リースの森へ
爽やかな風が吹き抜ける見渡す限りの草原が広がる。
その中に頭二つ分程も差があるデコボコな二人、ゲンとシャクドウは共にリースの森を目指して歩いていた。
「ねえ、シャクドウさん。リースの森までどれくらいかかるかわかる?」
いつまで経っても終わりの見えない道にゲンは痺れを切らしていた。
大剣を背負いながら歩くことに慣れていなかったため、脚には疲労が蓄積し、今すぐにでも立ち止まって休みたかった。
「んー、そうだな。もうちょっとじゃないか? 如何せん俺も行ったことなくてな。あ、あと呼ぶ時はシャクドウでいいぞ。」
「……なんだ」
ゲンは期待とは大きく外れた答えにわざとらしく肩を落とした。
シャクドウは平然としていたが、ゲンは先の見えない道のりに深い溜息が漏れる。
普段はなんとも思わない遠くに浮かぶ雲が憎く感じた。
特にこれといった会話もなく、ただひたすら草原に挟まれた道を歩いていると、遠くの方に木製の看板のような物が見えてきた。
「あれは!」
先程まで薄く影がかかっていたゲンの顔に光が刺す。
近づいてみると、看板はかなり朽ちており、そこに書かれた文字は所々掠れて見えにくくなっていた。
しかし注意深く見てみるとなんとか読み取ることができた。
『この先、リースの森』と。
顔を上げると、目の前には鬱蒼と茂る巨大な森が広がっていた。
「これが、リースの森……」
目の前の森はゲンが知っているものとは異なり、一本一本の木に監視されているような、どこか物々しい雰囲気が漂っていた。
「ゲンよ、引き返すなら今のうちだぞ?」
シャクドウは森の奥をじっと見つめたまま動かなかった。
感じたことのない緊張感が二人を支配する。
「ここまで来て引き返すわけあるか! 行くに決まってる!」
ゲンは確信していた。
ここに一つ目の精霊の石があると。
それはアクロに言われたからではなく、ゲン自身の本能が、肌がそう感じ取っていた。
ゲンは自分を奮い立たせるように両手で頬を強く打つと、一歩一歩先の見えない深い森の中へと入る。
シャクドウもそれに着いて行くように堂々とした足取りで進んでいった。
森の奥の方は霧で霞んでいるためよく見えなかったが、
周りには真っ直ぐに長い木が無数に生えていた。
そしてそのどれもが頭上遥か上の方で所狭しと枝を伸ばし葉を茂らせている。
ゲンとシャクドウは足場の苔で滑らないように慎重に足を運んでいた。
「なんか思ったより、普通……?」
ゲンはボソっと呟く。
森の外で感じ取った威圧感は嘘のように消えていた。
それはゲンが森に慣れていたからだろうか、むしろ少し穏やかで落ち着く感覚さえあった。
「警戒しておくに越したことはないだろう。ちゃんと注意しておくんだ。」
シャクドウからは相変わらず緊張感が漂っていた。
少し進むとゲンはある物に気がついた。
「あれは……、何だ?」
視線の先には少し開けた場所が存在しており、草や苔で覆われているものの人が居たような痕跡があった。
「もしかしてこれって……!」
ゲンはその痕跡の元へと駆け寄る。
「おい! どうした!」
シャクドウは声を上げ、一人で先に進んでいくゲンを慌てて追いかける。
「やっぱりそうだ!」
「さっきから何を言ってるんだ。俺に分かるように説明してくれ。」
シャクドウは身勝手なゲンの行動に呆れたように尋ねた。
「ここ、昔ボスコの人たちがここに避難してきた場所だよ。」
「なんでそんなことがわかんだ?」
「シャクドウが教えてくれた武器屋の夫婦が話してくれたんだ。10年前、町が巨大なモンスターに襲われたときここに避難してきたんだって。」
「わざわざこんなとこ来なくても、いくらでも避難場所はあっただろう」
「武器屋の息子が内緒でここに修行に来ていたらしいんだ。だからここは安全だと知っていたし、身を隠すのに最適だとわかっていたみたい。因みにこの剣はこの森で拾った物らしい。」
ゲンは背中の剣を得意げに見せる。
「おい」
そのときシャクドウが怪訝な顔つきでゲンが背負う剣を見た。
「なんかその剣、光ってないか?」
ゲンはまさかと思い剣を引き抜くと、刀身に目を凝らしてみる。
すると、シャクドウの言うように剣がぼんやりと光を放っていた。
しかし、その光は微々たる物で言われてみて注視してみないと分からないほどだった。
「本当だ。うっすらと光ってる。」
ゲンは確信した。
この剣がただの剣ではないと。
最初に武器屋で感じた謎の引き寄せられる力も然り、この剣には何か隠されている力がある。
それが何かはゲンには分からなかったが、精霊の石に関係することだけは確かだった。
「シャクドウ、先に進もう。」
「おうよ。」
ゲンとシャクドウは身が引き締まる思いで森の奥を見つめる。
偶然にも二人は同じ方向に顔を向けていた。
そして二人は自分の意思で、もしくは何か別の力に引き寄せられるかのように、その場を後にし森の奥へと足を進めていった。
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