第188話 企業依頼案件が来栖家チームに舞い込む件



 来栖家チームと言うかチーム『日馬割』だが、半年以上の実績を積んで結構強くなって来た。それは動画のチェックでも分かるし、何しろリーダーを含め2人が既にB級ランカーなのだ。

 こんなスピード出世は稀に見るレベル、協会本部もチェックしているそうで。日馬桜町の協会運営に、もう少し力を入れるべきとの意見も出ているのだとか。


 それを聞いて、仁志支部長もようやくかと言う思い。そもそも支店を3人の事務員で回すのも、本当にギリギリでそろそろ限界に近いのだ。

 休暇も連休など無理な話だし、1人に対する負担が重過ぎる。


 チーム『日馬割』のメンバー達も、各員が恐るべし能力を秘めていて。何と全員がスキル3つ以上を保持している高スペック振り。余程チームの魔素適性が高いのだろう、それが喜ぶべき所かは意見が分かれるが。

 このまま世界中にダンジョンが拡がって行けば、魔素の問題は全世界の人々が避けては通れない問題となって来る。それを防ぐ手立ても、今の所は判明していない昨今において。

 取り敢えずは、長所の1つとして数えて良い筈ではあるかも。


 更には10月からお弟子さんと言うか、ギルド員も増えてまさに破竹の勢い。10層を超えた実績もあるし、大規模レイドに参加して経験も積んだと来れば。

 広島市の有力チームも、そろそろ注目をし始めているみたいで。装備品も最近は充実して来たようだし、西広島以外の地区にも名前が売れ始めて来た模様。


 当然、素材や魔法系のアイテムが欲しい企業からも、名指しで指名が来るようになって来る。日馬桜町の探索者支援協会にも、幾つかそっち系の依頼が舞い込んで来ており。

 その内から、地域貢献的に来栖家チームが受けて貰えそうなものを、仁志が選んでみたのだが。目の前の子供達は別として、リーダーの護人はやや渋い顔色。

 仁志は何とか表情を崩さず、話を進めて行く。


「これは流通の面でも、大きな地域貢献となる話でして。西広島の地元運送会社の『湯来通運』が、来栖家チームの活躍を聞いて依頼をしてきた次第でして。

 あるダンジョンで、魔法の鞄の入手が比較的容易な所がありまして。そこに潜って、最低1つは魔法の鞄をゲットして来て欲しいそうなんです」

「わおっ、企業依頼ってそんな感じなんだ……食料や日用品の運送に魔法の鞄を使うなんて、最近の流通って凄いんだねぇ、護人叔父さん」

「確かにそれなら、ピンポイントで運べるしコストも大して掛からないし便利そうだよな。でもそんな確実に儲かるダンジョンなんて、本当に存在するんですか、仁志さん?」


 探索者的にはそれ程には有名ではないが、ギャンブラー間では噂は広まっているダンジョンがあるそうだ。その名も“パチンコ店ダンジョン”で、何と景品にブランド鞄が並んでいるみたいで。

 もちろん一筋縄では行かないが、あるのが分かっているってのは大きい。仁志支部長の話では、一度の探索依頼で18万円、1つの鞄を100~200万で買い取りたいとの申し出。


 太っ腹だねぇとの香多奈の言葉はスルーして、それで流通がもっと活性化するなら受けるべき。何しろ隣町の家族御用達のスーパーでさえ、その規模にも関わらず品揃えは途絶えがちなのだ。

 貨物列車を利用しての流通確保も、そもそも始点となる広島市が物資不足に悩んでいるのだ。逆に田舎から余剰分の食料品が流れている昨今では、あまり当てにはならない感じ。

 だから魔法の鞄を頼っての、流通確保はどの企業も取ってる手段らしく。


 多少は反則まがいだが、それでも現状は未知の鉱石やレアアース、魔法の鞄やエネルギーとなる魔石系の需要は高い。ポーション系の需要も同じだが、そちらは結構な量が回収出来ているので、有名チームに依頼する程では無いそうだ。

 今回の依頼となった魔法の鞄も、運送会社にとっては垂涎の的には違いなく。依頼主からは、西広島の流通の未来の為に是非ともお願いしたいとの熱いメッセージが添えられていた。


「それは是非とも協力しなきゃ、叔父さんっ! だって町のお店のアイスの種類とか、本当にたった3種類とかなんだよっ?

