第529話 ヤン茶々丸が変身ヒーローよろしく颯爽と登場する件
「うわっ、思ったよりこっちに来る敵が多いね……こりゃ、陽動作戦は失敗かも? それとも、この要塞の中に詰めてた敵の数が多過ぎたのかもね。
オーク兵が大半だけど、オーガ兵やトロールも混じってるよ」
そう呟く姫香は、要塞の裏通りの一角で派手に戦闘中だった。ハスキー達やルルンバちゃんも一緒で、戦力的には不足と言う事も無いのだが。
それは相手も同じ事、倒しても後からどんどん増援がやって来る負のサイクルに。しかもオーク兵ならまだ良いけど、その中にオーガやトロールも混じるにつれて。
戦闘時間もどんどん増えて行って、目的の塔へもなかなか近付けないと言う。これは不味いかなと思うも、これと言った打開策も思いつかない現状である。
既に敵の兵団も、40匹以上は始末しただろうか。ドロップした魔石にも、普通に小や中サイズが混じり始めているこの事態に。
裏通りからも動けないこの現状を、どうしようかなと考えていた姫香だけど。救い(?)は思わぬところから出現して、それはある意味センセーショナルだった。
姫香は思わず萌かと見間違えてしまったけど、どうやらそうではない様子。装備は全て萌のモノで、フォルムも一緒だけど戦い方は思い切り大胆である。
紫雲竜の鎧を着こんで、黒雷の長槍を構えて敵の群れに突っ込んで行くその無謀な行動は。角の形状から変身した茶々丸だと断定出来て、姫香は呆れて二の句が継げない状況に。
レイジーも、独断での突っ込みは不味いと思ったのだろう。フォローするべく子供達を引き連れて、炎を身に
場は予期せぬパニック状態、お陰で向こうも伝令役がいなくなったのだろうか。それともレイジーの陽動作戦が、今頃ようやく功を奏したのかも。
まぁ、間違ってもヤン茶々丸の捨て身の特攻のお陰で無いのは確か……後でキツく叱ってやろうと、姫香は心に決めてルルンバちゃんに移動を指示して。
その巨体を、何とか塔内の隙間へと隠す事にまずは成功する。
とは言え茶々丸も、新スキルの《飛天槍角》のお陰で隙が無くなって来たのも確か。オーガを相手にも互角以上の戦いをしており、確実に成長はしている感じだ。
それでも、フォロー無く敵のど真ん中に突入するおバカ振りは、レイジーもプッツン来てるかも。幸いにも、敵の混乱を突く事で何とか味方に被害は無さそうだけど。
今は回復役の紗良がチームにいないので、実は冷や冷やの姫香ではある。もちろん薬品類は多めに持って来ているけど、間に合わない事だって当然あるのだ。
そんな茶々丸だが、今は萌の半人半竜姿にヤギの角と言うフォルムで一応は活躍中。《変化》のペンダントや装備一式を、いつの間に萌から拝借したのかは定かでは無いけれど。
とにかく路地裏の連戦は、何とかこちらの勝利で幕引きに持ち込めそう。まずは良かった、茶々丸の乱入が事も無く終わりそうなのを含めて。
姫香の合図をしっかり確認していたハスキー達は、敵を引き連れて目立たない方向へと移動を果たし。これで敵の何度目かの増援を、不必要に呼び込む事態は避けれた筈である。
入り組んだ塔の通路の一角は、幸いにもどこも広くてルルンバちゃんの移動にも不自由はない。向こうも恐らく、オーガやトロルの巨人勢が移動をする用のサイズ感なのだろうけれど。
それでもハスキー達の反応から、護人たちもこの塔内の上にいると察知した姫香は。茶々丸を叱るのは後にして、ハスキー達にエーテルを飲ませての小休憩。
この作業だけは、さすがのハスキー達も単独では不可能なので。
「ふうっ、何とか無事に塔内に潜り込めたね……当初の予定とはかなり違ったけど、みんな揃ってるし後は後衛陣と合流するだけだねっ!
