第550話 鉄道の有名な映画を思い出しながら探索を続ける件



 鉄橋下の巨大な大スズメバチの巣だが、レイジーと萌は容赦なく焼き払ってしまっていた。巣のサイズは直径4メートルサイズだったのだが、最後は焼かれてボロボロに。

 途中で慌てて出て来た、ラグビーボールサイズの蜂たちも残りの面々が始末して行って。茶々丸も新たに覚えた《飛天槍角》で、遠隔での攻撃はバッチリ。


 そんな訳で、後衛陣が合流するまでに通せんぼしていた巨大な巣は綺麗サッパリ消え失せており。ツグミが魔石とドロップ品を拾って回り、準備万端整ってのお出迎え。

 2層への階段を見て、素直に喜ぶ香多奈はともかくとして。良くやったねと護人や姫香に褒めて貰えて、ハスキー達も頑張った甲斐はあったと言うモノ。


 そして紗良の毎度の怪我チェックとMP補給を受けて、体調管理もバッチリである。これで次の層も、力いっぱい探索に当たる事が出来る。

 良い環境に恵まれている事に感謝しながら、ハスキー達は経験値を稼ぐために探索に力を注いで行く。新入りの軟体生物も、いつかこの輪に加わる事が出来るなら。

 家族が増えると言う意味で、これ以上素晴らしい事は無い。


 そんな事を思うレイジーだけど、ムームーちゃん強化の道のりはまだまだ長そうな雰囲気。もっとも彼女は、そんなに慌ててはいないけれど。

 それより先に、まずは問題児の茶々丸の調教をこなさないといけないし。より良いチームを作り上げるには、時間も労力も掛かるのは当然だ。


「わおっ、立派な鉄橋だね……ちょっと古いけど雰囲気はあるね、鉄道マニアじゃ無いけど線路のある景色って何かいいよねぇ、護人さんっ」

「まぁ、そうだな……鉄道とか列車とかが有名な映画のタイトル、他にもまだまだあるんだけどな。香多奈が知ってる奴となると、あげるのはなかなか難しいな」

「機関車トー〇スくらいじゃない、この子が知ってる鉄道アニメって? 私は邦画と洋画のゴジラとかかなぁ、後は連続殺人事件の寝台列車の映画とか?」


 そんなのもあったねぇと、護人と姫香の会話は至ってのんびりムード。香多奈はアニメしか知らないとやり込められたのが悔しいけど、言い返せずにウンウンうなっている。

 アニメで良いなら、銀河鉄道9〇9とかも有名ですよねと。紗良も話に加わって来るけど、古過ぎてそれもピンと来ない末妹の香多奈である。


 そんな感じの休憩時間も終わり、さて第2層へと進み始める一行である。そして潜り抜けた先の景色も、やっぱり田舎の線路が続く風景そのもの。

 列車とか来ないよねと、そんなのが来たら対処に困る感じの姫香のコメントに。モンスターがぎゅうぎゅう詰めで乗ってたらどうすると、止せばいいのに口走る末妹である。


 アンタが口にすると本当になるでしょと、疫病神の烙印を押されそうな香多奈に。その時はミケとルルンバちゃんが吹き飛ばしてくれるよと、仲裁に忙しい紗良である。

 そんな後衛陣に関係なく、ハスキー達はさっさと進むルートを決めて先行する素振り。敵は上空からも来るからねと、護人も警戒を促すのに忙しい。


 そして5分も経たずに出現する、1層と同じ大トンボの群れ。前衛陣はコボルトの集団に襲われており、このパターンもさっきと全く同じである。

 それらを返り討ちにしながらも、周囲の安全確保に目を光らせる護人やレイジー。敵の出現パターンだが、このダンジョンは大した事は無いって感じ。

 つまり難敵は、3層に湧いたとされるワイバーン位?


