第186話 ダンジョン探索が各チームとも上手く行った件



 何とか無事に“神社ダンジョン”から戻って来れて、ホッと一息付く間の間に。境内掃除で集めた針葉樹の枝葉を燃やして、焚火で暖を取りながら家族で談笑など。

 集めたごみの処理と、暖を取れるので一石二鳥だねぇとか話し合いながら。10層での中ボスドロップと、宝箱の中身チェックの確認など。


 まずはドロップだが、魔石(大)が1個と魔石(中)が3個、それからオーブ珠が1個と神楽龍の長大な髭みたいなのが1本。鬼と天狗からは、金棒が2本と錫杖が回収出来た。

 そして障子の向こうに置かれていた待望の宝箱は銀色で、中身もそれなりに豪華だった。中からは魔結晶(中)が6個に木の実が4個、薬品は中級エリクサー800mlとMP回復ポーション800mlが白い徳利の中に。


 それから目の細かい絨毯が1枚と、硯や筆や半紙の書道セットが出て来て。妖精ちゃんの話によると、朱色の絨毯と硯は魔法のアイテムらしい。

 今回も魔法のアイテムは多そうで、最初のドロップ渋いとの心配は全くの杞憂に終わってしまった。それから薬品類のドロップも、やたらと多かった気が。

 まぁその分、敵も強かったし厄介な仕掛けもあったけど。


「入る前もお祈りしたけど、ちゃんと帰りにもお礼しなきゃね……無事に戻って来れた事と、後はたくさんドロップ貰えた事もね」

「そうだねぇ、それじゃあまたみんなでお参りしてから帰ろうか?」


 そんな紗良の提案で、焚火の後処理を丁寧に行っての、最後に家族全員で感謝のお礼参りを。護人はついでに今年の豊作のお礼も行って、これで心もスッキリした。

 それからキャンピングカーに乗り込んで、愛しい我が家へと戻るだけなのだが。今回は宝珠は出たし、オーブ珠もスキル書も豊富で相性チェックが大変。


 宝珠に至っては、上級の鑑定の書を使ってスキル内容を確認してみたのだが。その結果、これを使用すれば《結界》と言う時空系のスキルを覚える事が可能らしい。

 それを誰が覚えるかで、家族会議は割と紛糾を見せ。姫香と香多奈は、まだ特殊スキルを1つも覚えていない紗良が良いと推しているのだが。

 こんな高価なモノは使えないと、紗良はそれを断固拒否。


「でもまぁ、後衛がピンチの時に防御系の魔法があれば、前衛の安心度がまるで違うからなぁ。家族的には、魔石販売とかの儲けでお金には不自由してないし、宝珠を売る事は無いよ。

 探索だけを重視して考えるなら、この特殊スキルは誰かに覚えて欲しいな」

「そうだよっ、これからウチのチームはギルドになってもっと大きくなって行くんだから! みんなの目標になる位に、ウチのチームは強くならなきゃ!」


 姫香の後押しの言葉はアレとして、護人の言葉にはそれなりの説得力は籠っていて。家族に押し切られる形で、紗良は流されるまま高価な宝珠の使用に踏み切る事に。

 そして律儀に、妖精ちゃんのちゃんと覚えたぞの言葉を貰って。これでめでたく、紗良も初の特殊スキルをゲットである。特訓して使えるようになろうねとは、姫香の言葉。


 その目は希望と野心に輝いていて、紗良も思わず頑張るねと押し切られる形での返答。それから他の大量のスキル書とオーブ珠は、残念ながら反応せず。

 その使い道だが、最近は青空市での売れ行きも渋いスキル書の類いである。それなら協会か企業に売る前に、キッズチームとゼミ生チームとに相性チェックを試して貰う事に。

 護人もそれを承諾して、これで戻ってからの用件が1つ増えた。


 そして恒例の妖精ちゃんの魔法アイテム選別だが、これが予想外に多い事が判明した。ってか、数えた所今回の手持ちの鑑定の書では、数が足りないことが判明。

 どうしようかと話し合うも、協会にも売ってないし手立ては浮かばない。そしたら香多奈が、他のチームで余って無いかなと妙案を出して来た。

 なるほど、そう言えば今回は別のチームも探索活動に出掛けていた。



 そんな訳で帰りに寄ってみたら、お隣さん2チームも全員無事に帰還していてまずは一安心。お互いの成功を祝いながら、探索の様子を窺う作業に時間を費やす。

 それから紗良や女性陣が、打ち上げの夕食パーティの準備をする為に席を外す中。来栖家の提案の鑑定の書の融通は快く受けて貰え、こちらも一安心。


 その代わりのスキル書とオーブ珠の相性チェックも、そのお礼だと言う事でスムーズに進む事に。その結果、隼人がオーブ珠に反応、妖精ちゃんによると《不屈》系のスキルを取得したそうな。

