第520話 秋吉台レイドを前にキャンプ村で盛り上がる件



 総勢15チーム、探索者100名近くの参加のレイド作戦に、地元の協会のスタッフもてんやわんやな様子。受付けの用紙に記入しつつ、そんな雰囲気を察して同情する護人だけれど。

 どうやらスタッフの数は充分で、人手は足りている様子である。足りないのは経験と言うか、こんな場を仕切る有能な人材なのかも知れない。


 それはそうだろう……今回の参加は、来栖家チームと異世界チームを含めたA級が3チーム。岩国や吉和などの遠方からも、わざわざB級チームが参加してくれているのだ。

 不手際があったら申し訳ないと、そんな気持ちは充分に伝わって来るのだが。気持ちだけが空回りして、チームの宿泊エリア分けも未だこなせていない状況に。


 それを見兼ねて、すかさずくちばしを突っ込むコミュ力お化けの姫香であった。それから夕食の支度やら作戦会議の場所と時間やらを聞き出して、それをヘンリー達に振り分けて行って。

 姉の紗良も、そんな妹をサポートに回って夕食作りを担ってくれるよう。親しい舞戻をキープしつつ、スタッフに場所と人材の手配をお願いして。

 その手際の良さは、毎月の青空市参加の賜物なのかも?


「あっ、そう言われたらそうなのかもね……じゃあ“岩国基地ダンジョン”で回収した日用品とか、ここで売ったら大盛況かもっ!?

 物凄くたくさんゲット出来たし、みんな買ってくれるよねっ!」

「それじゃあ香多奈は、夕ご飯までそこのブースを借りてお店やってたらいいよ。同じ探索者同士なんだから、値段ボッたら駄目だよ?

