第76話 来栖家に残ったメンバーで、探索に赴く件
身内でダンジョン探索をすると言う約束に、マッハで機嫌を直した末妹の香多奈。日和ってしまった護人は、反省しつつも次の日の朝を迎えて。
まぁ、本当に独りでハスキー達を連れて、こっそりダンジョンに潜ってしまう危険性もあった訳だし。それを考えると、仕方の無い判断だったかなと考え直して。
朝の業務をこなしながら、今日のスケジュールを脳内
家畜の世話などの通常業務を、香多奈に手伝って貰いながら全てこなして。午前中の空いた時間に、やっておきたかったキャンピングカーの内外の清掃など。
これも香多奈が全面的に手伝ってくれて、ここだけ見れば本当に良く出来た子供である。但し大張り切りの原因は、恐らくは午後に待つイベントの為だろう。
そもそも、この間の探索であんな怖い思いをしたと言うのに、よく再び潜る思考になったモノだ。ところがツグミもコロ助も、午後から探索に出掛けると知ってハイテンションに。
昨日仕事で、護人の付き添いで潜ったレイジーすらも嬉しそうと言う。
「叔父さんっ、ルルンバちゃんを納屋に連れて行って、武装させてあげて! それから魔法の鞄が両方無いから、大き目の袋を用意しといてね!
ミケさんの機嫌はどんなかな……ああっ、忙しい!」
昼食を食べ終わって、そろそろ準備をしようかと護人が口に出した途端に。何と言うか、凄い張り切りようで他の事情だったら微笑ましいのだけど。
それでも、ようやく治った末妹の機嫌を損ねるのも悪手だと、言われた通りにルルンバちゃんを納屋へと連れて行く護人。彼も上機嫌な様子で、早速の外での自由を得て走り回っている。
何と言うべきか、ダンジョンは決してアトラクション施設では無いのに。
それでも10分後には、完璧に支度を終えて超ご機嫌な香多奈の先導の元。この付近では一番難易度の低いと思われる、鼠ダンジョンへと
メンバーは護人と香多奈、それからハスキー軍団全員とミケとルルンバちゃんである。それからもちろん妖精ちゃんも一緒、魔人ちゃんは姉妹と一緒に広島市内に出張中だ。
でもまぁ、鼠ダンジョンならこのメンツでも平気そう。
「いいか、香多奈……前衛はハスキー軍団に任せて、絶対に前に出ない事。今回は俺も後衛まで下がるからな、探索中の我が儘も無しだぞ!?」
「分かってるよ、叔父さん……ルルンバちゃんもたまには前衛やりたいって、それ位ならいいでしょ?
ミケさんはどうしたい、抱っこしてあげようか?」
ミケは自分で歩くようだ、鼠と聞いて野生の血が騒いでいるのかも。とにかくそんな感じで隊列は決定、護人もハスキー軍団に好きにして良いと無礼講の特例を下す。
大喜びのレイジー達だが、それでも入場までは護人達の側を離れなかった。そしてダンジョンに突入した途端に、嵐のように飛び出して行って。
遅ればせながら、それにルルンバちゃんが続く。
「……ああっ、ルルンバちゃんの獲物は残ってるかなぁ?」
「無いかもなぁ……それより今回も撮影してるのか、香多奈? 下手したらモンスターの姿、1匹も撮影出来ないかも知れないぞ。
楽でいいのかな、まぁハスキー軍団のストレス解消には丁度良いかも?」
ストレス解消と言うか、運動不足の促進と言うか。戦闘経験を見込むには、敵が少し弱いかも知れない。2人のすぐ前を歩いているミケは、その辺には頓着せずに呑気な足取り。
或いは今回は勝手に動き回るハスキー軍団の代わりに、ボディガードを気取っているのかも。ぴったりとした位置取りで、そう思うと頼もしくも感じてしまう。
そして程無く、1層の突き当りに到着する一行。
「突き当りの部屋には何も無かったねぇ、叔父さん。敵もいなかったから、本当に歩いてるだけだったよ。レイジー達ってば、張り切り過ぎじゃ無いかな?
本当に、撮影の盛り上がりとか一切無いよ……」
「まぁ、こうやって階段前で待っててくれるだけ有り難いよな。おっと、魔石を拾ってくれて有り難う、ルルンバちゃん。
さて、階段を降りる手伝いをしなきゃな」
タイヤ使用のせいで、階段の上り下りが苦手な彼の補佐をこなす護人。撮影の一番の盛り上がり風景がコレって、やっぱり寂しいなと香多奈も思ってしまう。
そこでお願い、ハスキー軍団に向けて、ルルンバちゃんにも獲物を残しておいてあげてと。理解してくれたのか、尻尾を振って応える3匹であった。
そして2層攻略へと、再び突き進む自由な狩人たち。
今度は少し急ごうと、護人を急かしてルルンバちゃんの後を追う少女。そして今度こそ、カメラでの戦闘風景の撮影に成功……なんて、大層なモノでも無いのだが。
絶好調で、チェーンソー攻撃で大ネズミの群れを蹴散らして行くルルンバちゃんの勇姿。はっきり言って、子供に見せられる情景では無かったけれど。
倒される端から魔石に変化して行くから、ギリギリセーフ?
