第284話 2月の中旬も忙しく活動を進める件



 怒涛の海辺への遠征~紗良の誕生日会騒ぎから一夜明け、次の日の朝。休日の日曜日だが、来栖家の日常は家畜の世話で朝は毎度のごとく早い。

 紗良も同じく、幸せな夢心地の時間をアラームの音で邪魔されての起床。外はまだ暗く、廊下からは恐らくルルンバちゃんの走り回る音が聞こえて来る。


 この働き者のAIロボは、何と子供達の部屋のある2階にも平気で上って来る。そして毎朝の子供達の起床をお手伝いするように、廊下を走り回るのだ。

 お陰で来栖家の廊下やリビングは、家族が掃除機を掛けないでもピカピカで有り難い限り。最近はドローン形態&《念動》スキルで、天井のほこりまで取ってくれる機能まで付いていて。

 何と言うか、未来のお掃除ロボの爆誕?


 ミケの来訪の為に少しだけ開けた扉からは、2月の朝の冷気が忍び込んで来ている。残念ながら紗良の毛布の中にミケはおらず、その代わり隣の部屋から支度を終えた姫香が部屋を出る音が。

 そして一番のお寝坊さんの、末妹の香多奈を起こす声が聞こえて来る。ミケへの挨拶も聞こえて来たたので、どうやらミケは香多奈の寝所にお邪魔していた模様。


 正直うらやましいけど、それでも部屋の灯りをつけると、昨日家族に貰った誕生日プレゼントが視界に飛び込んで来て。その効果で、長女の心はフワッと自然に温かくなって行く。

 調理セットやエプロンや鍋掴みは、普段使えるように台所に移動しなければならないけれど。一緒に貰えた『メリーゴーランドのオルゴール』は、部屋の目立つ場所に置く予定。


 ついでに、恐らくは香多奈の入れ知恵なのだろうげと。茶々丸とルルンバちゃんと萌からも、サプライズの手作りプレゼントを貰ってしまった。

 それはその辺に生えている蔦を編んで作った、四葉のクローバーの飾り品だった。出来はそんなに良くないが、こう言うのは気持ちの問題である。

 当然ながら、紗良はこの贈り物をとても喜んだのだった。


 そんな彼らにも、昨日の内に最大級のお礼を述べ終わっている。そして誕生日会から一夜が明けて、新たな日常がまた今日から始まる訳だ。

 家族と顔を会わすのが、何となく気恥ずかしくもある紗良だけど。それでも身支度を整えて、部屋を出ると朝から元気なルルンバちゃんのお出迎え。


「おはよう、ルルンバちゃん。今日も廊下はピカピカだねぇ、起こしてくれてありがとう」

「あっ、紗良姉さんおはようっ! 香多奈も起きたみたいだし、先に降りてるねっ。お隣さんが先に来てたら、待たせちゃうと悪いもんね」

「おはようっ、姫香ちゃん……私も簡単に台所の支度をしたらすぐ向かうよ」


 いつもの朝の挨拶も、何となく新鮮に感じつつ。寝ぼけ眼の末妹が、ミケに連れられて階下に降りて来るのはもう数分先の事みたい。

 まだ薄暗い外の天気を確認しながら、紗良は台所に入って簡単に朝食の支度を整えて行く。お米を研いで水に浸して、お味噌汁の具材を調理台に並べてと忙しく体を動かしていると。


 外から元気な挨拶の声が響いて来て、どうやらお隣さんも合流した様子。家の主の護人も、恐らく既に仕事着で厩舎へとおもむいている筈。

 紗良もようやく支度を整えて、外に出ようとしたタイミングで香多奈と合流。その姿が愛おしくて、思わず両肩を抱えて今日も頑張ろうと発破をかけてしまう。

 相変わらず眠そうな末妹は、抱えられたままふぁ~いと妙な返事。


 そして勝手口を開けると、仔ヤギ姿の茶々丸が何故か出迎えに来ていると言う。相変わらずの脱走癖は、探索に同行するようになっても治まる気配は無い。

 それでも紗良と香多奈から挨拶されると、ご機嫌にメェーと返事をする仔ヤギだったり。それから厩舎へと向かう2人の後ろを、跳ねる様について来る。

 こうして、来栖家の日常はいつものようにスタートするのだった。




 休日の今日の内に、換金と動画編集の依頼に行った方が良いだろうと子供たちが言うので。家族で揃って、午後から麓にある協会へと出掛ける事に。

 ちなみに午前中は、スキルとオーブ珠の相性チェックや、魔法アイテムの鑑定などをして時間を過ごしていた。その結果だが、スキル書の1つを萌が見事にゲット!


