第100話 姫香の誕生日会が催される件



 協会案件の探索が無事に終わった次の日、それなりの収入があって子供たちも嬉しそう。護人の教育方針としては、働いた分のお金はしっかり子供も受け取るべしで。

 とは言え最近は儲けの単位が大き過ぎるので、しっかり護人が管理している。特に香多奈に渡すお金は、数千円をお小遣いにして後は貯金に回す事にしている。

 それでも少女から、別段に文句は出て来ないけど。


 時折貯まった貯金額を眺めて、ニンマリするのが香多奈の趣味であるらしく。そう言う意味では楽しみも一際のようで、まぁ何よりである。

 とは言え、朝からの家の仕事もきっちりと手伝ってくれる、何とも農家慣れした末妹。家畜を飼っている農家の宿命とは言え、仕事は毎日必ず存在する。

 それでも毎朝の早起きに、文句も言わない働き者の少女である。


 元々、動物が好きな子なので、牛やヤギの世話が苦にならないらしい。そっち関係で言うと、夏休みの観察日誌での鶏の卵の孵化作業は無事に成功して。

 可愛いヒナが、全部で4羽ほど誕生する事に。


 これには大喜びの少女、護人に頼んでスマホで動画を撮って、友達に見せびらかしに麓に向かう始末。その後に植松の爺婆の家にお邪魔して、夏休みを満喫している模様である。

 それは良いのだが、じつはそろそろ姉の姫香の誕生日が迫って来ている案件が。末妹は何か誕生日プレゼントを用意しようと、色々と画策して裏で動き回っていたり。

 何しろ叔父の護人に任せると、サプライズとは無縁なのだ。


 それはともかくとして、前回の協会で行った鑑定の結果報告がまだ途中だった。今回は目玉商品も多いし、変わりモノの品も多いと言う結果に。

 香多奈などは、こっそり『獣の尻尾』を持ち出して遊んでいたけど。



【獣の尻尾】装備効果:身体能力up・小

【白木のハンマー】装備効果:物理破壊・大

【白刃の木刀】装備効果:切断&鋭刃&伝播・大

【幸運の絵馬】設置効果:幸運度up・永続

【鑑定プレート】使用効果:薬品専用・永続

【聖樹の杖】装備効果:使用者の魔力補正・大

【帰還の魔方陣】使用効果:ダンジョン外への即時帰還・全体

【聖樹の樹液】使用効果:万能オイル・秘薬素材

【鬼面】装備効果:ステータス全up・中

【木独楽】使用効果:時刻告知(10min~60min)

【鍵の魔方陣】使用効果:異界への通路を開く・永続



 この中で、文句無しの大当たりは『鑑定プレート(薬品)』と『聖樹の樹液』だろうとの仁志支部長のお墨付き。どちらも売れば、数百万の値が付くそうで。

 勿体無いので売らないけど、鑑定プレート(薬品)は末永く使いそうな気配。何しろ紗良が新しく取得した『解読』スキルで、錬金レシピが次々と判明して行ったのだ。

 試作品がどんな性能なのか、プレートがあれば試し放題である。


 そして『聖樹の樹液』も、以前に拾った『ガマの油』と同様に厳重に保管しておく事に。紗良が管理してくれるそうで、その点は安心なのだが。

 つまりはコレも、超高級薬品の原材料なのだそう。


 拾った錬金レシピ×3冊は、どうもポーションなどの初級レシピばかり書かれているそうで。高級素材の『聖樹の樹液』や『ガマの油』などは全く出て来ないそう。

 本人は薬品の製作に乗り気なのに、素材の集まりはかんばしくないそうである。


 前回の“樹上型ダンジョン”では、木の実のドロップが通常の2倍以上あって。その中に素材となる実は、ほんの少々しか無かったのだ。

 後は以前から入手していて馴染みとなったステアップ系の木の実ばかり。唯一『エルグの魔種』と言う名前の木の実だけが、どうやらこれがMP回復ポーションの素材になるらしい。

 今の所、錬金レシピの素材で判明しているのが、これだけと言う。


 それから色んな階層で何種類かの種&苗をゲットしたので、護人はこれを試しに育ててみる事に。恐らく温室も使っての、冬の間も育成する勢いである。

 燃料は掛かってしまうが、ポーション類を自宅で作製出来れば完璧に元は取れる筈。ルキルの苗の育成成功で、割と自信を得た護人はこの育成を姫香と計画して。

 温室の改善から、種蒔きまで夏の間に進めてしまった。


 ちなみに同じく今回のダンジョンで得た虹色の果実2個だけど。今回は絶対に後衛で食べたいと、香多奈が我が儘を騒ぎ立てるものだから。

 秋冬野菜の植え付けの手伝いを頑張るのを条件に、香多奈と紗良で食べる事に。上機嫌の末妹だけど、姉の姫香はやや批判的に家長の甘やかしを眺めていた。

 姫香はやはり、妹より護人のパワーアップを望んでいる様子。


 それから鑑定済みの武器や防具だけど、魔法の品が割とズラリと並ぶ結果に。とは言え使う予定も無い品は、売るか家族の予備に回すしか無い訳で。

 そこら辺は協議中だが、装備に関しては何故か紗良が使う案が急浮上して来た。前回のアスレチックコースでかなり手間取ったので、ステアップ系の装備に頼ってみればとの提案が、妹の香多奈からあったのだ。

 そして更なる提案を受けて、厩舎裏の訓練場が大変な事に!


