第410話 探索の後始末に色々と慌しく過ごす件
あの後の顛末だけど、甲斐谷と協会の本部長の
つまりは“アビス”への直通ルートを記憶させて貰って、大いに手間が省けた件を喜んで貰えた模様。それを拠点に“アビス”ダンジョンにチームを送り込めば、自然とリングもコインも貯まる筈。
そうすれば、2台目のワープ装置も換金可能だし、もっと便利な景品もゲット出来るかも。来栖家チームにしても、それは同じで楽しみなコンテンツだ。
ただし、それをお泊まり組参加の女子チームでとなったら話は別である。遠方への探索許可は、どうやっても出しては貰えないようで残念な限り。
まぁ、確かに向こうで装置が壊れたりとか、万一の不測の事態が起きた場合は怖過ぎるかも。姫香もリーダーの許可が出ないと駄目との意思は崩さず、お泊まり組も強くは言えない感じ。
それから葛西本部長は、“喰らうモノ”の4チーム目が決まったら連絡するとの伝言を残してくれた。それまでは、来栖家チームも自分達の鍛錬に時間を当てる所存。
それから三原の“聖女”と異世界チームの監視役として派遣された、協会所属の土屋女史と柊木だけど。何とか仮の住まいを面倒見て貰い、お隣さんの4軒目に入居する事に決定した。
その仕事に関しては、両名の監視と言うより相談役に近いと本人たちは述べていた。車の運転手をしたり、生活のサポートを行ったりも仕事の内との認識みたい。
そうは言っても、星羅は来栖家の厚い保護を受けているので、今更よそのサポートは必要無い。異世界チームにしても、既に言葉の壁やら移動手段やらは何とかなっている。
これも来栖家からの贈り物によるモノが大きく、さすが山の上の主である。そして土屋と柊木自身も、同じくあれやこれやと世話を焼かれる立場だったり。
具体的には
これも田舎の助け合いの風潮を、凛香チームやゼミ生チームが正しく理解して実践した結果である。そんな感じで、助けに来たつもりが助けられっ放し……全く立つ瀬の無い2人である。
もっとも、前回の土屋も似たようなモノだったけど。
そこは彼女も経験して理解済み、柊木に至ってはのほほんと構えて違和感を感じていない始末。案外楽なお仕事だなと、田舎生活を満喫しているのかも。
この2人の女性、どうも先輩と後輩の間柄で仲は良さげである。探索の腕もそれなりなのだそうで、柊木はコミュ障の先輩と違って、近所の子供達ともすぐに仲良くなっていた。
それから地元の情報を収集したり、来栖家の夕方の特訓に参加したり。穏やかな表情の割には、積極的にあれこれと活動している感じである。
それに関しては、先輩の土屋よりは余程遣り手の協会職員との印象の護人。ただまぁ、別に協会と敵対している訳でも無いので、この敷地での情報を幾ら知られても痛くも何ともない。
むしろ戦力と数えられるなら、町の治安も1ランク上がって嬉しい程だ。とは言え、今の住まいは仮の寝床なので、その点をどうするかって話も残っている。
何しろその家は、午前中は週に3回ほど熊爺家のキッズ達が勉強に訪れる場所でもある。それからゼミ生達が教師役での勉強会に、現在の住居は使用されてしまう運命にあるのだ。
つまりは、余り住み心地が
「いや、私たちは別にあそこで良いですけどね? お世話する人たちのすぐ側で寝起き出来るし、家賃を払えとも言われてないですから。
あっ、家賃や生活費は払った方が良いですかね、護人リーダー?」
「生活費って、夕食の代金とかって事? そんなの別にいいよね、叔父さんっ? それにしても、山の上も随分と賑やかになったなぁ……あの空き地が、4軒全部埋まるとか信じられないよっ。
1年前なんか、全く想像もつかなかったもんね!」
「本当だよね、出来れば4軒とももう少し補修したかったんだけどなぁ。そう言えば自治会でも、新たに春から空き家の補修が始まるんでしたっけ、護人さん?」
