第六章 七話 「助言」
このままではいけない。このままでは自分は大切な人達を傷付け続けることになる……。
そう思い、何か行動をしなければならないと考えた幸哉だったが、それでも自分が進むべき道が分からない現在の状況に青年はトラウマ治療で名の知れた精神科病院を受診したのであった。
「君の現在の症状は恐らくはPTSD……、心的外傷後ストレス障害と呼ばれるものだろうな」
橋村と名乗った年配の医師は幸哉の話を一通り聞き終えた後、そう重々しく告げた。
「PTSD……、心的外傷後ストレス……」
自分に下された診断に呆然とする幸哉に頷いた橋村は続けた。
「古くは女性のヒステリーを対象とした研究が行われていた疾患だが、近年ではベトナム戦争帰還兵の身に生じたストレス症状からアメリカではよく知られるようになったストレス疾患だ」
橋村の口にする言葉を幸哉は何も言わずに静かに聞き続けた。そんな青年の真剣な表情を見返して、橋村も何か有効な助言を与えられないかと苦悩していた。
「日本という平和な国に住んでいるが故、私も君のような戦争後PTSDの患者を診るのは初めてだが、君が望むなら専門の医師を紹介することはできる……。でも、その前に……」
そこで言葉を止めた橋村の顔を幸哉は見つめ続けた。自分と大切な人達の苦しみを救うかもしれない言葉を待って……。
だが、与えられた答えは彼が今為すのを最も難しいと感じていることだった。
「まずは君が信頼する人達に、君の抱える苦悩を話してみるのが良いんじゃないかな」
(やはり真実を話す必要があるのか……)
逃げることはできない。目を逸らすこともできない。その事実を改めて実感させられて病院を後にした幸哉だったが、その背中には今まで迷い続けていた己を払拭し、固めた決意があったのだった。
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