 妖精ちゃんの見立てでは、どうやら『騎乗』系のスキルらしい。萌は前回の“滝下ダンジョン”に続いて、何と連続のスキルゲットである。

 素晴らしい結果に喜ぶ香多奈だが、この新スキルの用途は不明と言う。仔ドラゴンの萌に騎乗する自分を夢見ている様子だが、如何いかんせん萌はまだ大人猫サイズである。

 これに乗るのは、各方面からツッコミを頂く事態になりそう。


「しかしこれ、本当にドラゴンに騎乗出来るようになるスキルなのかな? 萌が騎乗……いやまさかな、そんな逆転現象が起きる訳ないか」

「叔父さんってば、何言ってるの……早く大きくならないかなぁ、萌に乗って探索とか凄いロマンだと思うのっ!」


 力説する香多奈だが、当の萌は我関せずな涼しい表情と言う。相変わらず勇ましさより、可愛い愛玩動物みたいな雰囲気の仔ドラゴンである。

 オーブ珠も3つあったのだが、残念ながら家族全員全く反応が無くて残念な限り。これらは手元に置いておくか、それとも協会にスキル書とまとめて売り払う予定。


 ギルド仲間のお隣さんへの融通も、あまりやり過ぎると逆効果になる場合も。世話を焼くのは良いけど、依存心をいたずらに上昇させ過ぎるのはやはり良くない。

 家畜もそうだけど、育成って本当に難しい……いや、牛やヤギとお隣さんを一緒のラインに並べるのもアレだけど。でもやっぱり、その辺の線引きは難しい。


 そんな訳で、余ったスキル書とオーブ珠は協会で売る事に。そして魔法アイテムの鑑定も、妖精ちゃんに手伝って貰って午前中に全て終わっている。

 今回は10層潜ったと言うのに、そこまで多くは無かったかも。



【癒しのスノードーム】設置効果:癒し効果up・中

【毒牙の短剣】装備効果:毒付与・小

【ゾンビ仮面】装備効果:威圧&恐怖付与・小

【恐竜ベスト】装備効果:頑強&筋力up・大

【恐竜の骨のハンマー】装備効果:頑強&筋力up・大

【馬蹄のお守り】装備効果:幸運付与・中

【魔法の水泳袋】特別効果:空間収納力・中

【魔法の水着♀】装備効果:水中呼吸&水泳力up・中

【可変ソード】装備効果:伸縮&筋力up・中

【飛行マント】装備効果:飛行&護身・中

【海鉱石のインゴット】使用効果:水耐性&硬化付与・鉱石素材



 ただし魔法の鞄が1個出たので、金銭的には結構な儲けになった感じ。水耐性の性質を持つインゴットも、企業に売れば高値になる予感がする。

 自分達で使えない素材系なので、売る一択になるのはアレだけど。春先の、瀬戸内海側に発生すると予想される“アビス”騒動で、水耐性の魔法アイテムは需要が見込まれるとの噂。


 『魔法の水着』は完全に女性用、と言うかビキニ仕様でこんなのを着ては戦えない。バカンス用と割り切れば、まぁ持っておくのも悪くは無いかも?

 ちなみに『飛行マント』に関しては、油断していたら案の定の薔薇のマントに持って行かれてしまった。護身はともかく飛行の能力は、何と言うか家族でも意見が割れていたのだ。


 格好良いとはしゃぐ声が少しと、そんなの制御しながら戦闘出来るのかなと言う不審の声と。護人も同じく、空を飛びながら戦うなんてどこのヒーローだと懐疑的な意見を口にする。

 ただまぁ、薔薇のマントは嬉々としてそれを破って自分の体内へと吸収してしまっており。幾ら悔やんでも後の祭りと言うか、今更文句も言えない感じ。


 あと、面白そうなのは『可変ソード』くらいだろうか。どうやら伸縮自在の剣らしいのだが、ネタ武器じゃんと姫香が一刀両断。香多奈のオモチャになりそうなので、速攻で護人が鞄に仕舞い込んでこの件はお終い。

 青空市か企業売りで始末するか、まぁ自警団チームの誰かが気に入れば融通しても良いだろう。モノ自体は良さげなので、案外と高値が付くかも知れない。

 例えネタ武器っぽい外見でも、それは使い方次第だろうし。


「護人叔父さん、このベストは良さそうな性能かもよ? 動画のコメントでも、叔父さんは盾役なのに装備が革製で心許ないって書かれる事が良くあるし。せめて、金属製の兜とかは被ってみたら?

 鎧一式は、さすがに重くて移動が大変だろうから」

「そうだねぇ、ウチの移動はハスキー達に合わせる事が多いもんね。叔父さんの装備は硬い方が安心かもだけど、歩調が合わないとコンビプレーも出来ないよね?

 装備を整えるって、意外と難しい問題だよねぇ」

「そうだな、俺は『硬化』スキルを持ってるから装備は割と手抜きしていたんだが。香多奈の言う通り、重い全身装備は確かにハスキー達の適性とはかみ合わないだろうな。

 姫香の勧める兜だけだと、何かコスプレ感があってだなぁ……」


 命には代えられないとしても、嫌なモノは嫌なので仕方がないとも。そもそも探索者だって、護人は好きで取り組んでいる訳では無いのだ。

 その分『硬化』スキルは優秀で、例え目玉に弓矢を喰らっても守ってくれるのだ。割と初期に取得しただけあって、今では瞬間的に発動も出来るし。


 慎重な性格の護人に、とても合っているスキルとも言える。ゴツイ兜をかぶって、視界を犠牲にするよりスキルに頼った方が安心との意見も。

 そんな主張が通って、子供達も無理な押しつけはしない事に決めた模様。その代わり、『恐竜ベスト』の着用は受け入れると護人が口にすると。

 子供達もニッコリ笑って、これで今回の回収品の分配は終了。




 そんな事があっての、午後の協会へのお出掛けである。今回も、みんなついて行くと言うので、全員でランクルに乗車と相成った次第である。ちなみにお隣さんも、今日は探索デーらしい。

 留守番の和香と穂積は寂しそうで、仕方なくお隣のゼミ生達のお宅にお邪魔して家族の帰りを待つそうだ。仕方ない事とは言え、探索同行の我がままがまかり通る香多奈は申し訳なさげ。


 それはともかく、協会では相変わらずの仁志支部長と能見さんが出迎えてくれた。そして換金作業からの動画視聴の確認作業と、毎度の手順で話は進んで行く。

 そして“ナタリーダンジョン”の感想だが、さすがB級だとか元遊園地の要素は面白いとか、全く取り留めのない感じ。探索していた来栖家チームも、そんな感想だったし仕方は無いとも。

 アトラクションは面白かったよねと、香多奈の感想もむなしく響くのみ。


「えっ、面白かったよねお姉ちゃんっ!? 茶々丸や萌も楽しんでたし、波のあるプールとか最高だったじゃん!

 そりゃあ、敵はちょっと強かったかもだけど」

「アレを楽しめるのはアンタくらいのモノよ、香多奈。茶々丸や萌は、探索に連れてって貰えるだけでいつもウキウキじゃん。

 ハスキー達と、基本の態度は変わらないよ」


 探索をそうやって楽しめる精神力も、或いはどうかなと思う仁志ではある。そして換金作業を終えて近付いて来た江川の顔色を見て、支部長は途端に嫌な予感に見舞われる破目に。

 案の定、換金額が600万を超えたとの衝撃の告白に。平謝りしながら、現金が足りないとの謝罪の申し出。確かに、スキル書とオーブ珠3つずつ販売の申し込みの時点で、ちょっと不安だったのだが。


 魔石やポーションも、今回は10層まで潜って多かった模様。振り込みで良いかとの質問に、快くオッケーして貰えてホッと一安心の仁志である。

 その隣の能見さんは、子供達と動画観賞に夢中な様子。彼女の世代では、ナタリー遊園地はとっくに閉館して噂だけ知っている程度である。

 とは言え動画の中では、その面影が楽しさと共に見て取れる。


 相変わらず香多奈の説明は騒がしいが、それを含めて能見さんも楽しんでいる模様。そんな気まずさを紛らわすように、仁志支部長は護人に話し掛ける。

 そのほとんどは業務上の報告で、例えばお探しの《異世界語》や防御系の宝珠の出物はまだ見つからないとか。この町の協会に、例の異世界接触の件で協会長が来る予定だとか。

 話を伺いたいので、済まないけど時間を取ってくれだとか。


 そんな真面目な話の隣では、香多奈がお土産があったんだとの素っ頓狂とんきょうな発言が飛び出す始末。それを聞いた紗良が、魔法の鞄から大量のスルメを取り出して、皆さんでどうぞとの仕草。

 この食糧難に有り難いが、建物内に漂うこの匂いは如何いかがなモノか。それでも嬉しそうな表情の能見さん、お礼を言いながら子供達の心意気には決して裏切らない対応振り。


 そして、まだ開けてないお楽しみ袋もあるんだよと、それを一緒に開ける気満々な末妹。一緒に盛り上がろうと言う態度は天晴あっぱれだが、少々職務妨害な気がしないでもない。

 仁志は気にした風もなく、護人にスルメのお礼を述べている。ちなみにストリートチルドレンの移住問題は、協会的にはノータッチで情報は来てないそう。

 ただし、移住して来る子供の何人かはスキル持ちとの事。


「その辺はさすがに、何かあった時のために協会も情報を押さえてますけどね。ただし積極的なダンジョン探索は、こちらの記録には残ってないみたいです。

 とは言え、普通の子供とあなどると少々危険ですね」

「あの熊爺が、子供たちの受け入れに手を上げてくれたんだ。ウチもしっかり、何らかのフォローはしないとな」

「そうだねっ、もしヤンチャな子供達だったら私が叱ってあげるよ!」





 ――それはいつも叱られる側の、末妹の精一杯の虚勢だった。





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