第79話 ようやく我が家へ戻って安心する件



「わわっ、意外と大きい店舗だぁ……お土産用のお菓子とかも置いてるじゃん! と思ったら、武器や装備もコーナーあるしっ。

 これは下手な装備店より、品数あるかもねっ?」

「……ウチの地元の協会とは、まるで比較にならないな」

「本当にそれっ、これは凄いっスねぇ……今は田舎の方が栄えてるって大人は言ってるけど、この光景見たらそんな事も無いって思っちゃうっスよ!」


 姫香の第一印象の絶叫に、陽菜とみっちゃんも素直に追従してくれて。これはお土産探しがはかどるぞと、早速特攻かけて品物を漁り始める一同。

 紗良もここなら、ペットの装備に転用可能な布地が売ってるかもと大張り切り。思い思いの売り場を眺めては、これは凄いと盛り上がる女子チームである。

 何しろ、100万以上の魔法の鞄もケースの中に置かれている。


 これは買えないけど欲しいよねと、陽菜も商品を眺めて羨ましそうな表情。さすがの姫香も、ウチには2つ探索で入手したのがあるとは自慢出来ない。

 そう言えば、ホームで絡んで来た不良も魔法の鞄を欲しがってたっけ。そんな事を思っていたら、紗良がようやくお目当ての品を探し当てた模様。

 声を上げて、青い布地を握りしめて興奮している。


 それは商品の説明文によると、『清快布』と言う名前らしい。特殊な魔法効果こそ付属してないが、耐久値には優れているようだ。しかも最初から2層構造になっていて、肌の当たる内側は柔らかいメッシュ生地が使用されていて超お得。

 探していたイメージにピッタリの品な上、値段も2万円台とお手頃(?)である。恐らくは大した魔法の付加は無いのだろうが、それはこちらで処置すれば良い。

 そんな訳で、紗良は迷わずそれを購入する事に。


「紗良姉さん、この箱のお菓子セットは爺ちゃんの所とか、後はご近所なんかに配る用に幾つか買っておこうよ。

 香多奈には、これだけだときっと怒るから他のも買い足そうかな?」

「そうだね、後は協会の能見さんとかにも、普段から地味にお世話になってるし……そっちは、私がお金出すね?」

「へえっ、モンスター型のクッキーとかっスか! 私も買おうっと♪」


 みっちゃんも陽菜も、クッキーのお菓子セットはお土産に買って帰るみたい。その頃には、他の研修旅行の参加者も物販コーナーに散見されるように。

 姫香や紗良みたいに、はるばる地方から出て来た者も多いのだろう。熱心に買って帰る品を、眺めている姿もあちこちで見受けられる。

 姫香は護人叔父さん用に、コーヒーセットを購入する様子。


 そんなのもあるんだと、お土産コーナーの一部はちょっとした盛り上がりよう。陽菜が買い物かごを見付けて来てくれて、姫香が有り難くそれを拝借している。

 本当に仲良くなれたなぁと、紗良は姫香のコミュ力の高さに内心で感心する。思えば自分が居候を決め込んだ時も、すんなりと受け入れてくれた気が。

 それは前衛能力以上の力だと、紗良は感服しながら思う。


「……おっ、これは凄く良いな。4万円か、ちょとお高い気もするが。姫香、ちょっとこれを見てくれ……ポーションホルダーって言う商品らしいか、どう思う?