 小型ショベルに変身したルルンバちゃんの協力を得て、何と訓練場に木材を持ち込んでのアスレチックコースが。護人も割と乗り気で、現在丸太の一本橋や切り株の飛び石コースが完成を見ている。

 その他のコースも、時間を掛けて作って行く予定で。香多奈などは嬉しそうに、毎日それで遊んでいる。紗良に限っては、作って貰った手前真面目にコースに取り組んでいるけど。

 是非とも苦手克服に、精進して貰いたいモノである。



 ちなみに今回のスキル書だが、3枚ドロップしてその内の1枚を紗良が習得出来た。スキル内容は『解読』と言って、何と海外の言語も異界の言葉すらも、本に書かれている言葉を理解出来てしまうスキルである。

 残念ながら、妖精ちゃんの話す言葉には適用はされなかったけれど。家にあった錬金レシピの記載は、バッチリ解読が可能となって。

 レシピの内容も、ほぼ理解出来たのは大きかった。


 何しろこれで妖精ちゃんの補助役となって、素材さえ揃えれば薬剤の加工が可能な体制が出来上がったのだ。護人とも話し合って、ダンジョン産の種の育成も温室で始めているし。

 ひょっとしたら、将来は便利な薬品の製造が来栖邸で可能になるかも。夢は膨らむが、まだまだ素材は全くと言って良い程に揃っていないのだ。

 期待し過ぎず、地道に頑張って行こうと思う紗良だった。


 残った良く分からないアイテム『幸運の絵馬』は、家族の揃うリビングに飾る事に。幸せを招く招き猫の置物よりは、魔法の品だし効果はあるかなって感じである。

 『帰還の魔方陣』は確かに便利だが、効果が本当にあるのかは疑問である。まぁ、深く潜り過ぎて帰り道が分からなくなったとか、そんな時には便利かも。

 最後に『鍵の魔方陣』だが、これだけは本当に意味不明。


 協会の支部長の仁志も、全く聞いた事が無いらしい。万一、本当に異界に通路が繋がったとして、その後どうすれば良いのだろう?

 ひょっとしたら、ダンジョンを作れる鍵じゃないかなとの末妹の推測に。それって嬉しがる人はいるのかなと、姉の姫香のツッコミ。

 とにかくこれは、封印案件と結論付けて。


 2枚出た強化の巻物は、赤の魔石の上物が無かったので今回は保留の形に。これで大体、前回のダンジョンのアイテム整理の流れは片付いた。

 最後に出た、香木だけはちょっと扱いが難しくて。護人が試しにと、リビングで破片を削って焚いてみたのだが。何とも落ち着く高貴な香りに、家族どころか妖精ちゃんも気に入ってしまって。

 これを売るのは勿体無いと、何となく家族所有になりそうな雰囲気。


 こんな場合は、護人の意見より子供たちの方が立場が上になってしまう。何しろ数が多いし、おませな女の子集団で口が達者な面々だし。

 どの道、お金は他で稼げば良いのだ……スキル書とか、売ってない魔石やポーションも結構貯まって来ているし。大柄なサイズの魔石や貴重な薬品は、軒並み売らずに保管してあるのだ。

 何故なら、今後家族で必要になる場面があるかもだし。


 現在は赤とか青の魔石が、強化の巻物に必要だと分かっているのみ。後は透明な魔石が、魔人ちゃんの召喚の燃料に必要だと判明している位である。

 エリクサーに関しては、中級だと胃潰瘍や内臓疾患をほぼ一瞬で治療してくれるそうだ。上級だと癌やアルツハイマーも治せるとの噂、その代わり取引額も馬鹿みたいに高くなるけれど。

