第527話 カルスト平原エリアに翻弄される件



 ワイバーン肉を割とたんまり回収して、来栖家チームは意気揚々とカルスト平原エリアを進んで行く。今は街道から逸れて、ハスキー達を先頭に平原を下っている所。

 カルスト地形は独特で、突き出た数々の岩がとってもユーモラス。それは良いのだが、死角も多くて先行するハスキー達は苦労を強いられている。


 何しろそこに配置されているゴーレム達は、気配も匂いもかなり希薄なのだ。そんなのが岩の影に隠れているのだ、そして相手が近付いて来るまで、微動だにしないと言う。

 そこからの奇襲は、こちらとしても神経を削られてとっても対応が大変である。幸いにもこちらは、それらを確認する視線が多いので助かっているけど。


 待ち伏せゴーレムも割と多彩で、本当に景色に溶け込む表皮を持つタイプも存在しており。そんな奴らを何とか蹴散らして、ハスキー達の案内で平原をしばらく下って行くと。

 ようやく開けた場所に出て、ホッと一息の一行である。


「ふうっ、待ち伏せゴーレムの岩抜けルートは厄介だったね……ハスキー達、案内ご苦労様。あそこに見えるのは、オークの集落かな?

 前情報では、あそこに次の層のワープ魔方陣が出現するんだっけ?」

「そうだな……集落攻めは大変だけど、このエリアではやらなきゃ駄目みたいな事を言ってた気が。ダムダンジョンでも経験済みだから、戸惑う事も無いだろうけど。

 敵は密集している筈だから、気をつけて行こうか」

「了解っ、茶々丸は姫香お姉ちゃんから離れたらダメだからねっ!?」


 末妹に大きく釘を刺された茶々丸は、何となく納得いかない表情ながらも。集落攻めに参加させて貰えるならと、ヤル気をみなぎらせてひづめを鳴らしている。

 とは言え、彼には萌も騎乗しているので文字通り手綱はしっかり握られているし。姫香もサポートする予定なので、さっきみたいな事にはならない筈。


 護人も前衛に出たいけど、やっぱり後衛の護りをルルンバちゃんだけに任せるのは心配なので。何かあったら駆けつけられる距離を保ちつつ、後衛陣と一緒に詰める予定。

 そんな簡単な作戦を立てての、さぁ行くよと姫香の号令の下。張り切るハスキー達を先陣に、唐突に始まる集落攻めであった。集落の主のオークたちは、驚いてあちこちで怒号を発しており。


 組織立っての反撃は、まだ起きていない様子で混乱が砦内に蔓延している感じ。ハスキー達の移動力の恩恵かも、とにかくレイジーの作戦は秀逸で。

 一か所に留まらず、敵を殲滅しては移動を繰り返している。姫香もそれにならって、ハスキー軍団が向かった方向とは逆を攻める作戦に。


 何しろ香多奈の『応援』を貰った茶々丸は、姫香と萌を乗せてもてんで平気で疾走のスピードが衰えないのだ。細い建物の裏路地も平気で駆け抜け、その機動力はハスキー達にも負けない程。

