第三夜 にんぷ
卯月、春麗らかな頃、とある田舎町に一目で臨月であると分かる女が引っ越してきた。
妊婦が、少ない荷物を携えたった一人で引っ越してきたことは、すぐに噂になった。
町の住民は皆、田舎町で出産を迎える事になる独り身の女の事を心配し、女が引っ越しの挨拶をしてきた際に、何か助けられることは無いかと尋ねた。しかしながら、女は
「余計な事はしないでください。私に関わらないで。」
と、冷たくその申し出を断った。そして、それ以来女は家の中に引きこもり、外部との接触を徹底的に断った。
住民は最初こそ心配していたが、女がせっかくの申し出を拒んだ事、町の行事にも参加しない事等、良い印象を抱けない出来事が続いた為、段々と女の存在を無い物として扱うようになっていった。
そんな日々が一ヶ月ほど続いた頃、ソレは突然起こった。
ある日の明け方、女の家の方から犬の遠吠えのような、大きな声が町全体を覆うように聞こえてきたのだ。
これまで女に対し、住民は不干渉気味ではあったが、明らかな異常事態の中にいるであろう女の事を無視するほど非情では無かった。
住民の中で、腕っぷしの良い二人の若い男が代表で女の家に向かった。玄関に鍵は掛かっていなかった。
男達が恐る恐る扉を開けると、横たわっている女と目が合った。大変な事が起こったに違いないと思い、男達は靴も脱がずに、急いで女のもとへと駆け寄った。そして、絶句した。
そこには、服と腹を切り裂かれ、動かなくなった血だらけの女の……否男の死体が転がっていたからだ。
そして、血痕は窓の方まで伸びており、窓は割れていた。
男達は余りの事に頭が混乱し、慌ててその場から立ち去った。
男達とその他の住民は然るべき機関に連絡をした。そして、この出来事は闇に葬り去られることとなった。
住民たちは、この不気味かつ恐ろしい出来事は何だったのかについて話し合った。しかし、幾ら話し合っても何も分からなかった。
ただ「ナニカ」が生み出された事、これだけは確実であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます