家族



―――――



頭がボーッとする。思うように体を動かす事ができないが、不思議とどこも痛くない。それどころか体が軽く浮いているような浮遊感さえ覚える。


「…………。……ン……、…おき……。」


どこからともなく優しい声が光となってゲンを照らす。

ゲンは体を揺すられている感じがした。


「……ン!……ゲン、起きて!」


段々と声がはっきり聞こえてくる。

次第に目の前が光に満ちてゆく。


「……っまぶしい……」


白い光の中にぼんやりと人の形が見えてきた。

その人影はゲンの顔を覗き込んでいた。


「だ、誰…?」


まだ覚醒しきっていない脳をフル回転させる。

しかし、ゲンには思い当たる人物がいなかった、1人を除いて。

でもその人物がこんなところにいるはずがない。

確かめるように、目の前の影を凝視した。


「かあ、さん…?」


「あ、やっと、気がついた!心配したのよ?」


その影の正体は、しゃがみこんで心配そうに顔を覗き込んでくる母チトセの姿だった。


「どうしてここに?」


「あなたの帰りが遅いからでしょ!いつも帰ってくる時間になっても全然帰ってこないから、母さん村の人たちと協力して探しに来たのよ?」


普段穏やかな彼女が珍しく軽く声を荒げる。

余程心配していたのだろう。ゲンは黙り込み、申し訳なさで目線を横に逸らした。


チトセは昔から太陽のように明るく、優しく包み込んでくれるような性格だった。

ゲンは今まで何度も怒られたきた。でも、その言葉の裏にいつも愛情を感じていた。


今回もそうだ。声は怒っているが、表情はどこか悲しく、本当に心配して無理して来てくれたことが用意に読み取ることができた。

だからこそ、ゲンは申し訳なさが込み上げ、母の顔を直視することができなかった。


「ほら、みんな心配してるから早く帰るわよ。」


ゲンは強引に体を起こされ、手を引かれるように歩き出す。




チトセが帰り道に誘導してくれたお陰で、無事村まで帰ってくる事ができた。




家に帰ると思いもよらない人物がいた。


「待ちくたびれたぞ、ゲン。」


「え…」


ゲンは声に詰まった。否、出せなかったという方が正しいかもしれない。それほどまでに驚きを隠せない意外な人物だった。


「…今まで何やってたんだよ、父さん。」


そこには父シドの姿があった。


「父さんがいなくなってから、母さん大変だったんだぞ!全部1人で抱え込んじゃって、それで倒れて病気にかかって…!」


「なんで、何も言わずいなくなっちゃったんだよ!」


ゲンは声を荒げる。

無理もない。何もできず少しずつ痩せ細っていく母の姿をずっと側で見守っていたのだ。

そんなゲンの姿をシドは何も言わず、優しく、でもどこか悲しそうな目で見ていた。


シドはそっとゲンを抱きしめる。


今まで溜め込んでいた物が溢れ出てくる。

涙が止まらない。ゲンは顔をくしゃくしゃにしながら声を上げて泣いていた。

無理もない。物心ついた時には母と2人で暮らし、しかもその母は体が弱く、ほとんど甘える事など出来なかったのだから。


ゲンは気の済むまでシドの胸で泣いた。




――外では既に日が傾いており、大きな満月が姿を見せ始めていた。

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