第65話 事態の収束を測りつつ、反省会を開く件



 思ったより重傷を負っていたコロ助だが、紗良の素早い救助活動により何とか意識は戻っていた。ツグミと姫香も同じく、紗良のスキルで自力で立てる程には既に回復しており。

 さすがに香多奈も半泣きで、シルバーウルフの落としたアイテムを拾うまでには至ってない。代わりにそれはルルンバちゃんが回収、ちなみに魔石はテニスボールサイズだった。

 それからオーブ珠と強化の巻物、後は立派な銀毛の毛皮も落ちていた。


 ドロップ品が4つとか、実は初めてかも知れない。手強い中ボスでも、3つが限界だった気がする。それはともかく、慌しく帰還の準備を始める護人。

 レイジーも地味にダメージを負っていて、いまはその手当を紗良がしている最中だ。銀狼に転がされてたルルンバちゃんは、何とか無事だった様子。

 これなら帰りの、運搬役を担って貰えそう。


「姫香、帰りはルルンバちゃんに乗せて貰いなさい。気分が悪いとか無いかい、頭を打ったんだろう?」

「紗良姉さんに治療して貰ったし、私は平気だよ……私より、重傷だったコロ助を乗せてあげよう。物凄く強い敵だったね、本当に酷い目に遭ったなぁ。

 チビ魔人の言葉なんて、全く当てにならないって分かったよ!」


 全くその通りだ、名指しされた当人は物凄く反省してる素振りだけれど。妖精ちゃんにも怒られたようで、今は荷物運びでも何でもしますと香多奈に貼り付いている。

 相談の結果、コロ助とツグミをルルンバちゃんに乗せて帰る事に。階段を上る際には、炎の魔人が2匹を担いで上がる約束で落ち着いて。

 こんな時には、馬力のある仲間がいるって心強い。


 帰りの道のりは静かで、まるで負け戦で逃げ帰っている風でもあった。これ程の負傷者が出た戦いは、割と初めてだったので仕方が無いかもだが。

 取り敢えずの最初の目的である、間引きは達成出来たのは有り難い限り。それに対する被害は多かったが、幸いコロ助もツグミも意識はしっかりしている感じで。

 香多奈の呼び掛けにも、尻尾を振って応えている。


 それを見て安堵の表情を浮かべる家族、本当に8層の戦いでは生きた心地がしなかった。叔父には強がりを言っていた姫香だが、実はまだ少し頭がクラクラする。

 もっと強くならなきゃと、内心で思いながら少女は家族と一緒に歩みを進める。その大切な家族のための力を欲す、純真な心の姫香である。護られているだけでは、永遠に子供から脱せない。

 少なくとも護人と対等のパートナーになる、それを目標に前を向く姫香だった。




 無事にダンジョンから脱した来栖家チーム、夕方近くの日差しに皆が目を細めて。どうなるのかなと思っていた炎の魔人も、普通にそのままの姿で辺りをキョロキョロと窺っている。

 母屋を目にした時には、思わず全員が安堵の表情に。取り敢えず今夜は、コロ助とツグミはリビングで看病しようかとの姫香の提案に。

 念の為に孝明先生も明日呼ぼうかと、護人も予備案を口にする。


「今日は一緒に寝てあげるね、コロ助……もう痛い所は無い? 明日は先生に来て貰えるからね、ツグミも一緒に診て貰おうね?」

「香多奈だけじゃ心配だから、今夜は私もここで寝ようかな……2匹とも重傷だったけど、多分HPのお陰で辛うじて内臓とかに損傷行かなかったんじゃないかな?

 そう考えると、レベル上げるのも1つの次善策だよね、護人叔父さん」


 その言葉にうむぅと唸る護人、同意したくは無いけど確かに一理あるなぁって感じの返しである。今夜は反省会も、鑑定会も控えた方が良さそうだ。

 それでも紗良は、1人で夕食の支度に取り掛かり始め。妹達には、犬達の容体が悪くなったら呼んでねと言付けて。自分より何倍も役に立つなと、護人はここでも唸り声をあげそうに。

 今夜は簡単に、ソーメンで済ましますねとお母さん役の紗良。


 開け放してあるリビングの縁側では、レイジーが心配そうにこちらを覗き込んでいる。それから炎の魔人が、所在なさげに縁側に座り込んでいて。

 彼の頭髪はモロに炎なので、火事にならないかちょっと心配ではあるけど。香多奈が結構な大きさの魔石を投入した結果、あと2時間は稼働出来てしまうそうである。

 姫香は戦闘時に殴られた恨みからか、魔人に好印象を持っていない様子。


 さっさと煙と消えちゃいなと、割と辛辣なサヨナラの勧告に。そんな邪険にしないでおくれと、冷や汗を浮かべながら彼は精一杯の言い訳を述べる。

 どうやら彼の出生は、こちらで言う付喪神みたいな感じらしい。古く大切に使われていたランプが意思を持ち、それがひょんな事からダンジョンに取り込まれた挙句に魔素の働きも相まって。

