第248話 チーム強化の為に敷地内ダンジョンに赴く件



 そんな事があった次の日、来栖家の面々は多少の寝坊をしながらいつもの家畜の世話をこなす。1月最後の日曜日は、そんな感じでスタートを切って。

 考える事は多いが、取り敢えず昨日の凛香チームの探索は上々だったそうで何より。D級ダンジョンを8層まで潜ったそうで、特に危険も無かったようだ。


 来栖家チームとしても、いつものメンバーで潜ったのは実は“墓地ダンジョン”1度のみ。メンバー不揃いで、何度か探索には出掛けていたのだが。

 そして敷地内に、新たにお題として6つの未踏破ダンジョンが出来たのを知るにつけ。さてどうしようと、何となく踏ん切りがつかない護人だったり。

 子供たちは、完全に潜る気満々なのだが。


 あれから護人は、小島博士にダンジョン内ダンジョンについて質問してみた。その類いのダンジョンは、稀にだが存在は報告されているらしい。

 つまりは異空間通路同士が偶然くっ付いた様なモノが、過去に幾つか報告されており。2つの異なる性質を持つ事から、これはダンジョン同士がくっ付いたのだと推測されたそう。


 小島博士はそう説明しながら、護人に対して探るような眼付き。もしそんなのがあれば、すぐにでも確かめてみたい態度がアリアリだ。

 そんな事になると大変なので、それ以上の質問は控えた護人だったけど。


 彼が欲しかった答えとは、全く違う内容だと分かっただけの問答ではあったけど。踏ん切りがついたと言うか、護人も多少ヤル気が出て来たのは確かで。

 やる事は現在2点のみ、つまりは妖精ちゃんの課題である新造ダンジョン5つの制覇をする事。これによりダンジョンの埋め方を聞き出して、まずは家の側にある“裏庭ダンジョン”を完全封鎖する。


 もう1つは、色々な方面から予知で上がっている“春先の異変”に備える為のチーム強化。出来れば新人の茶々丸と萌も独り立ちさせて、香多奈や年少組の護衛が出来るまで強くなって欲しい。

 凛香チームに、和香と穂積のチーム加入を持ち掛けるのも考えた護人だったけど。やはりそれは早急かも、香多奈の例があるから説得力には欠けるけど。

 2人のデビューのタイミングは、やはり向こうでの話し合いで決めて貰う事に。


 それはともかく、午後から探索に行くよと護人が子供達に告げると。嬉しそうには~いとの返事、ハスキー軍団も同じくヤル気を漲らしている模様で。

 余り悩む必要も無かったかなと、護人本人も探索に集中する事に。夜中に訪れた鬼の提案にアッサリ乗るのはアレだが、やるべき理由があるのに拒否するのはただの怠慢だ。


 それにしても、ダンジョン内ダンジョンなんて初の探索である。中がどうなっているのか不明だし、子供たち程には呑気に構えられない護人である。

 ハスキー軍団は、あの様子では夜中の訓練に使用していたみたいだが。新たに覚えた《異世界語》では、さすがに犬や猫との会話は不可能な様子。

 護人的には、ホッとしたようなガッカリしたような微妙な感じ。




「それじゃ、どれから入ろうか護人叔父さんっ? えッと確か、2層に3つに3層に2つ、それから4層に1つだったっけ?」

「うん、ただ妖精ちゃんの話では5つのクリアで条件達成だそうだからな。普通に考えると、恐らく2層と3層で良い筈なんだが……」

「難しく考える必要無いよ、2人ともっ! どうせ全部回るんだから、一番近いのからでいいじゃん」


 張り切る香多奈の言葉に従う訳では無いが、勢いで2層の最初の入り口へと向かう一行。今回は、ルルンバちゃんは小型ショベル形態で、茶々丸は穂積の姿である。

 どうやら茶々丸は、変身にも多少のこだわりがあるようで。同性の穂積の姿の方が、動きやすいと言うか落ち着くみたい。ルルンバちゃんは、このサイズでも何とか通路と扉を潜れるのが判明してるので。


 チームの探索準備もバッチリで、今回も茶々丸と萌の経験値稼ぎも行うよと通達すると。香多奈と茶々丸は元気に挙手して頑張るの仕草。

 萌に関しては、何と言うかマイペースを崩さないのが良いのか悪いのか。一応は香多奈が言えば《巨大化》してハスキー達くらいの大きさにはなってくれるのだが。

 やはり子供なのか、覇気と言うか狩猟意欲は感じられない。


 それでも嫌々ついて来てるって感じでも無いし、むしろ同行は嬉し気な仔ドラゴンである。今も香多奈と茶々丸の隣で、興味深げに並んだ扉を見詰めている。

 この5つ並んだ扉だが、真ん中の鍵付き以外はスイングドアで、簡単に出入り自由と来ている。護人がレイジーに呼び掛けると、彼女は右端の扉へと向かう仕草。


 特に順番も無いようなので、一行はそこから入ってみる事に。入った先はだだっ広い洞窟タイプのフロアで、光源はやや不足気味だろうか。

 灯りを用意している間に、敵はわさわさと近付いて来ていた。それを迎え撃つ、ハスキー軍団と茶々丸と萌。ルルンバちゃんは、お兄ちゃんモードでサポート要員に徹してくれている。

