第539話 新しい仲間と清浄と汚濁のダンジョンに潜る件
魔法の鞄に放り込んであった『魔法のガスマスク』系の装備品は、数えたら合計で4つほど発見出来た。それに加えて、白木の木刀に破邪効果があるのを思い出して。
レイジーには、これをずっと咥えておいてもらえば何とかなりそう。ツグミも《闇操》スキルで、素早く異空間に逃げ込めるので恐らく問題は無い筈。
問題はコロ助だけど、『魔法のお守り』を紗良が思い出してペット達に配る事であっさりと解決した。これには浄化の効果が秘められていて、数も何とか4つある。
マスクをつけた姫香と萌が前衛に出て、姫香は『圧縮』も併用して瘴気と対する作戦に。後は『魔法のお守り』をつけたコロ助や茶々丸が、どの程度耐える事が出来るかによる感じか。
それから後衛陣は、紗良と香多奈にガスマスクを常時
ただしこの作戦は、MPをかなり消費しそう。
護人はマスク無しだが、《耐性上昇》スキルを所有しているし。いざとなったら、薔薇のマントの獲得スキルで何とでもなりそうな気はしている。
親方の工房では有益な対処法を聞き出せなかったけど、それほど怖がる事も無いとは言っていたし。取り敢えず様子見はするけど、新たな問題が香多奈の腕の中に。
確かにこの粘体生物、触った相手を溶かすなんて暴挙には及ばないのは良いとして。妖精ちゃんの言うように、幼体なのも恐らくはそうなのだろう。
親とか仲間から
末妹のお願い攻撃に、何と言うか白旗を上げる寸前に。
「いや、異界の常識はともかくとしてだな……野生動物をホイホイ連れて帰ったらダメなのは、どこも一緒だろう? 可哀想だけど置いて行きなさい、香多奈」
「ええっ、そんな事したらこの子が餓死しちゃうよ……仲間が迎えに来たら、絶対に返してあげるからっ! それまで良いでしょ、叔父さんっ!?」
「本当にねぇ、どこに行っちゃったのかしらねぇ、この子のお仲間達は……」
紗良も心配そうだけど、置いて行けとは口にしない見事な中立っ振りである。姫香も同じく、間違っても末妹の肩は持たない姿勢だけど。
護人の方にも肩入れせずに、ルルンバちゃんのボールパーツに入らないかなとムームーちゃんの座席を考えている。つまりは、連れて行く気満々だったりするみたい。
結果、護人の味方は存在せずで、迷子の異世界生物は探索に同行する事に。その意思を感じ取ったのか、ようやく幼子はムームーと鳴くのを止めてくれて。
香多奈もいい子にしてるんだよと、スキルでの意思疎通に余念がない。スライムモドキは、それに応えるようにプルプルと少女の腕の中で大人しい素振り。
かくして、新たな仲間が1匹増える事となった来栖家チームである。いや、護人は完全には賛成していないけど。隠れ里に戻ったら、親方に押し付けようかなとか画策しつつ。
とにかく今は仕方が無い、間違って探索中に死なないように全力で護るだけだ。その為の瘴気対策すら万全では無いけど、紗良のスキルの効き
子供達の安全が優先なので、無茶は決してしない方針。
そんな感じで、いきなり入る前からすったもんだの一幕があった“清浄と汚濁のダンジョン”探索だけど。入り口はゲートタイプで、中の様子は外からは窺えず。
それでも意を決して家族で入り込んで、中の様子を確かめた結果。壊れかけた塔構造のエリアを、上へと上って行く感じだと判明した。
異界のダンジョンでは、このタイプは良く見掛ける気がするけれど。中の空気は湿っぽくは感じたけど、今の所は毒を含んでる様子も無い。
これには護人も子供達もひと安心、ハスキー達も周囲を率先して嗅ぎ回って異常が無いか調べてくれている。そしてまず出現したのは、汚物エリアの定番の大ネズミが数匹。
それをサクッと白木の木刀で処理するレイジー、それを見てコロ助も前へと出たそうな雰囲気。瘴気の充満しているエリアで無ければ、まぁ平気だろうと許可を出す護人である。
大喜びで前衛に合流するコロ助と茶々丸だが、続いて出現した大ゴキブリの相手がそんなに嬉しいのだろうか。無いわぁとドン引きの末妹だが、それらの処理には拍手を送っている。