 精々1個100円とかかな、お手伝いはルルンバちゃんと萌ね」


 つまりは護人に迷惑を掛けるなとの姉のお達しに、香多奈は元気に了解と返事をして。魔法の鞄をあさって、ルルンバちゃんと萌に手伝ってと命令を下している。

 保護者の護人としては、子供達のこの活躍を喜んでいいのかたしなめるべきなのか。訊けばどうやら、協会の支部長が過労だか高熱だかで直前でダウンしてしまい。


 指導者不在で、この大事なレイド作戦を迎えてしまったらしい。半泣きの協会スタッフの心中を察して、護人は姫香の暴走をそのままにしておく事に。

 自分はリーダー会議に出れば良いのだろうが、その集合の手際も恐ろしく悪いと来ている。烏合うごうの衆と化した探索者ほど、始末に負えない物は無いだろう。


 現に向こうでは、さっさと寝床に案内しろとの非難が吹き荒れていて。若い女性だろうか、チラッと眺めたら何故かセーラー服姿が目に入った。

 探索先にセーラー服など、何て酔狂なと親父臭い考えの護人だけど。対応しているスタッフも、若い女性で既に半泣き模様で可哀想ではある。


 そこに割って入ったのが、お節介焼きナンバー1の姫香と言う。これは不味いかもと、護人の予感は大当たり……数秒もしない内に、若い娘同士がお互い喧嘩腰と言う。

 その奥に控えていた中年男性が、止めに入ろうとするも効果は無い様子。仕方なく護人も駆けつけて、それに釣られて大移動のハスキー軍団である。

 何しろ彼女たちの使命は、家族の警護なのだから。


「喧嘩腰は止めなさい、姫香……失礼、挨拶が遅れたようで。私は広島のA級チームの『日馬割』のリーダーで、来栖護人と申します。

 こっちは娘の姫香で、ハスキー達も探索に同行してくれる仲間です」

「何だい、おっさんは引っ込んでなっ! こっちは長旅で疲れとるっちゃよ、さっさと飯と泊る場所を提供するったい」

「えっ、今のは何弁なの、叔父さんっ? こっちも広島弁で対抗した方がええかいね、こっちも長旅じゃけぇ腹が減っとるんじゃ!」


 末妹の香多奈の乱入で、場は一気にカオス状態に突入するけど。姫香は構わず、スタッフから進行用紙を貰って宿泊プランの指示出しを始める。

 セーラー服の女性は、方言をしゃべる小学生の乱入にすっかり毒気を抜かれた様子。そして奥に控えていた中年の男性が、お騒がせして申し訳ないと対応してくれた。


 向こうはどうやら、先に到着していた噂の博多A級チームらしい。あちらも家族チームのようで、中年の男性はセーラ服の娘の父親だと名乗り出てくれた。

 探索登録しているのは、その中年の父親と4人の子供達の合計5人との事で。一番賑やかなあのセーラー服姿の娘は、なつめと言う名の末っ子らしい。


 その上の3人の兄たちが甘やかしたため、ちょっと我がままに育ってしまったけれども。チームとしては、3年目で県内初のA級に昇格して順調なのだそう。

 そんな紹介に、お互い子供の事で苦労しますねと護人も本音で対応して。どういう意味よと、荒ぶる末妹の頭を撫でつつ、護人は少女に宿泊の準備を言い渡す。

 渋々とそれに従う香多奈に、そろぞろついて行くハスキー達。


 これでようやく、場の淀みか解消され始めた感じが漂って来た。姫香の指示出しで、広場にたむろっていた探索者たちがコテージを割り当てられて行って。

 それから同時に、リーダー会議ももうすぐ開催されるとの告知がなされて。広場を見渡せば、吉和のギルド『羅漢』の雨宮もこちらに手を振って来ていた。


 隣にはムッターシャ達もいて、どうやら世間話でもしていた模様だ。向こうのチームも無事に到着していたようで、ちゃんと星羅や土屋女史や柊木もいる。

 全員がラフな恰好ながら、ムッターシャの醸し出すオーラはやはり桁違いで。味方にいれば、これほど安心出来る存在は無いだろうって感じ。


 それは先程自己紹介して来た、高瀬と名乗った中年オヤジもそうみたいで。凄いのがいるねと、どうやら人をる目は肥えている様子である。

 ウチのギルドの一員ですよと、護人が紹介しようと高瀬を案内しようとすると。星羅もこちらに気付いたようで、手を振って近付いて来ていた。


 ムッターシャもそれに追従して、そこから始まるA級ランカーの挨拶合戦。特に博多チーム『ガリバーズ』の3人の息子たちは、探索歴も長いだけあって皆強そう。

 その分アクも強そうで、愛想の点では末っ子のなつめとどっこいな気も。親父の敏夫としおさんも大変だなと、護人は内心で同情などしつつ。

 彼らとの厄介事が、これ以上起きないように祈ってみたり。



 その後のリーダー会議も、協会のトップがいないせいか割とグダグダの進行ではあった。特に区画分けからの、チームの探索場所を決めるくだりでは話がなかなか進まず。

 仕舞いには、ギルド『羅漢』の雨宮が代表して場を取り仕切る流れに。地元の探索者のトップも、特にそれには文句は無いようでその後の流れもスムーズに。


 そして決定したのは、まず異世界チームと星羅チームは“鍾乳洞エリア”をメインに間引きを行うって事で。そのフォローは、ギルド『羅漢』が担うとの取り決めに。

 博多の『ガリバーズ』チームは、地元のB級チームと“宿泊村エリア”を攻略する流れに。聞けば、この宿泊施設にそっくりなエリアも、ダンジョン内に生成されているそうな。


 来栖家チームと岩国3チームは、“サファリエリア”を中心に他の近くのエリアをフォローすると言う感じで間引きを行えば良いらしい。特に“カルスト地形エリア”は、やたら広くて毎年間引きも難儀するみたいで。