 自分の意思とは無関係に、罠の一部に使用されていたとの事で。


 今は罠を見事突破してくれた来栖家チームのお陰で、意思も取り戻せてハッピーなのだとか。ただしその後の助言でへまをいてしまって、肩身が狭いのも本当で。

 なにしろダンジョン内の魔素の流れは予測不能で、こちらの天気予報と同じく的中させるのは困難との事。アラジンアニメみたいな見た目の彼だが、割と異界に対しても事情通っぽい。

 それが今後、来栖家チームに上手く作用すれば良いのだが。


 香多奈もそんな感想を抱いたようで、魔人ちゃんは物知りだねぇとヨイショする発言。それに気を良くしたのか、知りたい事があれは何でも聞いてくれとの大風呂敷。

 それじゃあと、全く物怖じしない姫香からの質問が飛ぶ。ダンジョンってそもそも何なのと、それはいわゆる核心を突いた内容の問い掛けで。

 魔人ちゃんは肩を竦めて、異界との接点だよと簡潔な答え。


「おっきい穴が開かなかっだけ、感謝しなくちゃって言ってるよ。もう結合は成されたから、2つの世界の通路を切り離すのは難しいだろうって。

 イメージ的には、接ぎ木みたいな感じ?」

「はあっ、それが幾つも近所に出来て迷惑してるんだけど? それじゃあ、その穴を塞ぐ良い方法は何か無いの?

 知ってるなら、勿体ぶらずに教えてよ」


 魔人ちゃんはこれまた肩を竦めて、こちらの世界には無いけど向こうには幾つかあるよと爆弾発言を繰り出して来る。現時点でそれを入手するには、ダンジョンの深層まで潜らないといけないそうで。

 今の君たちの実力じゃあ、死にに行くようなモノだと鼻で笑われる始末。なるほどと、護人は内心で思う。そう言えば妖精ちゃんも、以前にそんな事を漏らしていたような?

 護人の今の懸念は、このままじゃ彼の呼び名が魔人ちゃんになっちゃうなって事。


 何にしろ、あの時咄嗟に香多奈がランプに魔石を投入したのは、ファインプレーだったには違いない。今後も透明の魔石は、選り分けておくのが良いかもだ。

 黄色の魔石も、来栖家では魔石エンジンの燃料にと売るのを控えている。その内全ての魔石が、家庭内で消費される日が来るのかも知れない。

 それが良い事なのかは判然としないが、魔石の売り上げは下がりそう。



 取り敢えずオーブ珠とスキル書の相性チェックだけ、姫香の発案で行う事に。1つずつあったそれらは、今回は誰にも反応せずの残念な結果に。

 それじゃあ売り候補に入れておくねと、その話はこれにて終了。リビングの隅っこに自分の寝床を作りながら、鑑定は明日で良いよねと姫香の仕切りに。

 家族も同意して、それぞれが寝る準備に取り掛かる。


 香多奈も同様に、コロ助の隣に寝そべっての反省会。あんな敵は反則だよねとか、半分は愚痴に近いけど。コロ助をもっと大きく出来れば勝てたかなと、真剣なのは伝わって来る。

 姫香も真似して、ツグミに語り掛けてみるも。気配を消しての不意打ちは良かったんだけどねと、アタッカーとしての火力不足が浮き彫りになるだけの結果に。

 でもそれは仕方が無い、牙での破壊力は有限なのだから。


 急所に届くかどうかで、大きくその効果は変わって来るモノなのだ。他の手段を取ろうと思ったら、スキルに頼るしか無くなる訳で。

 その点、ツグミは良くやっていると姫香は思う。


 結局、紗良も台所の片づけを終えて、今夜はリビングで一緒に眠ると言って来た。皆でここで夜を過ごすのは、裏庭にダンジョンが生えて以来である。

 護人だけは、お休みを告げて自室に引っ込んで行ったけど。寝ずの番って訳では無いので、それはちっとも構わない。ってか、改めて一緒に寝ると思うと気恥ずかしい姫香。

 その夜の姉妹の小声の雑談は、割と遅くまで続いたのだった。




 次の日、香多奈は結局学校をズル休みする事に。まぁ、あと数日で夏休みだし、コロ助不在で学校に送り出すのも護人としてはしたくないので。

 そこは仕方なくの許可を出して、小学校に末妹の休校の電話を入れて。その後、診察を頼んでいる孝明先生の到来を待つ。そちらへの電話は昨日の夕方にしているので、早ければ昼前には来て貰える筈である。