「そうだな、麓の生活に便利そうな地域って条件で、既に補修する空き家の候補は決定済みだけどね。そもそも探索でウチも儲かってるんだから、こっちでお金を出して補修業者に来て貰うって手もあるな。
ちょっと知り合いに良い業者がいないか、訊いてみようか」
そこまで手を
最初に手掛けた紗良のスキルによる補修は、以前の状態に『回復』まではしてくれていた。ただし、板や屋根の瓦を新品同様に戻す能力では無かった。
穴やひび割れは何とか塞がるけど、腐敗や虫食いまでには手が回らず。冬場は何とか乗り越えたけど、4軒ともそこそこ酷い状況だったようである。
今は春になったし、人手もそこそこ増えた現状なのだ。田畑だけでなく、居住環境に手を付けるのも悪くないアイデアかも知れない。ついでに離れに、子供達の専用の学習教室なんか作ってみたりとか。
そんなアイデアを護人が話すと、それは良いねと姫香が真っ先に賛成してくれた。お泊まり組は、それより訓練所の上の方に露天風呂が欲しいよねとか呑気な提案をしてる。
末妹の香多奈も、その意見には大賛成。確かにこんな大人数だと、家のお風呂は狭いんだよねと苦情は止まらない。切実な悩みっぽく訴えて、叔父に対してお
いやしかし、そんな大物を作るのは素人には無理!
それでも姫香は、ルルンバちゃんがいれば作業は随分楽かもねとかなり乗り気だったり。彼女も毎晩のすし詰め入浴には、少々嫌気がさしていたのかも。
広いお風呂なら、お隣さん達も気軽に利用出来て確かに利点は多い。特に夕方の訓練後など、夏場でなくても大汗を掻くし泥だらけになる事も珍しくない。
そう正論で詰められて、困ってしまう護人である。実は春の行事として、探索で貯まったレンガでピザ窯でも作ろうかなと画策していたのだが。
子供達にそれ以上の建造物を求められ、さて誰に相談すれば良いモノか。ピザ窯を造る位なら、植松の爺に手伝って貰えば平気と思っていたのだが。
露店風呂の作製って、ちょっと素人には難易度が高過ぎる気が。
とにかくそんな感じで、新たなお隣さん案件から特殊なクエストが派生したりもしたけれど。山の上の来栖邸の周辺は、
小学生たちも、もうすぐゴールデンウイークと言う事もあってテンション爆上げ中。何をして遊ぼうかと、仲良したちで連日話し合っているみたい。
香多奈にしても、同級生たちとの遊びの予定も当然ある。それから青空市での姉達との競争やら、もちろん叔父にも遊びに連れて行って貰わないといけない。
まぁ、今回に限っては連日お泊まりを決め込んでいるお客さんもいるから、遠くに旅行ってのは無理かもだけど。最低でも、どこかに家族でお出掛けはするつもり。
その点については、全く譲るつもりの無い末妹である。
一方の護人は、協会本部の謝罪を受け入れた事や、それで貰った宝珠をムッターシャと茶々丸に使った事まで正直に家族に話して。貰ったお菓子を振る舞う事で、お茶を濁す事に成功したのだった。
まぁ、家長の取り決めを本気で反対する子供達では無い。
そして高級お菓子には目もくれず、もみじ饅頭に噛り付く妖精ちゃんであった。5箱も貰っているので、そんなにせっかちに噛り付く必要も無いとは思う。
何にしろ、地元の銘菓をそこまで気に入って貰って嬉しい限りである。星羅も普通にパクついているし、当初の遠慮も既に薄れて来ている。
本人的には、お隣さんの家の補修が終わったら、そちらに移ろうかと申し出ている。つまりは協会の2名と共同生活を送って、来栖家の居候からは脱却すると。
まぁ、それを含めて今後の方針は色々と検討したい所。
「まぁ、急に遠くに行かれても色々と心配だもんね……土屋さんのお仕事も、星羅ちゃんの監視なんでしょ?
