第15話 皆で無事に生還を祝う件



 今は来栖家の皆は、入浴を済ませ夕食を食べ終わって、リビングで寛いでいる最中である。ダンジョン探検の興奮もようやく落ち着いて、同じ部屋に集まって歓談中。

 家族の話題の中心は、もちろん今回の探索の結果に他ならず。最終5層を制覇した結果、見事にダンジョンコアを破壊に至って。

 それに伴って、戦利品も結構な数にのぼっていたり。


 護人からすれば、それは完全なオマケでしか無い訳ではあるけれど。何にしろ踏破後の裏庭ダンジョン、魔素鑑定装置での計測では完全に安全マージンを得られたのだった。

 つまりは、推定で最大半年程度は安全が保障された訳だ。不意に訪れた危機だったけれど、家族で力を合わせて何とかそれを退ける事が出来た。

 だからダンジョン内での儲けは、言ってみれば二の次である。


「う~ん、ボスの落としたスキル書は、残念ながら誰も使えなかったねぇ……仕方ないから、売る用のリストに入れておくね、護人叔父さん」

「残念っ、私が覚える筈だったのに~!」


 香多奈の相変わらず根拠のない叫びはともかく、護人はそう言う事もあるんだなって程度の認識で。姫香の言葉に頷いて、その能力不明のスキル書を小判と一緒の分別場所に置く。

 小判や瀬戸物は、完全にどこかの地面に埋まっていたこちらの世界の遺物らしい。古銭も同じく、何十枚と出て来たものの、恐らくは骨董品以上の価値は無さげ。

 それでも売れば、ひょっとして幾らかになるかもって感じ。


 子供たちの興味は、流れるように次の項目へと進んで行った。つまりは色々な鑑定がお気楽に可能だとの、『鑑定の書』の存在である。

 これが数枚、色々と試すには充分な数である。


「えっと、これが鑑定の書に間違いは無いんだよね……早速使ってみようよ、お昼に貰ったドロップ確認表によると、人にも物にも使えるみたいだよ?

 鑑定の書って、何枚取れたんだっけ?」

「確か、全部で6枚だったかなぁ……そうそう、2枚足す4枚で合ってるみたい。人への使い方は動画で何となく分かってるけど、品物に対してはどうやって鑑定するんだろう?

 護人さんか姫香ちゃん、分かりますか?」

「サッパリ分からないな……妖精ちゃんは知ってるかな、香多奈?」


 キッチンテーブルでは、姫香が回収した品物のチェックに余念が無い。それに香多奈がちょっかいを掛けて、早速みんなで使ってみようと家族に提案。

 その筆頭が『鑑定の書』なのだが、これを品物に使って不明品を鑑定とかも出来るらしいのだ。人に使うには、唾液などを用紙に垂らせば良いらしいのだが。

 液体の無い品物だと、その手は使えそうもなく。


 香多奈が妖精ちゃんにアドバイスを求めている間に、姫香が護人に一緒に鑑定しようと持ち掛けて来る。しかし護人は、たった6枚の貴重品を自分の鑑定に使うのを躊躇ためらう風で。

 ただし、スキルを新たに所有した姫香の鑑定結果は見てみたい気もする。そう言うと、それじゃあ私がトップバッターで試すねと、元気な姫香の返事。

 そうして躊躇いなく、スマホ大の用紙をペロッと舐める。




【Name】来栖 姫香/15歳/Lv 03  


体力 E+ 魔力 F-

攻撃 D   防御 E

魔攻 F-   魔防 F

魔素 E-   幸運 D+


【skill】『身体強化』



「おおっ、こんな風に出て来るんだ……何か良く分からないね、販売員さんの言ってたHPってどの数値の事だろう? アルファベット表示だ、Aに近い方がいいのかな?

 それだと……私の数値的には、攻撃と運がちょといいかなって感じ?」

「そうなのかもね、魔法的な数値はあんまり良くないみたいだから……後は、やっぱりスキルとかレベルって概念があるんだね。

 姫香ちゃんのレベルは3かぁ、昨日と今日のモンスター退治で稼いだ感じかな?」


 姫香の分析に、興味津々の紗良が乗っかって追随する。初めて見た鑑定結果だ、色々と目を惹く箇所はあるのも当然で。その筆頭が、レベルの存在である。

 ただし、HPと言うのがどれなのかが分からない。或いは、たったレベル3ではまとえないのかも知れない、子供たちはそんな推測に落ち着いた模様。

 手札の少ない状況では、正確な情報も得られないのは仕方ない。


 そんな中、家長の護人は残り5枚の鑑定の書を、スキル所有者に優先するよう指示を出す。つまりは紗良とレイジーだ、それに素直に従う子供たち。

 リビングから庭先のハスキー軍団に呼び掛けて、姫香がレイジーの唾液を回収する。一方の紗良も、素直に姫香のやり方を真似てみる。

 そして示される、1人と1匹のステータス。




【Name】稲葉 紗良/18歳/Lv 02  


体力 E   魔力 E+

攻撃 F-  防御 F

魔攻 E+ 魔防 E+

魔素 E-  幸運 D


【skill】『回復』



【Name】レイジー/5歳/Lv 03 


体力 D+  魔力 F+

攻撃 D+  防御 E

魔攻 D  魔防 F+

魔素 E   幸運 E


【skill】『魔炎』



「……うわっ、私よりレイジーちゃんの方が、レベルもステータスも高いや。凄いねぇ、D判定が3つもあるし、魔法系の能力も割と高いよ!