 スキル書に関しては、何と探索者の登録すらしていない和香が1枚掻っ攫って行ってしまった。それを制止出来なかったのはアレとして、素直に喜んでいるのは友達の香多奈のみ。

 穂積に関しては、お姉ちゃんズルいとむくれる有り様。


「和香っ、お前と言う奴は……何でそんな勝手をするんだっ!」

「まあまあ凛香姉ちゃん、そんなに怒らないでも……みんなが楽しそうにやってたら、和香だってついやりたくなっちゃうさ。

 攻撃系のスキルじゃ無かったし、そこは水に流してやれよ」


 妖精ちゃんの鑑定では、和香が覚えたのは『遠見』系のスキルらしい。それにしてもキッズチームでの𠮟り役は凛香だったのには驚きだ、それを宥める役が隼人なのも同じく。

 叱られた和香はションボリしていたが、香多奈や姫香の取り成しもあって、凛香の怒りも何とか沈静化して。その後はすぐに元気を取り戻し、いつか兄弟たちと一緒に探索するのを夢見る表情に。


 やはり自分と穂積だけ除け者にされるのは、本人たちも苦痛らしい。危険だと分かっていても探索に同行したい心理は、どうやら香多奈と同じみたいで。

 そう言われると、凛香も強く叱れなくなるのは当然で。結局は、その後すぐに始まった夕食パーティでその辺は有耶無耶になってしまった。

 そして賑やかに始まる、隣家での夕食会。


 簡単な料理ばかりだが、何よりチーム間での土産話は大盛り上がりを見せて。お互いに持ち帰ったスマホ動画を流しての鑑賞会、凛香チームもゼミ生チームも今日の探索は順当にこなせたようだ。

 動画でのシーンもまさにそんな感じで、危なげなく敵を駆逐して階層を降りて行く姿が映っている。キッズチームの方が結成しての月日の関係で、落ち着きがあるのはアレとして。

 ゼミ生2人と自警団の混成チームも、まずまずの探索振りを見せていた。


 もっとも、一番盛り上がったのは来栖家チームの6層以降の動画だったけど。レア種と見紛うばかりの強敵の出現に、動画を観ていた面々も思わず面食らう程。

 “かごめかごめ”の仕掛けと、10層の中ボスの動画もそれなりに盛り上がりを見せたけど。紗良と香多奈の洞察力には、凄いねぇと仲間からの評価もうなぎ上りに。


 そんな事をしてるうちに、食卓の料理も綺麗に無くなって。数時間に及んだお祝いも、8時過ぎにはお開きに。来栖家も鑑定の書を両チームから貰えて、これで無事に鑑定が行える事に。

 間引き依頼を無事終えた各チームは、こうして1日を終えたのだった。




 明けて翌日、協会への報告は他チームとがっちゃんこすると、時間が掛かるとの判断で。各チームで時間をずらして向かう事に決定、そして来栖家チームは午前の1番手となって。

 いつもの通りに、家族全員でキャンピングカーに乗っての移動である。換金とか動画依頼がメインなので、余り全員で行くメリットは無いのではあるが。


 いつの間にか、動画チェックを能見さんと一緒にする風潮が出来てしまい、今に至ると言う。主に褒めて貰ったり自慢をしたい香多奈は、毎回ノリが凄まじい。

 まぁ、円滑な協会との付き合いも大切かと、護人もこれを許しているのだけど。そんな訳で今回も、換金のお願いからの魔法アイテムのチェックを実践する流れに。

 しかし今回は、鑑定の書が足りなくなる程の多さである。



【子天狗の羽根】使用効果:回避up・永続

【天狗のお面】装備効果:激怒&ステup付与・小

【聖なるお札】使用効果:封印効果・1時間

【聖鶴の羽根】使用効果:敏捷&聖属性up・永続

【聖大亀の甲羅】使用効果:防御&聖属性up・永続

【聖大蛇の牙】使用効果:聖属性&毒付与・骨素材

【大麻(おおぬさ)】使用効果:呪い除去&幸運招来・大

【強化の巻物】使用効果:全耐性強化(白の魔石使用)