 そこは地元のB級チームが、数チームの合同で担う予定ではあるそうだけど。恐らく人出は足りないだろうし、どうやらレア種が湧いてるとの報告も上がっているそうな。


 とは言え、他のエリアにもそれぞれ不穏なレア種の報告は上がっていて。下手に1つのエリアだけに、戦力を集中も出来ない状況との事。

 さすがA級ダンジョンだけあって、レイドでの間引きも久々でレア種も湧き放題なこの現状に。協会のスタッフも半泣きなのも理解出来るなと、護人は内心で同情しつつ。

 先行き不安の明日の探索に、思わずため息をこぼすのだった。




 そんなリーダー会議が終わって、時刻はもうすぐ夕暮れ時のキャンプ村の広場だけど。物凄く良い香りが漂っていて、どうやら紗良と舞戻が料理を振る舞っているらしい。

 地元の協会スタッフが、一応はお弁当の手配をしてくれてはいたのだが。温かいモノも欲しいだろうと、まるで屋台ブースの店舗のよう。


 ただしお金は取っていないようで、そのせいか盛況振りは凄まじい物が。提供しているのは簡単な焼きそばやチャーハンだけだと言うのに、両方ともに長蛇の列が。

 その隣では、香多奈が100円市を開いており、こちらも負けずに好評のようだ。トイレットペーパーやら洗剤や調味料、それらが全て100円で売られていて。


 お手伝いに任命された、萌やルルンバちゃんはとっても忙しそう。それを見兼ねて、三笠と鬼島も手伝いを買って出てくれているようで。

 ちなみにヘンリーやギルの岩国勢は、調理ブースの方を手伝ってくれていて。探索者からサービス要員への転向に、かなり戸惑っている模様である。


 それにしても、何とも逞しい子供たち……香多奈が売っているのは、“岩国基地ダンジョン”の倉庫エリアで入手した日常品なのは分かるけど。

 お裾分けの精神で、安値で売りなさいとの言葉を忠実に守っているのは偉いとも言えるけど。本人はとっても楽しそうで、おひとり様10点までだよと声を張り上げている。


 萌やルルンバちゃんは、売れた商品の補充にとっても忙しそう。お金の管理は香多奈が担っており、そのフォーメーションは見事と言うしか。

 大人の三笠や鬼島は、お客をさばいてそのフォローをしている感じ。


「あっ、叔父さん……会議終わったんだ、こっちは売れ行き順調で何にも言う事なしだよっ! ただし向こうは、紗良お姉ちゃんと朱里あかりちゃんがナンパされてて困ってるみたい。

 姫香お姉ちゃんにボディガードを頼もうとしたんだけど、協会のスタッフさんに頼られてどっかに行っちゃって今いないんだよね。ギルやヘンリーは、外人さんだから若者の自由恋愛に関しては推奨派みたいだし。

 そんな訳で、ハスキー達かミケさんが怒る前にお願いっ」

「あっ……済みませんな来栖さん、どうやらナンパしているのはウチの息子たちの様でして。美人に目が無いのは、家系ですかなぁ?」

「どうでも良いけど、騒ぎになる前に止めましょう、高瀬さん。ウチのペットは、家族以外には全く容赦がありませんから」


 そのナンパだが、素直に列に並んで配膳を待っていた者達も迷惑そう。それに気付かずに紗良と舞戻に話し掛けている若者は2人は、まぁそれなりにハンサムで。

 隣の中年男性に、似ているかと言われたらちょっとは血の繋がりを感じるかも。そして相変わらず、内気な紗良は上手くそれに対処出来ていない感じ。


 舞戻は完全に無視を決め込んでいて、時折食べたいなら後ろに並べ的な発言をしている様だが。食い気よりも色気な2人の若者は、全く懲りた様子は無いみたい。

 そこに護人が介入しようとするより早く、この場を離れていた姫香が戻って来て。姉が絡まれているのを目にして、勇ましく仲裁に入ってくれた。


 まぁ、その際に多少キツい言い回しをしたのは、姫香の性格を知る護人には予想は付いたけど。向こうの反応が、過剰だったせいでツグミが怒ったのは予想外だった。

 若者2人の姿が、途端に地面に出来た闇に呑み込まれて行き。慌てた姫香と護人は、それを阻止しようと大騒ぎの果てにツグミを宥めに掛かる。

 しかしその頃には、ミケにも家族の怒りが伝播しており。


 家族はそれを宥めるのに大忙し、その頃には向こうのセーラー服姿の少女と姫香が、殴り合い一歩手前の感情の高ぶりで。かくしてA級探索者同士の、闘いのゴングが鳴り響く破目に。

 そちらの取り成しが一歩遅れた護人と敏夫としおは、せめて血の流れない方法でと嘆願する他ない。何とか救出に成功した息子たちを含めて、彼らを宥める作業を10分余り。


 どうやら博多のA級ランクの子供達は、血気盛んな連中ばかりみたいだ。そんな連中を眺めながら、姫香も訓練形式なら受けて立つよと余計な一言。

 まぁ、来栖家からすれば毎日夕方には厩舎裏で訓練しているのが日常なので。変な提案でも無いし、ムッターシャもそれならと審判を買って出る素振り。


 つまりは、若い連中のガス抜きにはぶつかり合いが一番だとの認識らしく。若くない護人からしてみれば、事を大きくしないでと頭を抱えそうに。

 半泣きの協会スタッフたちも、それは全く同じ境地みたいで。





 ――かくしてレイド作戦の前夜は、熱い盛り上がりを見せるのだった。







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