 前衛的には、持っておきたい品だと思うんだか」

「へえっ、薬品を小分けして入れておくプラスチックの瓶が収納出来るベルト……? 凄い便利そうだね、確かにちょっと高いけど。

 確かに怪我し易い前衛は欲しいよね、紗良姉さんに頼めば造って貰えそうだけど」


 それを聞いて紗良も商品の目利きに参戦、それは丈夫な革製品のベルトなのでお高くなっている様子。布製ならお手頃価格で収まりそうだから、後衛用はそれで良いかも知れない。

 ただし、小分け用のプラ瓶はたくさん欲しいかも。小ボトルと中ボトル、どちらも商品棚には置かれていて、蓋の色で使用者が見分けられるように工夫されていた。

 みっちゃんと怜央奈も寄って来て、これは欲しいかもと話し合うも。


 結局買えたのは、姫香と陽菜の2人のみ、みっちゃんはお金が足りなくて諦める破目に。紗良が戻ったら布で試作してみて、出来が良ければ皆にプレゼントするよと約束して。

 ほのぼのとした雰囲気のまま、買い物タイムは終了。他にも装備品などに、良さそうな物はあったのだが。それこそ値段が跳ね上がっていて、購入は見送る事に。

 そんな買い物で30分余り、各々満足して建物を出る。


 すぐそこの通りに路面電車が通っているので、交通の便もすこぶる良い市内の立地である。広島駅まで歩いても30分掛からないので、そちらを選択するも良し。

 すぐそこにアーケード通りもあるらしいし、平和公園や広島城も近いと怜央奈は口にするのだが。姫香と陽菜は真っ直ぐ帰る派で、家の遠いみっちゃんも観光に時間を掛けるのに尻込みしている感じ。

 そんな訳で、素直に電車で広島駅に向かう事に。



 異変に気付いたのは、皆で話しながら目的地行きの路面電車へ乗った際だった。紗良が鞄に吊り下げていたランプから、半透明の小人サイズの魔人ちゃんがスルッと彼女の耳元に出現して。

 あらかじめ決めていた、危険察知の合図を発して指で隣の車両を指差して来る。それに反応したのは、隣に立っていた姫香だった。素早く顔は動かさず、視線だけで周辺のチェック。

 なるほど、魔人ちゃんが反応したのは例のヤンキー連中らしい。


 奴等は5人固まって、こちらを気にしながら隣の車両でたむろっている。偶然を装っているが、手には目立たない程度の武器を所持していて。

 陽菜やみっちゃんも布に包んで持ってるし、この時代では別に珍しい事ではない。胡乱な目で見られはするが、探索者は地域を守る集団だとの認識はどこの町でも芽生えているのだ。

 だからと言って、道を踏み外さない輩が全くいない訳では無いのだが。


「紗良姉さん、ホームで絡んで来た不良たちが隣の車両に乗ってる。気付いたのを察知されないで、自然に振る舞ってて……ゴメン、怜央奈はスマホで撮影してくれる?

 みっちゃんは、貰った名刺で淳二さん呼び出して。多分間に合わないだろうから、迎撃はウチらでやるよ。それが嫌なら、別の方法考えるけど。

 どっちにするか、後5分で答え出そう」

「無論、返り討ちの方だ……チームを分けておとりになるとか言うなよ、姫香? 数が同じなら、勝つのは私達のチームに決まりだ」


 陽菜の自信に満ちた返答に、大きく頷くみっちゃん。怜央奈も証拠提出の為の撮影をさり気なく開始して、みっちゃんは皆の影に隠れて昨日のサポート役で仲良くなったB級探索者に電話を掛けている。

 現状で取れる精一杯の対応だが、そんな事をしてる間に電車はあっという間に終点の広島駅へ。ゆっくり降り立つ面々は、緊張しながらも次の展開に身構える。

 先頭で降りた姫香は、皆を人気のない方向へと誘導。


 駅のホームで乱闘も考えたが、万一列車の中まで着いて来られたら厄介だ。チームの帰りのホームもばらけているし、個別に襲われたら目も当てられない。

 嫌な臭いはキッパリ根元から断ち切ろうと、起こした行動はしかし思いもよらない方向へ。予定通りにこちらの後をつけ始めたヤンキー集団と、もう1つの団体が駅の中から。

 それに気付いたみっちゃんが、ビビりながら姫香に報告する。


「ビビんないで、多分連中の半分は探索経験の無いただの町のヤンキーだから。私達だったらワンパンで倒せるし、怜央奈の目潰しで半分は行動不能に出来るよ。

 ただし、向こうも何かしらの厄介な奥の手を持ってるかもだから、それだけは気を付けて」

「了解、私が姫香のサポートに回る……みっちゃんは後衛のガードで、近付いて来た奴らには容赦せずに一発食らわせてやれ。姫香、何かいいサブ武器持ってないか?