それなら一緒に住むのも、合理的でいいのかもねぇ?」
「そうだね、それは案外と良い案かも……護人さんっ、リフォームの大工さんはまだ見つからないのかな? 工事の手伝いは、私や凛香チームがするからさ。
さっさと手を入れてあげないと、梅雨が来るとあの家じゃ大変だよ」
「う~ん……自治会案件の、麓の廃屋の修繕も既に始まってるからなぁ。入居が決まってるからって、こっちを先にしてくれと割って入るのもアレだし。
今度、顔の広そうな協会の江川さんにも訊いてみようか」
それが良いねと、夕食前の来栖家の会話はいつになく弾んでいる。ちなみにお泊り組は、現在揃って入浴中である。さすがに女子全員での入浴は、最初の頃以降は諦めてしまった。
何しろ浴槽どころか、浴室でさえギチギチなのだ。女性陣が、広いスペースのある露天風呂を欲しがるのも、ある意味必然とも言える程度には。
それを叶える能力が、護人に備わっているか否かは別として。とにかく夕食前の家族会議で、そんな議題が熱心に話し合われる。それから明日にも、協会に換金依頼に向かう事も決定した。
香多奈も今回は、学校終わりについて行くと元気に参加を表明。とは言えキッズチームの換金は終わっているので、特に香多奈の同伴は必要無い。
前回の換金作業にしても、キッズ達は余り数字的な報告には興味が無い感じだった。ランクが上がるとの協会の説明も、双子は家で兄弟たちと手伝いをする方が大事と返答する始末。
そんな訳で、その辺の業務的な処理は今後も護人が全部こなす事になりそう。恐らく向こう1年くらいは、こんな感じで保護者同伴の探索になる気がする。
保護者の熊爺もそれを望んでいるので、護人もそれに否は無い。
お隣さんの凛香チームの和香と穂積も、今は小学校に通う事をメインにしなさいと言われており。渋々ながらも、それを了承しているようだ。
しかも成績が落ちると、探索に連れて行って貰える権利も失われるなんて条件も追加され。年少組に至っては、ますます勉強に熱がこもる次第である。
ちなみに“落合川ダンジョン”での溺れかけた体験の後も、キッズ達に特に後遺症の類いは窺えず何よりである。意外とタフでケロリとしている子供達に、ホッと安堵のため息をつく護人であった。
やはり安全な探索など無いし、ダンジョン内では一瞬の油断も出来ない。ペット達がいなかったらと思うと、レア種も抑えられなかったし危なかった。
結果的には全員が無事で良かったけれど、護人はもっと皆を余裕で守れる強さを得たいモノだと思う次第。その強さへのアプローチに関しては、“女子禁制ダンジョン”でヒントを得る事が出来た。
来栖家チームは、とにかく
新機体ボディを得たAIロボは、キッズ達との探索でも本当に役に立ってくれた。つまりは縁の下の力持ち的な意味で、チームを支える一員として充分に機能してくれたのだ。
護人の理想もまさにその立ち位置で、リーダーとして皆を裏から支えられればそれで良いと思っている。例え活躍がペット達より目立たなくっても、チームが順調ならそれで構わない。
探索歴はようやく丸1年、チームは何とか新人マークが取れた頃だ。
それにしても良く頑張って来れたと、本人的には自分を称賛したい護人である。子供達に関しては、勝手に魔石換金額での競争などを始めていたりと呑気そのもの。
スキルの保有数も随分と増えて、いつの間にやらA級ランク入りの来栖家チーム。そのギャップだけは、相変わらず自分達も持て余してしまう。
せめて見える範囲の有事に関しては、立ち向かえるだけの能力を磨き上げたいモノ。具体的には“喰らうモノ”の再突入を、
子供達もペット勢もとっても勤勉で、これからもどんどん力を成長させて行く事だろう。それを脇からカバーして、真っ直ぐに伸ばして行く手助けが出来れば良い。
護人は自分の役割が、それに尽きるとさえ思っている。
――その為の強さを、欲しいと心底願う護人であった。
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