幕間 カイセルとユラ
「陛下、客人をお連れしました。」
「通せ。」
私がそう言うと扉が開き、赤髪を男が応接室に入ってくる。そこで私は護衛の近衛騎士に退席を命じる。
「この男と二人になりたい。外に出ていてくれ。」
「陛下、お言葉ですが私には陛下を護衛するという誉高き役目がございます。いくら陛下のお客人とは言え、護衛としては陛下のお傍を離れられません。」
「よい。この男は信用できる。」
「ですが...」
「どのみち、お主ではこの男にはかなわぬよ。本気を出したこの男を止められるのは、この国で余を置いて他におらぬ。」
「...承知しました。何かあればお声を。」
そうして、護衛の近衛騎士は部屋の外に出ていく。すれ違う際に軽く殺気を飛ばしたようだが、それを受けても男は飄々としている。騎士が部屋の外に出た後、私は席にかけるよう男に促す。それに応じ、男は席にかけた。
「一年ぶりだな、ユラ。」
私がそう声をかけると、その男、ユラは椅子から立ち上がり、跪いて大袈裟にポーズをとる。
「お久しぶりでございます陛下。国王陛下に置かれましては益々ご健勝のことと...」
「よせ、堅苦しい。柄にもないことをするものではないぞ。」
「ちぇっ。せっかく敬ってやろうと思ったのに。」
「今更であろうが。私とお前の間にそのようなものは必要ない。」
そう言うとユラはつまらなそうに、しかしどこか嬉しそうに席にかける。
「それで、今日はどんな用で?」
「ハクトのことだ。」
「やっぱりかー。」
ユラには私の弟であるハクトの戦闘訓練を依頼している。ハクトが6歳になってからなので、もう1年が経ったことになる。
「まぁ、あれだな。ハクトは天才ってやつだ。」
「ほう。お前をしてそう言わしめるほどか」
「ああ。ありゃあ間違いなくお前よりも強くなるぜ。お前が7歳の頃もなかなか理不尽さを感じる才能だったが、あれはもっと上だ。」
「なるほど...」
その報告を聞いた私は、少し考え込む。それを見たユラが真剣な表情で聞いてくる。
「まさか、ハクトを危険な存在と認識してんじゃないよな?。自分の地位を脅かすかもしれないと。」
ユラが何か言っているが、私は軽く聞き流し、口角を上げる。するとユラは剣呑な雰囲気をもらしながら
「ハクトはお前のことを堕とそうなんて考えてねぇ。それでもお前がハクトと敵対するってんなら、オレは悪いがハクトにつくことに...」
「まぁまぁ、落ち着け。私がハクトと敵対するだと?。そんなこと、天地がひっくり返っても有り得ぬよ。」
予想した答えと違って拍子抜けしたのだろう。ユラから感じていた剣呑な雰囲気が霧散するかのように消えていく。
「私はただ、愛する弟に私をも超える才能があると聞いて、豊かな将来を想像していただけだよ。」
私がそう言うとユラは天を仰いで、大笑いをし始めた。
「ハッハッハ!お前直々に依頼して来たから何かあるかと思ったが、そういうことか。てっきりオレは、あの才能を危険に思って制御しようとしてるのかと思ったぜ。」
「私がハクトの将来を潰すわけがないだろう。あの子がやりたいと言ったことは否定せずに、認めてやろうと考えているよ。」
それを聞いたユラは私に問いかけて来る。
「ハクトにはその想いは伝えているのか?」
それに私は自信満々に答える。
「当然であろう。直接言葉にはしておらんが、私とハクトの間には確かな絆がある。つい先日も、交流会で欲にまみれた貴族どもの毒牙にかからぬよう守ってやっていたのだ。」
私が交流会でハクトを守った話をすると、ユラは何やらブツブツ言い始めた。
「こりゃあ空回りしてんなぁ。おそらくハクトにはその気遣いがプレッシャーにしかなってなかったはずだ。」
昔からユラは私といる時にこうすることが多く、何を聞いても答えないのでそれを無視して話を進める。
「そういえば、ハクトは交流会のことで何か言っておったか?」
「そんなこと、本人に聞きゃいいだろ。」
「それができたら苦労せん。私はハクトと話すとなると、どうしても堅苦しくなってしまうのだ。」
ユラはやっぱりかといった感じでため息をつく。
「初めは疲れたと言っていたが、なんだか友達ができたらしく嬉しそうにしていたぞ。」
「ほうほう。やはり良い出会いがあったか。おそらくバルコニーで出会ったんであろうなぁ。」
「なんだ?心当たりがあったのか?」
「まぁな。バルコニーから帰ってきたハクトの表情は行く前とまるで変わっていたからな。」
「なら話を聞いてやれば良かったのに。」
そう言ってユラは肩をすくめる。
「やはり、交流会とは退屈なものであるからな。私もお前との出会いという宝が無ければ父上に文句言っていたところだ。」
「お前はほんとサラッとそういうことを言いやがって。」
なにやらユラがまたブツブツと言っている。まぁ、あれは放っておくのが1番だ。それよりもそろそろ終いにしないと次の公務に差し支える。
「呼び出しておいて申し訳ないが次の予定が差し迫っておってな。悪いが今日はここまでにしよう。」
「ああ。そりゃあ仕方ねぇな。国王陛下はお忙しいようだ。お邪魔虫の俺はさっさと退散するとするかね。」
そう言って退室しようとするユラの背中に、私は声をかける。
「これからもハクトのやつをよくしてやってくれ。お前だから頼めることなんだ。」
それを聞いたユラは、顔を少しだけ横に向け
「言われなくても、ハクトは俺が最強にしてやるって約束してるんだよ。それに、1年前お前に頼まれた時からそのつもりだよ。親友」
そうして、ユラは出ていった。
...さて、私も公務に戻るとするかな。
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