第540話 汚物と瘴気の処理が意外と順調な件
長女の《浄化》スキルの威力に、家族が驚いて意見を言い合っている中で。香多奈はルルンバちゃんを従えて、転がった魔石を楽しそうに拾っている所。
新入りのムームーも、触手を伸ばしてそのお手伝い。ルルンバちゃんが甲斐甲斐しくも、アームの《念動》で拾える範囲に魔石を集めてくれている。
そんな両者を褒めながら、ドロップ品の中に属性石まで発見した末妹は。寄って来た妖精ちゃんにそれを見せて、闇系の属性石だなと鑑定をして貰うちゃっかりさ。
やっぱり汚物系のモンスターは闇属性らしい、浄化系の攻撃が効きまくる訳である。浄化ポーションも効果があるかもと、香多奈は鞄から水鉄砲を取り出して。
それに浄化ポーションを詰め込んで、ハイッとルルンバちゃんへと渡す仕草。某ロボットアニメのマスコット的なフォルムの現ルルンバちゃんだが、アームだけは《合体》スキルで持って来ており。
その結果、ボール形状の左右から手が生えて何だか変テコな形状なのだが。そのお陰で《念動》スキルも使えるので、辛うじて魔銃も使用が可能だったり。
それに加えての水鉄砲の二丁拳銃スタイルは、本人もいたく気に入った模様ではある。無意味に早撃ちの真似なんかしちゃったりして、気分は荒野のガンマンなのかも。
もっとも、今いるのはダンジョン内の遺跡フロアだけど。瘴気の危険が去った前衛陣は、これ幸いと思い思いの方向に探索を開始している。
護人にしてもようやく一安心して、紗良を
その護衛役はミケしかいないけど、まぁ彼女がいれば万全とも。ルルンバちゃんも追従してくれているし、護人も遅ればせながらその後に続く。
それから末妹に、勝手に動いちゃダメだと注意を飛ばして。
何しろあの瘴気だまりの中には、モンスターも潜んでいる可能性が高いのだ。先制で常に対処出来れば良いけれど、向こうだって簡単にやられてばかりではない筈。
現に一行が近付いた途端に、黒いヘドロのような汚物が急にボコっと音を立てて盛り上がって行き。その動きには、明らかに意志と言うか悪意が潜んで紗良と香多奈をロックオン。
それに素早く反応したのは、護衛役のミケだった。電撃に焼かれて絶叫するヘドロ型のモンスターと、それに釣られてあちこちから出現する汚物型の雑魚モンスター達。
その数は意外と多くて半ダース程度だろうか、人型を取る奴もいればスライム形状の奴もいて。慌てる姉妹だけど、追従していたルルンバちゃんの浄化ポーション射撃が良い援護射撃で。
紗良も慌てて《浄化》スキルの執行準備、遠くではレイジーなのか萌なのか、派手に炎のブレスが吹き荒れている。護人も慌ててフォローに入るも、何とか紗良のスキルが間に合ってくれた模様。
派手な虹色の光と共に、周囲の淀みがあっという間に晴れて行く。まるで油汚れもスッキリみたいな、このエフェクトはどうかなとは思うけど。
何とか味方に被害も無く、瘴気溜まりは霧散して行ってくれた。
「ふうっ、ビックリした……あんまり油断してたら駄目だね、もう少しで不意打ちを喰らう所だったよ。ルルンバちゃんが弱体化してたの忘れてたよ、ミケさんありがとう。
ムームーちゃんは平気だった?」
「ムームーちゃんより自分の事を考えなさい、香多奈。油断もそうだけど、ここは異世界のダンジョンなんだからな。ほんの少しの勝手な行動が、家族を危うくするって思ってないと。
ルルンバちゃんの事もあるし、今日は俺の側は離れない事!」
護人にしてはキツめのお叱りの言葉に、さすがの香多奈もシュンとなって反省の素振り。そしてそれをフォローする紗良も、姉の役割を充分に果たしている。
そんな事をしている内に、前衛陣のお掃除は終わった模様。廃墟のフロアをくまなく駆け巡って、目に付く敵を全て平らげた勤勉なハスキー軍団と茶々丸である。
そしてもう1つだけ残っていた瘴気溜まりも、何とレイジーのブレスで消滅させてしまっており。何と言う力技、と言うか瘴気は炎で燃やしても消えてくれるらしい。
