第十四話 高田祐司氏 前編 ~そこにある事実を忠実に語るもの~
たぶん、私の人生の中で『青春』と呼べるものがあるとするなら、彼、つまり高田祐司氏を抜きには語れないだろう。
俗に『青春』と呼ばれる高校生時代。
私は失望のどん底にいた。
インターネットがようやく普及しだした時代だ。
「いじめがない」という触れ込みで入学した高校は馬鹿の巣窟でいじめはあって黙認されていた。
教師も馬鹿ばかりだった。
――いつ死のう?
――いつ殺そう?
そんなことを毎日考えていた。
今でいうのなら鬱状態である。
なお、この高校は今は廃校になっている。
その寸前に制服を変えたりしたが後の祭りだったそうだ。
淋しいとは思わない。
自業自得だと思う。
さて、本題に戻ろう。
布団の中で泣いていた私に一階でテレビを見ていた母が声をかけた。
「面白い番組があるから見てごらん」
それが後年伝説となる『たけしの万物創世記』だった。
まずオープニング曲を先日亡くなった筒美京平氏が作曲。
動画サイトなどで「瞬殺曲」と言われるほど迫力がある。
司会はビートたけし氏。
ゲストは所ジョージ氏など。
疑問などを解説する役は下目黒権之助(というか、その道の専門家が裏で声を当てている)(ちなみに、拙作の中に時々出る沖場秋人の父・沖場権之助は彼がモチーフ。未出演だけど)。
原稿も実力のある人を選んでいる。
そして、ナレーションを高田祐司氏が担当した。
ここで、一つ問題。
ナレーション収録は通常(一時間番組、VTR は約四十五分前後として)どれほどの時間かかるか?
通常は二時間から三時間あたりが目安とされる。
この時間で原稿やスタッフの意図を理解して声に表すのは、まさに職人技だ。
高田祐司氏はその倍の時間を費やした。
後編で書くがご本人曰く「専門用語とか多かったから」
これが二時間スペシャルになったら、単純計算で十二時間である。
私はすぐ、夢中になった。
本来なら難しい物理や生態を例え話や学術的データを出して分かりやすくナレーションをする。
何より、高田祐司氏の声が聞き取りやすかった。
何度も書くが芸能人がやるナレーションには変なキャラを演じる人がいるが高田氏は原稿に忠実だった。
――事実は事実であり、それ以下でも、それ以上もない。
もちろん、今見れば学術的に間違いや遅れているものあるだろう。
ただし、スーパーカミオカンデをノーベル賞受賞前に紹介していた先見の明もある。
何より文学的だった。
文字通り、ナレーションに恋をした。
約六年間(高田氏がナレーションを担当したのは五年と最終回)毎週、番組を見ていた。
そこで得た知識は今でも役立っている。
というか、それまで、ただの文字や情報の羅列だった化学系ニュースに興味を持ち、調べる方法を知った。
同時期、私は時代劇小説にもハマる。
とにかく、高校という地獄から救ってくれるものに飢えていた。
『眠狂四郎』という小説を読んでは「狂四郎さんの声を高田さんがやったらどうかな?」とにやっと笑っていた。
同時にこう問われているように思った。
――事実は、事実。それ以下でも、それ以上でもない
――ならば、お前(君)は、この世界をどう生きる?
そして、今に至る。
後編は今に至るまでの高田氏と演劇の話。
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