殺戮オランウータンが溢れる世界で俺だけが名探偵
アウ田
第1話
その日、人類は殺戮オランウータンにより新たな世界を手に入れた。
2034年世界中で凶悪犯罪が多発し人々は絶望と恐怖に沈んでいた時、とある大統領が言った。
「人が人を殺すのが犯罪を発生させている」
そして設立された「殺戮オランウータン平和抑止条項」により世界に殺戮オランウータンが放たれ人類の死因は99.9%が殺戮オランウータンによる物になり犯罪数は急激に減少し世界は平和になった。
これはそんな世界で0.1%の「人間による殺人事件」を専門に担当している名探偵・安蘭エドガーの事件簿である。
case1男性バラバラ殺人事件
日本のとある街で殺人事件が起こった。
警察による現場検証が行われ従来の通りに殺戮オランウータンの仕業と断定されようとしたところ待ったの声がかかったのだ。
「ここが事件があった部屋ですか」
コンクリ壁がぶち抜かれた家の前に立つ男が呟いた。
探偵・安蘭エドガーは数多くの修羅場を潜り抜けてきた猛者だとわかる壮絶な気配を漂わせ現場の確認をした。
「ええ、事件が起こったのは1週間前。被害者はこの家に住む54歳の男性、犯行時刻は夜の11時、死体はバラバラに引き裂かれたような状態で見つかった、現場から走り去る大きな影を目撃した人間がいてその3日後町中で人を殺害したオランウータンが射殺されている、以上の経緯で警察は殺戮オランウータンが壁を突き破り男性を引き裂き逃走したと断定した……、いやしようとした、だな」
男に答えたのはこの町の警察の一員だ。よくある事件をいつものように事務処理をしようとした所にお上から待ったがかかったことを不満に思っている態度を隠そうともしていなかった。
「国際的に有名な名探偵だかなんだか知りませんけどね、こりゃどう見たって殺戮オランウータンの仕業でしょ、こんな事件は世界中でいつどこでも起こっていることでしょう」
「鑑識の資料は?」
「……これですよ」
安蘭は簡略に纏められた資料をざっと見て、大きく溜息をついた。
「……この町の警察はまったくの無能ばかりだな」
「なんですって!?」
「現場の状態だが、毛髪が少なすぎる、もし殺戮オランウータンが暴れたなら部屋中が毛だらけになっているさ」
「そりゃ…壁に穴が空いてるんですよ、風で飛ばされたんじゃないですか」
「死体は引きちぎられていた、つまり部屋中血まみれなんだ、血の海に沈む毛髪が風なんかで飛ぶものか」
道理であった。
「それじゃ…まさか…」
「……この事件は殺戮オランウータンによるものではない。
人間による殺人事件だ」
case2尋問
「刑事さん、私には絶対のアリバイがあるんですよ」
捜査は1からやり直され、ある容疑者が事情聴取をされている。
「…あなたは被害者の弟の田中デュパンさんで間違いないですね、それを判断するのは私達の役目なので事情聴取に協力お願いします、まずは当日の事からです」
「チッ……、その日は昼は勤めている学校に出勤して、夕方に帰宅しました。最近業務が多くて少しイライラしておりましてね、無職の兄と8時ぐらいまで口論して頭を冷やす為にランニングに出かけました。その後落ち着いて11時ぐらいに帰宅したら家の壁が大きく壊されていて兄が死んでいましたよ」
「あなたが見た大きな影とは?」
「帰り道にね、田舎の農道なんで外灯なんてない真っ暗闇で、目の前を何かが通り過ぎたんですよ、猪や無灯火の原付きやバイクだったかもしれませんが、間違いなく殺戮オランウータンでしょう」
「なぜそう思うのですか?」
「刑事さん、それが私の絶対のアリバイなんですよ、よくよく考えてみてください、人間がコンクリートの壁を破壊して中の人を筋力だけでバラバラに出来ると思いますか?壁と兄の死体を見れば殺戮オランウータンの仕業だって誰だって思います」
「そうですか…ところで話は変わりますが最近健康診断など行いましたか?」
「……なんなんですか?いきなり別の話を…言いましたが業務が忙しくてね、そういうのには参加出来てませんねそれに兄の事もありますし寝れてなくてね検査してもらうまでもなく不健康ですよ」
「よくわかりました、あなたが犯人ですね?」
case3故意の犯行
「ハッ!どんな検討外れな推理をされるのかと楽しみにしてたのにそれも無しに人を犯人呼ばわりですか!それに言ったでしょう!人間にはこの犯行は無理だって!」
もちろん理由はありますよ…、あなたはステロイドユーザーですね、それもかなりの重度で」
「っ!」
「ステロイド、服用すれば筋肉増強する魔法の薬、現代スポーツ医学と合わせれば尋常じゃない力を発揮できる程の体を手に入れる事ができるでしょう。ではなぜ皆はそれを使わずにさらには法律で禁止されて居るのか、それは内臓への過剰な負担や精神障害などの重篤な副作用があるからです」
さっきまで安蘭をあざ笑って居た男は今は青ざめ小刻みに震えている。
「ち、違うんだ…俺じゃない…」
「あの日、何があったのか教えてもらえますね?」
「あの日…俺は兄と口論していた所に壁を突き破って殺戮オランウータンが現れて…とっさに兄を庇って殺戮オランウータンと取っ組み合ってるうちに自分が何と組んでいるのかもわからなくなって…気が付いたら兄が……!」
「ふむ…、殺戮オランウータンから兄を守るつもりがステロイドの幻覚で兄を殺害してしまった、それを隠す為に殺戮オランウータンの犯行に見せかけたと」
「殺す気なんてなかったんだ!あれは事故なんだ!」
「……いいえ違います、あなたは自分の意志で兄を殺害して犯行を殺戮オランウータンによるものだと偽装したのです、これは故意の犯行です」
case4世界に平和と笑顔と殺戮オランウータンが溢れるまで
「現場を見た時にね違和感を感じたんです、オランウータンは頭の良い動物でね、簡単な芸や人間の真似なんて簡単にしてしまう、殺戮オランウータンはその特性上これだけは仕込まれるのですよ」
「…」
「……ドアや窓の開け方です、殺戮オランウータンは壁を破壊しないのです」
「あ…ああっ……」
「あなたは兄を最初に昏倒か動けなくした後で壁を破壊し兄の解体を行ったのです、それを行う為にステロイドを服用した計画的な犯行だったのです」
「ああ……あっあっ……」
「殺戮オランウータンは最初からこの犯行には関与していなかった、街で射殺された殺戮オランウータンもまあ、いつどこでも当たり前に起こっていることですからね偶然です」
「あなたは犯罪者です、刑務所に打ち込まれるのを楽しみにしておいてください、いいですね?」
〜〜〜
こうして事件は解決した、田中デュパンはその後犯行を自供して殺戮オランウータンの餌になった。
世界は殺戮オランウータンのおかげで平和になった…しかし人間の心の闇までは救えなかったようだ。きっと人間の凶行はこの後も続くであろう。しかし私達には殺戮オランウータンというよき隣人が居る。彼らを信じて…世界に平和と笑顔と殺戮オランウータンが溢れるまで私は止まらない。
殺戮オランウータンが溢れる世界で俺だけが名探偵 アウ田 @autra
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