 5分後には、集落の混乱は増々酷い有り様に。


「これは凄いな、入り口を素通り出来ちゃいそうだ……ルルンバちゃん、今更だけど俺たちも遠隔攻撃で数減らしに貢献しようか。

 建物の陰に潜んでる敵には、充分注意して進んで行こう」

「宝箱の気配も頑張って察知してよね、ルルンバちゃんっ! 敵がこれだけいる集落だもん、何かあるに違いないよっ」


 そんな末妹の無茶振りを無視して、中央の通りを進んで行く後衛組だけど。護人とルルンバちゃんの射撃で倒した敵は、たった2匹と意外と少なく済んでしまった。

 前衛の頑張りは、集落のあちこちで喧騒となって響いて来るので良く分かる。やがてそれも次第に静かになって行き、どうやら完全鎮圧に至った模様。


 しばらくしたら、姫香とツグミがその報告へと戻って来た。ワープ魔方陣も見付けたようで、このカルスト平原エリアでも階層渡りはまずまずの速度である。

 宝箱はどこなのと、せっかちな末妹の質問に姫香は呆れた顔で肩をすくめて。ツグミと少し捜したけど、この砦内には無かったよと残念でしたとあおり発言。


 それを切っ掛けに姉妹喧嘩になりそうな所を、毎度の護人の仲裁で何とか回避して。姫香にはいたわりの言葉を掛けて、ハスキー達の集合を待つ。

 むすっとした表情の香多奈だったけど、すぐ気持ちを切り替えるのも少女の長所である。まだ6層だもんねと、次に期待する前向き発言で盛り上がっている。


 そうこうしている内に、ハスキー達と茶々丸&萌が戻って来て本隊と合流を果たして。休憩しながらの紗良の恒例の怪我チェックと、転がっている魔石の回収作業など。

 オークの砦は、岩と粘土の漆喰の簡素な造りでそれほど大きくは無いのだが。やや入り組んだ細い通りもあったりと、最奥へと辿り着くのはそれなりに大変で。


 本当によく見付けてくれたと、一行はワープ魔方陣を前に次の層へと備えて歓談する。この先も同じ工程を何度もこなすのかと思うと、ちょっとうんざりするけど。

 ハスキー達はヤル気満々で、その闘志はいささかも衰えていない様子で一安心。それに乗っかるように、護人がそれじゃ進もうかと発言すると。

 レイジーを先頭に、勇んで進み始める来栖家の前衛陣。




 そして7層に到着して、次の目的地を定める手慣れた感じのハスキー軍団である。カルスト平原エリアは広大だが、突き出した尖った岩が絶妙に視界を塞いでいる。

 まるで岩の森のような地形は、現実世界のカルスト台地には無かったモノではある。進むのも大変で、これは6層にも無かった変化で一行も戸惑いを隠せない。


 そしてそんな尖った岩の背後から、同じ色合いの岩石ゴーレムが出現してのお出迎え。なるほど、これがこのエリアのパターンらしいと子供達は感心していたり。

 ハスキー達は臨機応変に、鈍器を持ち出してそれに対応している。前衛に出して貰えた茶々丸も、突進しようとするのを騎乗している萌に止められて不満そうだけど。


 その代わり、乗ってる萌が交換したハンマーでキル数を確実に伸ばしてくれている。フラストレーションの溜まる茶々丸は、自分も攻撃したくてたまらない様子。

 そんな精神が上手く働いたのだろうか……ひょんな拍子で、突然に茶々丸の首振り運動で作動する《飛天槍角》の遠隔スキル。近くにいたゴーレムの胴体に、丸く綺麗な穴が開く。

 その突然のスキル開花に、驚く姫香や香多奈である。


「うわっ、何ナニ今の攻撃っ……やったの茶々丸!? 凄いね、急にどうしたのっ!?」

「えっ、茶々丸が例の新しいスキル使ったの? 凄いじゃん、威力はイマイチだけど、硬いゴーレムが相手だもんね。他の敵なら、致命傷になるかもだし実力アップじゃない!?

 ストレスの恩恵かな、萌が操って突進させなかったもんね」


 そんな流れで、何故か一緒に褒められる萌である。茶々丸も嬉しそうに、もっと褒めろとスキルを使いまくっている。そして出現したゴーレムがいなくなった頃、茶々丸のMPも綺麗に尽きてダウンの流れに。

 やると思ったと、MP切れダウン経験者の香多奈の冷ややかな視線はともかくとして。介護する紗良は忙しそうに、薬品での回復を手伝っている。


 護人もその結果には、褒めて良いのかたしなめるべきなのか迷い所ではある。香多奈はルルンバちゃんを連れて、毎度の魔石拾いに余念が無い。

 その時ミケが、一行に警告するようにミャアと鋭く声を上げた。ひと戦闘を終えて無警戒だった来栖家チームは、一斉に周囲を警戒して見渡してみるけど。


 新たな敵の出現は、何と頭上からでかなりの巨体だった。鳥型のフォルムは、ロック鳥とかそっち系のモンスターなのかも。ワイバーンと違って、急降下のタッチダウンは使って来ないようだけれど。

