第13話 穏やかな時間の中で
前回のあらすじ
ハクト、気絶する
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「う...うぅ。」
「お、起きたか。」
目を覚ますした僕を、穏やかな表情のユラが迎える。吹き抜ける風と、暖かな木漏れ日が心地いい。どうやら魔力切れで気を失った僕を、ユラが木陰に寝かしてくれていたようだ。
「僕、負けたんだね...」
「当たり前だろ!7歳児に負けたら、Sランク冒険者の沽券に関わるぞ。」
そう言ってユラは大笑いする。しかし、瞬時に真剣な表情に切り替えたユラは僕に問いかけてくる。
「でだ。ハクト、お前は魔力を扱って、身体強化をしてた。それで間違いねぇな?」
この世界では、10歳になってステイタスを授かるまで、魔力やスキルは扱えないとされている。だからこの国の子供達は武具の訓練をして、力をつけるのだ。
さて、どうしようか。僕は7歳にもかかわらず、魔力を扱い、身体強化を使用した。まったくもってユラの言う通りだ。これは言い逃れのしようがないな。
「うん。そうだよ。僕は魔力も使えるし、身体強化もできる。」
ユラはほぼ確信していたのだろう。やっぱりか、というように大きなため息を着く。
「一応聞いておくが、いつからだ?」
「覚えてないねー。でも、結構ちっちゃい時からだよ。」
実際、初めて魔力を動かした時の僕はまだ乳幼児で、日付の感覚なんてなかったし。身体強化も気付いたらできてた。
「今までオレ以外の誰かの前で使ったり、話したことは?」
「ないよ。」
侍女に魔力を感知された日以降、僕は人前で魔力を使ったり、誰かに話したりしていない。
それを聞いたユラは少しの間、考える素振りを見せ、口を開く。
「それじゃあこれからも、オレ以外の誰かの前で使ったり話したりするのは禁止だ。せめて10歳になるまでは絶対に人前で使うんじゃねぇぞ。」
「うん。分かったよ。人前で使わないって約束する。」
僕がそう言うと、ユラは満足そうに頷く。
「さてと!それじゃあこれからは魔力やスキルの訓練もしていかなきゃいけねぇな!」
そう言ってユラはバシバシと僕の背中を乱暴に叩く。明朗な笑顔を浮かべる横顔に、僕が触れてほしくないと思っている部分に触れない気遣いを感じる。
「なんで使えるか聞かないの?」
僕は後ろめたさを誤魔化すように、ユラに質問しなくていいのか聞いてしまう。
それを聞いたユラは、曇りひとつない晴れやかな表情で、
「そんなのはどうでもいいことだ。ハクトは天才だからな!そんくらいできて当然だろ。それに、特別なことがあったんだとしても、ハクトは悪いことしねぇって俺は知ってるからな。」
(あぁ。本当に敵わないな。)
思わず感極まり、涙が瞼の裏に溜まる。
(そんな顔で言われると、ユラが本心で言ってくれてるのが分かっちゃうじゃないか。)
僕は込み上げて来るものを抑え込み、精一杯の笑顔を浮かべて、おどけるようにユラに答える。
「そうなんだ!僕は天才だからね!。魔力なんて扱えて当然だよ!」
そう言って僕らは笑い合う。
それからは、ユラとこれからの話をして過ごした。魔力切れで倒れた僕をユラが気遣ってくれた形だ。どうやら、ユラは本気で僕に魔力やスキルの訓練をしてくれるつもりのようで、真剣に計画を立てていた。
そうこうしているうちに、迎えが来る時間になってしまった。
「ハクト様。お迎えにあがりました。」
「すぐに行くよ!」
迎えに来てくれたイザミナに返事をし、ユラに別れの挨拶をする。
「ユラ、今日はありがとう!。これからも、僕が最強になれるように頑張って教えてね!」
「おう任せろ!。お前は間違いなく最強になれると約束してやる!」
そうして、握手を交わす。
その際に、ユラに耳打ちで
「今日約束したこと、忘れるんじゃねぇぞ。」
と言われたので
「もちろん。僕は最強になる男だからね!」
と、おどけてみせる。それだけ言った僕は、イザミナの元へ走っていく。
「あ、おい!ハクト!」
「ちゃんと分かってるから大丈夫だよ!」
そうして僕は、呆れるユラに見送られて庭を出る。
(本当にユラに出会えて良かった。ま、本人に言ったら馬鹿にされそうだから、絶対言わないけど。)
そんなことを考えながら僕は帰路に着くのだった。
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