第12話 全力で
前回のあらすじ
組手で全力を出してみる
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「今の僕にできる全力で行くよ!ユラ!」
そう言って僕は駆け出す。ユラの懐に入り込み、鳩尾目掛けて突きを繰り出す。が、ユラは体をずらし、僕の攻撃を躱す。
「その動き、さっきまでとは明らかに違う。何したんだぁ、ハクトォ!」
すかさず僕は距離を詰め、猛攻に出る。ユラに攻撃のチャンスを与えてしまうと、僕の実力では反撃に転じることができない。ならば攻撃させないようにユラの行動を制限するしかない。
「その魔力の使い方、オレがよく知ってるスキルの効果によく似てんなぁ!」
(クソ!全く崩せない。こっちは喋る余裕なんてないのに!)
常に全力で動いている僕に、ユラの問いかけに答える余裕はない。それでも、ユラの防御を崩せるイメージが全く湧いてこない。
「まぁいい。それでも、その程度じゃあオレには一撃入れることもできねぇぞ?」
(そんなのは百も承知なんだけどね!!)
このままではさっきと同じ展開だ。ユラは息一つ切らすことなく、僕の攻撃を捌いている。
(どうすれば状況を変えられるんだ...!!)
こうしている今も、魔力は減り続けている。
何か手はないのか。焦りだけが募っていく。
その時、突然体が軽くなったような感覚を覚えた。このタイミングで身体強化のLvが上がったようだ。
更に速くなった斬撃をユラに繰り出す。
「...!!!今までのが全力じゃなかったのか?」
「全力...だったよ!」
少しだけ喋る余裕が出てきた。身体強化のLvが4に上がったおかげで、動きがさっきまでとは段違いに良くなった。それでもユラを崩す事ができない。
「なかなか頑張ってるが、そろそろ終わりにするか。」
ユラの纏う雰囲気が変わる。僕は思わず後ろに飛び退き、距離をとる。
「ハクト。お前は本当にすごいよ。その歳でなぜか魔力を使いこなし、身体強化までやってのけている。」
やはりユラには見抜かれていたようだ。
「そんなお前に敬意を表し、オレも少し力を見せよう。」
ユラが全身に一瞬で魔力を纏った。あまりにも美しい魔力操作に思わず見入ってしまう。
「構えろ、ハクト。本物の身体強化を見せてやる。」
ユラから凄まじい威圧感が発せられる。僕は全身に悪寒が走り、身震いをする。
(ダメだ...これは次元が違いすぎる。)
ユラが僕の視界から消える。次の瞬間には左後ろに気配を感じた。僕は咄嗟に気配に向かって剣を振るう。
「...!!!これにも反応するなんて、本当にとんでもねぇやつだな!」
正直、反応したというより、体が勝手に動いていたたげだ。
(こんなの何度も受けることはできない...!!!なんとか攻撃させないようにしないと。)
そして僕は攻勢にでる。ユラからは相変わらず、思わず逃げ出したくなるような威圧感が放たれているが、僕の体は思い通りに動いてくれる。
(ああ...こんなにも恐ろしい威圧感に晒されているのに、こんなにも絶望的な状況なのに、なんでだろな。こんなにも.......。)
僕は無意識に笑みを浮かべる。
(こんなにも.........熱い!!!)
僕の攻撃は相変わらず、ユラに通用せず、魔力ももうほとんど残ってない。なのに、心は、体は、どんどん熱くなっていく。
(このまま戦い続けたいけど、もう限界が近そうだ。)
僕は鍔迫り合いになっているユラを押し飛ばし、一旦距離をとる。
「ユラは本当に強いね。」
「あたりめぇだろ?お前の師匠なんだから最強に決まってんじゃねぇか。」
「僕はもう限界が近いや。だから次が最後の一撃だよ。」
「ほう、そうかそうか。なら後悔の残らないよう、全力で来い!。俺が、受け止めてやる!」
「うん。ありがとう。それじゃあ...行くよ!」
そうして僕は駆け出す。Lvの上がった身体強化が、僕をユラの元へより速く届けてくれる。勢いそのままにユラに斬りかかる。極限の集中力が、それを弾こう切り上げるように剣を振るうユラの姿を見せる。このままだと、僕の攻撃はまた受け止められてしまうだろう。
(このままじゃ、だめだ。)
僕は身体強化を解除した。途端、僕のスピードが素の状態に戻る。結果、僕の攻撃を受けようと切り上げていたユラの剣は空を切ることになった。瞬間、僕は魔力を足に集中させ、ユラを切りつけるように駆け抜けた。
時が止まる。
「クソ...一撃ぐらいは入れたかったな。」
そのまま僕は、倒れ込むように意識を失う。
「バカ野郎が、ちゃんと一撃もらっちまってるよ。」
僕の剣で切られたユラの服の切れ端が風に拾われ、空の彼方へと消えていった。
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