茶々丸、アンタこれ以上は勝手な真似しちゃダメだよっ!」
何で怒られているか理解してない茶々丸は、萌の姿で小首を傾げてあざとい素振り。とは言え、家族を群れと捉えている彼には年長者の命令は絶対である。
萌やルルンバちゃんは、茶々丸にとっては兄弟も同然の存在で。共に探索の同行を楽しむ、同士でもあるので仲良くしているのだけれど。
年長者にガミガミ言われたり、もしくはレイジーに圧を掛けられるのにもすっかり慣れた今日この頃。つまりは敵を上手く倒しなさいと、そんな事を言っていると話の内容を推測するのだけれど。
それについては、今後も頑張る所存の茶々丸なのであった。
それと同時刻、目的の塔の上層部の広間では熾烈な戦いが続いていた。そこはオーガの王の謁見の間の
紗良の先制の範囲氷魔法は、とっても効果的ではあったモノの。とても全員を倒すには至らず、しかも来栖家チームは萌が仔ドラゴン形態のハンデ付きと言う。
この危機に踏ん張りを見せたのは、誰あろうリーダーの護人だった。後衛の護りをミケと萌に任せて、完全に1トップの形で敵を後ろに抜かせない構え。
“四腕”をフル稼働させての、派手な戦いは普段はあまり披露していないとは言え。毎日の特訓で、最近はムッターシャ師匠に
普通に前衛能力は、以前より上昇していると自負している次第である。ただまぁ、大人数を相手取る戦いは、現状あまり機会が無いけれど。
それでも“四腕”のそれぞれの腕は、護人の意思とは関係なく敵を
そんな叔父を応援する香多奈も、興奮し過ぎてつい前へと向かいそうになっていたり。それを宥めつつ制する紗良も、心労は結構大きいのかも。
すぐ近くから湧き起こる
それでも、目的の次の層へのゲートは室内に見えており。
「頑張れ叔父さんっ、ミケさんも手伝ってあげて! レイジー達は別ルートでいないんだよっ、のんびりしてたらダメなんだからねっ!」
「うんっ、そうだねっ……今は護人さんだけが前衛で大変だから、ミケちゃんもお手伝いお願いっ!」
実は子供達に頼られるのが嫌いではないミケは、紗良と香多奈のお願いに応えて敵に視線を送る。確かに数は多いけど、大物はそんなに混じっていない感じ。
ミケにとってはそんな焦る事態では無いけど、確かに仲間の不在で飼い主の家長は大変そう。そもそも、なんで二手に分かれたのかもよく分かっていないミケである。
皆で一点突破すれば良いのにと、実はチームで一番の力技の推奨派なのは彼女なのかも。そうすると、数百以上の敵に寄って来られて大変な目に遭ってそうだけど。
その辺の計算がとってもアバウトなミケは、今の状況も何て事は無いと認識しており。ここは龍召喚に頼る程でも無いかなと、
それでもそのサポートは素晴らしく秀逸で、バタバタと倒れて行く敵のオーク&オーガ兵たち。重厚な鎧を着こんでいたのが、或いは
物凄い体格のオーガ兵の将軍級も、このミケの横槍にいきなり瀕死の状態に。やるとなったら容赦のない手出しは、ミケの得意技でもある。
香多奈はそれを見て大はしゃぎ、やったねとミケのお手柄を大いに持ち上げて。それで気分の良くなる彼女は、やっぱり家族といるのが大好きニャンコなのだろう。
そして気付けば、護人は敵の大将と一騎打ちで剣を打ち合わせていた。敵の大将の装備も豪華で、どこから見ても大将格なのは間違いなさそう。
向こうの大将はスキルも頻繁に使ってきており、護人もさすがに苦戦しているよう。バーサク系とか切断系のスキルは、合わさるとかなりの威力を発揮する様で。
両者の戦っている周囲の壁や床は、かなり悲惨な状態になっていた。それでも『硬化』スキルと新たな《堅牢の陣》での防御は、そんな厄介なスキルも封じ込めに成功している模様。