 みっちゃんに、何か手頃な奴を渡してやってくれ」


 陽菜の問い掛けに、暫し考えた姫香は魔法の鞄の中のシャベルを思い付いた。アレなら鍬より殺傷能力は低いし、腹の部分で殴れば威力は充分だ。

 それを聞いて、紗良が鞄から2本のシャベルを取り出して姫香とみっちゃんへと配布する。陽菜は鞘を抜いてない刀を既に手にしており、それで戦う構えの様子。

 後ろのヤンキーは、2グループが合流して10人の大集団に。


 そして広島駅の新幹線の高架下で、向き合う2組の集団。相手の不良軍団はニヤケ顔が半分、興奮して目が血走ってるやからが半分といった所。

 唯一、冷酷な顔の赤髪リーダー格が、例外で冷めた表情だろうか。冷めたと言うより、今から相手をする敵の戦力を冷静に分析している感じ。

 向こうも容赦なく、各々が手に武器を構えている。


「おいおい、今から襲われるってのにこんな人気のない場所に向かうって……ちょっと戦えるからって、いい気になり過ぎてるんじゃね?」

「おい、後ろの奴がスマホで撮影してるぞ……? ひょっとして証拠用かよ、姑息な事を考えつくよなぁ!」

「まあまあ……犯られてるところを撮影されても、これでお互い様って事じゃね? しかし得物がシャベルかよっ、田舎出の奴はオモロいよなぁ!?」


 そして巻き起こる笑い、どうやら連中のほとんどが姫香たちを侮っている様子。連中の大半がブラックジャックやナイフなどの接近戦の武器で、長物は研修に参加していた5人の探索経験者だけみたい。

 構えからも凄みを感じる者はおらず、侮りは何より好機である。リーダーの赤髪が、誰よりも先に何かを放つポーズを取った。その隣で、長髪のチャラ男も続いて何かを放る構え。

 魔法のようで、炎の玉と光のもりがそれなりの速度で飛んで来た。


 それを両方、シャベルで完璧に叩き落とす男前の姫香。驚くヤンキー軍団の術士と、それに構わず突っ込んで来る雑兵ヤンキー軍団が数名。

 その人数を見て、『身体強化』を作動させる姫香。物凄い踏み込みとスイングで、前に出た2人の男は派手に宙に浮いて後方へと吹っ飛んで行った。

 シャベルの威力、侮るべからずである。


 それを確認しつつも、怒号と共に突っ込んで来るヤンキーも多数。まだ向こうの方の人数が多いので、勢いに乗ってるのは当然なのだが。

 その先頭を怜央奈の閃光が襲い、あっという間に視界を潰されての戦力外が、多数発生するザマだったり。その好機に突っ込んで行った姫香と陽菜、相手への急所攻撃で人数減らしを素早く敢行して。

 怒号が絶叫に変わって行き、あっという間に向こうの戦力は半分以下に。


 見兼ねた赤髪のリーダーが、再び炎の玉を飛ばして来た。それを姫香はひょいッと避けて、反撃のフルスイングの一撃から沈んで行く敵のリーダー。

 その頃にはヤンキー軍団の残りに焦りが見え隠れ、手段を問わずの戦法で襲い掛かって来る始末で。人海戦術で弱い奴からと、前に出ていた陽菜が的にされた模様。

 3人の野郎に跳び掛かられ、身動きを封じられる少女。


「陽菜っ……! みっちゃん、ヘルプお願いっ!」

「おいっ、下手に動くとコイツの目ん玉くり抜くぞっ!?」


 圧し掛かっていたのはアロハデブで、茶髪チビの不良がジャックナイフを陽菜の顔に向けていた。ちょっとしたピンチだが、姫香は側にいた長髪チャラ男の頭に容赦なくシャベルを叩きつけて、戦闘不能へと追い込んで行く。

