第518話 無事に複合ダンジョンから戻って一息つく件



 無事に“岩国基地ダンジョン”の間引きを終わらせた、来栖家チームと岩国3チームだけど。その夜の打ち上げは、岩国の協会の接待で大いに飲食を楽しんだ。

 さすがA級チームを招いた手前、岩国支部長の米田のリサーチ力は抜群で。ペット達も一緒に楽しめる、テラス式のお店を貸し切ってくれていた。


 やや市街地からは外れていたが、その点は仕方が無いとも。岩国市も立地は広島と似ていて、海側の平野が市街地として発展した印象が。

 岩国基地もモロに海岸沿いで、その敷地面積もなかなかに広かったりする。逆に山側は田舎で、由宇球場とかゴルフ場やスキー場が目立つ印象だ。


 山側へと向かう道も、当然の如く狭くて移動は大変だったけど。“大変動”からの復興も成功しているようで、キャンピングカーでの移動も何とかこなせた次第である。

 そして例の如く、のん兵衛たちは酒盛りを始めて大盛り上がり。ヘンリーやギルも容赦なく護人をロックオンして、貸し切りの店舗は異様なムードに。


 子供達はペットを引き連れて、いち早くテラスの隅っこに避難を遂げて。適当に食事を楽しみながら、その日の探索の動画チェックをしたり回収したアイテム鑑定をしたり。

 飲めない舞戻や、協会の女性職員の一部は大人しくこちらに合流していて。騒がしい面々に批判的な視線を送りながら、女性陣で会話を盛り上げている。

 特にペット達の人気は、萌も含めて上々な様子。


「あら可愛い、萌ちゃんって言うんだ……仔ドラゴンなんて初めて抱っこしちゃった、写真に撮っていいかしら?