 その巨体での真上からの飛来は、かなりの迫力で一行のド肝を抜くには充分。護人は咄嗟にミケを見るが、自身も新たに防御スキルを覚えたのを思い出して。


 姫香にあの巨体を食い止めてみると告げると、集中しての《堅牢の陣》を頭上に向けて発動させる。その威力は抜群で、一瞬にして透明な5枚の曲剣状のバリアが展開されて行った。

 それにまんまと捕まるロック鳥、あらためて見るとその巨大さはワイバーンに全く引けを取らない。そして護人に声を掛けられた姫香が、トンデモ攻撃で頭上で急停止した敵の撃ち落としを敢行。


 姫香からしたら、護人からの指示は自分が止めるから攻撃してくれって意味に他ならず。それは信頼の証で、つまり彼女にはそれが可能であるって事でもある。

 そして咄嗟に思い付いたのが、『圧縮』を攻撃方法に転用する事だった。今まで圧縮した空気の塊を、防御壁に使用した事は何度もあったけれど。

 それをハンマーみたいに振り回すのは、我ながらナイスアイデア!


 巨体を誇るロック鳥は、姫香の『圧縮』ハンマーにぶん殴られて相当な速度で地上に落下して行って。運の悪い事に、先の尖ったカルスト岩に串刺しになってしまった。

 そして一瞬の後に、魔石へと変わって行く哀れな飛行モンスター。一緒にワープ魔方陣も出現したので、コイツはボス級の敵だったみたい。


 あ~あとの呟きは、恐らくは末妹の追悼の言葉だったのかも。ミケも体の力を抜いて、2人の連携にやれば出来る子だなって視線を向けている。

 紗良は素直に、スゴイとの言葉を連発して姫香を褒め称えている。満更でも無い表情の姫香だが、何より嬉しいのは護人との連携技が完成した事っポイ。



 しかし10分もうろつかない内に、次の層へのルートを確保してしまった。茶々丸の新スキルも開花したし、収穫に関しては充分な時間だった。

 護人も同じく、姫香もおさらいにまた敵が出たら試したいねとか言って来るし。《堅牢の陣》の強度ももう少し試してみたい護人としては、確かにそれは良い案だ。


 そして休憩後に辿り着いた第8層だが、周囲はやっぱり見慣れたカルスト平原エリアだった。ハスキー達は、さっさと怪しい場所を探しに平原を進んで行ってくれて。

 それに続く後衛陣だが、姫香と萌は呑気にそれに付き従って。時折空を見上げながら、ワイバーンでもいいから飛んで来ないかなぁとか呟く始末。


「まぁ、確かにミケさん以外であんな大物を撃ち落とせるようになった功績は大きいかもね。姫香お姉ちゃんは性格がガサツだからこそ、あんな方法を思い付いたのかもだけど。

 ミケさんの負担軽減にもなるし、良いんじゃないかな?」

「アンタはいつも一言多いんだよ、香多奈……それにしても、護人さんの新しい防護スキルって使い勝手が良さそうだよね。

 使ったの初めてだっけ、ちょっとコロ助のスキルと似てるかも」


 確かにそうかもと、末妹も姉の話に乗っかって賛同の意を示して来る。コロ助は守備より攻撃って性格なので、せっかく持っている《防御の陣》もあまり活躍の機会は無いのだが。

 似ているって点では確かにそうかも、このスキルも使い込めばもっと利便性は上がるかもだし。そう言う点では、やっぱり姫香のスキルの活用も使い込んだ結果かも。


 そんな話で盛り上がっていたら、ハスキー達が騒がしく前方で戦闘に入った気配が。それに気付いた姫香が、萌に声を掛けて手伝いに駆けて行った。

 後衛陣もなるべく急いで、喧騒のする方向へと向かうのだけど。その頃には戦闘は終わっていて、平原を進むハスキー達が辛うじて確認出来るかなって有り様である。


 やっぱり強い彼女達には、助太刀は必要ない感じもする。戦闘跡地には姫香が立っていて、遭遇したのは転がる岩のロック型のモンスターだったよと報告して来た。

 過去にも遭遇した気もするけど、岩だけに結構硬い敵だった筈。それを苦も無く撃破するハスキー達は、汎用性も身につけているのは間違いない。

 何しろ武器や道具を使う事も覚えているのだ、その可能性はまさに無限。





 ――何と言うか、対峙する敵が可愛そうな程には。






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