第六章 八話 「罪の告白」
「済まない……。俺はずっと君達から……、自分のすべき事から逃げていた……」
橋村医院を訪ねた日の週末、幸哉は優佳に頼んで健二を呼んで貰い、自宅にて話をする覚悟を決めていた。
「優佳、健二……。もうこれ以上、俺の大切な人達を傷つけないために俺は君達に話さなくてはならない」
いつもは陽気な健二もこの日は幸哉のただならぬ様子を察して、神妙な面持ちで親友の話を聞いていた。
三人が小さな机を挟んで向かい合う中、静かな時間が流れ、幸哉は口を開いた。
「俺が目にしたズビエの戦争と民族浄化の実情……、そしてこの手が産んだ罪の数々を……」
優佳と健二、二人の顔を見返した幸哉は机の上に組んだ自分の両手を見つめると、己の胸の中にある暗い過去を話し始めるのだった。
虐殺のあった村で狗井を助けるために初めて人を殺めた時のこと……。サシケゼの廃村で出会った脱走兵と言葉を失った少女のこと……。親友を奪われ、暴走する感情のまま化学兵器に手を伸ばしてしまったこととその結果引き起こされたヘンベクタ要塞の惨劇……。そして救えなかった命の恩人の存在……。
何度も言葉に詰まりながら、涙さえ流しながら大切な人達に全てを語り終えた幸哉のことを優佳は優しく抱きしめた。
「そんなに一人で抱えて……、大変だったね、幸哉……」
全ての罪を知った後でも自分を包容してくれる恋人の優しさに震える声で、「ありがとう……」と返した幸哉の肩を今度は健二が優しく叩いた。
「確かにお前のやったことは間違っているかもしれない。でも……」
そこまで言った健二は幸哉が目を合わせると続きの言葉を口にした。
「例え世界の全てを敵に回したとしても、俺は……、俺達は……」
お前の味方だ、幸哉……。
そう言った親友の言葉に掠れて声にならないような声で「ありがとう……」と返した幸哉はその瞬間、自分を苦しめていた罪の意識から僅かだが、解放された気がしたのであった。
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