「出て来る敵もそんなに強くないね、叔父さん……あっ、線路の石の下にスライム発見! 経験値貯めに戦ってみる、ムームーちゃん?」

「いや、ほぼ同族だしそれは酷だろう……おっと、本人はヤル気だな」


 どうやらスライムと混合されるのは、彼にとっては心外だった模様で。やってやる的な幼い勇猛さを発揮して、ムームーちゃんは軟体モンスターと対峙する。

 正確には、香多奈に担ぎ上げられて線路沿いへと運ばれたのだけど。護人やルルンバちゃんが見守る中、『擬態』で犬だかネコの形態へと変わっての勇ましい接近戦。


 彼にとっては、その姿は強者の証に他ならないのだろう。口から発する鳴き声は、相変わらずムームーととっても可愛かったりするのだが。

 それでも、敵が隠れている岩の隙間をしっかりと見付ける事に成功して。ソイツに向かって吐き出された炎は、ちっぽけだけど殺傷力は備えていたようで。


 この短期間で、どうやら《炎心》スキルの使い方はマスターしていたらしい。頼れる存在と言うか、レイジーのスパルタを垣間見たと言うべきか。

 とにかくやっつけた証の魔石を、触手で拾い上げたムームーちゃんは大興奮。それを褒め称える香多奈もやっぱり興奮して、何と言うか収拾のつかない感じ。


 護人と紗良も一応は褒めてあげて、それでもあまり図に乗らせないよう節度はわきまえるように計算して。闘いとは、危ない場面だってあるんだよと助言も忘れず付け加えてみたり。

 それにしても、異界の住人はこんな簡単にスキルを使いこなすのだろうか。末恐ろしい軟体ペットではあるけど、香多奈は素直に喜んでいる。



 そんなイベントを挟みつつ、隣町の“鉄橋下ダンジョン”探索は続く。来栖家チームはいつもの前衛と後衛組に別れての、慣れたフォーメーションでの進行で。

 この第2層目も、線路の変化を求めて先行するハスキー達&茶々萌の前衛陣。姫香はやや遅れて先行していたが、今は諦めて後衛組に合流している。


 フィールド型ダンジョンだと、どうしてもハスキー達の速度は上昇する傾向に。茶々丸はそれについて行けるし、茶々丸に騎乗した萌も同じくなので。

 このペースについて行くのは、人間にはとっても辛いのは確かである。前衛役の姫香も、いざと言う戦闘時の為に体力を温存しておきたいので。


 今回は素直に追随を諦めて、後衛陣の護衛役に徹する事に。すかさず香多奈が文句を行って来るけど、これも少女なりのコミュニケーションの取り方である。

 それを紗良が取り成して、探索に集中しようねと言う事で話は落ち着いた。そして再び前衛陣は、ダチョウ型のモンスターと接敵して殴り合いの喧嘩を始めている。


 茶々丸も活き活きとしてそれに参加、萌を乗せたまま角での突進を繰り返している。そして後衛陣にも、空から再び燕型のモンスターの襲撃が。

 半ダースほどのスピードスターたちは、相対するとなかなか厄介ではあったけど。護人のそつない『射撃』スキルによって、みるみる数を減らして行って。

 ルルンバちゃんも手伝っての、被害なくクリアに至った。


「ふうっ、まだワイバーンは出て来ないね……駅とか列車も出て来なくって、意外と肩透かしのダンジョンだけど。

 紗良お姉ちゃん、何か鉄道のウンチクあったらもっと聞かせてよ」

「えっ、そうだねぇ……19世紀のアメリカでゴールドラッシュがあった時、きんを目当てに物凄い数の成金を夢見る労働者が押し寄せて来たのね。

 その中で、その人たちに雑貨を売ったり鉄道を整備して違う角度で儲けたのが、あの有名なスタンフォードさんなのよ。

 イギリスでも産業革命で鉄道が発明されたとき、こんなのが出来たら労働者の仕事が無くなっちゃうって大きな反発があったのね。

 だけど、現代では生活に不可欠な交通手段になってるよね」


 昔は主に物資の運搬手段だった鉄道も、今や各分野で発展して。“大変動”以降においても、鉄道の整備は主要道路と同じく重要視されている。

 まぁ、田舎の路線は毎年赤字で苦労しているけどねと、紗良は末妹に望み通りのウンチクを披露して。先ほどの映画ウンチクより、明らかに楽しそうな香多奈に護人も憮然とした表情。


 スタンフォードさんは私も知ってるよと、有名人の話では熱く聞き入る少女だったり。なるほど、人と同じ事をしていては突き抜けられないよねと、成り上がりストーリーを夢想する香多奈はある意味立派である。

