第557話 広島周辺の探索者&ダンジョン事情その21
時系列的にはギルド『日馬割』の合同依頼で、隣町へとやって来た休日の朝の出来事の話ある。それから来栖家チームは、別行動と言う事で“鉄橋下ダンジョン”の間引きへと向かって行って。
一方の異世界チームと星羅チームの面々は、地元の自警団の隊員3名に最新の失踪現場へと案内されて。張り切るザジをリーダーに、その場に残された証拠を見極めに掛かる流れに。
日馬桜町の隣町の立地は、一応は瀬戸内海側に面してはいるけど、その場所はまだ山の中に位置していて。広島市からも電車で1時間は掛かるし、まぁ田舎と言っても差し支えは無い場所である。
従って、建物の密集していない場所も多数存在して、案内されたのもそんな場所だった。主要道路からも少し奥まった、少し歩けば山と言うか藪の広がる土地の一軒家である。
見渡せば、ぽつぽつ他の建物も一応はあるのだけれど。よほど大きな音を立てないと、気付かれないかなって距離はお互いにあるようだ。
なるほど、ここに住んでいて押し込み強盗に遭ったとしても、周囲の誰も気づかないだろう。説明を始める自警団の若者は、他の失踪現場も似たような家屋だと口にして。
それから、だいたい2~3日に1度は必ず通報がなされると苦い顔で報告して来た。近くの山の中では、獣に食い散らされたような現場も発見されたそうで。
そこにもすぐに案内出来ますと、あまり乗り気でない口調の案内人である。
「正直、何度も見たい類いの現場では無いですからね……恐らく獣の仕業でしょうが、死体は酷い損傷で肉の部分はほぼ残っていない有り様でした。
“変質”した犬か何かを野山で見たって証言も、チラホラあがってます」
「おっと、素人が余計な推測をするんじゃないニャ! そう言うのは本業に任せて、事実だけを正確に述べるニャ!」
「いや、今のは証言だから事実でしょ……そもそもザジってば、本業が探偵でも何でもないじゃん。しかもこっちの言葉、半分も分かってない癖に。
あぁ、分かったってば、言いたいだけだったんでしょ? 怒らないで、みんなで現場検証しようよ」
星羅の茶々入れは、ザジ名探偵のお気に召さなかった模様。プンスカ怒った猫娘は、現場検証もそっちのけで怪しい場所へ案内しろと案内人にせっつく有り様。
残りの面々も、スキル頼りで追跡出来れば良いかなって感じでついて来たので。楽しくない現場検証より、有益な敵の目撃情報の方が有り難かったり。
そんな訳で、しばらく地図を見たり山の斜面を眺めたりと敵の痕跡を真面目に調べる一行である。既にザジが探偵の主力なんてお遊びは解除され、それぞれ真剣に犯人追跡に当たっている。
そうこうしている内に時間も経過して、お昼休憩をしましょうと自警団の案内人たちが告げて来た。当然ながら、ほんの数時間で難事件解決とは誰も思っておらず。
最悪、夜中の張り込みまで想定していた隣町の自警団員たちだったのだけど。彼らはA級チームの、本当の実力と言うのを全く知らなかったのだ。
そのスキルは、探索中でなくても充分に人外の能力を発揮する。そして今回その取っ掛かりを得たのは、他ならぬ“元聖女”の星羅だった。
さすが元A級で、若くして10以上のスキル持ちである。《蘇生》スキルが有名だけど、彼女はその他の探索系や強化系のスキルも結構揃えている。
昼食後に、何となくこの周辺の地図を女性陣で眺めていた星羅チームの面々だけど。不意に星羅が、このポイントが怪しいなとある一点を指差して。
土屋がすかさず、そのポイントをペンでマーキング。隣の柊木は、スマホの地図アプリを起動させて、そこまでのルートを示し出す。
そしてすぐ近くにいた異世界チームに、奇襲を掛けるよと急ぎで告げて。その辺のフォーメーションは、同じギルドだけあって堂に入っていて素晴らしい。
そして土屋の先導で、動き出すギルド『日馬割』の2チームである。
「ズブガジちゃんで近付くと、目立つし逃げられる可能性があるな……出来れば潜伏地点を皆で囲んで、一網打尽にしたいんだが。
無理かな、目的地は山の中の一本道の突き当りの廃屋みたいだし」
「難しいな……ズブガジに遠回りして貰って、山の上のポイントを押さえてみようか。その気配でバレるかも知れんし、敵が何人いるかも不明だしな」
作戦を話し合う土屋とムッターシャだが、囲い込み作戦はかなり遂行が難しそう。ザジはとにかく突っ込むニャと、勇ましいだけで使い物にならないし。
星羅のスキルも、これ以上の絞り込みは無理な模様で。取り敢えずは、ズブガジに乗って星羅と柊木が大回りから反対側へと位置取りしてみる作戦に。
そして残りの者も、廃屋が視認出来る距離まで詰めての待機。夏の日差しはそれなりに強烈で、山の日陰はそれを和らげてくれはしているモノの。
じっとりと汗を掻きつつ待つ時間は、それなりの緊張感で神経を削って来る。そして突然、廃屋の入り口に人影が動いてムッターシャが気付かれたなと呟いた。
怒涛のラッシュを掛けるムッターシャとザジのペアは、人間離れした動きで廃屋へと詰めかけた。それに立ち塞がったのは、醜く“変質”した大型犬が2匹。
それらを斬り伏せて、逃げ出した人影を確認する追跡チーム。鬼と妖精と、それから大柄な怪物は探し求めていた“喰らうモノ”に間違いない。
追い詰められた奴らの反撃はかなり熾烈で、チーム分けしたせいで機動力も削がれてしまった事が仇となった。結局は見失わないまでも、1時間に渡る追跡でも退治には至らず。
逃げ込まれた先は、異世界チームも良く知る場所だった。いや、実際に潜入したのは過去にたった1度だけではあるけど。“喰らうモノ”ダンジョンは、あの時と外観にほぼ変化はなし。
「悔しいニャ、まんまと逃げられたニャ……こうなったらリリアラに結界を張って貰って、出入りのチェックを厳重にするニャ!
次に出て来たら、こっちも容赦しないニャ!」
「そうするしか無いな、さすがしぶとい“喰らうモノ”だが……ダンジョンと融合しても、食欲を満たすためにうろつき回るとはいかにも奴らしいな。
これは早急に、本拠地を潰す算段を整えないと」
――“喰らうモノ”との決戦は、これ以上後回しには出来ない模様。
四国の渓谷と言えば、徳島の
その中の1つの、
そして“今治城ダンジョン”を攻略し終えたA級チームの『坊ちゃんズ』にも、その確認のための依頼が舞い降りて来て。結果、広島に遠征に行く予定を先送りにする破目に。
久し振りにあのチームに会えるねと、メンバーはかなり盛り上がっていたのだけれど。特にモフモフ大好きなエースの
姫香や香多奈とラインの遣り取りを、割と頻繁にしていたリーダーの
そこに島根の、同じくA級チームのメンバーとかなら紹介出来るよとの誘いの文面に。同じ位の稼ぎの独身男性との合コンかよと、メンバー達も盛り上がりを見せ。
そんな時のオーバフロー騒動での足止めである、これが悲しまずにいられようか。そもそも愛媛は、元々ダンジョン多発地域で地元の間引き案件も割と多忙だし。
その上、A級になってからは他の地域への遠征仕事も多く舞い込んでスケジュールが大変! 元が部活の先輩後輩で結成されたチームなので、仲間から表立っての不満は出ないけど。
それぞれストレスを抱え込んでるのは、長年の付き合いから簡単に分かる氷室である。
「確かに厄介な案件だけどさ、他のチームがダンジョンの発生場所を突き止めたって話だし。意外とすぐ終わるんじゃないかな、
「そっ、そうだね……今回は4チームだっけ、オーバーフロー騒動の解決に当たるチームは。前にやった
「アレは確かに酷かったね、妖怪系の奴らが山の中を
まぁ、動画の再生回数は割と伸びてくれたけど」
「いや、
そう
それはライン友達の、日馬桜町の香多奈からの私信動画で。コロ助と戯れる、新しいペットのムームーちゃんを紹介するとの内容だった。
どうやら異世界に遊びに行った際に、岩陰に隠れていた迷子を拾って来たらしい。この位のサイズなら、すっかり遠征の多くなった自分達チームでも持ち運べるかも知れない。
鈴鹿の悩みはこれに尽きて、動物が大好きなのに遠征旅行がやたら多くて飼えないのだ。そのストレスを、友達からの動画で癒すと言う毎日である。
今もメンバーの運転で、山へのルートをキャンピングカーでの移動中なのだけど。合コンの話で盛り上がる仲間を余所に、彼女は動画の中のモフモフに癒しを求めており。