 そして出て来た敵の、殲滅戦のスタート。


「うわぁ、ここは蟲ばっかり出て来るね……大蟻がわんさかと、後ろには大ムカデとカマドウマもいるよ、護人叔父さん。

 そこの穴からは、ワームも出て来てるっ」

「あぁ、扉の柄が何だか蟲っぽいなと思ったら……そう言う認識で合ってるのかな、それぞれがそう言う階層で出来てるって感じなのかもな」

「なるほどっ……でもまぁ、数は多いけど強い敵は混じって無さそうだね、叔父さん」


 香多奈の言う通り、前衛に出向いた面々はそれ程には苦戦はしていない様子。そう言う香多奈も、敵の多い場所目掛けて魔玉を放って殲滅のお手伝い。

 その甲斐あってか、メインの大蟻は5分と経たずに半分以下に減って行く。茶々丸も萌も、ハスキー達の隣でお行儀よく戦線を構築している。


 前回の探索で、前に出過ぎない大切さを学んでくれた様子。そして強そうな大ムカデが出て来ると、満を持してのルルンバちゃんが前へと出て行く。

 その辺の適材適所も、今回学んでくれたら嬉しい護人だけれど。レイジーの『魔炎』が密集地帯に吹き荒れて、混戦もそろそろ終止符が打たれそうな雰囲気。

 それにしても、ハスキー達の器用さよ。


 前回思い付きで武器を持たせてみたのだが、咬み付きが不利な相手には積極的に剣やハンマーを使い始めている。ツグミが《空間倉庫》で、ちゃっかり武器をストックしていて。

 それを仲良く、手渡したり収めたりと頭脳プレイが何とも素晴らしい。姫香も思わず苦笑い、このまま行くと白木のハンマーはコロ助に取られてしまいそう。


 最後の方は姫香も出陣して、途中から出て来た大ゲジゲシを一刀両断。紗良は気持ち悪がって眉をひそめていたが、姫香は多足生物も慣れて平気らしい。

 そして残るは、大量に地面に転がった魔石たち。少なく見積もっても、50個近くありそう、推定1層から物凄い密度の敵ではあった。

 しかもまだ、入って数十メートルしか進んでない。


「ハスキー達が間引きしてるかって思ってたけど、いきなり敵の数が多かったね、護人叔父さん。でも、ハスキー達のパワーアップは凄まじいよねっ!

 昔は甲殻系苦手だったのに、今は武器で止めまで刺しちゃってるもん」

「確かになぁ、それぞれ専用の武器も用意した方がいいのかもな。レイジーに限っては、もう焔の魔剣を完璧に使いこなしてるけど」


 コロ助も白木のハンマーを、自分のモノだって主張してるよと、魔石拾いを手伝いながらの香多奈の弁。数が多いので、ルルンバちゃんとツグミだけでは時間が掛かりそう。

 茶々丸も嬉しそうに手伝ってるし、年少組は元気そのもの。他には主だったドロップだが、甲殻素材やワーム肉など変わり種が少々混じっていた。


 そのあと小休憩して、ほぼ一直線のフロアをひたすらまっすぐ進む。しばらく進むと、洞窟の地面にまばらに草が生えて来始めた。それはもっと先では、胸丈までの背丈で。

 それがガサガサと動いていて、何らかの複数の生物がいるのは明らか。それに反応して、突っ込んで良いかと問うて来るハスキー軍団。

 それだと援護が出来ないので、手前に引き付けてと指示を出す護人。


 するとレイジーが、すかさず『魔炎』での先制攻撃。炎にいぶされて、草むらから大バッタや大コオロギがわんさか飛び出して来た。茶々丸が嬉々として、槍を手に戦闘準備。

 そして作戦通り、充分に引き付けてのド派手な戦闘開始。今回も雑魚とは言え、敵の数は前と同じく多い気配。向こうの攻撃手段は、飛びつき体当たりとかじり付きらしい。


 たまに音波攻撃が来るが、関係無いとばかりに数を減らして行く前衛陣。時折、後衛へと飛びつこうとする奴は、護人と姫香で駆逐する。

 最近はこのフォーメーションが定番となっているが、その分ルルンバちゃんが活躍してくれている。そのせいか戦闘もこなれて来て、変に慌てる事も少なくなってる気が。

 彼も初期メンバーながら、戦闘で活躍し始めたのは割と最近だ。


 大バッタと大コオロギに混じって、大芋虫も草むらにいたようなのだが。接近する前に、炎に焼かれてご臨終の様子。それを《遠見》で、丁寧に報告して来る後衛の紗良。

 そんな感じで戦闘経験値を稼ぎながら、敵を駆逐する事10分余り。ようやく終わりが見えて来て、前進する一行の前に下の層への階段が。


 これで1層はクリアらしいが、このエリアだけで魔石(微小)が百個近く稼げてしまった。なるほど、鬼が強化のための施設と言うだけはある。

 それならこちらも、それを利用させて貰うだけ。後ろで控えている妖精ちゃんも、何となく満足そうな表情。ミケはそれ以上に、子供達を温かい目で見ている気も。

 そして暫しの休憩の後、チームは第2層へと進み行く。



 そこは相変わらず洞窟だったが、ドームの様に広くて天井は微妙に見えにくい程。灯りを用意しながら、来栖家チームは次なる敵の姿を見定める。

 遠くから蟲の羽音が聞こえるかもと、耳の良い姫香の報告に。護人は“四腕”を発動して弓の準備、それから紗良へと魔法を試すように促す。


 姫香も最近覚えた、鍬先での《豪風》飛ばしを挑戦するみたい。香多奈もそれを見て、魔玉の中から風の属性石を探して投擲の準備。

 逆にハスキー軍団と茶々丸は、待機モードで戦況を見詰めている。ここまで目立っていない萌は、香多奈の側で護衛役を果たす素振り。

 適性が無い訳では無いけど、まだ戦力には数えられない感じだ。


 そして宙を飛んでやって来たのは、案の定の大蜂の群れだった。それに混じって、大カメムシや大蛾も混じっているのが始末が悪い。

 護人の射撃は、スキルの威力も手伝って芸術的。ほぼ外さず必中で、敵の数を順調に減らして行っている。それ以上に紗良の《氷雪》は凄まじく、一定範囲の敵を氷漬けに。


 蟲型の敵との相性も良かったのだろう、バタバタと地面に落ちて魔石に変わって行く敵の群れ。香多奈の魔玉も、右辺の敵を吹き飛ばしている。

 それを見た姫香も、左方から近付く敵に《豪風》で牽制の魔法飛ばしをするのだが。一撃で倒す威力は無いようで、これなら殴った方が早いかなって感じ。

 その前に、レイジーの『魔炎』で宙の敵は壊滅してしまったけど。


「おおっ、良い感じだったね、叔父さんっ! 最初の頃は、レイジーの炎とミケさんの雷くらいしか、範囲の魔法攻撃は無かったのに。

 今は紗良お姉ちゃんもいるし、私も魔玉で助けられるからねっ!」

「まぁそうだな……姫香と俺も、遠隔攻撃でサポート位は出来るようになってるしな。近付かれたら厄介なカメムシや大蛾なんかは、積極的に遠隔で倒せるし。

 そう考えたら、俺たちも少しは成長したかな?」


 家族に褒められて照れてる紗良にしても、確かに成長振りは凄まじいモノがある。攻撃魔法とか苦手じゃないかなと、自分勝手な思い込みがあったのは確かなのだが。

 訓練や実戦で使い込むほど、精密性や威力はどんどん上昇して行くのは割と楽しい。自分に素質があったのだと、改めて気づくと自信も芽生えて来るし。


 この調子で、レイジーやミケの負担を減らすのもチームとしては大きいには違いなく。特に氷属性が苦手な敵など、紗良にしか対応出来ない場面も出て来るかも。

 そう思うと、心が引き締まる思いの長女である。



 2層のフロアは相変わらず大きく、地面は相変わらず腰までの丈の草が生え放題。幸いにも罠の類いは無いのだが、あってもツグミかルルンバちゃんが気付いて知らせてくれる筈。

 敵の不意打ち接近も、今の所は見られない。そろそろ突き当りかなって場所まで、遠慮なく進む一行。その内、石で出来た台座のようなモノが前方に見えて来た。


 それが草むらからニョキっと顔を出して、その上には中型サイズの宝箱が設置されていた。喜ぶ子供達だが、どうやら敵も至る場所で待ち伏せしている様子。

 あまり上手くは無い待ち伏せだけど、厄介なのは大カマキリだろうか。他にも恐らく、草むらの至る場所に潜んでいる様子。

 護人の《心眼》が勝手に作動して、敵の気配を教えてくれている。





 ――そんな訳で、宝箱を賭けた2層最後の戦いの開始だ。







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