 そして第2層の探索は、盛り上がりも無く小さな山のトンネルに突き当たって終了の運びに。その入り口に次の層への階段が出来ていて、阻む障害は何も無い模様。



 ただし、出た先は真っ暗のトンネル内と言う、こちらの虚をつく演出に一同驚き模様で。線路は依然として地面に伸びているけど、その先はどちらも真っ暗闇で。

 新生ルルンバちゃんが、ここは見せ場とばかりに修理から戻って来た『魔法の飛行ランプ』を打ち上げる。操作も自身が行っているようで、その器用さはさすがAI戦士である。


 凄いねと紗良や香多奈に褒められて、有頂天になるルルンバちゃんは良いとして。やっぱり左右どちらも、トンネルの進む先に格段の変化は無し。

 つまりはヒントの無い二択を迫られてる訳だけど、ハスキー達は構わず片方のルートを選択した模様。護人たち後衛陣も、何の疑問も持たずにそちらへと進み始める。


 そして間を置かずに出現する、ゴーレムやスライムの待ち構えモンスター部隊。それらと戦闘に入るハスキー達、そして後衛陣にも忍び寄るゴーストの気配が。

 いち早くそれを察知した香多奈と妖精ちゃんが、それらの討伐指令を仲間へと告げる。1体は護人が『魔断ちの神剣』で真っ二つに、残りは紗良の《浄化》スキルで瞬時に天に召される形となって。

 転がり落ちる魔石は、香多奈とルルンバちゃんがすぐに拾って行く。


「やっぱり、トンネルと言えばゴーストだよねぇ……あっ、スライムもそこの窪みにたくさんいるみたい。

 妖精ちゃんとムームーちゃんに任せて良い、叔父さんっ?」

「ハスキー達と、あまり離れない内ならいいけど……おっと、ムームーちゃんはヤル気満々だな。妖精ちゃんの兎の縫いぐるみは、さっきから足元をうろついて邪魔なんだが」


 護人の率直な意見に、何だコラァと憤る妖精ちゃんである。とは言え、その遠隔操作はまだまだ覚束おぼつかなくて足元をウロチョロされると邪魔でしかない。

 そして香多奈の肩の上から、護人に憤慨するチビ妖精に反応して。ウチの主に何失礼かましとんのじゃと、今度はそれに対してミケが怒り狂うと言う。


 そんなペットを肩に乗せてる紗良は、とにかく落ち着いてと宥めるのに忙しい。真面目にスライムで経験値を稼いでいるのは、そんな感じでムームーちゃんだけと言う結果に。

 どうやら妖精ちゃんは、戦闘には向かない性格なのかも……錬金作業に関しては、紗良はリリアラと共にとっても信頼している師匠なのだけど。


 関係ないところで盛り上がっている後衛陣だけど、それに気付いたハスキー達は探索を一時中断して。向こうが追い付くのを待ちながら、ちょっと休憩などしていたり。

 そんな所も優秀な前衛陣、ところがある意味で密室のこのトンネル内で事件は起きる事に。その変化に最初に気付いたのも、やはり耳の良いハスキー達だった。


 それはこのトンネル内で、遭遇するのも当然の存在とも言えた。つまりは列車の類いで、鉄道から伝わる振動からもそれを察する事は可能で。

 肝心なトンネルの幅だけど、意地悪な事にそんなに広くなくて避ける幅なんて存在しないと言う。これは不味いぞと、ハスキー達は慌てて前衛へと合流する。


 その頃には、バカげた喧嘩もようやく収まって後衛陣は平和そのもの。頑張ったムームーちゃんを褒めながら、彼が勝ち取った魔石を香多奈が受け取っている。

 そして戻って来た前衛陣に、どうしたのと驚き模様の姫香である。こんな事は、通常時にはまずないので異変が起きたとは判断出来るのだけど。


 そして程無く、後衛陣もその音を耳にする事に……そしてそれは、列車と言うより昔懐かしの蒸気機関車の音じゃ無いかと言う結論に落ち着いて。

 どちらにしろ、間違ってもこんなトンネル内で鉢合わせなどはしたくないのは確かである。どうしようと慌てる子供達だけど、とにかく頑張って止めるしかない。

 何しろトンネルの壁はダンジョン仕様で、壊せそうにも無いのだし。





 ――そして気付けば、ご機嫌な汽笛の音はすぐそこに。








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