第三話 〈ナインズ〉2

 あの受付の人に感謝を告げながらゲートをくぐる。これでようやく、あの惑星に降り立てると、胸のわくわくを押し殺しながら。 

 

 風をきってぼくらの船が進む。

 いや、これは、まるで、大きい口の怪獣に飲み込まれるみたいな············


 「───い、いやっ待って待って!······なんで、え、なんで──!」

 あまりの急展開に驚きを隠せない。

 「そ、そうよ!な、なんで、」

 それはユミも同じみたい。

 「「落ちてるのー!」」

 ぼくたちは二人揃って大声を上げた。


 事の始まりはほんの一時間前。ゲートをくぐって、惑星の表面に降り立とうと、舵を回していた時。

 ぼくらは唐突に、進んでいるのではなく、落ちているのだと気づいた。

 それから二十分ほど、ぼくらの船はずぅっと落ち続けている。


 落ち続けて、三十分。ようやく、地上が見えてきた。

 「よしっ!地上、地上だ!」

 ようやく見えた地上に喜びを露わにする。

 「で、でもさぁ、これ、どうやって着陸するのーーーー!!」

 ··················。

 「そんなの知らないよォー!!」

 ずどーん。そんな音をたてながら、ぼくらの船は着陸した。



 「──ん······あ、あれ。いきてる」

 生命はあるし、傷も負ってない。それどころか、船も無事である。

 何故と考えていると、独特な機械音声が答えを差し出してきた。

 『それは当然でしょう。衝突前にこの優秀AIである私が保護膜を張ったのですからね。ふう、褒めてくれてもいいのです、てか、褒めるべきなのでは』

 いちいちうるさい自称優秀えーあいさん。

 でも、今回に関してはこのAI無しではヤバかったので腑に落ちない。

 でも、やっぱりちょっと、このAI余分が多すぎないかな。

 「まあ、とりあえずありがとう。でもさ、その、ソレはどうにか出来ないの?」

 ソレとは?と疑問だらけのAI。

 「いや、だから、その感情表現はどうにかならないのかってことです」

 ここまでの感情表現があると、人間のように思えて、人を物のように扱っている気がして気が気でないのだ。

 『ははは。貴方はばかですか。これは私の素となった人間の感情表現です。わざとやっているのではなく、自然と出てしまう癖のようなものです。貴方は他人に腹を鳴らすな、と言われて鳴らさないでいられますか?』

 さらに感情をのせた謎発言。

 「その例え方が意味わからんのです。それ一緒の意味なの?」

 『一緒ですよ一緒。と、いいますか、私は有能AIであって、無機質なAIじゃねぇのですよ』

 てか、そろそろ名前くれ、と余計に付け足す自称有能AI。

 無機質でなければ、それでいいのか。

 「名前、ね。あなたは船そのものみたいな物だから、船の名前と一緒ってのもいいですねー」

 ふむふむ。

 「······そういえば、あなたの素となった感情をもった人ってどんな人だったの?

 ほら、名前とかさ。教えてくれない?」

 その情報があれば、名前をつけやすいだろうし。

 『───、そうですね、私の素となった人は······』

 何か言いづらそうな雰囲気。これはAIだぞ、なんで、ぼくらと同じぐらい人間らしいんだ。

 「あー、もういいよ、いいですよ。いいたくなきゃ無理しなくても構いませんから」

 『───はい、ありがとうございます』

 「いえいえ」

 けど、さて困ったものだ。これでは名前をつける為の材料がない。

 仕方ない。ここは安直だけど、ここは、

 「AIだから、"アイさん"でどうでしょう。安直ですが、そこがいいでしょう?」

 『確かに安直ですが、いいでしょう。それではこれからは私のことはアイさんとお呼びを』

 「了解ですよ、これからもどうぞよろしくね、アイさん」

 『はい、よろしくお願いします』

 うんうん。

 そう頷きながら、状況を確認しようと、歩を進めようとすると、ある事に気づいてしまった。


 ······じゃあ、この船の名前はアイさん号ってこと?


   ◇◇◇

   

 成り行きで決まったアイさん号を後にし、外へ出る。

 「緑、だ」

 一目見てそう思う。ただ、ほんとに緑色の世界がそこにはある。

 「······って、いやいや、いつまで感動してるんだ。······さて、先行ったというユミさんは何処ですかね」

 辺りを見たところ、ユミさんの姿は無い。

 「······うーん、どこいったんだろ」

 探検装備も着けずに少し遠くまで行ったのか。

 「······いちおう、装備ぐらいは着けてきますか」

 探しに行こう。万が一もあるし、ユミはぼくにとって大切な人だから。


   ◇◇◇


 「うーむ、だいぶ歩いてきちゃったなー」

 着陸から約一時間が経過した頃、わたしは未だ目覚めない彼を船に置いて探索をしていた。

 目新しいものばかりで、つい歩きすぎていたみたく、少し足に疲労を感じる。

 「むぅ、やっぱ着てくるべきだったかなぁ」

 なんで忘れていたのか知らないが、疲れているのなら帰ろう。

 「······というか、わたしなんで探索なんて始めたんだっけ」

 そう言いながら、彼女は来た道とは真逆の方へ、歩いていくのだった。


   ◇◇◇


 暗い森の中、大勢の多種多様な知的生命体たちが、圧倒的バケモノに抗っている。

 けれど、それは無意味に終わる。

 どんどんと死んでいく。

 そして、気づけば辺りに人は居なくなっていた。

 その光景を見ていた一人の人間は、恐怖のあまり、逃げ出した。

 「───はぁ、はぁ、なん、なんだよ、あれ······」

 少年は走る。ただ走る。

 草木を分けて、ところどころ傷を負いながら。

 「······っはぁ、はぁはぁっ、はぁ·········って、うわぁ!」「え?──きゃあ!」

 少年は草から出てきたモノにぶつかる。

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん、な、え?」

 少年は目を見張る。その差し出された手を見続ける。

 「ごめんねぇー、大丈夫?」

 その暖かな声の響に、少年はぽろぽろと涙を零す。

 ここに来てから、こんな優しい人にあったのは初めてだったから、この出会いは、彼にとって忘がたい記憶だろう。

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