 これじゃあ、子供も大人も夏を乗り切れないよっ!」

「アンタ、今年の夏を平気で乗り切ってたじゃん……でも、これは地域貢献的には受けなきゃだよ、護人叔父さん。

 湯来通運のトラックはこの町でも良く見かけるし、応援しなきゃ!」


 単純な子供たちは、早くもこの依頼に乗り気らしい。今月は既に自治会依頼をこなしたので、完全に安心し切っていた護人に関しては青天の霹靂へきれき案件である。

 しかも緊急の“キャンピングカーダンジョン”を含めれば2つだ、子供達も新入りキッズ達との特訓で体力を発散していると油断していた。


 そこに来ての協会依頼、だがまぁ仕方無いかなと護人は諦念ていねんの思い。ダンジョンの位置も、どうやらこの町からもそんなに離れていないらしいし。

 姫香に限っては、この週末に呼び出された用件を察知して、探索準備をバッチリして来ている始末。ルルンバちゃんのパーツも、カーゴ車に搭載済みでの協会参りと言う周到振り。

 恐るべき、子供たちの探索欲求と言う他ない。




 そんな訳で、11月の月末の土曜日に来栖家チームの探索は決定して。金欠気味のゼミ生と凛香チームの面々も、自治会依頼を取り付けて地元の探索に赴く予定だ。

 今回は念の為にと、2チームが合同での突入だけど。経験を積んで行けば、ゼミ生チームと林田兄妹で将来は1チームの結成も可能かも。

 ギルド運営的には、そんな作戦も視野に入れつつ。


 キャンピングカーは、順調に国道を下って廿日市方面へ。すると15分もしない内に、隣町へと辿り着くのだが。その道に沿って、随分前から潰れたパチンコ店が目立つ感じで建っているそうな。

 そこがダンジョン化したのは随分と前らしいのだが、間引きもまずまず定期的にされているそうで。意外とギャンブラー気質の探索者の数は、少なくないとの仁志の情報である。

 紗良もその道中に、E‐動画での情報収集に余念が無い。


「はあっ、層を下りながらパチンコの玉を集めて行く感じなんだ……妙なダンジョンもあったモノだねぇ、それで中ボスの部屋で景品交換が可能みたい。

 ただし、交換レートは結構高いみたいかなぁ?」

「レートってナニ、紗良お姉ちゃん……?」

「要するに、交換するには一杯パチンコ玉が必要って事だと思うけど。どうすれば集まるんだろうね、敵を倒したら出るのかなぁ?」


 姫香の疑問に、宝箱から集めたパチンコ玉を、稼働するパチンコ台で増やす方法が一般的だと紗良は返答する。叔父さんはパチンコ得意なのと、香多奈は素直な疑問を口にするけど。

 付き合いでしかたしなんだ事のない護人は、あんなのは運だし誰でも出来るよとの返答。それを真に受けた末妹は、それならミケさんが最強だねと呑気に構える始末。


 猫にどうやって打たせるかは疑問だが、そこには敢えて触れない優しい姉たち。紗良の情報によると、出て来る敵はパペットやゴーレムや獣人がメインで、それ程難易度は高くない模様。

 仁志の事前情報でも、この“パチンコ店ダンジョン”はD級級ランク程度らしい。取り敢えずは10層を目指す予定だが、それで魔法の鞄を回収出来るかは探索の頑張り次第だろう。


 とか思っている内に、目的の建物が右手に見えて来た。国道沿いなので特に地図も案内もいらずの到着、午後の1時過ぎには突入が出来そうだ。

 ダダっ広い駐車場にキャンピングカーを停めて、周囲の寂しい景色を堪能しながら突入準備。ルルンバちゃんの小型ショベルをカーゴ車から降ろし、一行は探索着に着替えて行く。

 全てが整って、改めて全員がダンジョンの入り口前へ。


「うん、この大きさなら何とかルルンバちゃんも入れるね。一応はドローンも持って来たけど、久々の小型ショベルモード発動だねっ!