ちなみにムームーちゃんは、現在はルルンバちゃんの頭の上。
本人はこの位置に、果たして満足しているかは不明だけれど。一行の探索風景を、後ろから興味深げに観察している。ルルンバちゃんの方は、この新ボディにやや不慣れなようで。
ヨタヨタと跳ねるように移動しているけど、それは余計な重量が増えたせいかも。とにかく今回は、魔導ゴーレムパーツも無いので主戦力には数えられない。
それを承知しているのかいないのか、張り切り具合は全くいつもと変わらない彼だったり。そして新しい仲間については、何だろうコレみたいな興味しか持っていない様子。
お互いがそんな感じで、不思議な関係での同行である。
「良かったね護人さん、心配した空気の汚れは今の所無いみたい。でもまぁ、どこかの層で突然に異変があるかも知れないもんね。
注意しながら進まないと、ハスキー達も分かってるよね?」
「そうだな、姫香や萌もマスクは常時着用しておいてくれよ。ハスキー達は、異変を感じたらすぐに引き返して来るようにな」
先頭のレイジーは、その言葉に尻尾を振って返事をして来る。茶々丸とコロ助は、次々と出て来る大ゴキブリを踏み潰したり叩き潰したりするのに熱中している。
この壊れた遺跡エリアだが、意外と広くて塔の部分以外にも敷地は広がっているようだ。もっとも、その部分も倒壊してたり破損は酷いのだが。
敷地内には像が等間隔に置かれていて、大半はガーゴイル仕様と言う典型的な罠だった。それを作動させては破壊して回っているのは、姫香とツグミと萌だった。
まるで何かのミニゲームのように、コイツは動くかなとか楽しんでいる。萌の的中率は意外に抜群で、姫香はただの石像に殴り掛かる場面も何度か。
後衛はサポートを頑張りながら、やっぱり新入りのムームーと鳴く生物に興味津々で。妖精ちゃんから新たな情報が無いかと、香多奈が聞き出したりもしていたり。
そんな事をしていると、油断を突くように出現するゴーストとスケルトン群。ただの瓦礫と汚物の山だと思っていた箇所からの、突如としての出現に。
驚いた紗良の、咄嗟の《浄化》スキルがまんまと的中。
「あっ、いざと言う時に素早く掛けようと思ってたら……そう言えば、《浄化》スキルはアンデットモンスターにも凄い効果があるんだったっけ?」
「やったね、紗良お姉ちゃん……まとめて10匹くらい、いっぺんに敵を倒しちゃったかもっ!? ルルンバちゃん、魔石拾いに行くよっ!」
「これこれ、今日はルルンバちゃんは不慣れな身体なんだから、あまり酷使したら駄目だろう。それに今はお客さんが乗っかってるんだから、無理な運動はさせないように。
護衛は俺が一緒に行くから、離れ過ぎないようにな」
は~いと元気な返事の香多奈だが、全く懲りた感じでは無いのはいつもの事である。そしてルルンバちゃんも、不慣れなボディでお手伝いを頑張っている。
それを真似ているのか、ムームーちゃんも粘体の触手を伸ばして魔石拾いなど。それを凄いねぇと、いつもの調子で褒めて伸ばす紗良である。
ホンワカした雰囲気のいつもの調子の後衛陣、反対にレイジー達は真面目に探索を続行中で。次のエリアの入り口を探しながら、待ち伏せの敵がいないかをチェック中。
姫香のチームもそれは同じで、どうやら全てのガーゴイル像の確認は終わった様子。手の中には大量の魔石(小)があって、どうやらこのダンジョンのランクは侮れない模様。
少なくともB級か、ひょっとしたらA級かも知れないねと、相棒のツグミに注意喚起を飛ばしており。何しろ第1層からこの調子なのだ、強敵がどこに潜んでいるか分からない。
そんな事を話していると、茶々丸が次の層のゲートが見付かったよと迎えに来てくれた。レイジーのお遣いらしく、肝心のリーダ犬の姿は視界には見当たらない。
どうやら遺跡の端っこに見える、崩れかけた石階段を上って行ったみたい。そちらへ先導しようとする茶々丸に待ったをかけて、姫香は後衛陣へと声を掛ける。
何故かいきなり分散しての探索となってしまったけど、まぁこんな事態も考えてみたら不自然ではない。何しろ個々の戦力が甚大なので、その方が効率が良いのだ。