 助けに行こうとしたみっちゃんも、たたらを踏んで急ストップ。まさか仲間が、向こうに人質にとられるとは思っていなかった様子。

 ところが姫香は、闘いのノリを飽くまでキープ!


「陽菜っ、仲間を信じてっ……!! 目ん玉だけは守って、とにかく抗って! そしたら紗良姉さんが、綺麗に治してくれるからっ!」

「心配無用っ、これくらいの危機などっ……!!」


 姫香の言葉に、どうやら踏ん切りがついたのだろう。陽菜は目の前に晒されたナイフを素手で鷲掴みして、唸りを上げながら何やら隠しスキルを発動させた模様。

 少女の小柄な身体が倍に膨らみ、銀色の体毛が生え始めたと思ったら。唸り声は獣のそれに、《獣化》と言う形容がピッタリの変化を起こしたと思ったら。

 圧し掛かっていた不良共を、あっという間に血祭りに。


 伸びた爪とその腕力は、下手な武器の所持など不要な様子。その変化に気付いたみっちゃんも、雄叫びを上げながらサポートにと突っ込んで行った。

 その頃には、姫香の周囲の趨勢すうせいはほぼ決していた様子。大勢いたヤンキー連中だが、大半が呻きを上げながら全て道路に倒れている始末である。

 もっとも、一番手酷い目に遭ったのは、陽菜に無体を働こうとした輩だったが。




 みっちゃんのスマホにはしっかり返信が来ており、10分後には淳二は仲間と共に車で駆けつけてくれた。その頃にはすっかり仲良くなった女子チーム、また会おうねとか遊びに行くねと、別れと再会の約束の言葉を済まし終えていて。

 彼への説明と証拠映像の提示は、地元の怜央奈がやってくれるとの事で。遠征組は、改めて広島駅のホームで別れを告げて列車に乗り込む。

 何しろ田舎の路線は、乗り遅れると次までの待ち時間が大変なのだ。


 陽菜とみっちゃんは山陽本線の上りへ、姫香と紗良の姉妹は可計線へと乗りこんで。姫香はすかさず、護人叔父さんのスマホに「今から帰るよ!」とラインを送る。

 それから行きと同じ時間を掛けて、愛しの我が町へと辿り着いた姉妹は。駅まで迎えに来てくれていた家族と合流、たちまち数日の別離の隙間を埋める作業に。

 笑顔とお喋り、互いに会えなかった日々の確認作業。


 ハスキー達も嬉しそう、車から出て来て姫香と紗良の周囲をぐるぐる回っている。護人はせっかくだから、このまま外食に行こうかと子供たちに提案して。

 香多奈が一昨日も外食に出てお好み焼きを食べたんだよと自慢を始めて。アンタだけずるいと、姫香の良く分からない理論で今夜の夕食も同じお店に向かう事に。


 広島県民のソウルフードなので、連日になっても別にいいかと香多奈もあっけらかん。帰りは私が運転するから、護人叔父さんは晩酌していいよと姫香がすかさず提案して。

 それから怒涛どとうの如く、研修旅行であった出来事を話し始める姫香と紗良。友達も出来たし実習訓練でダンジョンにも潜ったよと、彼女たちの土産話は止まる事を知らない勢い。

 香多奈も貰ったばかりの野球ユニフォームに、早速袖を通してご機嫌な様子。





 ――土産話に不良との乱闘騒ぎは避けようねと、目と目で合図する姉妹だった。








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