第370話 忙しい春の作業の合間にチーム強化計画を進める件



 何かと忙しい、4月の農家兼探索者の来栖家のスケジュールである。メインイベントはもちろん田植えだが、その頃に合わせてギルド仲間の女子たちが手伝いに来てくれるそう。

 人手は幾らあっても良いので、その提案は有り難い限りである。それから末妹の香多奈の新学期も始まるし、もちろん新年度で自治会の動きも活発になる。


 町の活動にも、自治会員の護人は幾らか時間を割かれる予定で大変だ。それから協会の本部長が、再度この日馬桜町へと訪れて来るとの話である。

 協会の職員たちは、狭い支部の建物でどうやって持て成すかと大わらわな様子。それは彼らの落ち度では全く無いので、やや可哀想な気もする。


 その原因になった来栖家チームとしては、ゴメンねと謝るしか無いと言う。今回の問題は色々あるけど、メインは恐らく三原の“聖女”をかくまっちゃった事件だろう。

 その大きな波紋の1つとして、町に偵察に来たゴロツキ共を捕えたと言う問題もある。そいつ等を掴まえる際に、協会の内部に裏切者がいる事実も判明した。

 その辺諸々もろもろ込みで、話し合いは白熱すると思われる。


 それから、来栖家が自販機で交換した魔法アイテム『ワープ魔方陣記憶装置』は、協会も是非ぜひとも入手したい筈。これの買取依頼も、恐らくして来るモノと思われる。

 後は“喰らうモノ”ダンジョンの、詳しい日程詰めとかそんな所だろうか。日馬桜町的には、S級の甲斐谷チームを貸し出してくれるのはとっても嬉しい提案だ。


 とは言え、異世界チームと来栖家チームを勘定に入れるとしても、あと1チームは強いチームが必要である。その辺の取り決めも、出来れば詰めて話し合いたい所。

 しかしながら、一緒に突入予定の来栖家チームが、足を引っ張る確率も依然として高いのも事実。そうならない為の特訓は、毎日の夕方の時間で行っていたりする。


 それから実戦も大事だと、妖精ちゃんには毎週探索に出掛ける様にと発破を掛けられている。そんな訳で、香多奈の春休み最後の日を利用してのお出掛けなど。

 その場所だけど、近場の“ダンジョン内ダンジョン”に午前中から向かう事に。ついでに4層のワープ魔方陣から、例の隠れ里の工房にルルンバちゃんの新パーツの取り付けのお願いに伺う予定。

 大切な仲間のパワーアップは、やはり大事には違いない。


 防御力と一撃のパワーは、物凄いレベルに到達しているルルンバちゃん。しかし機動力に関しては、お世辞にも素早い動きとは言い難い。

 この前の“アビス”探索でも、アスレチックエリアでは相当に苦労していた。それをまるでおぎなうかのように、“双子の宝石”から新パーツを提供して貰ったのだ。


 実際に、彼らには不足を見抜く能力があったのかも知れない。あつらえた様に、多脚戦車の下部パーツをプレゼントしてくれたのには驚いた。

 それを見て、護人は思わず昔のアニメの『攻殻機動隊』のフ〇コマを思い出す。喋る機械に思い入れのある護人は、もちろんそのアニメも大好きだった。


 そんな護人は、AIロボとのユーモアを交えた会話を、ルルンバちゃんと出来ないかなと秘かに願っていたりして。フチ〇マもそうだし、『敵は海賊賊』のラジェン〇ラなんて最高だ。

 『宇宙海賊コブラ』のレ〇ィはちょっと違うかもだが、癖のある主人公の相棒には欠かせない存在だ。そんな改造をして貰えたらと、内心では思っている護人である。

 それが家族に受け入れて貰えるかは、やや微妙ではあるけど。




「それじゃあ今日1日は、探索日に当てると言う事で……来たるべき“喰らうモノ”の再突入の日に備えて、チーム強化は今後も定期的に行う感じかな。

 今日はルルンバちゃんの改造計画と、それから萌の新装備のチェックも兼ねて探索をしようか。萌が鎧装備になったから、茶々丸にまたがるのにくらか何かが必要なんだっけ?

 後は、スキル覚えたのは誰と誰だったかな?」

「萌とレイジーかな、茶々丸の鞍は紗良姉さんが頑張って作ってくれてたよ、護人さん。後は、頑張ってゲットしたワープ記憶装置に、ウチから一番近い魔方陣の位置情報を記憶すれば完璧かな?