「いいぞっ、ルルンバちゃん……やっぱり草刈り機モードだと、雑魚とか簡単に蹴散らしちゃえるねっ! それを踏まえて、今後の改造計画を練らなくちゃ!
お姉ちゃん、早く帰って来ないかなぁ……」
香多奈的には、アレも全然ありらしい。その上、更なる強化計画を、姉の姫香と画策しているっぽい。確かにお掃除ロボ改め乗用草刈り機の戦闘力は、後衛に置いておくには惜しいかも。
今回も護人としては、荷物運びに頑張って貰えればみないな期待値しか無かったのだけど。強力な武器を搭載すれば、ひょっとして家族チーム1番のアタッカーに化ける可能性も。
いやしかし、そんな都合良く行くものだろうか?
こちらで探して与える武器次第なのかも、例えば護人も候補に考えたボウガンとか。強力なそれの一撃は、車の装甲すら簡単に貫通するそうだ。
考える余地はあるのかも、少々お金は掛かるだろうけど。
とか思っていると、いつの間にか2層も踏破し終えていた。ツグミがどこからか拾って来たのか、ペットボトルに入ったポーションを咥えて護人に差し出して来る。
3匹の中では、彼女が一番器用と言うかアイテム収集癖が強い感じを受ける。最近は『闇縛り』スキルを上手に使って、小さな魔石まで収集してくれるし。
それを受け取った護人は、
この辺は、いつもは紗良がしてくれていて、護人はあまり得意では無かったけど。何とか瓶へと移し替えて、それから3層へと皆で降りる。
そしてこの層から戦闘はやや派手さを増して行く、何しろ敵に大蜘蛛が混じって来るから。天井付近にいる奴は、レイジーが『歩脚術』と『魔炎』を使って器用に駆逐してくれていて。
その姿は、既に犬のカテゴリーからは逸脱している感じ。
「レイジーもいい加減にチート化して来たねぇ、叔父さん。壁を普通に歩いてるもん、あれは敵からしたら……あっ、ミケさんもやっとこ戦闘参加するみたい!
魔力節約かな、尻尾に刃を生やしてネズミ退治してるよ」
「おおっ、ミケも頭使うんだなぁ……MP回復ポーション、姫香たちに半分持たせたから、手持ちが少なくなってんだよな。
それを知ってるのかな、こちらとしては大助かりだよ」
主に薬品節約の面で、助かるなぁとは護人の本心。どうやらダンジョンは、頻繁に入る程にアイテム宝箱やモンスタードロップ率は低下して行くらしく。
3か月前に探索したこのダンジョンも、この前みたいなアイテム回収は期待出来ない模様である。それを期待するには、未踏の地の6層より深く潜るしか手は無い。
ただし今回、護人は5層以上を進む予定は無いと来ていて。
その辺の計画に関しては、香多奈も一応は了承している次第である。取り敢えず中ボスには挑むので、そのドロップには期待して良いかもだけど。
エースアタッカーの姫香がいないので、少々不安には違いないけど。レイジーがいれば大丈夫かと、飽くまで他人頼りの護人だったり。
まぁ、いざとなれば《奥の手》の発動も
そしてスンナリと3層と4層を突破、盛り上がった個所は残念ながら存在せず。この動画をアップしたら、視聴者もさぞ盛り下がるだろう事間違い無しだ。
香多奈はちっとも、そんな事は気にしないけど。撮影者の少女としては、家族のハスキー軍団やミケ達が可愛く映っていれば、全然オッケーだったりするみたい。
そして5層の門前に到達、ドロップ品もほぼ魔石のみというショボい結果に。
それでも一応、もう1本薬品の入った牛乳瓶をルルンバちゃんが支道から発見して持って来てくれていて。今回の回収品は、やっぱり微妙と言うほかなく。
それでも香多奈は上機嫌に、ハスキー軍団やミケの疲労度をチェックしてくれている。そしてMP消費の多い子には、念の為にとMP回復ポーションを飲ませてあげて。
甲斐々々しい介護の後、さぁ中ボス戦だと音頭を取る。
「それじゃあ、今回の作戦だが……今日は姫香がいないから、香多奈の爆破石で先制してハスキー軍団が突っ込んで行く形で行こうか。
ルルンバちゃんも突っ込んでいいぞ、俺が香多奈の警護に付くから」
「分かった、ちゃんと命中させるから安心してっ!」
嬉しそうに答える香多奈、そして今日は1度も戦闘をこなしていない護人である。前回は確か、大蜘蛛が天井近くに待ち伏せていたんだっけと思い出しつつ。
周囲をちゃんと確認して、とにかく先手必勝だと皆に言い含めて。休息を終えて、大きな扉に手を掛ける護人。ちなみにここまで、1時間も掛かっていないと言う。
犬猫軍団+AIお掃除ロボの脅威、恐るべしである。
そうして、満を持して突入した中ボス部屋である。揃って天井を見上げた護人と香多奈だが、そこには何も存在せず。今回の中ボスは、意表をついて大ネズミだった。
ただし軽自動車サイズで、しかも双頭の凶悪仕様と言う。慌てて投擲を行った香多奈の爆破石は、周囲を埋め尽くす雑魚の大ネズミを10匹単位で吹き飛ばした。
そう、中ボス部屋は大ネズミの群れで埋め尽くされていたのだ!
