第七章 三話 「償いの決意」
プラの集落の一角にある小さな空き地、軍施設や居住区とは離れた静かなその場所に数ヶ月前の化学兵器攻撃による犠牲者を弔った墓地はあった。
当時、村にいて犠牲となった百人余りのモチミ族の人々は一つ一つの墓に分けられて埋葬されていたが、その中には幸哉が戦場で命を預けあった親友の墓もあった。
(カマル……)
親友の墓前で手を合わせる幸哉の脳裏にはカマルの最期の姿と言葉が蘇っていた。
"彼女を……、頼む……"
そう言って、血を吐いた苦悶の表情の中に微かな笑顔を浮かべた親友の最期の表情に幸哉は詫びたのだった。
(ごめん、カマル……。俺はツツを守れなかった……)
今は妻の墓を隣に静かに眠る親友の墓前に謝罪とともに鎮魂の念を送った幸哉は無言のまま墓地を後にしたのであった。
☆
亡くした戦友達の思い、裏切ってしまった大切な人達の思いの分も背負った幸哉は以前にも増して、全身全霊で任務に取り組むようになった。
作戦の日まで一週間足らず……。自分よりも若い部下達の教育と訓練は言わずもがな、作戦の二次退路策定まで任された責任は初めて指揮官を務める幸哉には重過ぎるものがあったが、それでも彼には必ず任務を成し遂げなければならないという信念があった。
そしてそんな彼は地図上でしか目にしたことの無い、これから初めて行くセーダの街における退路を考案する際、一人の男の思考をなぞったのであった。その男は彼が軍人としても、指揮官としても最も信頼する男だった。
(狗井さん……。狗井さんならこうするはずだ……)
今、この場に狗井が居ればどう判断するか、それを思考の芯にして、幸哉は数日の間に二次退路の策定を終えたのだったが、彼にはまだ為さなければならないことがあった。
(この罪を告白する……。罪を償う……)
解放戦線はプラの集落への化学兵器攻撃を同日の夜に同じく化学兵器による襲撃を受けたヘンベクタ要塞での一件と合わせて、休戦締結を破った政府によるものだと非難していたが、政府側は一切の関与を否定していた。当然のことである。プラを襲ったのは同じ解放戦線内のダンウー族の部隊であり、ヘンベクタ要塞の化学兵器漏出に関わっているのも政府軍ではなく、幸哉なのだから……。
今、青年がヘンベクタ要塞での一件に関わっていることを知っているのは一人しかいない。狗井浩司……、だが、その彼も政府軍に捕らわれて今は居ない。このまま幸哉が何も話さなければ、彼が事件に関わったことは誰にも知られずに済むはずだった。
しかし、それは青年の心が許さなかった。彼の心は恐怖を抱きつつも、断罪を望んでいた……。
(俺はこの罪を償わなければ……)
そう思った青年は五日後の作戦の日、直接対面するであろうエジンワに全てを告白しようと決意するのであった。
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