ついでに新しい『剣竜の盾』も、スキルと相性が良く使い勝手が良い感じ。
護人もお気に入りで、激しい敵の攻撃をほぼ完封する勢いなのはこの新装備のお陰も大きい。それから隙を突いての反撃で、段々と敵の大将のHPも削れてきた感じ。
気付けば周囲の敵兵たちは、全て魔石に変わり果てていたようだ。末妹の声援には、もうすぐ姫香が到着するよとのメッセージも混じっており。
向こうもどうやら、陽動作戦からのルルンバちゃんのエスコートに成功した模様。これで心配の種も無くなって、後はこの大物を退治すれば良いだけとなった。
まぁ、言うほど楽な相手では全く無いけど……少なくとも、今まで戦って来た獣人と較べると明らかにランクが違う。スキルを幾つも多用している点からして、それは明らかだけど。
こちらも“四腕”をフル稼働して、いよいよ攻勢に打って出てやると。向こうも不屈の気合いでの最後の
それでも一度傾いた形勢は、最後まで
「叔父さんっ、お疲れさまっ……ミケさんが手伝ってくれたの褒めてあげてっ! 姫香お姉ちゃん達も合流して来たよっ、魔石を拾ったらこれで移動出来るねっ。
お姉ちゃんったら、途中で宝物庫を見付けて寄り道してたんだって! 後で何をゲットしたか、ちゃんと見せて貰わないとねっ」
「おおっ、そうなのか……それより、ハスキーや茶々丸は無事なんだね? それと、うっかり茶々丸を配置し忘れた事は本人には内緒にな。
それもそうだねと、宝物を臨時でゲット出来た末妹は上機嫌で応じてくれて。その肝心の姫香とハスキー軍団だが、広間の入り口で紗良に捕まって怪我チェックを受けていた。
それから護人の視線に気づいて、元気に大きく手を振って。いち早く怪我チェックの終わったレイジーが、嬉しそうに尻尾を振りながら近づいて来てくれた。
そんな相棒を撫でながら、チームの合流に安堵のため息をつく護人である。とは言えモタモタしていたら、ここにも追加で増援が来るかも知れない。
それを知ってか、香多奈も落ちているドロップ品を拾う速さと来たら。合流したルルンバちゃんも、嬉しそうにそのお手伝いに励んでいる。
ちなみに護人が手古摺って倒した敵のオーガ大将だが、見事なサイズの魔石(大)をドロップ。それからオーブ珠に、立派なサイズの大剣が1本。
部下たちもスキル書や鋼の装備、金貨の入った革袋などをいっぱい落としており。それを拾って回る末妹は、とっても楽しそうでご機嫌に鼻歌など歌っている。
治療の終わった茶々丸もそれに参加しようとして、姫香に装備を萌に返しなさいと怒られている。その姿はちっとも懲りていないようで、まぁ萌も気にしていないのだけど。
相変わらず騒がしい来栖家の面々を、束ねる立場の護人の気苦労と来たら。とにかく次は9層だ、区切りの10層ももう目前まで来ている。
「護人さんっ、こっちの怪我チェックと香多奈のドロップ品の回収終わったよ! あんまりのんびりしてたら、敵の増援が来るかもだからさっさと移動しよう」
「そうだな、ええっと……忘れ物は無いね、みんな。それじゃあ出発しよう、ハスキー達と茶々丸、もうひと頑張りだぞ」
「そうだね、茶々丸を忘れないように……痛いっ、なんで引っ掻いたのっ、ミケさんっ!?」
口を滑らせそうになった末妹に、爪で制裁を加えたのは誰あろうミケだったと言うオチ。彼女も子供達の心の機敏には、それなりに目を光らせてくれている様子。
そして茶々丸も、ミケにとっては大事な子供ではあるようで。余計な事を言うんじゃ無いわよと、ミャアと鳴いて口チャックを
本当に、子供が多いと
――護人も全く同意見、問題児が多いとチーム統率も大変だ。
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