 そんな感じで、長く掛かったアイテム報告は終了。




 そして姫香の誕生日当日、とは言え秘かに企画とかは無理な相談で。何しろ家族全員が家にいる状態なのだ、隠れて何かを遂行するのは完全に不可能である。

 そもそも、来栖家にサプライズ誕生会なんて概念は存在しない。いつもケーキの類いを夕食に用意して、護人が欲しい物を訊ねて購入すると言う。

 何とも実用的なお祝いが、この数年は続いていて。


 それを聞いた紗良は、それなら誕生日会のお料理を豪華にしようとお昼から大張り切り。既にプレゼントを用意している香多奈も、それをお手伝いして。

 裏庭を走り回るハスキー軍団も、この日ばかりは三角帽を被らされてお祝いムード。まぁ、彼女たちはこの装備は何の為なの? などと思っているかもだが。

 とにかく夕食の誕生日会に向けて、大張り切りの子供達。


 何故か当人の姫香も、夜からのバーベキューの支度を手伝っている始末。ケーキを購入済の護人だけが、蚊帳の外と言う悲しい結果だけど。

 それでも夕方過ぎに、ようやく呼ばれて家族での誕生日会は無事に開催された。お誕生日席に座らされた姫香は、妹の造った花や帽子の飾りでハッピー色満載である。

 寄って来たハスキー軍団やミケ達も、美味しいモノ目当てで楽しそう。


「それじゃあ、今日は香多奈が司会をやってくれるかな……飾りつけも頑張ってくれたそうだし、何しろ盛りあげ隊長だもんな」

「いいよっ、それじゃあ……姫香お姉ちゃん、ケーキ入刀からねっ!」


 その言葉に、容赦なく拳でツッコミを入れる姫香である。ブー垂れながらも、末妹がお誕生日おめでとうと音頭を取って。それから護人が乾杯の合図と、取り敢えず食事会は順調にスタートを切って。

 バーベキューを楽しみながら、香多奈の適当な司会進行で。ハイっと唐突なプレゼント渡し、中身は花火セットらしい。アンタ自分がやりたかっただけでしょと、姉は不満そうだが。

 8月の終わりを締めるには、まぁ良いかもねと取り敢えず例を述べる姫香。


 紗良のプレゼントは、手作りのネコの縫いぐるみだった。ミケがモデルで風貌や色合いはそっくり、そして可愛い衣装を着込んでいる。

 姫香はそれを受け取って嬉しそう、妹からは似合わないよねと言われたけれど。香多奈を拳骨で黙らせて、ミケと縫いぐるみを一緒に膝に抱いて、今日の主役はご機嫌である。

 そしてバーベキューを食し終わった一行は、デザートに取り掛かる。


 妖精ちゃんは大張り切りで、机の上のケーキと来栖家の農園でとれた西瓜スイカを交互に口にしている。他のみんなも、幸せそうに甘味を楽しんで。

 そんな中、護人は今日の主役に対して、プレゼントは何が良いかのお伺い。護人の考えでは、運転も覚えたし車を買い与えても良いかと思っているのだが。

 姫香はそんなの贅沢過ぎると、その提案を拒否。


「贅沢過ぎるよ、護人叔父さんっ……名刺を作ったお金だって、結局護人叔父さんが払ってくれてたじゃん!

 そこまで甘えられないよ、最近は私も結構お金を稼げてるんだから」

「探索のお金は、あまり収入の当てにしないようにな。まぁ、当面は月に1~2回は潜る事になりそうではあるんだが。

 協会の人の話にもあるように、長く続ける仕事でも無いしな」

「でも探索関係のイベントで、最近は新しく友達とかも出来てるし。悪くは無いんじゃないかな、香多奈が付いて来てる事も含めてさ。

 犬達も生き生きしてるし、家族の絆も強くなって来てる気がするし」


 そうかも知れない、逆境は人を強くするとよく言うけど。家族総出でダンジョン問題に当たった結果、家族全員とその絆の強化に成功した感はある。

 その副作用で、うっかり町の治安まで担う破目に陥ったのはアレだけど。人生って儘ならないモノ、余計な任務まで背負い込む事になったのが現状である。

 まぁ、子供たちが全く苦にしていないのが有り難くはある。


 今は夕刻で、山の上からの素晴らしい夕日の沈む瞬間の情景を眺めながら。紗良が惜しみなく、入手したばかりの香木を焚いて雰囲気作りなどしちゃったり。

 香多奈が早く花火したいねぇと、夏の終わりの企画を楽しむ気満々の発言。結局は護人からの誕生日プレゼントは決まらず、保留で欲しい物が決まった時に強請ねだる形に。

 有耶無耶になったけど、欲しい物がすぐに決まらないのだから仕方がない。


 一緒に食事を楽しんだハスキー軍団も、腹が脹れて満足そうにご主人の周囲で寝そべっている。妖精ちゃんも同じく、豪華なケーキと西瓜を食べ散らしてお腹がパンパン状態。

 気の早い香多奈が、そろそろ良いかなと自分で姉のプレゼント用に買った花火の準備。それを呆れて眺めながらも、一緒に楽しむ気満々の姫香である。

 穏やかに過ぎる時間と、一瞬の刺激的な閃光のハーモニー。





 ――こうして本日の主役は、皆から祝われて楽しい時間を過ごしたのだった。







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