その報告を聞いて、リーダーの護人もホッと一安心の表情。対応出来る者がチームに複数人いる安心感は、やっぱり大きいと思われる。
それを見ていた姫香も、今度は萌にやらせてみるねとブレスの効果に期待大のコメント。最初は不安しか無かった“清浄と汚濁のダンジョン”攻略だが、何とか目処が立ちそう。
その知らせを聞いて、後衛陣も良かったねと盛り上がっている。
そして優秀なハスキー達は、しっかりと次の層へのゲートを発見していた。まぁ、予測通りに石階段を上った先に、それは何の
とは言え、まだ2層目なのに既に大量の魔石をゲット出来てしまった。難易度の高いダンジョンとは言え、最初から魔石(小)が二桁のモンスター出現率である。
香多奈は素直に喜んでいるが、やはり死霊系は油断すると痛い目に遭ってしまうので。護人はもう一度チームに、ゴーストが出るから警戒しなさいと釘を刺して。
は~いと子供達に返事を貰っての、3層への階層渡りと相成って。そこも崩れかけた塔内エリアで、見える範囲内に瘴気溜まりが3つほど。
心なしかこのエリアは、空気が悪く感じて瘴気レベルが上がっているのかも。ヘンな臭いがするねと、末妹はマスクを改めて被り直す仕草。
姫香もマスクを装着して、萌の手を引いて近くの瘴気溜まりを歩いて目指す。それからやっちゃいなとの指示出し、素直な萌は大きく息を吸い込んでのドラゴンブレスを敢行する。
その青白い炎は、決してレイジーに劣らない威力。
「おおっ、萌も成長したねぇ……ひょっとして、《経験値up》のスキルが上手く作用しているのかな? だとしたら、大きく成長した竜の姿が見れる日も近いのかも。
萌に乗って大空を飛べる日も、そう遠くないのかもね!?」
「確かに成長の度合いは一番かもだけど、まだ子供なんだから過剰に期待しちゃダメだよ、香多奈。それより紗良姉さん、検証するからこっち来て」
「えっ、いいけど何の検証……姫香ちゃん?」
どうやら姫香は、瘴気溜まりを
それから《浄化》スキルを使って貰っての、MPの減り方とか効果の違いを見較べて。結果として、やっぱり紗良の《浄化》の方が優れていると判明した。
レイジーや萌のブレスでも、瘴気溜まりを祓う事が出来るのが分かったのは大きいけれど。効率を考えれば、やはり紗良の《浄化》スキルに頼る方が良さげである。
香多奈が浄化ポーションも、鞄の中にたっぷりあるよと呑気に会話に加わって来る。水鉄砲を持っているルルンバちゃんも、いつでも迎撃は可能だと言わんばかりで。
それにしては、頭の上のムームーちゃんがやや邪魔な感じだけど。今の所は大人しいこの粘体生物、果たして群れの状況を把握しているかは不明だけど。
敵の姿を見掛けると、ムームー鳴くので怖さとか警戒心はそれなりにあるみたいだ。それ以上に、新たな所属先の群れに頼り甲斐を感じているとしたら。
その感性は、全く持って正しいと思われる。
「それじゃあ、効率を考えて紗良が瘴気溜まりを潰して回った方がいいのかな? ここはゴーストも出るし、後衛と言えど安心出来ないダンジョンだしなぁ。
さて、配列をどう弄ったモノか」
「そうだねぇ……雑魚はハスキー達と茶々丸が、ある程度は退治してくれるだろうし。とは言え先に瘴気溜まりを祓った方が、マスクをせずに動けて楽なのは確かなんだよね。
それじゃあ、私と萌で紗良姉さんを護衛して瘴気を祓って回ろうか?」
話し合った結果、姫香の案が採用される事になった。つまりハスキー達が雑魚の掃討を頑張って、紗良と姫香が瘴気溜まりを潰して回って。
護人が残って、香多奈やムームーちゃんのお守りをする感じに。幸いこのフロアは見通しも良いので、お互いのフォローもやりやすい筈だ。
そんな感じで、第3層の攻略が開始される事に。張り切って敵を探し始めるハスキー軍団と茶々丸は、全く通常運転で統率もしっかり取れているのだが。
紗良と姫香の姉妹は、個別行動に慣れてないせいかちょっとぎこちない。萌も積極的に動くタイプではないので、その存在が際立ってしまってる感も。
