君が笑えるなら僕はいつでも

あなたに伝えたい言葉の数々

これでいいかなだとか

これじゃ伝わらないかなだとか

何度も何度も書き直して

送信ボタンを押す勇気もなくて

未送信なままで過去になってく


いつしか時の波に流されて

言わずじまいにした言葉たち

言えばよかったなんて後の祭りは

いつものことで情けなくて

失ってからわかるものの大きさなんて

知りたくもなかったんだ


こんな想いを持って生きるくらいなら

いっそ全て忘れてしまいたいのに

そんなことは到底できるはずなくて

あなたの笑顔を何百回もまぶたの裏に見る


夢見るだけの時間でいいなら

苦しみなんて置いていかないで

寂しさなんて置いていかないで


こんな苦しみが心の支えだなんて

未練がましくて情けないな


「さよなら」ってあなたが言うのなら

「さよなら」って私も返して言おう


あなたがそれを望むならそれでいい

あなたの幸せが私にとっても等しくて

そうなんだって物分かりのいいふりしてさ


約束していた映画のチケット

ポケットのなかで握りしめて

うっかり破りそこなった

破いてしまえば楽になれただろうに


彼が残していったのは

私の行き場のない気持ちだけで

さよならなんて言わなければよかったと

後の祭りはいつものことで


日々には歌が足りなくて

日々には光が足りなくて

日々には温もりが足りなくて

日々には寂しさが満ち満ちて


窓辺に揺れる花ひとつ

あなたが大事にしてた花

今年も変わらず蕾になったよ


ありふれた出会いをして

ありふれた別れをして

それだけのはずだって


この花が咲いたら今度こそ

私は前を向いて次の未来を歩むんだって

心に決めていたから今日も

水やりをうっかりサボることにした


そんな自分の浅はかさですら

笑って包み込まれるような気がして

不意に涙が溢れていった


重ねた時間と言葉と手を

都合よく忘れてしまいたい

笑顔でさよならって言えていたなら

あなたが逝ってしまうとき

せめてものはなむけになっただろうか

この雨が上がったなら今度こそ

いつもそうして眠りにつくんだ


「さよなら」


・・・


「さよなら」


これから君が笑って生きていけるように

巡り会えた幸せを伝えられるように

僕は根いっぱい君の心から涙を吸って

大きな花を一輪咲かせてみせたんだ


僕の思いは虹の下で待っている


君が流した涙のあとには

綺麗な虹を僕がかけよう


さよなら、ありがとう

最後の僕のわがままを

きいてくれてありがとう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る