【魔断ちの神剣】装備効果:不折&封神・大

【神域の雫酒】使用効果:清浄の蒸留酒・秘薬素材

【清浄の赤袴】装備効果:不浄&ステup・中

【鳥居の結界】設置効果:結界効果・中

【龍の髭鞭】装備効果:裂傷攻撃・中

【温暖の絨毯】使用効果:温暖効果・中

【漆黒の硯】使用効果:無限墨汁・永続


【時空の宝珠】使用効果:使用者はスキル《結界》を習得


【清浄のポーション】服用効果:呪い除去&聖属性up・中

【上級エリクサー】服用効果:状態&疫病全回復・大



 今回は強化系の素材や巻物が多く出て、紗良もハスキー軍団の装備強化が出来ると嬉しそう。そして何気に、秘薬素材やら高価な薬品も幾つか回収出来ている。

 こちらは鑑定プレート(薬品)でのチェックで、前以て鑑定済みの宝珠の結果も念の為。《結界》のスキルは、既に前日に紗良が使用して習得済みである。


 案の定と言うか、使い方は良く分からないそうで要特訓案件ではあるけど。それを含めて、来栖家チームのパワーアップは順当に進みそうな気配。

 仁志支部長は、高級薬品と神剣に絶句の表情を見せている様子。姫香は『鳥居の結界』を指し示して、これが長時間の探索での休憩時に使う有名アイテムかなと納得顔。

 ちなみに、どれも売れば百万円は軽く超える価値なのだそうで。


「上級エリクサーは、現在100mlで80万円程度ですかね、滅多に出ないので競売に掛ければもっと上がる可能性も……秘薬素材は余裕で百万以上します。

 この神剣ですが、ひょっとしたら数千万以上行くかも……」

「えっ、そんな凄いのが混じってたのっ!? どうしよう、護人叔父さんが使う?」

「いや、俺は神様をやっつける気なんか、これっぽっちも無いぞ……?」


 魔法アイテムの説明文に、思いっ切りビビってるのは子供達も同様で。それは触れない事にしたようで、話題は巫女装束の『清浄の赤袴』に移行する。

 これを履く事を勧められた紗良だが、本人的には余り乗り気ではない様子。そんな訳で、良品装備がどんどんお蔵入りになって行きそうな気配。


 それを察した仁志は、軽く引きつけを起こしたような表情に。その頃にようやく能見さんが戻って来て、今回の換金結果を報告して来た。

 その顔も軽く引きつっていて、魔石(大)×8個と魔結晶(中)×5個が効いていたのだろう。4百万近い金額と、うっかり紗良もB級ランク突入との事態を招く事に。

 それを聞いて、紗良も顔面蒼白を引き起こしてしまった。


「やったね、次は私の番かな……今年中に護人叔父さんと紗良姉さんに追いつけるかなぁ?」

「いいなぁ、お姉ちゃん達……私も早くカード欲しいな、来年とかじゃダメ?」


 駄目に決まっている、小学生の探索者登録など冗談では済まされない。聞けば、凛香チームの小鳩や慎吾の登録の際も、結構協会で揉めたらしい。

 ただ広島市は、ストリートチルドレンの増加がかなり問題となっていて。その対策として、未成年の登録は随分と緩い規定になっているとの事である。


 そこから恒例の、動画チェックからの間引き依頼の報告会に移行して。香多奈が張り切って、能見さんに探索中の苦労話や自慢大会などを喋り倒し始めている。

 昨日も3チームで動画は観ていたので、護人などは結構飽きが来ていたのだが。子供たちはそうでも無い様で、あれこれと動画の中の説明に忙しい様子。


 そしてやっぱり、6層の大型モンスター同時3体湧きには、仁志支部長も能見さんも絶句した様子で。子供達ですら、この時は凄く冷や冷やしたよねぇと冷静に戦闘を振り返っている。

 護人にしても、ダンジョン探索では何があるか分からないと、改めて再確認出来て良かった。紗良の言う装備強化も、姫香が実践している日頃の特訓もどちらも大事。

 香多奈の探索を楽しむ心は、必要かどうかは不明だけど。





 ――どの道ダンジョンがある限り、誰かが探索に潜る必要はあるのだから。






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