 そうすれば、いつでも“アビス”とか“浮遊大陸”に遊びに行けるねっ!」


 “アビス”や“浮遊大陸”は、決して遊びに行くような場所では無いのだが。姫香の言っている事は、一応は筋が通っていて使い方は合っている。

 つまりは、例えば“アビス”へと装置でお邪魔して、丸1日ダンジョン探索を行うとする。その後に敷地内ダンジョンの魔方陣へと飛んで戻れば、遠方のダンジョンの日帰り探索が可能になるのだ。


 妖精ちゃんも、ますます経験値稼ぎがはかどるなとご機嫌な様子。とにかく探索に取り掛かる前に、そんな用事を幾つかこなす事に。

 そんな訳で、各自が探索着に着替えて朝の9時に勝手口に集合する。そして萌の新装備を見て、家族のみんなが格好良いねと褒めそやす。姫香の竜鱗の鎧とも一味違って、やや軽量な感じだがこちらの方が竜の鱗感が強い。


 それから茶々丸も、紗良の手造りの装備を着させて貰ってご満悦な表情。雰囲気からすると、まるで戦場を駆ける軍馬のような派手な装備に仕上がっている。

 素材は魔法の布素材なので、そこまで重量は感じない筈である。錬金加工は妖精ちゃんに手伝って貰って、鞍付きの渾身の作品となっている。

 これには茶々丸も大喜び、家族の評価も物凄く高くて何より。


「これは凄いね、ネックの防御力もこれで随分助かるんじゃない? 茶々丸の戦法は向こう見ずだから、探索中の怪我も多かったもんね。

 この装備なら安心だよ、鞍も付いてるしバッチリだね!」

「角の飾りとか可愛いよね……衣装作って貰って良かったねぇ、茶々丸! これならどこに出してもモテモテだよっ、大切に使うんだよっ!?」

「モテモテかどうかは分かんないけど、着心地の感想は欲しいかなぁ? 動き難かったら言ってね、家に戻ったら改善するから」


 そんな台詞を口にする紗良も、みんなのリアクションに満足そうな表情である。茶々丸も同じく、いつもの倍はハイテンションで、相棒の萌に早く背中に乗れと催促している。

 その騎乗した姿を見て、再び家族からおおッと言う歓声が上がる。


 そんな内輪で盛り上がる姿を、星羅は縁側で見つめていた。今回はお留守番と言う事で、話はとっくについている三原の元“聖女”である。

 その内心だが、こんな賑やかで楽しそうな探索なら、ついて行っても良いかなと言うのが本音。それでも家族チームに、異分子の自分が飛び込むのも気が引ける。


 そんな理由での同行辞退だが、体は動かした方が良いよとの姫香の勧めに従って。夕方の特訓には、ほぼ毎日参加している星羅であった。

 お陰で、近所の知り合いも増えたし若い友達もいっぱい出来た。ここが田舎と言う事も忘れる程、ここ数日は賑やかなイベントであふれていた。

 出来るなら、もう少しここで過ごしたいと思う程度には。



 そんな星羅に行って来るねと手を振って、一行は敷地内の“鼠ダンジョン”を目指す。そしてまず最初は、ワープ記憶装置を使っての“ダンジョン内ダンジョン”0層層の座標のコピーを行う。

 紗良も3度目ともなると、この装置の使い方もスムーズである。妖精ちゃんが見守る中、3分と掛からずその作業は無事に終了してくれた。


 これで“アビス”や“浮遊大陸”遠征が出来るねと、ご機嫌な姫香や香多奈のセリフに対して。どうしたモノかなと、護人は内心複雑な心境だったり。

 チーム強化は確かに大事だが、安全マージンはしっかり取りたいリーダーである。出来れば事前情報が豊富で、通い慣れたダンジョンがあればそっちの方が良い。


 とは言え、そんなのばかりでは勘や非常事態の際の対応が養えないのも事実。鬼の用意してくれた訓練用ダンジョンは、そう言う点で言えばとっても利便性が高い。

 雑魚の出て来る数も多いし、経験値的にも美味しいのは良く分かる。今日はその前に寄り道して、4階層からワープ移動で例の隠れ里へと立ち寄るけど。

 ここに来るのも、実は最近振りで工房へのルートもバッチリ覚えている。


「こんにちはっ、またルルンバちゃんの改造の件でお邪魔しまっす! ドワーフの親方、いらっしゃいますかっ!?」

「おうっ、ちびちゃん達か……この前頼まれて改造した、魔道ゴーレムの具合はどうじゃな? まさか、さっそく不具合があったって報告じゃねぇだろうな?」

「改良ルルンバちゃんは、分離も上手く行ってるし好調だよっ、親方っ。砲塔の攻撃も試してみたら凄かったし、文句は全然無いかなっ?