 さすが、護人さんの優秀な護衛犬だよね」

「本当だっ、レイジーのステータスは私より上かも? 今日のダンジョン探索でも、私よりたくさん敵を倒してたしね」

「でもお姉ちゃんは、ボス蟻を倒したじゃん! スキルも強いの持ってるし、いいなぁ……残った鑑定の書は、私が使ってもいい?」


 姉二人は、紗良の鑑定結果よりレイジーのステータスに驚きの声を上げている。そしてどさくさに紛れて鑑定しようとした、末妹に待ったを掛けて。

 アイテムの鑑定も試してみるべきでしょと、妹にその方法を聞き取るように叱り飛ばして。渋々な感じで、少女は妖精ちゃんに教わった方法を姉たちに伝授する。

 それを聞いた皆は、唖然とする破目に。


「……それって本当なの、香多奈? アイテムを包んで、水を掛けて3分間待つって。お湯なら尚良しって、まるでインスタントラーメンじゃん!」

「私に怒っても知らないよっ、妖精ちゃんがそう言ったんだから!」

「まあまあ、試してみれば分かる事だろう……2人とも、喧嘩は止めなさい」


 姉妹喧嘩が始まりそうな雰囲気を察して、護人が割って入るのはいつもの事。紗良は素直に信じた様子で、ポットから湯呑にお湯を汲んで持って来た。

 さてそれでは、アイテムの鑑定を始めようと。雑多な回収品の中から護人が取り出したのは、カナブンか何かの意匠の施されたブローチとナイフ。

 それから重量感のある、銀のチェーンもついでに鑑定。




【蟲のブローチ】装備効果:各属性耐性・小up

【蟲のナイフ】攻撃効果:毒付与効果・小

【純銀のチェーン】特別効果:なし



 蟲の意匠付きのブローチとナイフには、どうやら特別な効果が付与されていたようだ。そしてチェーンには無し、ただし純銀製だったらしい。

 こんな感じで分かるんだねと、子供たちはやや興奮模様。何しろ特殊効果のあるアイテムなんて、ある事自体を知らなかったし。

 相談の結果、蟲のブローチは姫香が探索時にはつける事に。


 ナイフは勿体無いけど、使う人もいないので売る候補へ。純銀のチェーンも同じく、それからヒールポーションも、少しだけ残して売り払う事に。

 小粒の魔石も、今日の探索で数十個確保出来た。移動販売員から貰ったパンフを眺めながら、幾らになるのかなぁと夢見心地な末娘。

 分かる範囲では、ポーションと魔石だけで9~10万円にはなりそう。


 残念ながら、黒や赤の甲殻やら黄色の織物などの素材類、これらは材質や量によって価値はそれぞれらしい。主に探索用の武器や防具の装備に使用され、割と高価ではあるらしいのだが。

 高値で売れたら、それで新しいスキル書を買おうかと、姫香も儲け話には興味がある様子。どうも彼女は、家長の護人の強化計画を企てているみたいで。

 是非とも強力なスキルを、取得して欲しいと願っている節が。


 また近いうちに、移動販売車を呼ぼうよと盛り上がっている子供たちだけど。護人的には、そんなちょくちょく呼ぶのも迷惑かなと考える次第。

 近場に魔石やアイテムを、持ち込める施設でもあれは良いのだが。そう言えば、探索者カードが無いと販売やら武器所有は駄目と言われたような。

 念の為に、姫香にも探索者登録をさせるべき?


「それとも紗良に登録して貰うべきかな、年齢制限があったかはちょっと忘れたんだが。取得すれば色々と優遇されるみたいだし、損は無かった気がするな。

 試験も無いし、カードは割と簡単に貰えたよ」

「それじゃあ私と紗良姉さんとで、車の運転練習のついでに大きな町に行って取って来るよ。自治会長さんに言えばいいのかな、探索者協会ってウチの地元には無かったよね?

 大手スーパーのある、隣町には建ってた記憶があるんだけど」


 確かにそうだ、護人の時は特別に来て貰えて発行も向こう任せで済んだのだけど。とにかく、探索者としてはまだまだ未熟な自分なのは間違いないし、優遇されるほどの者でも無いし。

 ここは大人しく、週末の買い物のついでに隣町で登録を済ませるのが良策かも。そもそも次にまた探索活動をするかと問われれば、否と答えるしか無い訳で。

 今回の探索は、飽くまで敷地内の安全確保が目的だったのだし。


 最大で半年の安全猶予を獲得出来たのだから、普通に考えれば探索者登録などは必要はない。ただし、依然として敷地内には活動しているダンジョンが2つもある事実をかんがみて。

 武器を揃えたり防具を買い込んだりする、用意は怠りたくは無いのは事実。


 油断して愚を冒すより、前もっての準備はしっかりやっておきたい。そんな心積もりを子供たちに話しながら、取り敢えずの安全は確保出来たとの宣言も行う護人。

 何しろずっと、気を張詰めておくのも良くは無いので。今日はよく頑張ったねと、姉妹を褒め称えながらも。それでも不必要に、敷地内のダンジョンには近づかないよう釘を刺して。

 最後に妖精ちゃんに、本当にアレを封印する方法はないかも訊ねてみる。


 何度目かの質問だが、何だか毎回はぐらかされている感じがする護人。そしてその理由が、香多奈の通訳によってようやく明かされる事に。

 つまりは、ダンジョンの封印の方法は確かに存在するのだが。その手順を踏むには、来栖家パーティは実力が大きく不足しているらしいのだ。

 だからその方法を教えるのは、妖精ちゃんの実力認定が下りてからだそう。





 ――それは希望の光なのだろうかと、戸惑う護人なのだった。







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