第二話 〈ナインズ〉1.5

 あの少年少女二人を見送る。

 若く、とても活きのいいヒトだった。

 もう、この仕事にも慣れてきた。

 簡単な仕事。心を削がれる仕事。

 ヒトの生命をソぐ仕事。


 ワタシの仕事はただ、あのようなヒトを楽園に送ることだけ。それ以上でもそれ以下でもなく、ワタシにはこの仕事があるから、子供たちを養えている。

 ああ、それだけで十分の筈なのに、なんで、なんで。

 ソラはワタシを要らないって言ったのだろう。


 ああ、迎えが来る。

 黒い船。まるで、檻のよう。

 重苦しい扉が開かれる。

 中からやってくる。

 最終通告をしにやってくる。

 ワタシの終を手にして、やってくる。

 ああ、嫌だ。ああ、嫌だ。嫌だ、イヤだいやだ。

 なのに、なんでか逆らう気が起きないの。

 告げられる。

 お前はもう必要ないと、

 もう十分使い尽くしたと、

 この首をはねる黒い物をもって、

 形の無いヒトがやってくる。


 懺悔の時間は与えられず、すぐに女の生命は刈り取られる。

 もとより懺悔する事が無いが、それでも、彼女の良心が楽園に送ったヒトビトを思い出す。

 ああ、ごめんなさい。ごめんなさい。

 ここは、良い場所なんかじゃなかった。

 ここに、ヒトの生活する場なんて無いのだから。

 一番最近送った彼らの顔を思い出す。

 あれは、故郷のヒトだ。あの顔の造形は故郷の物だ。

 彼らは旅をしていると言っていた。

 彼らは知ることとなるだろう。

 宇宙で一番平和だったのは、紛れもない貴方の星なんだよ、と。


 黒い物がやってくる。

 ワタシは声も無く笑う。わらう。嗤う。

 その声は、醜悪に見えて、どこか、思い出せない故郷に対しての懐かしの唄のように。

 響くことの無い宇宙空間を、木霊した。


 惨劇は瞬く間に。

 今期、二百二十七人の従業員の生命は、数分の内に片付けられた。

 これから、次の従業員が派遣されてくる。

 幾度となく繰り返された惨劇が再び始まる。


 これで、彼女の物語はおしまい。

 最高スコア九十六人を達成した彼女は、最期何も残すことなく、あっけなく死んだ。

 宙にはあることない紅い液体が漂う。

 それは、極寒の空間の中で、温もりを遺していた。それが、彼女の最期の輝きであるかのように。

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