 ハスキーちゃんも、一緒においで♪」

「コロ助はお肉で簡単に釣れるよね、主人に似て浅ましいったらないわ。それより朱里あかりちゃんは、お酒全然飲めないんだ?」

「お酒より、ニャンコの感触の方がいい……」


 そう言ってミケを愛でる舞戻は、相変わらず恍惚とした表情だったり。さっきは根負けして、ある程度撫でられてしまったミケではあったけど。

 今は姫香の肩の上に避難して、こっち来るなのアピールに余念のないツンデレ猫である。ハスキー達にしても、レイジーやツグミは家族以外には簡単に気を許さない性格で。


 コロ助のみが、フレンドリーなハスキーの性格を色濃く表に出している感じだろうか。お陰で場は盛り上がっているので、姫香は批難したモノの悪い印象は無い。

 本人もたっぷりお肉を分けて貰えるし、ウィンウィンの関係性とも。


 そしてアルコールの入っていない子供達だが、アイテム鑑定の結果には向こうに負けない程に盛り上がっていた。今回も数は少なかったけど、良品がボチボチ紛れ込んでおり。

 特に宝珠《堅牢の陣》は、誰が使うか議論が白熱しそう。『剣竜の盾』も性能が良いし、護人リーダーの新装備に良いかも知れないねと子供たち。



【陣の宝珠】使用効果:使用者はスキル《堅牢の陣》を習得

【剣竜の魔骨】使用効果:防御&魔法防御up・永続

【剣竜の盾】装備効果:広域防御&堅牢&不壊・大

【魔法の自動小銃】装備効果:魔玉を高速で撃ち出す

【知の軍用ヘルメット】装備効果:魔力&魔法操作up・中

【惑いの迷彩服】装備効果:迷彩&隠密効果・小


その他:『強化の巻物』 (耐性)×2、『強化の巻物』 (攻撃)×2




 『剣竜の盾』は広域防御なんて性能が付いていて、割と護人の好みかも知れない。形も剣竜の背ビレを重ね合わせた感じで、まぁお洒落と言えなくも無いし。

 宝珠《堅牢の陣》の使用者の決定は、後で家族でゆっくりと話し合うとして。『魔法の自動小銃』は、ルルンバちゃんに持たせて問題解決な気も。


 ただし、後衛は弾の補充が大変かも……魔玉のストックはまだあるけど、大量消費に拍車がかかると今度は買い足す必要が出て来るかもしれない。

 それでも、戦力が向上してチームの安全度が増すなら全然オッケーだけど。派手に銃をぶっ放すルルンバちゃんと言う図も想像出来なくて、その辺は心配ないかも。


 何事にも奥ゆかしい性格のルルンバちゃんは、そんな前に出で存在を主張する感じでも無いし。ちなみに最後の15層の宝箱だが、鑑定の書(上級)や強化の巻物と定番通りで。

 当たりはオーブ珠くらいだろうか、中ボスも見事にスキル書を落としてくれたし。それから現代武器の類いも、追加で幾つか回収する事が出来た。

 他は金貨やインゴットが少々、特筆すべきアイテムは他には無し。


「後はスキル書の相性チェックと、5層までの回収品を『シャドウ』のメンバーと分配するのと……チームとしては、新しく覚えたスキルのチェックもしたいかな?

 後は何かあったっけ、紗良姉さん?」

「ん~っ、他は特に無かったかも……ちなみに明日のスケジュールだけど、2人とも聞いてるかな? 午前中に岩国の協会で、魔石や回収した現代兵器をまずは全部売り払って。

 それから午後に、岩国チームと一緒に次の目的地に出発するそうだよ。時間があれば、秋吉台の観光地を見て回る感じなのかな?」

「そうなんだ、ザジ達のチームとか星羅ちゃんのチームはもう到着してるのかな? 向こうで合流するの、ちょっと楽しみだね。

 ひょっとしたら、一緒に観光とかも出来るかも」


 その辺は携帯で連絡を取り合えば、可能かも知れないねぇと姫香の曖昧な返事。出発する前にやり残しが無いように、彼女も色々と頭を悩ませているようだ。

 そんな姉の悩みに関係なく、香多奈はマイペースに『シャドウ』の面々を掴まえて、スキル書の相性チェックを始めている。ハスキー達も招き寄せて、お店の端っこはある意味カオス。


 それでも最初の頃よりは、随分と仲良くなって来ている両チームではある。『シャドウ』チームには極端な酒飲みはいないようで、子供チームに合流も比較的スムーズに。

 相性チェックの結果は残念だったけど、その後も今日の探索や魔法のアイテムの話で盛り上がって。食事もある程度終わらせて、話題は次の遠征レイドに移行する。


 “秋吉台ダンジョン”はかなりの広域ダンジョンらしく、毎年の間引きは苦労している様子で。地元に強力なチームがいないのもあって、チーム数を揃えるのも大変そう。

 そう言う意味では、今年はA級チームを3つも揃えられて当たり年なのかも。厳しいエリアを担当させられるかもと、三笠辺りはちょっと警戒しているけど。


 ドンと来いだよとの勇ましい返事は、ミケを抱っこした姫香から。異世界チームと星羅チームには負けないよと、変なライバル心は余計かもだけど。

 今回は博多からもA級チームが参戦して来るみたいで、協会もメンツ揃え頑張ったなぁと鬼島などは感心し切り。余計な騒ぎを起こさないでねと、香多奈は姉に向かってチクリと釘刺しなど。


 どうやら喧嘩騒ぎを心配している様だが、さすがにそこまで粗暴じゃないよねと姉の紗良もフォローに回って。姉妹喧嘩の回避に勤しみながら、チラリと酒飲み集団の様子を確認。

 向こうはどうも、盛り上がっていると言うより難しい話をしているみたいで。飲みの席だと言うのに、本当にお疲れ様と言うしかない。

 酔いにも逃げられないとは、立場が上の人も大変である。



 その張本人の護人だが、岩国チームから何となく振られた『シャドウ』チームの印象についての議題に。途中から委縮してたし、ウチとの同行は不味かったかもと本心を打ち明ける。

 何しろ、来栖家チームには文字通りの超A級生物がゴロゴロいるのだ。ミケは自分より巨大なモンスターを平気で駆逐するし、レイジーは群れを率いて獅子奮迅の活躍振りだし。


 ルルンバちゃんに至っては、もはや移動する兵器と言うか要塞である。常識外れのチームと一緒に探索したせいで、彼らの自信を砕いてしまったのなら申し訳ない。

 そんな風に思う護人だが、『ヘブンズドア』リーダーの鈴木はそれも良い薬と気にしていない表情。『シャドウ』は確かに戦闘能力は高いけど、飽くまでそれは対人に限った話で。


 ダンジョンには、ほぼレベル上げ目的に通っていただけで異形のモンスター相手の戦闘もそんなに数をこなしていない。今回は恐竜エリアの探索だったし、彼らが機能しなかったのも当然とも言える。

 彼らの戦闘スタイルは、岩国チームの定番とも言える近代兵器での遠隔射撃である。これが一番リスクが低いのだから、まぁモンスターと戦ううえで悪くはない選択だ。


 一方の来栖家チームの戦法は、得意スキルの使い回しでのゴリ押しだろうか。とにかく力で制圧する、ハスキー達も肉弾戦を多用してスキルの熟練度を磨いて行く。

 それでたまに強い敵と遭遇すると、他のスキルや戦法も試してみる感じ。武器や防具に、別段こだわりはない……家長の指示で、手入れは怠らないけど。


 今回の『シャドウ』の面々は、スキルの使用についてもほぼ見受けられなかった。恐らくは体に叩き込まれた、暗殺時代の教えの名残りが邪魔をしたのかも。

 なるべく目立たず、ひっそりと任務を遂行するその教えはダンジョン探索では無価値である。敵は随所にいるし、どのエリアも向こうのホームグラウンドなのだ。

 つまりは、来栖家チームの戦法の方が理に適っているのは確か。


「まぁ、ウチの協会も若手の育成時には、強敵に遭遇したら無理せず撤退しろと叩き込んでるからね。遠距離武器を使うメリットを、最大限に利用した戦法には違いないんだけど。

 それで破損率を引き下げられたのは良いけど、大きな成長を望めないのは確かかも知れないね。それに護人さんの言う通り、スキルを使う戦闘には不慣れだし」

「それは大きな今後の課題かもな……『シャドウ』にとっても、それを知れて良かったと思おう。連中にしても、来栖家チームに同行して思う所もあっただろうし。

 それで次の“秋吉台ダンジョン”のレイドだが、どうするね?」

「来栖家チームに異世界チーム、それから博多のチームとA級が3チームだっけ? 今回は広域ダンジョンの間引き案件だし、それをメインで頑張ろうか。

 と言う訳で、次回は来栖家チームは単独行動をお願いするかな?」


 それを聞いて、明らかにホッとする護人であった。子守りと言うとアレだが、他のチームの面倒まで見るのはやっぱり大変だし重責には違いないので。

 とは言え、そろそろ“喰らうモノ”ダンジョンの相棒を決めないといけない時期だと協会からも言われており。異世界チームは、星羅チームを鍛えて組む事を決めているらしく。


 来栖家チームも、チーム人数が多いからと言って慢心せず、補強はした方が良いと話し合いで決まっていて。前回の失敗もあるし、その辺は受け入れる予定なのだが。

 そのチームを『シャドウ』に担って貰おうかなと、護人は今回の同行で何となく考えており。色々言ったが、この若者たちは腕前自体は悪くないし好感も持てる。


 そんな話を岩国チームに話すと、是非とも連れ出して鍛えてくれと人身御供に差し出されてしまった。『シャドウ』本人たちの意見は取り上げて貰えないみたいで、少し可哀想ではあるけど。

 それでも、この交流がウィンウィンの関係になれば向こうも有り難い筈。


「そうだな、色んな刺激を外部から貰って、奴らにも人間的な成長をして貰わないとな。普通に探索をしていれば、冒険者ランクは自然と上がって行くだろうし。

 来栖家とのコラボで知名度も上がれば、岩国の協会の目論見通りに売り出しは成功だろう。あとは死なずに、成長を遂げて貰えばこちらとしても言う事なしだよ」

「まぁ、その為の協力は惜しまないけど……こっちも“喰らうモノ”の探索を控えているから、自分達の鍛錬もして行かなきゃならないからね。

 今後もアドバイスや、探索同行はこちらからも頼むよ」


 そう口にする護人に、岩国チームの面々も顔をほころばせて歓迎のムード。仲間に強いチームがいる安心感は、やはり探索では何事にも代えがたい物ではあるし。

 そんなチームに、近い将来『シャドウ』がなってくれれば超ラッキーである。





 ――そんな思惑も、当人たちは知るよしも無し。







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