そして今回、いつもはそれを注意する護人が、突然ペットが増えて混乱しているようで。手綱が緩んだ隙に、前衛陣が好き勝手をしてしまうと言う流れに。
まぁ、それもお互いの信頼があっての事なので姫香も何も言うつもりもない。各々の小集団には、立派なリーダーがそれぞれいるから変な事にはならない筈だし。
そんな感じで、来栖家チームはレベルアップも著しい。
それから姫香の呼びかけに、再び集合しての移動を果たした一行は。見事に次の層へのゲートを階段を上った先の広場に発見、そこで少々作戦会議をやり直して。
姫香からは、敵の強さやダンジョンの難易度の報告を受け。ゴースト系の出現もあったよと、香多奈も負けずに明るい注意喚起などが放り込まれ。
侮れないダンジョンだよねと、取り敢えず意志は統一されたけれど。瘴気への注意に関しては、いまいちピンと来ない一行である。
まぁ、まだたった1層踏破しただけなので、その辺は判断出来た訳でも無いよねと。引き続き警戒しながら、油断しないで上るよと姫香の号令に。
元気に尻尾を振って応える、ハスキー軍団&茶々丸である。何しろ最大の懸念だった、置いて行かれる発言の撤回が大きいみたいでモノ凄い張り切りよう。
そして末妹の香多奈も、大人しくなったムームーちゃんとの意思疎通は順調なようで。どうもこの子は、1ヶ月以上も仲間と逸れて寂しい思いをしてたみたいと報告して来た。
そうなると、元の群れとの合流は厳しいかもねと姫香も思案顔。この粘体生物の生態が分からないから、その辺の判別もとっても難しいけれど。
やっぱり幼子をこの異界に置き去りは、子供達の心情からしても出来そうもない。そんな訳で、さっそく来栖家の流儀をこのスライムモドキへと教え込む香多奈であった。
まぁ、その大半は年長者(ミケやレイジー)は
ルルンバちゃんのサポートを貰って、一緒に頑張る気構えをみせている。何と言うか、そう言う下地を作って来栖家の一員へと迎え入れる末妹の作戦は秀逸な気も。
確かにこのスライムモドキ、見た目は割と可愛いけれど。
「それからウチは粗食でも我慢するんだよ、足りない分はみんな自分で狩りして補ってるんだから。トイレは指定された場所でね、これを破ったら紗良お姉ちゃんに叱られるからね!
ところでこの子、普段は何を食べるんだろうね……妖精ちゃんは知ってる?」
「家の中で飼うの、もう決定なんだ……まぁ、大食漢じゃないと良いけどね。世話はしっかり、香多奈がしてあげるんだよ?」
当然だよと、姉の姫香の言葉に胸を張って答える末妹であった。そんな訳で、外堀がどんどん埋められている現状に護人もなす術も無し。
いつものパターンに、内心で頭を抱えまくりの家長である。
それはともかく、2層へと突入した一行を待っていたのは、ようやくの汚濁エリアだった。壁から床から、立ち上る瘴気は我慢出来ない程では無いけど。
その原因は、液状のヘドロと言うか汚物と言うか……元が何か分からないけど、間違っても突っ込みたくなどは無い。臭いは意外と刺激的では無かったが、体には悪そう。
そんな危険な個所が、ポツポツと視える範囲で3ヵ所ほど。幸いにも広域では無いし、避けて通ろうと思ったら不可能でも無い感じではある。
それを見た子供達の反応は、ひえ~って感じでその美意識に関しては至って正常で何より。そして紗良に至っては、自分の《浄化》スキルを試してみますと積極的。
ここでチームの撤退を含めた作戦が決まるので、当然だけど気合いの入ったそのスキル執行は。見事に汚濁物を吹き飛ばして、何故か転がり出る魔石やドロップ品の数々。
どうやら敵らしき物体も、あの汚物の中に潜んでいた模様で。その事実にビックリな一行、そしてその成果に秘かにガッツポーズの長女だったり。
やっぱり、家族の役に立つのはいつだって嬉しいモノ。
――ともあれ、これで先に進む方針はバッチリ窺えたのだった。
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