これでも戦えば、10メートル級のモンスターもほぼ一撃で倒す程の剛腕の持ち主である。ただし、気の良さから妖怪トラップ(
そこはまぁ、メンバーもすっかり慣れっこで過剰な追及も無いと言う。チーム内の空気は、こんな感じで良好に保たれてはいるのだが。
やはりストレス管理は大事で、そこに来てのA級チームのレイド(合コン)のお誘いである。レーダーの氷室としては、このチャンスを逃す訳には行かないと。
さっさとこのお仕事を終わらせるぞと、意気はとっても高かったり。
――かくして愛媛の『坊ちゃんズ』は、今日も依頼任務に奔走するのだった。
異世界の用件から帰って来た来栖家チームだが、家族の面々は日常に忙しなく戻って行くのはいつもの事。何をそんなに生き急いでいるんだと、妖精ちゃんは常に思っているけど。
異種族の寿命の短さを、つい最近知った彼女はその考えを改めて。特に小さなペット達は、10年ちょっとしか生きられない未熟な魂達らしく。
それでもそんな未熟者に、テリトリーの主導権を握られているのが我慢ならない小さな淑女である。名前をあげるとしたら、あのミケと言うこちらを付け狙う生物だ。
アイツには、何度叩き落とされて口に咥えかけられただろうか……思い出すだけでも腹立たしいが、それを覆す回収品が今回は多数見つかった。
実際には、迷子のネビィ種とそれから呪いを解除された兎の戦闘ドールなのだけど。これらを自分の陣営に取り込めば、縄張りを大きく広げる事が出来る!
薔薇のマントにも、以前にそんな策略を持ち掛けた事があったのだけど。アイツは単純で、自分がご主人の1番になりたいだけらしい。
そのご主人の膝の上に、ミケが乗っかって甘える姿には度々嫉妬する薔薇のマントだけど。それ以外は至って平穏で、スリープモードで自制が掛かるらしい。
それだけ魔素の薄いこの現世で、稼働するのは大変って事ではあるけれど。アレはアレなりに、他のペット達と折り合いをつけて生活に馴染んでいるようだ。
使えない奴だなと、妖精ちゃんはチョー残念に思う。
そこで迷子の新入り軟体ペットである、アレを鍛えて自分の部下にするのだ。彼女の部下には紗良や香多奈もいるのだが、コイツ等は
使えない人材の筆頭であり、まぁお世話してくれるから許すけど。妖精ちゃんはこれでもセレブ出身なので、仕えてくれる者には甘い性格なのだ。
とにかく部下は必要だ、駄目となれば自ら兎の戦闘ドールで自衛するしかなくなってしまう。これは異界でも超レアなアイテムで、まぁ呪いを含む人形はどこでも敬遠されるのが、その理由の大半でもある訳だけど。
そんな些細な理由で、秀逸な武器を手放すのはいかにも馬鹿げている。皆は知らないのだ、この戦闘ドールの本来の姿といざと言う時の高出力を。
それを知ったら、家族全員が引っ繰り返るだろうから言わないけれど。雷を自在に操り、最近は壁をすり抜けちゃったりも出来るあの厄介な
それがバレたら、家長に絶対取り上げられるから間違っても言わないけれど。自分の弟子の末妹は、そのせいで何度も叱られて便利な魔法アイテムを没収させられているのだ。
こっちが使い方を丁寧に教えてやってるのに、取り上げられるとは本当にバカな子である。まぁ、種族は違えど子供ってそう言うモノだから仕方が無いのだろう。
だからこの迷子のネビィ種への教育も、やや慎重にしないといけないだろう。取り敢えずは戦力になる火力を与えて、自分を崇拝させる所から手掛けないと。
妖精ちゃんは賢いので、紗良が宝珠を隠す場所をしっかりと覚えていた。盗み見るまでもない、彼女達は身内に甘いのでガードがとっても
まぁ、最終的にあの軟体ペットが戦えるほど強くなれば、家族もきっと喜ぶだろう。つまり彼女のやる事は、
やるべき事は大まかに2つ、軟体生物の強化と手懐けがまず1つ目でとっても大事。その予備案として、戦闘ドールを自衛用に動かす練習をする事。
何より大事なのが、その凶悪なまでの性能を家族に隠しておくコト!
――妖精ちゃんのテリトリー拡張計画は、こうして秘密裏に始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます