2.
トッソト砂漠は、場所によって砂の性質が変わる珍しい砂漠だった。スカヒシアの周辺は、いくつかの火山があり、そこから出た小さな黒い石が、黄色い砂の中に混じっている。
そんな広大な砂漠の上に、ラマダンに乗ったミルファは立っていた。もう噴火しない低い火山の向こう、果てのない地平を彼女たちは眺めていた。
「街の外ってすごく広いでしょ」
耳の後ろを掻いてあげながら、ミルファはラマダンに優しく話しかける。
ラマダンは嬉しそうに、「ブルルッ」と鳴いた。ここを触られると彼が喜ぶということを、ミルファは分かっていた。
「こんなに広い世界を見たら、怖くなっちゃうけれど、あなたは、広い方が好きなんだよね」
ミルファの言葉に対して、ラマダンはまた「ブルルル」と鳴き返した。傍から見ると、まるで会話しているようである。
正午に近付き、太陽が高くなっていくと同時に、温度も上がっていく。この時間帯の砂漠の横断には危険もあるが、ミルファはこのまま歩くことを選んだ。
時折、水袋を傾けながら進み、太陽が天頂に届く頃、ミルファは火山の合間を過ぎた。山の陰になっている所でラマダンから降り、干し肉と葡萄の食事を摂った。
日が傾く合間もラマダンは歩み続けていくと、踏みしめる砂の色がだんだんと薄くなっていった。太陽の色が橙になり、静かに西へ沈み出した頃、ミルファはやっとラマダンの歩みを止めさせた。
「お疲れさま。今日はここまでにしましょう」
ラマダンの背中らから降りたミルファは、その首元を撫でる。ラマダンは、ほっとしたように長い睫毛の付いた瞼を閉じた。
座ったラマダンの隣を、ミルファは野営地と定めた。大荷物の中から取り出した巨大な布を、天幕として張る。
その間に、日は完全に沈み、夜が静けさとともに訪れていた。東の空からは、月が登ってくる。
火を
まだ食事を必要としていないラマダンの首周りの毛を、ミルファは櫛で梳いてあげた。それが終わっても、彼女はラマダンの体に背を預けて、中々天幕の中に行こうとはしない。
ミルファは、白い貫頭衣の中から、首飾りを取り出した。薄く淡い青色が付いた、今宵の月のように楕円の水晶が付いている。彼女はそれを、月に翳した。
「……小さい頃から、心がざわめいた時に、こうしなさいとおじいちゃんに言われていたの」
水晶は、月の白い光を受けて、控えめに煌めく。ラマダンに、一族のまじないを教えたミルファは、そっと微笑んだ。
「あの月が満ちる日までに、聖地に辿り着かないといけない。それまではあと三日しかないから急ぐ旅だけど、一緒に頑張ろうね、ラマダン」
ミルファがラマダンを見上げると、彼は「ブルッ」と頭を震わせた。
それを見て安堵したミルファは、砂をかけて火を消し、楕円の月明りを元に、天幕へと入っていった。ラマダンも首を下ろして、目を閉じた頃、天幕の中からは寝息がさざめいていた。
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