、とにかく2人の門出を祝おうとの話し合い。


 そんな事に関係なく、ハスキー達は自分達のご飯の獲得に忙しい。相変わらず付け狙われるのは脇の甘いキッズ達で、今は穂積が焼けたお肉を分配している所。

 人見知りの激しいハスキー達だが、さすがにお隣さんの匂いは完璧に覚えているみたい。特に子供達に関しては、主から守る役目も仰せつかっており。


 今では敷地内の警護対象に上り詰めたお隣さん一家、そしてその中からカップルが出たのは喜ばしい事だ。護人も出来れば、新築で近くに新居を建ててあげたいとも思う。

 山の上なので土地は選び放題なのだが、問題はやっぱり大工さんの確保だろうか。相変わらず自治会でも確保には苦労しているようで、春先からのリフォームもやっと2軒目が終わったとの話である。


 そこから速攻で探索者の応募が来れば良かったのだが、今の所はかすりもしていないみたい。まぁ、ろくに使えない新人に来られても、来栖家の負担が増えるだけだろうけど。

 主役席の面々は、あちこちから酒を勧められててんやわんやの有り様である。三杉は酒は弱いらしく、すでに呂律ろれつも回らない状態である。


 その分、柊木が2人分飲んでいるみたいで、彼女はザルな気配がプンプン。何にしろ、幸せそうなカップル誕生に周囲もいつも以上に盛り上がりをみせた。

 そんな感じで、キャンプの夜は更けて行くのだった。




 その夜は幾つか建てたテントに、男子とか女子とか子供で別れての雑魚寝で過ごして。酔っ払い集団の処理に関しては、素面の者達はなかなか大変だった。

 それでも異界の地に訪れる朝は清々しく、キャンプ泊の醍醐味でもある。護人も重い頭に悩まされながらも、いつものように早起きして周囲の散策など。


 それに付き従うハスキー達は、ここの空気がとっても気に入っている様子だ。夏の暑さから逃れられる、この気候を思えばそうなのかも知れない。

 香多奈や子供達も、ここはセレブが使う避暑地みたいだねと興奮していた。どこからそんな言葉を拾って来たのかは不明だが、確かに過ごしやすい地には違いない。


 この地を良く知るザジは、ここは気温の変化はそれ程無くて過ごしやすいと請け負って来るけど。その代わり、モンスターが活性化したり川が増水する季節があるらしく。

 1年を通してキャンプはちょっと無理と、香多奈の冬にも来よう案は却下されてしまった。異界にも、異界なりの問題点がそれなりにあるらしい。

 それを聞いて、とっても残念そうな子供達だったり。


 それよりキャンプ地で朝食を済ませて、お昼には戻るよと巻貝の通信機で『シャドウ』の連中に連絡を入れたのだが。その時の対応が、何とも妙で護人はアレッと言う表情に。

 何かあったのかなと、側にいた姫香と首を傾げて不審がるも。ひょっとしたら家畜が具合悪いのかもと、想像するのはその程度の範囲でしかない。


 心配しながらも、キャンプを共にした大集団はお昼前にはそこを引き払うために動き出す。最後は紗良や女性陣が、ゴミが落ちてないかきっちりとチェックをこなして。

 焚き火も完全に消化して、立つ鳥跡を濁さずの精神でザジの案内で再び隠れ里へと舞い戻る。里のお店でお昼を食べたり、用件をこなしてお昼過ぎに敷地に戻る予定である。


「それじゃあ、こっちは親方の工房に寄って来るよ。この大人数じゃ、お店の席も取れないから先に食べててください、小島博士」

「うむっ、異世界の文化には非常にそそられるモノがあるが……食事もそれ以上に大事じゃな、それじゃあ行こうか皆の衆」


 それに釣られて、ゼミ生や凛香チームの面々は大移動を始める。来栖家の面々や工房に依頼をしている隼人は、時間をずらすためにひとまず工房へ。

 ドワーフの親方は、頼まれた品を完璧に仕上げて待ってくれていた。仕上がった自分の武器を目にして、隼人も感激している様子。新しい玩具を与えられた子供みたいだと、姫香は思ったけど顔には出さずに耐えている。


 来栖家の依頼した水属性の魔法アイテムも、7個も出来ていてこれは“アビス”探索もはかどりそう。護人は礼を言って魔石で代金を支払って、紗良に鑑定をお願いする。

 その結果は、さすが親方と唸るしかない出来栄え。


【水鱗のペンダント】装備効果:硬化付与&水耐性&水操作・大×7



 変わった素材があったらまた遠慮なく持って来いと、親方のセリフに再度礼を述べて。来栖家は工房を後にして、それから別行動の集団のいる食堂へ。

 隠れ里の食堂は、いつもこんなに混雑しないので店主も慌て気味の様子。そこで博士たちに席を代わって貰って、各々注文を通して寛ぎ始める。


 店内に入れて貰えないハスキー達は、辛抱強く店の外でお留守番。道行く人々は、さすがの強面こわもて犬集団にビビりまくって避けて通って行く始末。

 そんなお昼時間を過ごして、バラバラに行動していた集団が再集合を果たしたのは丁度1時間後の事だった。来栖家も慌しく食事を済ませて、ザジに急き立てられてゲート前へ移動を果たす。


 正直、そこまで急ぐ必要は何も無いのだが、仕切るのが楽しいザジは計画通りに企画を進めたくて仕方が無い模様。そんな訳で、1泊2日の集団キャンプ泊も終焉へ。

 参加したメンバー達は、総じて楽しかったと満足度はとっても高かったみたいで何よりだ。最初の目論見としての、香多奈救出のお礼も充分に出来たと思いたい。


 それから凛香と隼人の、年長ペアのガス抜き案件だとか。思わぬ形で、三杉と柊木の結婚報告会に最終的にはなってしまった感は否めないけど。

 それをひっくるめて、良いキャンプだったと護人は思う次第。



 ところが、ゲートからダンジョンを抜けて敷地内に戻って来て、思い切り違和感に見舞われて慌てる来栖家の面々。『シャドウ』チームが出迎えてくれるが、その顔にも戸惑いの表情が拭いきれていない。

 どうも来栖邸の景色が、見慣れない感じに変化している気が……特に裏庭のダンジョンがあった場所に、以前は立派な樹なんか生えていなかった筈である。


 それを見た妖精ちゃんは、とっても満足そうに宙を飛んでいる。実験は成功だなとのたまっているので、彼女にとっては予定調和の出来事なのだろう。

 つまり例の植樹した精霊樹だが、一夜にして立派に成長を遂げており。





 ――来栖邸に寄り添うように、それは見事に枝葉を伸ばしていたのだった。







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