第十四話 高田祐司氏 後編 ~言葉のホームラン~
学歴は基本的に話すことは好まない人間だ。
私の最終学歴は県内の私立短大で担当教授(=担任)は演劇の専門助教授だった。
なので、夏休みにギリギリで県内の小さい劇団の小さな舞台を見た。
今でいう性同一障害を扱ったものだった。
面白かったが、記憶にはあまり残ってない。
社会人になって会社員として生活し始めた頃。
父が「お前、『宮川賢のバカバカ90分』ってパソコンで調べられないか?」と聞いてきた。
二つ返事で検索を掛けた。
「劇団ビタミン大使ABC」の主催者であることを知った。
その劇団にアクセスした。
そして、驚いた。
客演に高田祐司氏がいたのだ。
この後の行動は早かった。
コンビニでチケットを買い私は手荷物を片手に東京へ向かった。
東京新宿にある、『紀伊国屋ホール』
演劇人なら誰でも憧れる「演劇界の甲子園」
目の前には日本のカレーパン(だったか?)発祥の紀伊国屋がある。
まずは受付で高田氏へのお土産を渡す。(これ、実は非常識な行動だったらしい)
「今は役に集中するため無理ですが公演後なら少しお話しできますよ」
「はい……?」
この小さく脱力した言葉を受け付けのお姉さん(この人も舞台に出ていた)は『YES』と汲んだらしい。
まず、トイレをすまして劇場に入る。
私の住む地域の音楽センターよりはるかに大勢が座れる座席数があった。
たぶん、私の人生の中で一番に入る大きさだ。
ネットで買ったため舞台より離れた端っこの席だった。
私は思った。
『あー、これじゃあ、小型マイクを使うんだろうなぁ。雑音が入るかもしれないけど、まあ、いいか……』
開幕した。
舞台と遠いのと私の目が悪いせいで役者の細かいところまでは分からない。
「帰ってくれ‼」
高田氏の声だ。
それまでも役者の声は聞こえていたが聞こえる程度だった。
高田氏の怒号は天井に近い私の席まで、マイクなしで地声で、そのまま届いた。
言葉という球を高田氏はフルスイングで天井までぶつけてきた。
――なに、この人?
私の見た『黒くなる』という話はいくつかの話をまとめたもので、ラストシーンでも高田氏は登場した。
私は泣きそうになった。
そして、オチに『私の涙をリッター二円でいいから返してくれ』と思った。(悪くないエンディングなんだけど泣くそうになった自分が照れくさい)
私は公演前にことなどすっかり忘れて物販コーナーなどを見て『あー、そろそろ帰って寝よう』としていたとき、受付のお姉さんが来た。
――忘れ物したかな?
「今、高田が来ます」
「!?」
「はじめまして。高田です」
後ろからタンクトップと短パンとサンダルと麦わら帽子をかぶった高田祐司氏が来た。
普段、私は物事に関してはマイナス思考の批判的な人間だ。
それが、まさに憧れていた人物を前に混乱寸前になった。
「はじめまして、隅田と言います」
この言葉さえ、出すのに数秒かかった。
「舞台、面白かったです」
「ありがとうございます」
ここで会話が途切れた。
舞台初心者と舞台役者。
心の溝は日本海溝より深い。
何かを途切れ途切れながら会話をして、別れの挨拶をして駅へ向かった。
心臓の動悸が止まらない。
憧れの人が目の前にいたのだ。
カッコいいとか、そんな言葉、千集めても足りない。
それから、高田さんの出る舞台をちょこちょこ観るようになった。
『あれ? いたんだ』
私の顔を見ると高田氏が意外な顔をした時があった。
少し、嬉しかった。
それが二十年以上前の話。
今は舞台を見ていない(映画は時々見ている)し、高田氏もアニメやナレーションのほうに注力するようになったらしい。
『あの頃は、若かったなぁ』と思う。
高田さん、Twitterやっていて驚いた。
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