 今回は、新しいパーツが手に入ったからまた改良して貰おうと思って」


 香多奈の敬語は珍しいが、この年寄りのドワーフはお髭が小学校の校長先生に似てるらしい。姫香もそれなりに敬意を持って接するけど、いつも通りのフレンドリートークである。

 そんな姉妹を尻目に、紗良は魔法の鞄から新しく入手したパーツを取り出した。そして予算はお幾らになりますかと、事務的な大人の話し方である。


 弟子の若いドワーフも集まって来て、入手パーツの値踏みがさっそく始まっている。今の魔道ゴーレムパーツはパワーは凄いけど、移動に関しては問題アリの状態である。

 それをこの新パーツで補って欲しいと、護人は代表して親方に説明する。それを親方は、皆まで言わんで良いとドヤして来て既に職人の目付き。


 この親方、女子供には優しいけれど商売下手と言うか、依頼人との交渉は毎回こんな感じ。ムッターシャ同伴の際にも、扱いは今より酷かった。

 それでも腕前は良いからと、その辺はムッターシャは全く気にしていなかった。護人もそうする事にして、紗良に目配せして交渉を丸投げする。

 心得たように、頷きでその意を汲み取る来栖家の長女。


 そこからは、探索で得た別の素材もありますよとの売り込みに。どれ見せてみろとの言葉と共に、割とレア素材を鞄から次々と出して行く紗良。

 前回の依頼で、魔道ゴーレムのパーツには骨素材も良く使われると知ったのだ。その辺の希少性の高い素材も、今回は持ち込んだ次第である。


 それもこれも、新生ルルンバちゃんの性能アップの為なのは言うまでもない。入手したての『土竜の鋭爪』から始まって、『大鹿の角』や『聖大蛇の牙』を容赦なく並べて行く紗良である。

 果ては繋ぎ用にと『アラクネの糸』や、恐らく持ってる中ではレア素材トップの『沼竜の鱗』まで。ただし、親方が興味を示したのは『インプの魔玉(闇)』と言う玉石素材だった。


 何に使うのかは不明だが、存分に収めてくださいと笑顔での紗良の交渉に。ドワーフの親方は、任せておけと炎にけた顔で笑って見せてくれた。

 それから、ルルンバちゃんの魔道ゴーレムパーツは、案の定の一旦のお預かりに。幸いにも飛行ドローンまでは没収されず、何とか今日の探索はこれで参加は出来そう。

 とにかく、完成が楽しみだと子供達は極上の笑顔。




 そうして隠れ里を後にしての、ここからがようやくの探索モードである。“鼠ダンジョン”を4階層まで降りて来ていた一行は、面倒なので今回は3階層の新ダンジョンに挑む事に。

 ちなみに今までの経緯だが、2階層に3つの新ダンジョンが確認されており。その内の2つは、何とか大ボスまで倒して制覇に至った次第である。


 それから3階層にも、2つの新ダンジョンが支道の奥に出来ていた。こちらは2つともまだ手つかず、その内の1つの前に現在来栖家チームは待機中。

 ちなみに4階層にもワープゲートが湧いていて、そこが例の隠れ里へと繋がっている。ムッターシャチームが来たのもこのルートで、ただし他の者は通れない仕様にいじってあるとの報告を受けている。


 これらの“ダンジョン内ダンジョン”は、鬼の創造なのは確定している。理由は来栖家チームのレベルアップで、存分に使って経験値を稼いでくれとの事。

 それに何故か妖精ちゃんも乗っかって、5つをすべてクリアしたら報酬をくれるそう。具体的には、目の上のたんこぶの“裏庭ダンジョン”の塞ぎ方を教えてくれるとの話である。

 それを直近の目標に、来栖家チームは頑張ってる次第。


 ヤル気充分の一行は、新たに挑戦するダンジョンの扉を前に、どんなフロアかの予想を口にしている。今は通称0層で、つまりは毎度の5つの扉が目の前に。

 今までのパターンだと、中央の扉は4つの鍵が無ければ反応しない筈。つまり左右の4つを順に攻めて行けば良いのだが、今回も内容のヒントが扉の前のパネルで示されていた。


 これは何を意味するのかなと、姫香と香多奈の推理の遣り取りはかなり激しいが全くまとまらず。最終的に意見を求められた紗良は、何だかトイレのマークみたいだねと言うに留める。

 それには同意の姫香と香多奈、つまりはどう言う意味?


 入ったら分かるさと、リーダーの護人はチームに出発をうながす素振り。まずは右端の扉から行こうと、それに元気に応じるペット達と子供たち。

 そして愕然がくぜんの事実が判明、扉に弾かれて入れない3姉妹。





 ――護人だけは扉を進んで姿が見えず、これは一体どんな罠!?







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