第六話 武田広氏 ~お元気ですか? それだけが心配です~

 武田広氏。

 名前は知らなくても長年、様々なで活躍されていた名ナレーターである。

 例えば、『タモリ倶楽部』『世界まる見えテレビ特捜部』などのナレーターと言えば分かるだろうか?

 

 この人は生粋の声優ではない。

 大抵、声優というと、まず「アニメキャラクターの声を演じる」というイメージがあるが、武田氏は元々アナウンサーである。

 だから、アニメに詳しい人からすれば「?」になるかも知れない。

 氏の声は「さすが、元アナウンサー」と思う通りの良さだ。

 イントネーションも正確。

 落ち着いた声は視聴者に安心感を与える。

 だからこそ、バライティ―系の番組で思わぬ(そして、いらない)情報などを聞くと笑ってしまう。

 声が真面目が故に笑ってしまう。


 ただ、ナレーターは決して楽な商売ではない。

 氏のブログでこんなことを書いてあった。

「どうやら、近所の人は自分(=武田氏)のことを医者だと思っているらしい。確かに自分は昼夜を問わず仕事が入れば鞄を持って行くのだから、そう思ってもしょうがない」

 実際、選挙特番などでは開票前の夕方六時ごろから深夜まで生でナレーションをしなくていけない。

 バライティ―ではないのだから、間違えることはできない。

 しかも、全国放送だ。

 その重圧たるや、相当なものだろう。


 だが、長年メディアを支えていた武田氏にリストラが襲った。

 かつて、『娯楽の王様』と言われ日本国民の信頼を得ていたテレビがインターネット、特にSNSの登場により『娯楽の王様』から人々は離れて行った。

 端的に書けばテレビが無くても生活できる。

 テレビが無くても娯楽はある。

 当然、スポンサーだって金のかかる芸能人を使うテレビよりネットにいる格安の素人とのコラボでバズるほうに群がる。

 ナレーションだって考えてみればアナウンサーでもできるし、自動ナレーション装置もある時代だ。

 実際、YouTubeなどの動画では棒読みナレーションが多様に使われているし、『ようこそ、異世界へ』で登場した坪和さんは文字、文章で解説をする。

 バライティ―やワイドショーも真似をするが、ナレーションも相まってくどく感じる。

(ただし、視覚障害者からするといいのだろうか?)


 武田広氏、七十二歳。

 この記事を書くために、私は氏のブログを検索して読んだが二千十五年で止まっている。

 Wikipediaの記事の写真も何故かタモリさんにすり替わっていた。

 ネットの海を泳いでいると、どうやら、大病をされたようだ。

 以前書いた小林清志氏ではないけど、普通の勤め人なら『セカンドライフ』などという頃だ。

 

 あの生真面目そうな声が好きだったんだけどなぁ。

 もったいないなぁ。

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