第八夜 死なば諸共

 車に轢かれ、生死をさまよった男がいた。仮にこの男をAとする。

 A太は非常に優しい人柄で、多くの人に慕われていた。その為、色々な人が入院しているAの事を心配して、お見舞いに来た。その中でも、一番来る頻度が高かったのは高校の時からの親友のBであった。

 お互い軽口を叩き合える中であるからか、Bはいつも見舞いに来るたびに、恩着せがましく

「俺がもしもの時は、宜しくな。」

 と笑ってAに言ってきた。Aはそれに対し、縁起の悪い事を言うなと文句を言いつつも、

「いいぜ。」

 と、Bの冗談を受け流すいつもの調子で、適当に同意の返事をした。

 その後、Aは後遺症も無く、医師も驚くほどの回復力で無事に退院した。

 そんな事があった数か月後、Bの言うもしもの時が本当に起きてしまった。

 BはAと同じように交通事故に遭ってしまったのだ。そして、Aの時とは違い、頭の打ちどころが悪かったのか、治療も空しく死んでしまった。

 Aは突然のBの死をすぐに理解することが出来なかったが、葬式が終わり数日経つ頃には、理解が追い付き、Aは改めてBの死を悼んだ。

 それから、Aは行く先行く先で誰かに見られているように感じる事が多くなった。

 その視線はAを日に日に精神的に追い詰めた。

 視線の原因は何かと考える中で、Aの頭の中にBの言葉がよぎった。

 もしかすると心霊的なものかもしれないとAは一瞬考えたが、馬鹿らしいと早々にその考えは切り捨てた。

 これ以上視線を感じるようであれば、警察かストレスチェックの為に病院へ行こうと決めかけていた時、スーツを着た男に。

「あの、Aさんでお間違えないですよね。」

 と、声を掛けられた。Aは心当たりのない男性に首を傾げつつも、どうかしたのかと尋ねた。すると、その男はAにこう告げた。

「どうかしたのかって……。逃げ出さないように、ここ一週間見張ってたんですよ。貴方、Bさんの連帯保証人ですよね。期限が過ぎているので、催促しにきました」

 と。

 Aは困惑した。無理もない。AはBに借金があるという話を聞いたことが無かったし、なにより連帯保証人になった記憶も無かった。何故、どうして答えのない問いがAの頭の中を駆け巡った。

 Aは、これはBにあの世に引きずり込まれた方が、まだマシだったかもしれないと現実逃避する中で思った。

 Aは視線の正体を知ると同時に、Bの“よろしく”の本当の意味を理解したのであった。

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