 ついでに他の家畜の診察も、一緒にして貰う予定。


 とは言え、コロ助とツグミの様子は至って普通に傍目からは見えて。トイレにと外に放つと、レイジーと合流して敷地内警護へと向かってしまった。

 食欲も旺盛だったし、心配する程の事では無かったのかも。紗良の回復魔法が良かったのか、はたまたHPの恩恵か……動物の本来持つ治癒力が、侮れない結果なのかも知れないし。

 とにかく胸のつっかえが、1つ取れた心境の護人である。


 それなら朝の内に、昨日の反省会と回収したアイテムの仕分けをしちゃおうと姫香。元気に手伝うよと返事する香多奈も、コロ助の復活にいかにも安堵した表情。

 それにしても、姫香の言う通りにパワーアップが必要なのか、慎重さをもっと取り入れるべきなのか。炎の魔人の言うように、彼に鍛えて貰う案はアレとしても。

 とるべき手段は色々あって、正解を迷う護人である。


「……あの、荷物を整頓してて、私もたった今思い出したんですけど。パワーアップ系の木の実とか、思いっ切り使うの忘れちゃってましたね。

 アレがあったら、少しは戦闘も有利に進めてたかも……」

「ああっ、そうだった……! 完全に存在を忘れてたね、護人叔父さん。失敗したなぁ、これも積もり積もった油断なのかもね、今までそんなに苦戦とか大怪我とかしなかったし。

 護人叔父さんが、一瞬だけ水の底にいなくなった時くらいかな?」


 すっぽりと存在を忘れていた木の実については、今後の改善は割と楽かも。まぁ、習慣になっていなかったので仕方が無いねと、その件については誰も悪くないと結論を出して。

 しきりに謝る紗良だったが、自分も休憩時間に気付くべきだったとフォローする護人。そもそも探索自体、精々が2週間に1度くらいのペースである。

 準備万端で、ベテランの様に抜かりなくとはならないのも道理だ。


 他には魔人ちゃんの言ってた、理力についての議論が持ち上がり。姫香が以前に上級鑑定の書で、自分を鑑定した用紙を持ち出して来て。

 このSPってのが恐らくは理力の数値なのだろうと、彼女は自分の理論を家族に披露する。MPもそうだけど、あるのなら使わないと勿体無いよねとの力説に。

 そう言うもんかなと、護人は悩みつつも感心する素振り。


 残念ながら、今この時点では炎の魔人は送還されてこの場にはいない。透明な魔石も有限なので、常にランプへ投入って訳には行かないのだ。

 ただし、その手の教えを本当に乞うのなら、再度召喚してみるのも手ではある。チームの全員が理力について深く理解すれば、確かに相当なパワーアップにはなるのかも。

 例えば、前日のような不測のレア種が相手だとしてもだ。


 なにしろ頼みのポーション系は、使えば無くなるのは当然だし。ってか、今回は結構使ってしまったので、手持ちがほぼ無くなってしまっているという現状。

 今後は売るのを控えて、いざと言う時用に取っておいた方が良いのかも。それを含めて、魔法の品での対策も練っておこうとの話し合いに。

 何しろ今回も、結構なドロップ品をゲット出来たのだ。


 その強みを大いに活かして、生き延びるための手段にするのがベストだろう。ってな訳で、鑑定の書を使っての戦利品の特定をする事数分。

 その結果、今回も割と豊作な事が判明した。



【強化の巻物】使用効果:防具強化(青の魔石使用)

【耐火ポーション】服用効果:耐火能力up・中

【焔の魔剣】装備効果:不折&鋭刃&炎撃・大

【魔法のランプ】使用効果:炎の魔人召喚(透明の魔石使用)

【強化の巻物】使用効果:武器強化(紫の魔石使用)

【兎のブローチ】装備効果:跳躍力up・小

【魔法の鬼瓦】設置効果:敵の威圧・永続

【力の尾羽根】装備効果:攻撃up・永続




 スキル書1枚とオーブ珠1個を別にしても、これだけの戦利品を獲得出来た。戦力アップに必要なアイテムも多数あって、これは一応朗報である。

 それから魔法のランプと焔の魔剣、簡易鑑定ではその凄さは曖昧だけど、結構なレア品の予感。特に魔剣だが、試しに使ってみた姫香は終始驚きの表情に。

 その力強い脈動と切れ味の良さ、そして隠し能力もあるみたいで。


 それは名前通りの炎の能力で、魔力を流して使用すると切った対象を燃やす効果が追加されるみたい。お陰で古タイヤは悲惨な状態に、慌てて皆で消火して事なきを得たけど。

 この隠し場所を教えてくれた魔人ちゃんも、勢いで許してしまいそうに。ってか、その魔法のランプも普通に考えると、物凄い性能には違いなく。

 なにしろ当の魔人ちゃんを、魔石が必要とは言え召喚し放題なのだ。





 ――危ない橋を渡ったけれど、今回の探索は大成功の予感?







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