第9話 交流会を乗り越えて

前回のあらすじ


交流会は憂鬱


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現在僕は、控え室で魔力操作をしながら時間が来るのを待っている。交流会は参加する貴族が会場に入り、決められた時間が来ると国王陛下であるカイセル兄様が登壇し、簡単な挨拶を行った後、パーティ形式で交流を深めるという流れだ。王族である僕はカイセル兄様と共に登壇し、顔見せをすることになっている。なので、出番が来るまでは暇なのだ。何もしないでいる時間がもったいないので、こうして魔力操作に勤しんでいる。


「国王陛下、並びに王弟殿下。間もなく登壇のお時間です。ご準備をお願いいたします。」


「分かった。すぐに行く。ハクト、準備を整えろ。」


「はい。分かりました。」


係の者が呼びに来て、準備を整える。準備を済ませた僕は、カイセル兄様の後ろに続いて歩を進める。道中、カイセル兄様との間に会話はなく、息苦しさを感じる。僕らが登壇すると、それまで少しの騒がしさがあった会場が、静まり返る。


「本日は各々忙しい中で集まってもらったこと、感謝する。今年もこうして、交流会を開催できたことを国王として嬉しく思う。こうして若い芽が育っていることは、大変喜ばしいことである。それから今年は、余の弟であるハクトの顔見せも兼ねておる。ハクト、前へ」


「はい。キングス家が末弟、ハクト・キングス・ルーベスト・リンガルです。今日は皆さんに会えることを楽しみにしていました。どうぞよろしくお願いします。」


「それでは、余の話は以上だ。今日は存分に楽しんでいってくれ。」


そうして、僕とカイセル兄様は王族専用に用意されていた席に着席する。それからはパーティ形式での交流が始まった。といっても、爵位の高いものから順に王族に挨拶をしに来るため、僕が立ち歩くことは無い。貴族の当主と7歳を迎えた令息が揃って挨拶に来る。


「陛下、失礼致します。ご挨拶をさせていただいてもよろしいですか?」


「ああ、かまわんよ。」


「ありがたき幸せ。ルーザン公爵家が当主、ハルケト・ルーザン・カイルでごさいます。こちらが我が娘、ルシアです。以後お見知り置きいただければ、幸いにございます。」


「ルシア・ルーザン・カイルです。本日は国王陛下の御前に...」


こんな感じの流れで次々と貴族達がやってくる。僕は、挨拶をした後は聞いているだけ。本当に退屈だ。それでも王族としての態度は崩せないという状況。今だけは王族に生まれ変わらせてくれたおじさんを責めたくなる。

そして何事もなく顔見せは終わり、未だ交流を続ける貴族達を尻目に僕達は控え室に戻る。


あー本当に疲れた。気分転換に外の空気でも吸おう。幸いこの会場には広いバルコニーがあり、気分転換にはピッタリだ。


「少しバルコニーに出て、外の空気を吸って来ます。」


「ああ。1時間後にはここを出ることになる。それまでに戻ってくるように。」


カイセル兄様にも報告したので、僕はバルコニーへ向かう。バルコニーへ着くと、夕日が沈みかけた紫黒の空が僕を出迎えた。他にバルコニーへ出ている人もいなく、貸し切り状態だ。僕は夕日が沈んでいく地平線を見る。とても綺麗な景色に、張り詰めていた緊張と疲れが解れていく感覚を覚える。しばらくそうしていたと思う。


景色を眺めていると、こちらへと向かって来る足音が聞こえてきた。足音の主を確認しようと思い振り返る。


すると、男の子と目が合った。男の子は目を見開いて驚き、固まっている。


「やぁ、こんばんは。良かったら少し話していかない?」


(あ、素で話しかけちゃった。)


今日一日張り詰めていた反動で、思わず素が出てしまった。でももう堅苦しいのは疲れたし、ちょうど良かったかも。

固まっていた男の子は、ハッとしたように動き出し、僕の前で跪いた。


「た、大変失礼致しました。まさか王弟殿下がいらっしゃるとは思わず。」


7歳の子に跪かれるのは、正直嫌な気分だ。ましてや僕と同い歳の子に跪かれるのは耐えられない。僕は微笑みかけるように


「顔を上げて。僕はお話したかっただけなんだよ。今の僕はただのハクト。君の名前は?」


すると男の子はホッとしたように、


「クランド侯爵家の四男で、ハリエス・クランド・ローゼスと申します。今はただのハリエスです。」


そう言ってはにかんだ。


良かった。どうやら気が合いそうだ。今日は嫌な一日だったけど、最後にいい時間を過ごせるといいな。



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