第10話 憂鬱な一日は去って

前回のあらすじ


疲れたから素でいたい


~~~~~~~~


自己紹介をしあった僕達は、お互いの武具の修練についての会話を楽しんでいた。


「ハリエスは弓の稽古をしてるんだね!」


「はい。僕は人前に出たり、目立つのが苦手で...。それで、弓なら僕でもできるんじゃないかと思ったんです。」


「うんうん。自分のことがよく分かってるからこその選択なんだね。」


「そうなんです!でも父上からは男らしく前に出て戦えと言われていて。でも弓の稽古は楽しいですし、自分に合っていると思ってるんです。」


「んー。僕は弓の稽古をするのに賛成だよ。だって本当に必要のないものって廃れていくと思うんだ。そして歴史を見ても弓が廃れたことはない。それどころか、弓の名手として名を残した人も数多くいる。つまり語られるような活躍ができる武具なんだよ!。なにより、ハリエスが楽しいと思ってるんでしょ?。それを辞めちゃうなんて、もったいないよ!」


「ハクト様...そうですよね。僕、頑張ります!父上に認めてもらえるような弓の名手になってみせます!」


「うん!その意気だ!。ハリエスならきっとなれるよ!」


そうこうしているうちに、結構な時間が経ってしまった。楽しい時間は過ぎるのが早くて困る。


「そろそろ帰る時間だから戻らないと。」


「あ、もう真っ暗になっちゃいましたね。」


「ハリエスと話すのに夢中で、あっという間に時間が過ぎちゃったよ。」


「僕もハクト様とお話できて楽しかったです!」


「またいつか話そうよ!」


「本当ですか!?...でも、ハクト様は王族の方ですし、僕なんてそう簡単に会えないと思います。」


「そんなの関係ないよ。だって僕らはもう友達でしょ?」


「!!...そうですね。きっとまた会えますよね!」


「うん!だから、!」


「はい!それでは!」


そうして僕らは握手を交わし、再会を約束した。ハリエスと別れた僕は控え室へと戻る。楽しい時間を過ごすことができ、僕の足取りは軽い。それにしても本当にいい時間を過ごせた。


控え室に戻った僕はカイセル兄様に挨拶し、帰る準備をする。


「それでは、そろそろ出発するとしよう。」


会場をあとにし、馬車に乗り込む。行き同様、馬車の中で会話はない。かと思われたがカイセル兄様に話しかけられる。


「ハクトよ」


「は、はい。」


まさか話しかけられると思っていなかった僕は、咄嗟に返事をする。気を抜いていたせいで少し驚いてしまった。


「今日の交流会は楽しかったか?」


正直、意外な質問だった。カイセル兄様にとっては、交流会なんてただの公務だろう。そんな兄様から、個人的な質問が来るとは思ってなかった。そして、僕は今日一日の出来事を思い返す。王族としての振る舞いを求められ、顔見せの際には決められた振る舞いを見せ、それが終われば控え室に戻る。思い返してみると、なかなかに辛い一日だったね。それでも、僕は笑顔で答える。


「はい。とても楽しかったです!」


最後にハリエスと過ごした時間は本当に楽しかった。それだけで今日一日を素晴らしいものにしてくれるくらいに。


「そうか。なら良かった。」


そう言って、微笑んだカイセル兄様がとても印象的だった。


~~~~~~~~


「それで、交流会はどうだったんだ?」


翌日、剣術の稽古に来てくれたユラに聞かれる。


「めちゃくちゃ疲れたよ。僕は正直、王族に向いてないね。」


それを聞いたユラは大きな笑い声を上げる。


「ハッハッハ!そんなこと言うのは後にも先にもお前だけだよ。」


「本当に疲れたからね。兄様の邪魔にならないようにするので精一杯だったよ。」


「それじゃあ剣でも振ってた方がマシだったか?」


「そうでもないかも」


「ほう、なにかいい事でもあったのか?」


「まぁねー。」


僕がそう答えると、ユラは興味津々といった感じで詰めよって来る。


「気になる子でも出来たか!?」


「そういうのじゃないよ!」


変に茶化してくるユラを押しのけて、僕は笑顔で教えてあげる。


「僕、友達ができたんだ!」


それを聞いたユラは目を丸くして


「お前、友達いなかったの?」


...全くこれだからユラは


「カイセル兄様にユラが僕を馬鹿にしたって言っちゃおうかな。」


「待て待て待て!さすがにまずいから!」


さすがのユラでも王族を馬鹿にして、ただで済むことは無いのだろう。必死になってなだめようとしてくる。


「ふん!本当のことじゃないか!」


「悪かった!俺が悪かったから許してくれ!」


そんな感じで騒いでいた僕達だが、そろそろ稽古に戻らないと。最後にユラが


「良かったなハクト、友達ができて。お前は良い奴だからな。だからその子も友達になってくれたんだと、俺は思うぞ。」


と言って頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でてくる。


そんなことで僕は誤魔化されないんだからね!



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