 暴れまくっていいからね、ルルンバちゃん!」

「いや、店舗型のダンジョンなんだから、中で暴れるスペースがあるのかも疑問なんだが。取り敢えず今回は、10層までにパチンコ玉を出来るだけ多く集めるミッションな?」

「は~い、今回も頑張ろうねコロ助っ!」


 コロ助は尻尾を振って頑張るアピール、他のハスキー犬たちもヤル気は充分の模様。ミケも紗良の背中の定位置に陣取って、子供たちの活躍を見守る所存。

 一応は魔素の濃度を計測するけど、日馬桜町のダンジョンよりは断然薄い。それに多少の安心感を覚えつつ、いつもの陣営で建物にくっ付いた階段を降りて行く。



 そこはやっぱり店舗型のエリアで、意外と広い癖にパチンコ台の数は意外と少ない。ってか、台は通路代わりに利用されている感がバリバリ窺える。

 そして出迎えて来たのは、情報通りのパペットの群れだった。中には恐らくお店の制服を着ている奴もいて、何だかなぁとか思いつつ。

 そいつらを、ハスキー軍団や姫香を中心にサクッと倒して行く。


 そして末妹の香多奈だが、ずらりと並ぶパチンコ台に興味津々な様子。これどうやって遊ぶのと、受け皿に放置されていた玉をさっそく1個発見した模様で。

 護人は一応遊び方を説明するが、ぴょんと飛び出した玉は敢え無く台に呑み込まれる結果に。これの何が面白いのと、香多奈はとことん不思議そうな顔付き。

 熱心に玉の行方を見ていたのは、動くモノに敏感なミケのみという。


 ハスキー軍団とルルンバちゃんは、遥か先を先行してモンスターを駆逐中。張り切って良いよと言う姫香の言葉を、どうやら鵜呑みにしてしまった模様だ。

 責任を取る感じで、姫香もそれに同伴して監視しているけど。出て来る敵は、パペットに混じってキツネ獣人がちょろっと。ハッキリ言って、手応えは物凄く薄い。


 フロアは割と広いくて照明もバッチリ、幸いにもルルンバちゃんが走り回るスペースも充分にある。ハスキー軍団は簡単に次の層への階段を発見、そして敵も全て駆逐済み。

 それを確認して、後衛組を呼びに戻る姫香である。


「護人叔父さん、次の層への階段と変な自走カーゴ車を見付けたよ。アレもモンスターなのかな、攻撃力は無いみたいだけど」

「あっ、パチンコ玉の箱を乗せてついて来るAIロボみたいなのが、このダンジョンには常備されてるみたいだよ、姫香ちゃん。

 きっとそれじゃ無いかな、多分安全だと思う」


 そっかルルンバちゃんの親戚かと、妙な納得の仕方をする姫香。あちこちパチンコ台を覗き込んでいた香多奈は、パチンコ玉を十数個回収した模様。

 その位では、全く何にも交換出来ない程度の知識はある護人だが。それじゃあどの位集めれば、魔法の鞄が交換して貰えるのかなど不明ではある。


 取り敢えずは気が済んだ香多奈を連れて、一行は自走AIロボも引き連れて2層へと降り立つ。ここの階段は半分がバリアフリーで、ロボもちゃんと利用出来るのが凄い。

 ただし、パチンコ玉はまだまだ全然貯まっておらず、彼の活躍はこれからだけど。ルルンバちゃんも、この勝手について来る仲間には戸惑い気味の様子である。

 とは言え、新たな層ではすぐに狩りに夢中で駆けて行くのだけど。


 ハスキー軍団も負けていられないと、店舗型ダンジョンの敷地を駆けて行く。この層も出て来る敵は同じらしい、パペットの持つ武器が少し豪華にはなっているが。

 所詮はパペットと、簡単に蹴散らして行く頼もしいハスキー軍団とルルンバちゃん。ルルンバちゃんなどは、アームを振り回してオーバーキル気味ですらある。


 そしてドロップを拾う係に成り下がった姫香、魔石(微小)に混じって変わったモノを幾つかゲット。恐らくは昔のこの店舗の制服が一式と、変わった形状のコインが3枚ほど。

 今回は後衛の護衛役になった護人に、変なコインが出たよと報告すると。どこで使うんだろうと、情報担当の紗良が思いっ切り悩み始め。

 電波の届かないダンジョン内では、動画の再チェックも儘ならず。


「う~ん、ひょっとしたら換金に使えるのかもな、もう少し進んで確かめてみよう。幸い敵の強さはそんなでも無いけど、気は抜かないように注意して進もう」

「了解っ、今日はいつものハスキー軍団に加えて、ルルンバちゃんが張り切ってるからね。私たちの出番は、中ボス戦まで廻って来ないかも?」


 それはそれで良い事なのか悩むが、気にせず進む事にした護人である。そして3層へと到着、まだ潜って30分も経っていないと言うこのスピード感。

 そしてこの層もほぼ前のパターンを踏襲して、蹴散らされて行く敵モンスター達。この層からシャドウが、不自然な影溜まりに潜んで出現して来たけど。

 ツグミが慌てず対応して、この厄介な敵も随時処分して行く。


 そしてコロ助が、端っこに並んでいた細長ロッカーに反応。それを見た香多奈が、ミケさんをボディガードにそちらへすっ飛んで行く。

 目論見通り、ロッカーの1つから鑑定の書が3枚と魔玉(雷)が4個、ポーション500mlとMP回復ポーション600mlがペットボトルに入って出て来た。


 運が向いて来たよと、飛び跳ねて喜ぶ末妹ではあるけど。肝心のパチンコ玉は、ここまで降りて来て一向に貯まっていないと言う現状が。

 さっきそれを入れるための箱を見付けて、一応は追尾ロボのカートの上に乗っけてはみたモノの。中に入っている玉は、僅か18個と言う体たらく振り。

 香多奈がこの層でも、僅かだが発見してくれてその数である。





 ――果たしてこの先、ドル箱は順調に増えて行くかは全くの未確定。





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