「わわっ、これは数が多過ぎるよっ……叔父さん、どうしようっ!?」
「まだ爆破石は持ってるかい、香多奈……とにかく全部投げ付けろ、近付く奴らはこっちで何とかするから!」
分かったと返事をした香多奈は、目標も定めずにとにかく周辺の大ネズミへと爆裂石を投げつけに掛かって。それにレイジーの炎のブレスが加わって、室内は一気にカオス状態に。
それに付け込むように、こちらを見定め動き出す中ボスの双頭大ネズミ。雑魚を踏み潰しながら、大迫力で侵入者たちへと近付いて行く。
それをコロ助とルルンバちゃんのダブルブロック。
遅まきながらも、石を全て投げ終わった香多奈から『応援』が飛んで来て、コロ助は途端に巨大化。それでも中ボスに較べると、その体積は4倍近い差が。
ところがパワーは負けていないコロ助、ルルンバちゃんと共に双頭ネズミを部屋の中央まで押し返す勢い。しかもルルンバちゃんのチェーンソー攻撃が、良い具合に敵の急所にヒットした様子。
甲高い絶叫が、室内に鳴り響く。
護人も今日初めての戦闘に大忙し、ツグミがフォローに入ってくれているが、何しろ敵の数が馬鹿みたいに多い。香多奈がキャーキャー騒いでいるけど、今の所は被害は無い。
そして今日一番の炎のブレスが、周囲を紅蓮の色に染め上げた。恐らくは腹立ち紛れに、レイジーが雑魚の掃討に乗り出したのだろう。
こちらも少々熱かったけど、お陰で雑魚の数は目に見えて減ってくれた。
「よくやった、レイジー……次はミケの番だ、頼んだぞっ!」
「ミケさん、どこっ……とにかく頑張れ~~っ!!」
床一面の大ネズミの大軍を察知して、いち早く壁際の高台に避難していたミケだったけど。護人のお願いと香多奈の『応援』を貰って、張り切って『雷槌』を振り撒きに掛かる。
その威力は甚大で、うっかり中ボスの双頭ネズミも巻き込んでしまう程。これから見せ場と張り切っていた、コロ助とルルンバちゃんは思わず目が点に。
その代わりと言ってはアレだが、その一撃で周囲の雑魚もほぼ片が付いた模様。
シャベルと両足で香多奈の護衛を頑張っていた護人は、突然の戦闘終了に虚を突かれた様子。辺りを見回すが、あれだけ猛威を振るっていたネズミの群れは綺麗に片付いていた。
軽自動車サイズの中ボスも消えており、何となく寂しそうな動きのルルンバちゃんが、ドロップ品の回収をしている。同じくそれに気付いた香多奈が、嬌声を上げながらそれに参加。
しかし小粒の魔石ばかりで、当たりはほぼ無かった様子。
「叔父さん、ボスさんのドロップは魔石と変な尻尾だけだったよ……でも小粒の魔石の量だけで、100個近くある筈だから、そっちは凄い収穫だったよ!
あと、部屋の隅に赤い箱があるね?」
「どれどれ……ああ、あの赤い
香多奈が宝箱と評したそれは、古い漆塗りの長持だった。慎重に長持に近づいた2人だが、パッと見罠や鍵の仕掛けは無さそうなので。
普通に蓋を取って中身を確認する護人、その中には薔薇の形に折り畳まれた深紅の布が、1枚だけ入っていた。他には何もない、1点物の宝物らしい。
確かに美しいけど、果たして実用性はあるのだろうか?
――そう思って手を伸ばした護人の手に、それは反応して絡み付いて来た!
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