第9話 幸菜の作戦(2回目)
幸菜の真の目的は俺の妹。
つまり実に料理を教わりに来る事だった様だ。
俺はその事に、何故玄関から来ない.....、と思ってしまったが。
まあ.....もう良いや。
無事に家に居るし、と思ってしまう。
「じゃあ味噌汁の作り方しましょうか。幸菜お姉ちゃん」
「.....そうだね。.....味噌汁。家庭的」
「.....まあな.....しかし本当に大丈夫か」
「アハハ。お兄ちゃん。何でも経験値を積み重ねないと駄目だよ」
だってお前。
クッキーでカンピロバクターを発生させたんだぞ。
俺は.....心配になる。
死にたくないぞ。
頼むから変な事をするなよ、と思いながら俺は見つめる。
すると人差し指を実は立てた。
それから笑顔を浮かべる。
「先ず、お水。.....お出し。.....そんな感じかな」
「.....ニボシから作るんじゃ無いのか?」
「前はそうしていたけど.....でも魚の頭を取らないといけないからちょっと面倒臭くなっちゃって。それにこっちが美味しいから。まあそれに私、魚臭いの苦手だから」
「ああ。それでなのか。お前が出しに魚使うの止めたの」
「うん。そんな感じ。アハハ」
それからエプロンを着けて必死に教わる姿を見ながら俺は笑みを溢す。
そして目線を冷蔵庫に向けた。
そこには.....俺と幸菜と実が幼い頃に撮った写真が飾られている。
こうしてまた.....3人で触れ合える日が来るとはな。
思いながら俺は少しだけ感動しながら料理の手順を見ていると。
「お兄ちゃん?どうしたの」
「春樹?」
「.....何でもない。すまん。.....何つうか部屋からまさか出て来てくれるとは思ってなかったんだ。幸菜が。.....だから嬉しいんだ。それでぼーっとまあ考えていた」
「.....侵入なのに?」
「形は、中身はどうであれ。お前は家を出た。.....それでまあ十分だ。.....だけど部屋に忍び込むとか危険な真似は止めてくれ。頼むから」
「でもそれじゃエロ本漁りが出来なくなる」
いや。エロ本を漁るな!!!!!
全く、と思いながら俺は眉を顰める。
それから苦笑して盛大に溜息を吐いた。
その姿に、もー、と言いながら実も笑っている。
昔は考えられなかった幸せだな。
今は全然違う道を.....歩んでいるが、だ。
「.....幸菜。約束覚えていてくれて有難うな」
「だってずっと春樹が好きだったから」
「そうだよな。.....有難う」
「.....あ!マズイ!お鍋、噴いちゃう!」
慌てて実は鍋の火を止める。
俺達も慌てた。
そして実は次の段階の話を始める。
味噌を溶いたりする話だ。
それを熱心に.....幸菜は耳を傾ける。
そして20分掛かったが。
味噌汁は出来た。
☆
「.....は、春樹。.....お願い。食べて」
「.....そ、そうだな」
「絶対にミスは無いよ。私も居たしね。味はどうか分からないけど」
そんな感じの会話。
目の前のワカメの味噌汁とおにぎりを見る。
3人で一緒に食べる事になった味噌汁だ。
丁度.....幸菜が味噌汁。
そしておにぎりは実が作った。
「.....ゴクリ.....」
「そんなに警戒しなくても火は通っているから大丈夫だよ。お兄ちゃん」
「そうか。.....良かった」
「じゃあ食べようか。幸菜お姉ちゃんも」
「うん」
そして俺は味噌汁を飲む.....あれ?
美味しい?、と言うぐらいに美味しい。
が、塩加減が絶妙とは言わないが。
甘い感じもあるから。
まあこんなもんだろって感じだ。
「.....ど、どう」
人形顔をジッと俺に向ける幸菜。
俺はその顔に、いや。普通に美味いが.....どっかで塩加減を間違えたな、と苦笑してしまう。
少しだけ辛い感じの味噌汁が出来上がっている。
本当だ、と実も苦笑。
幸菜は顔を落として、シュン、とした。
「.....落ち着け。これ絶対に成長するぞ。幸菜。諦めるな」
「.....そうだよ。幸菜お姉ちゃん。絶対に大丈夫だよ。練習だよ」
「そ、そう?」
と笑顔を浮かべてぱあっと明るくなる幸菜。
全く.....笑顔を導くのは至極単純だな。
俺はまた苦笑いを浮かべながら幸菜の頭に手を添える。
それからおにぎりを食べる。
しまったな.....これは夕ご飯に響きそうだ。
「夕ご飯は食べる量を計算するから。.....そうだ!幸菜お姉ちゃん。夕ご飯も食べて行かない?」
「.....え.....良いの」
「うん。夕ご飯ももし良かったら一緒に作ろう」
「.....え.....じゃ、じゃあ.....」
本当に.....天使の2人だ。
やはり姉妹の様だな。
そう思える様な姿をしている2人。
俺は塩辛い味噌汁を見ながらそう思ってしまう。
だけど.....人ってこんなに変わるもんなんだな。
作り方を教わると、だ。
俺も今度教えてもらおうかな.....。
「ね、ねえ春樹」
「.....何だ?」
「わ、私.....暫く.....料理を教わるのに通って良い。此処に」
「.....それはお前が決めて良いぞ。.....まあでも雨樋を伝うなよ。頼むから。背骨を骨折したとかなったら一大事だぞ。落ちて」
「だね.....分かった」
こうして.....暫くの間。
大会というかイベントに備える為に幸菜は家に通う事になった。
俺はそんな熱心な幸菜を柔和に見ながら味噌汁を飲んだ。
やっぱ塩辛い。
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