香多奈が遠くからヤジを入れて、良く分からない状況が生まれているけど。フロアの安全確保は、ほぼ順調に行われて慌てる感じでも無い。
要するに、香多奈は1人後衛に残されて寂しいのだろうけれど。末妹まで前に出張って行かれては、さすがに護人だってフォローし切れない。
新入りのムームーちゃんを抱きかかえて、拗ねた表情の香多奈ではあるが。しっかり周囲の観察も怠っておらず、ゴーストの発見も誰より早いと言う。
或いはそれは、ムームーちゃんのお手柄だったのかも知れないけれど。紗良にミケがくっ付いて行ってしまったので、お守りが手薄になってるのも確か。
そんな寄って来るゴーストを、浄化ポーションの水鉄砲でやっつけるルルンバちゃんである。側では護人がしっかりサポート、そしてその討伐に盛り上がる末妹。
そんな事をやっていると、ようやくフロアの浄化作業も終わったようで。姫香と萌に護衛されて、紗良が無事に戻って来てくれた。
それだけで、香多奈のご機嫌も簡単に元に戻って騒がしくなる始末。
「確かにゴーストの出現も多いね……えっ、もう半ダースもやっつけたの? 凄いけど、あんまり無茶したら護人さんの心臓が持たないわよっ。
ちゃんと見といてあげてね、紗良姉さん」
「オッケー、姫香ちゃん……でもまぁ、ハスキー達が敵をほとんどやっつけちゃってるね。次の層の階段も、多分あれを上がって行けば見付かるんじゃないかな?
後は油断せずに、移動すれば4層には行けるかもっ?」
「それじゃあ移動しようか、ゴーストの不意打ちはルルンバちゃんに任せてくれていいからねっ!」
そんな張り切る末妹を何とか宥めて、一行は自然と崩れかけた塔の階段へと向かう。ハスキー達も集合して来て、ツグミが魔石を拾ったよとアピールしている。
それを褒めながら受け取る姫香、この辺の遣り取りは毎回ながら何とも和む。それから紗良の怪我チェックを経て、階段を上り始める来栖家チームであった。
そこには目的の、次の層へのゲートがしっかり据えてあってまずは一安心。今の所は宝箱の類いは発見されていないけど、魔石の回収は順調だ。
いや、ここに来た目的は呪い装備の浄化にあるのだが。果たしてこのダンジョンでそれが叶うのかなとの、そんな疑問は次の瞬間に吹き飛んで行ってしまった。
一行が辿り着いた第4層は、何とも清浄な神殿エリアで。瘴気による淀みなどエリアのどこにも存在せず、子供達も思わず息を呑みそうに。
敵の姿も見当たらず、ひょっとしてここはセーフエリア扱いなのかも? 今まで丸々1層が、そんな仕様のダンジョンなど見た事は無かったけれど。
だからと言って、そんなモノは無いとも言い切れないのがダンジョンである。
「凄いね、ここが目的の場所なのかな、叔父さんっ? えっと、ウチにあった呪い装備を……多分だけど、あの泉がそうだねっ!
浄化の泉は、ゲームとかの基本だもんっ」
「えっ、本当にそうなのかな……それにしても、本当に敵がいないねぇ? あれっ、ここが目的地って事は、これ以上は登らなくって良いって意味?」
「あらら、意外と早く探索が終わっちゃったね……他に見る場所も無いみたいだから、あの泉をチェックしに行こうか。
紗良姉さん、呪いの装備の準備をお願い」
子供達は、この事態にも慌てずに任務を遂行しようと動き始めている。護人はただ見守るばかりで、ハスキー達も戦闘の無いこのエリアに手持ち無沙汰な様子。
そして姫香が、先陣切って広場の中央に設えてある泉に近付いた時、それは起こった。突然泉から巨大な水飛沫が上がって、何者かが水中から出現したのだ。
驚きながらも護人は、フォローにと前へ出ようとするのだが。何らかの結界が邪魔をして、それは叶わず弾かれてしまう破目に。
そしてそれは、ハスキー達も同様で姫香はピンチ!?
――そして判明、泉から出て来たのは真っ白な竜の頭だった。
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